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未熟な数百歳 (水月+レイ・シュカ・アキ・セイカ・ヒト・歌見・ミタマ・サキヒコ)
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酒臭い浴衣を新聞紙に包み、ビニール袋に入れる。近所の店で買った安物だというシャツとズボンにレイは不満げだった。
「浴衣買ってこいとまでは言わないっすけどぉ……ダサくないすか? せんぱいとデートなのに……」
「レイ、買ってきてもらったのに文句言わない。半袖のレイはあんまり見ないから新鮮で可愛いよ。あの、ありがとうございます。俺の彼氏の! 服買ってきてもらっちゃって」
レイの元カレの舎弟らしい少年は骨折しているのか腕を吊っている。念の為レイはもう俺のものであることを主張しつつ、礼を言った。
「いえいえ……はは……形州さんの命令なんで」
《ん?》
少年はチラチラとアキを見ていた。その視線に気付いたアキが少年を見つめ返す。祭りの灯りが落ち着いた神社の境内で、サングラスを頭に乗せ、晒された赤い瞳で。
「ひっ……! じゃ、じゃあ! 俺はこれでっ」
《……なんだアイツ》
《木芽元カレ事変の時にお前が腕折ったヤツじゃないのか?》
《知らね、折っては捨て折っては捨てしてたんだから一々顔覚えてねぇよ》
アキに怯えていたような……まぁいいか。今はレイだ。
「髪とかは無事か?」
「無事っす。ちょうど前に回して枝毛チェックしてた時だったんで」
「よかった、ごめんな遅くなって。俺が早く着いてりゃレイが一人で酒引っ掛けられることも、形州に絡まれることもなかったんだけど」
レイの背中を拭くため、手水舎で濡らしたタオルを絞り、服と同じようにビニール袋に詰める。
「そんな、気にし過ぎっすよ」
「……私が合流躊躇って時間食ったのは関係ありませんよね」
「ふふ、それこそ気にし過ぎだよシュカ。そうだなぁ、それも俺が事前に浴衣選びデートにでも連れ出せばよかったってことになるかな? また今度水曜日か土日空けてくれよ、デートしよう」
「……冬休みにでもバイク合宿行って免許取ってきてくださいよ、ツーリングしましょう」
「…………車ならともかく、バイクって剥き出しで怖くない? 自転車で坂道下るより速度出るんだろ? 平坦な道で。怖ぇよ……動体視力も反射神経も追い付かないって」
「シュカせんぱいバイク買ったんすよねっ、グルチャ見たっすよ~。俺バイク持ってないんすけど免許はあるんで、レンタルでよければツーリング行きましょ。サイドカー付きのでも借りてせんぱい乗せて」
「いいですね。ぜひ秋にでも」
サイドカーって地面にめちゃくちゃ近くない? 嫌だよ俺。しかもバイクの隣にニョキっと生えてる感じだから、サイドカー連れ回し慣れてる人じゃないとバイク感覚で走って車とかにサイドカーぶつけそうじゃない? 怖い……乗りたくない……俺だけタクシーで合流しちゃダメかな?
「あー、レイ、濡れたけど寒くないか?」
「はいっす、今日暑いっすからむしろスッキリしたっす」
「あなた乾拭きもしてたじゃないですか」
「まぁ……そうだな。じゃ、公園戻るか。コンちゃん達待たせてるし」
「あっせんぱい、それは俺が持つっすよ」
レイの浴衣と彼の身体を拭いたタオルが入ったビニール袋、その取っ手をレイが引っ張る。
「いいよ、可愛い彼氏に荷物持たせられない」
「でも俺の服っすし……大したサイズでも重さでもないじゃないすか」
「じゃあこうしよう、祭りの間は俺が持つ、帰りはレイが持つ」
「釣り合ってないっすよぉ」
「本部で預かっておきましょうか。落とし物預かりのスペースがあるので、そこに置いておきますよ」
ぬ、と俺達の間に顔を割り込ませてきたのはヒトだ。驚く俺を笑いながら曲げていた背を伸ばし、高そうな浴衣の胸元から刺青を覗かせる。
「ヒトさん!」
「ちょっと本部を離れている間にあなたが来るなんて……事情は聞きましたよ木芽さん、災難でしたね」
「ほんとそれっすよ!」
「私の運営する祭りで起きた不手際です、荷物の預かりくらいさせてください。ね、鳴雷さん」
するりと手を撫でられ、俺は彼に負けた気持ちで荷物を渡した。
「今本部を離れていたばかりなのでまたしばらくここを動けませんが……次の休憩のタイミングで電話をかけるので、一緒にお祭り回ってくださいね、鳴雷さん」
「はい、もちろん! ごめんなさいせっかく会えたのにすぐお祭り戻っちゃって」
「いえいえ……それでは、鳴雷さん。愛してますよ……」
そっと俺に囁いて、微笑んで、ヒトは本部席の方へと歩いていった。彼氏達を連れて祭り会場へと戻りながら、まだくすぐったい気がする耳を擦った。
「さっきのヒトさん色気やばかったっすね。やっぱり浴衣いいっすよね……はぁ~、俺も浴衣着て来たのにぃ……」
「また今度じっくり見せてくれよ、ベッドの上ででも」
