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彼氏からのヘルプ (水月+荒凪・ミタマ・カンナ・ハル・歌見・レイ)

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祭りをやっている神社、併設された公園にやってきた。夜店が並んでいるのは公園ばかり、神社には夜店はないがテントのような物がある。アレが本部だろう、ヒトが居るかもな。

「コンちゃん、神社入れないかもとか言ってたけど……どう?」

「どうやら公園は神社の一部ではないようじゃの、祭りには参加出来そうじゃ」

「よかった、ならサキヒコくんも入って大丈夫そうだね……コンちゃんは神社の神様に挨拶すればいいだけなんだよね? してきなよ」

「嫌じゃ!」

そんな大声を出すほど嫌なのか……

「雀の丸焼きはどこじゃ? 昔人間が食うとるのんみたんじゃ、アレ食うてみたい」

「いつの記憶なの……焼き鳥ならあるんじゃない?」

夕飯は夜店で済ませるつもりだ。焼きそばや焼き鳥など、食事になりそうな店を探す。色々あるなぁ……摂取カロリーに注意しないと。

「にーに、にーに、美味しい匂いするです」

「焼きそばだな。ソースの焦げる匂いはヤバいよなぁ……買って行こうか、食べる人~」

挙手を誘うとアキ以外の彼氏達はみんな手を挙げた。それを見て遅れて荒凪も小さく手を挙げる。アキは多分俺の言ったことが分かっていないんだろう。

「サキヒコくんは俺の食べなね」

「ありがとうミツキ」

荒凪をミタマに任せ、列に並ぶ。前に並んでいるのは三人だ、すぐに俺の番が回ってきそうだな。

「次~……あれっ、フタさんのカノジョ。お嬢じゃん、おひさ」

「あっ、こんばんは」

焼きそばを作っているのは見覚えのある男だった。確かフタの弟分だ。そういえばこの祭りの運営は穂張組だったな。

「来てたんだ、フタさんあっちでりんご飴を……っと、何人前?」

「えー、友達と、弟達の分合わせて……ぁ、シュカは三人前いるのかな……って俺だけじゃ持てないや。ちょっとみんな~!」

彼氏達を呼び、分量を改めて確かめる。

「弟さんいくつだっけ、ちっちゃい子のは麺細かくして盛ってるんだけど」

「一歳下です……あ、でも一人分はそれでお願いします。弟じゃないんですけど、麺すするの苦手な子居るので」

「OKOK」

話すのも拙い荒凪が麺を啜れるとは思えない。俺はそう判断し、一人分の麺がコテで一口サイズに刻まれるのを見守った。

「はいよ、お待ち」

「ありがとうございます!」

「あっちに醤油焼きそばの店も出てるから食べ比べしてってな~」

彼氏達と焼きそばを楽しむ。提灯と夜店の灯りという頼りない光源の下で見る彼氏達の笑顔……オツなものだ。

「お箸使えそう? 荒凪くん。細かく切ってもらってきたんだけど、どうかな」

「むつかしい」

「フォーク持ってきた方がよかったかなぁ……あっ、これ芯だね。硬くて食べにくいだろうから、俺もらっておくね? 代わりにお肉あげる」

「……? ありがとー、みつき」

荒凪の分から分厚いキャベツを取り、齧る。予想通り火が通り切っていない。生の物を食わせるなという決まりを守るのに、ここまで神経を尖らせる必要があるのかは疑問だが……まぁ、やり過ぎてもデメリットなどないのだから、これからも過敏になっていよう。

「美味しい?」

「ぅん……こくて、おいし」

「よかった」

箸を握り、かき込むように焼きそばを食べる荒凪を見守る。幼児用の補助付きの箸を用意した方がいいかもな、とか考えながら。

「醤油焼きそばの店もあるらしいけどどうする?」

「ワシ醤油の方が好きじゃ!」

「俺も~」

「探しに行こっか。あっちの方って言ってたから……あ、途中にたこ焼きあるね。買ってく?」

「にーに、にーにぃ、くも、くも」

「くも? あぁ、雲? 綿菓子だな。甘いのはもうちょい後でな」

可愛い反応だ。綿菓子を見たのは初めてなのか? 荒凪は……荒凪も初めてなのかもな、体をひねってまで綿菓子をずっと目で追っている。二人には後でとびきり大きいのを買ってやらないとな。

