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言葉の練習 (水月+荒凪・セイカ・アキ・サキヒコ・ミタマ)
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拗ねたミタマの頭を撫でる。犬のように尾を振り、すっかり機嫌が直ったら、撫でるのをやめて服を着る。
「おまたせ~」
「……なんか遅かったな」
ベッドの上、ノートパソコンを太腿に乗せたセイカがジトっとした目で俺を睨む。
「まぁ、二人とイチャついてたから」
サキヒコとミタマの腰を抱く。まさに両手に花な俺に聞こえるようにため息をついたセイカは、またパソコンに視線を戻した。
「……火傷するかもだから、パソコン足に乗せるなって俺前に言ったよな?」
「ぁ……うん、ごめん」
「ズボンだけじゃ不安だからな、枕かクッション挟みな。その方が姿勢も良くなるよ。セイカちょっと猫背だからなぁ」
「分かった……」
セイカは俺の言う通りパソコンと太腿の間にパソコンを挟んだ。さて、荒凪とアキはどんな調子だ? 二人とも床に座っているな。
「んー……?」
「……?」
アキが右に首を傾げると、荒凪も右に首を傾げる。
「んー?」
「…………んー?」
左。
「……んー」
「んー……?」
深めの右だ。何やってんだ?
《……なぁスェカーチカ、コイツ瞬きしなくて怖い》
《お前も少ないだろ》
荒凪と見つめ合っていたかと思えばセイカに話しかける。
「荒凪くん」
「……!」
目玉を動かさず、首ごと俺の方を向く。
「足どう? 痛くない?」
首を横に振る。
「まだ痛いかぁ、そうだよね。結構深かったし……痛み止めなんかないし、気紛らわそうか。お話しよう」
頷く。
「話せない? 人間の身体の動かし方慣れてないんだっけ、なら手遊びとかしてみようか」
また、頷く。
「……声出せない訳じゃないんだよね? 喉痛いとかそういう訳じゃないなら上手く話せなくてもいいよ、練習しよう」
「うん。れんしゅ、する」
お、声が出たな。発声は問題ない、カンナよりも聞き取りやすいくらいだ。ただイントネーションがおかしいな。上手く話せないのが恥ずかしくて無口になっていたのかな? 下手なのを笑うのはもちろん、言及するのも避けた方がいいな。
「まず手動かそうか。話す練習もしような。パー」
「ぱー」
手を広げてみると、荒凪も手を広げて俺の手のひらに手のひらを合わせる。
「次、グー」
「ぐー」
手のひらを離し、拳を握る。荒凪も俺と同じようにした。
「チョキ」
「ちょき……」
「人差し指と、中指立てるんだよ」
荒凪は手を開いてしまう。
「他の三本は握ったままにしなきゃ。難しい?」
「むつかしい……」
「ず、だよ。ず。むずかしい」
「むじゅ……かし」
荒凪は左手で右手人差し指と中指を掴み、右手を握って無理矢理俺の手を真似た。しかし、左手を離すと右手人差し指と中指もへにょんと曲がってしまう。チョキ、そんなに難しいかな……
「俺の名前の練習しようか。水月。みーつーき」
「みつき」
「おっ、上手。何か困ったら大声で水月って言うんだよ。次はー……セイカ、せーぇーか」
「せぇか」
「上手上手。何かと面倒見良いし頭いいから、俺が居なかったり俺じゃダメな時はセイカ呼ぶんだぞ。次、アキ。あ、き」
「あき」
「上手い上手い、力仕事系の時はアキを……ぉ?」
ずん、とアキの頭が肩に乗る。
《呼んだだろ、兄貴。俺をよぉ。アンタが面倒見るべきはバケモンじゃなくて弟だ、そうだろ?》
「ふふ、呼んだから甘えに来てくれたのかな? よしよし。荒凪くん、この子は俺の弟だ」
「おとーと……」
ずっと俺を見つめていたガラス玉のような荒凪の目がアキの方を向く。
「アキ、この子の名前、荒凪くん。あ、ら、な、ぎ」
「あーなぎ」
「あ、ら、なぎ」
「ららなぎ」
「うーん……ちょっと違うなぁ」
《言いにくいな、なんかあだ名……ん? お前、目ぇそんなんだったか?》
アキが母語で何か呟きながら荒凪を怪訝な目で見る。どうしたのかとアキの視線を追えば、荒凪の左目の様子がおかしい。虹彩が、三つある。
「……あれ? 重瞳?」
怪我などが原因で黒目の形が歪むのはままあることだ、見てもよく分からないがシュカも黒目が一度切れて繋がったから歪んでいると本人は主張している。しかし、虹彩ごと、大して歪みもせず丸が三つ目玉の中に行儀よく収まっているなんて……少なくとも俺は二次元でしか見たことがない。
「荒凪くん、ちょっと写真撮るね」
人魚の姿へと変わる以外の変化は秘書に報告せねば。俺は荒凪の左目の写真を数枚撮った。
「荒凪くん、見え方どう? 重なって見えたりしちゃってる?」
「……おとーと、ちがう。アキちがう」
「弟だよ? もしかして血の繋がりとか感じ取れるのかな……血的には、えー、種違い?」
「俺達の、弟……俺達、おとーとを……俺達……」
「……荒凪くん? 混乱させちゃったかなぁ。ほら、顔そっくりだろ? アキは俺の大事な弟だ」