「え……! そ、それって浴衣えっちってことっすか? えへへ……もう、せんぱいったらぁ……」
「……祭りの騒ぎに乗じて暗がりで青姦とかするなよ」
照れるレイの斜め後ろ、歌見が睨みを効かせる。
「なんで私を見て言うんですか」
「しませんよ! 一応犯罪だし、虫とか擦り傷とか色々あるし……青姦なんてそうそうするもんじゃありません。するならするで一週間以上前から時間帯別の人通りとかを調べるものであって……祭囃子や人々の喧騒をバックにバックなんてフィクションの中だけの出来事ですよ!」
「そうっすよ歌見せんぱい……せんぱいは彼氏の安全を一番に考える人なんすよ。漫画と現実ごっちゃにしちゃダメっす」
「いや絶対コイツ一回は青姦しただろ今の口ぶりからして」
「……学校でもしょっちゅうしてますし、割と行き当たりばったりと言うか……勃ったら入れると言うか……そんな入念な準備しねぇだろてめぇカッコつけんなって言うか」
何故シュカに一番攻撃されたのか。
「と、とにかく、今日神社や公園でえっちなことするつもりはないので……あっ、コンちゃん、コンちゃ~ん!」
「あっ逃げた」
「逃げたな」
「逃げましたね」
公園待機組の三人、ミタマ、サキヒコ、荒凪と合流。レイに荒凪のことを簡単に紹介し、問題なく仲良くなりそうな二人を見て、やはりリュウの態度はおかしかったなと再確認する。
「何食べてるの?」
「イカ焼きじゃ。そこに売っとった。美味いぞぃ」
「へぇー、美味しそう……あれ、コンちゃんにお金渡してたっけ?」
「さっちゃんが持っとった。昨日あの爺さんにもらったそうじゃ」
「ミタマ殿と言えどツザメ様を「あの爺さん」なんて呼ぶのは許せません! 撤回を求めます!」
「おぉ、すまんすまん。ツザメじゃツザメ。ワシからすればまだまだ坊の歳じゃしな」
少年にしか見えない人外が老人を子供扱いするのには萌える。歌見やレイも同じ気持ちなのか興奮している様子が伝わってくる。しかし、だがしかしだ、数百歳とはいえミタマは俺に着いてくるまで神社を出てくることのなかった身、そんな世間知らずな箱入り付喪神に数百歳ムーブされてもなぁ。
「む? みっちゃん、なんじゃその目は」
「アダルトチルドレンを見る目……」
数百歳なら数百歳らしく諸国漫遊を終え古今東西に精通し、精神的に熟し切っていて欲しいものだ。
「浴衣買ってこいとまでは言わないっすけどぉ……ダサくないすか? せんぱいとデートなのに……」
「レイ、買ってきてもらったのに文句言わない。半袖のレイはあんまり見ないから新鮮で可愛いよ。あの、ありがとうございます。俺の彼氏の! 服買ってきてもらっちゃって」
レイの元カレの舎弟らしい少年は骨折しているのか腕を吊っている。念の為レイはもう俺のものであることを主張しつつ、礼を言った。
「いえいえ……はは……形州さんの命令なんで」
《ん?》
少年はチラチラとアキを見ていた。その視線に気付いたアキが少年を見つめ返す。祭りの灯りが落ち着いた神社の境内で、サングラスを頭に乗せ、晒された赤い瞳で。
「ひっ……! じゃ、じゃあ! 俺はこれでっ」
《……なんだアイツ》
《木芽元カレ事変の時にお前が腕折ったヤツじゃないのか?》
《知らね、折っては捨て折っては捨てしてたんだから一々顔覚えてねぇよ》
アキに怯えていたような……まぁいいか。今はレイだ。
「髪とかは無事か?」
「無事っす。ちょうど前に回して枝毛チェックしてた時だったんで」
「よかった、ごめんな遅くなって。俺が早く着いてりゃレイが一人で酒引っ掛けられることも、形州に絡まれることもなかったんだけど」
レイの背中を拭くため、手水舎で濡らしたタオルを絞り、服と同じようにビニール袋に詰める。
「そんな、気にし過ぎっすよ」
「……私が合流躊躇って時間食ったのは関係ありませんよね」
「ふふ、それこそ気にし過ぎだよシュカ。そうだなぁ、それも俺が事前に浴衣選びデートにでも連れ出せばよかったってことになるかな? また今度水曜日か土日空けてくれよ、デートしよう」
「……冬休みにでもバイク合宿行って免許取ってきてくださいよ、ツーリングしましょう」
「…………車ならともかく、バイクって剥き出しで怖くない? 自転車で坂道下るより速度出るんだろ? 平坦な道で。怖ぇよ……動体視力も反射神経も追い付かないって」
「シュカせんぱいバイク買ったんすよねっ、グルチャ見たっすよ~。俺バイク持ってないんすけど免許はあるんで、レンタルでよければツーリング行きましょ。サイドカー付きのでも借りてせんぱい乗せて」
「いいですね。ぜひ秋にでも」
サイドカーって地面にめちゃくちゃ近くない? 嫌だよ俺。しかもバイクの隣にニョキっと生えてる感じだから、サイドカー連れ回し慣れてる人じゃないとバイク感覚で走って車とかにサイドカーぶつけそうじゃない? 怖い……乗りたくない……俺だけタクシーで合流しちゃダメかな?