「……れ、より……天くん、と……この、くん……探、なきゃ……で、しょ」

「っと、そうだったな。霞染、連絡取れたか?」

「りゅーからはノー返なんだけどぉ~、このめんからは~「至急ヘルプ!」「現在地は神社本部テント!」だってさ~」

「ヘルプ!? すぐに行かなきゃな、神社……ってことはコンちゃんサキヒコくんは留守番! あっ、荒凪くんも、コンちゃん荒凪くん見ててね!」

本部にはヒトが居るはずだし、文面からしても緊急性は低いはずだ。俺は念の為急ぎながらも事態を甘く見ていた。

「大事件じゃねぇか!」

「…………よぉ、男前」

「せんぱぁい!」

本部テントの脇、元カレに絡まれているレイを見るまでは。

「なんなんだよお前っ、なんでここに!」

「…………地元の祭りに来ちゃ悪いか」

「せんぱい、俺大変だったんすよせんぱぁい……」

「あぁ、レイ、ごめんなすぐ合流出来なくて」

「……やめとけ」

抱き締めようと広げた腕が元カレに止められ、俺は彼を睨み上げた。

「未練タラタラか? クソ野郎」

「…………レイはさっき酔っ払いに酒をぶっかけられた」

「えっ」

「そうなんすよせんぱぁい! まだ始まりたてなのにぐっでんぐでんのおっさんがぁ! 俺の背中にビールをばっしゃーんって! びちょびちょのべたべたっすよぉ~! なんでハグはしばらく待って欲しいっす……」

そういえばなんか酒臭いな。

「…………着替えとタオルを買いに行かせてる舎弟がもうすぐ戻る。もう少し待て。あぁ……弁償代はきっちりせしめた、お前に渡しておく」

淡々と説明しながら元カレは俺に一万円札四枚を手渡した。彼の手には一万円札が一枚残っている、彼はその札を揺らしながら続けた。

「……随分落ち込んでる。新しい服でも買ってやれ。これは俺の迷惑代と世話代だ」

「せんぱいに見せようと気合い入れて浴衣買ったのにぃい……」

「返しは済ませたんでしょうね、まさか弁償代だけですか?」

シュカが俺の手にある万札を覗きながら言う。

「……殴ったら吐きそうだったから、大したことはしてない」

「後頭部鷲掴みにして石畳に叩き付けるのが大したことじゃないんすか!? あーもうほんっと……嫌! まぁ弁償代取ってくれたんはありがたかったっすけど……この浴衣一万しないんすよね。ドンキのっすから」

「一緒に買いに行ったんだ」

歌見は無邪気な笑顔で自身が着ている甚平を指している。

「はぁ……まぁ、お礼は言っとくよ。ありがとうな形州……お! れ! の! レイが、世話になったよ。焼きそば奢るよ、ソースでも醤油でも好きな方」

さっさとお暇してもらおう。俺は百円玉を元カレに渡した。

「…………焼きそばはもう食った。回転焼きが食べたいな」

「今川焼きか? あるんだ、屋台。まぁ好きなの食えよ」

「…………一個、二百円なんだ」

「あぁもう意外とがめついなお前! 世話代とか言って一万取っといて! ほら!」

二枚目の百円玉を渡す。

「……勘違いするなよ、金に困ってる訳じゃない。お前に嫌がらせしたかったんだ」

「この野郎……!」

「…………何か容器があれば……回転焼きの店のヤツに言って、餡子をもらって、クレープの店まで持っていけば、餡ホイップクレープを作ってもらえるぞ」

「そ、そうか……」

「………………追加五十円で刻みイチゴを入れてもらった方がいい、餡ホイップにはイチゴが合う。俺は餡子だけでいいが」

「あぁ……うん……」

「…………それが裏メニューを教えてもらった態度か? 嫌がらせで二百円取るのはどうかと思い直して情報をくれてやったのに」

「分かんねぇんだよお前の距離感も感情の揺らぎも! 俺のことなんだと思ってんの!? 友達じゃないよ!? あと無表情やめて!? 何考えてんのか全然分かんない!」

「……夜の神社は、気味が悪い」

「何急に」

「…………何を考えているのか分からないと言うから教えてやったんだが」

「今メインで考えてること本当にそれだったの!? 俺への感情やレイへのワンチャン狙いじゃなく、場所への感想!? はぁあもう意味分かんねぇ」

「………………読んでたBL漫画が今度ドラマ化するんだが、個人的に役者がイメージと合わないんだ。観るべきかやめておくべきか、どうすればいいと思う?」

「何急に。迷うんならまず一話見て決めろよ、演技力で捩じ伏せてくるタイプの役者も稀に居るんだから」

「……なるほど。そうする」

「俺腐友認定すんのやめてってば! ちなみにそのドラマってどの局で何時からなの? いや実写は観ない派なんだけど俺……ちなみにね、ちなみに……」

腐情報を共有している間にレイの着替えが到着。元カレにレイの肌を見せないよう、俺はまず彼を神社から追い出した。
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