「あー、レイ、濡れたけど寒くないか?」
「はいっす、今日暑いっすからむしろスッキリしたっす」
「あなた乾拭きもしてたじゃないですか」
「まぁ……そうだな。じゃ、公園戻るか。コンちゃん達待たせてるし」
「あっせんぱい、それは俺が持つっすよ」
レイの浴衣と彼の身体を拭いたタオルが入ったビニール袋、その取っ手をレイが引っ張る。
「いいよ、可愛い彼氏に荷物持たせられない」
「でも俺の服っすし……大したサイズでも重さでもないじゃないすか」
「じゃあこうしよう、祭りの間は俺が持つ、帰りはレイが持つ」
「釣り合ってないっすよぉ」
「本部で預かっておきましょうか。落とし物預かりのスペースがあるので、そこに置いておきますよ」
ぬ、と俺達の間に顔を割り込ませてきたのはヒトだ。驚く俺を笑いながら曲げていた背を伸ばし、高そうな浴衣の胸元から刺青を覗かせる。
「ヒトさん!」
「ちょっと本部を離れている間にあなたが来るなんて……事情は聞きましたよ木芽さん、災難でしたね」
「ほんとそれっすよ!」
「私の運営する祭りで起きた不手際です、荷物の預かりくらいさせてください。ね、鳴雷さん」
するりと手を撫でられ、俺は彼に負けた気持ちで荷物を渡した。
「今本部を離れていたばかりなのでまたしばらくここを動けませんが……次の休憩のタイミングで電話をかけるので、一緒にお祭り回ってくださいね、鳴雷さん」
「はい、もちろん! ごめんなさいせっかく会えたのにすぐお祭り戻っちゃって」
「いえいえ……それでは、鳴雷さん。愛してますよ……」
そっと俺に囁いて、微笑んで、ヒトは本部席の方へと歩いていった。彼氏達を連れて祭り会場へと戻りながら、まだくすぐったい気がする耳を擦った。
「さっきのヒトさん色気やばかったっすね。やっぱり浴衣いいっすよね……はぁ~、俺も浴衣着て来たのにぃ……」
「また今度じっくり見せてくれよ、ベッドの上ででも」
「え……! そ、それって浴衣えっちってことっすか? えへへ……もう、せんぱいったらぁ……」
「……祭りの騒ぎに乗じて暗がりで青姦とかするなよ」
照れるレイの斜め後ろ、歌見が睨みを効かせる。
「なんで私を見て言うんですか」
「しませんよ! 一応犯罪だし、虫とか擦り傷とか色々あるし……青姦なんてそうそうするもんじゃありません。するならするで一週間以上前から時間帯別の人通りとかを調べるものであって……祭囃子や人々の喧騒をバックにバックなんてフィクションの中だけの出来事ですよ!」
「そうっすよ歌見せんぱい……せんぱいは彼氏の安全を一番に考える人なんすよ。漫画と現実ごっちゃにしちゃダメっす」
「いや絶対コイツ一回は青姦しただろ今の口ぶりからして」
「……学校でもしょっちゅうしてますし、割と行き当たりばったりと言うか……勃ったら入れると言うか……そんな入念な準備しねぇだろてめぇカッコつけんなって言うか」
何故シュカに一番攻撃されたのか。
「と、とにかく、今日神社や公園でえっちなことするつもりはないので……あっ、コンちゃん、コンちゃ~ん!」
「あっ逃げた」
「逃げたな」
「逃げましたね」
公園待機組の三人、ミタマ、サキヒコ、荒凪と合流。レイに荒凪のことを簡単に紹介し、問題なく仲良くなりそうな二人を見て、やはりリュウの態度はおかしかったなと再確認する。
「何食べてるの?」
「イカ焼きじゃ。そこに売っとった。美味いぞぃ」
「へぇー、美味しそう……あれ、コンちゃんにお金渡してたっけ?」
「さっちゃんが持っとった。昨日あの爺さんにもらったそうじゃ」
「ミタマ殿と言えどツザメ様を「あの爺さん」なんて呼ぶのは許せません! 撤回を求めます!」
「おぉ、すまんすまん。ツザメじゃツザメ。ワシからすればまだまだ坊の歳じゃしな」
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