弟に手を出すヤツがあるかよ、なんてセイカのヤジが聞こえる。
「ミタマ殿……」
「……うむ、何やら霊力の揺らぎを感じるな。みっちゃん、話題を変えた方がいい」
「えっ? そ、そんなに動揺してるの? えー……荒凪くん! お昼! お昼ご飯そろそろだよ、一緒に食べようね」
荒凪が珍しく瞬きをする。閉じて開いた荒凪の左目の虹彩は一つに戻っていた。
「落ち着いたようじゃ」
「感情の色は変わりません、憎悪か何かと思われる鉄錆臭い色です。やはり危険では?」
「しかしのぅ、性格は至って温厚そうじゃぞ? ワシの加護でみっちゃんは死にはせん。もう少し様子を見てもいいじゃろ」
「…………はい」
サキヒコの視線からは俺への心配を感じる。嬉しいことだけれど、荒凪を警戒し続けているのは悲しい。打ち解けてもらいたいものだ。
「おまたせ~」
「……なんか遅かったな」
ベッドの上、ノートパソコンを太腿に乗せたセイカがジトっとした目で俺を睨む。
「まぁ、二人とイチャついてたから」
サキヒコとミタマの腰を抱く。まさに両手に花な俺に聞こえるようにため息をついたセイカは、またパソコンに視線を戻した。
「……火傷するかもだから、パソコン足に乗せるなって俺前に言ったよな?」
「ぁ……うん、ごめん」
「ズボンだけじゃ不安だからな、枕かクッション挟みな。その方が姿勢も良くなるよ。セイカちょっと猫背だからなぁ」
「分かった……」
セイカは俺の言う通りパソコンと太腿の間にパソコンを挟んだ。さて、荒凪とアキはどんな調子だ? 二人とも床に座っているな。
「んー……?」
「……?」
アキが右に首を傾げると、荒凪も右に首を傾げる。
「んー?」
「…………んー?」
左。
「……んー」
「んー……?」
深めの右だ。何やってんだ?
《……なぁスェカーチカ、コイツ瞬きしなくて怖い》
《お前も少ないだろ》
荒凪と見つめ合っていたかと思えばセイカに話しかける。
「荒凪くん」
「……!」
目玉を動かさず、首ごと俺の方を向く。
「足どう? 痛くない?」
首を横に振る。
「まだ痛いかぁ、そうだよね。結構深かったし……痛み止めなんかないし、気紛らわそうか。お話しよう」
頷く。
「話せない? 人間の身体の動かし方慣れてないんだっけ、なら手遊びとかしてみようか」
また、頷く。
「……声出せない訳じゃないんだよね? 喉痛いとかそういう訳じゃないなら上手く話せなくてもいいよ、練習しよう」
「うん。れんしゅ、する」
お、声が出たな。発声は問題ない、カンナよりも聞き取りやすいくらいだ。ただイントネーションがおかしいな。上手く話せないのが恥ずかしくて無口になっていたのかな? 下手なのを笑うのはもちろん、言及するのも避けた方がいいな。
「まず手動かそうか。話す練習もしような。パー」
「ぱー」
手を広げてみると、荒凪も手を広げて俺の手のひらに手のひらを合わせる。
「次、グー」
「ぐー」
手のひらを離し、拳を握る。荒凪も俺と同じようにした。
「チョキ」
「ちょき……」
「人差し指と、中指立てるんだよ」
荒凪は手を開いてしまう。
「他の三本は握ったままにしなきゃ。難しい?」
「むつかしい……」
「ず、だよ。ず。むずかしい」
「むじゅ……かし」
荒凪は左手で右手人差し指と中指を掴み、右手を握って無理矢理俺の手を真似た。しかし、左手を離すと右手人差し指と中指もへにょんと曲がってしまう。チョキ、そんなに難しいかな……
「俺の名前の練習しようか。水月。みーつーき」
「みつき」
「おっ、上手。何か困ったら大声で水月って言うんだよ。次はー……セイカ、せーぇーか」
「せぇか」
「上手上手。何かと面倒見良いし頭いいから、俺が居なかったり俺じゃダメな時はセイカ呼ぶんだぞ。次、アキ。あ、き」
「あき」
「上手い上手い、力仕事系の時はアキを……ぉ?」
ずん、とアキの頭が肩に乗る。
《呼んだだろ、兄貴。俺をよぉ。アンタが面倒見るべきはバケモンじゃなくて弟だ、そうだろ?》
「ふふ、呼んだから甘えに来てくれたのかな? よしよし。荒凪くん、この子は俺の弟だ」
「おとーと……」
ずっと俺を見つめていたガラス玉のような荒凪の目がアキの方を向く。
「アキ、この子の名前、荒凪くん。あ、ら、な、ぎ」
「あーなぎ」
「あ、ら、なぎ」
「ららなぎ」
「うーん……ちょっと違うなぁ」
《言いにくいな、なんかあだ名……ん? お前、目ぇそんなんだったか?》
アキが母語で何か呟きながら荒凪を怪訝な目で見る。どうしたのかとアキの視線を追えば、荒凪の左目の様子がおかしい。虹彩が、三つある。
「……あれ? 重瞳?」
怪我などが原因で黒目の形が歪むのはままあることだ、見てもよく分からないがシュカも黒目が一度切れて繋がったから歪んでいると本人は主張している。しかし、虹彩ごと、大して歪みもせず丸が三つ目玉の中に行儀よく収まっているなんて……少なくとも俺は二次元でしか見たことがない。
「荒凪くん、ちょっと写真撮るね」
人魚の姿へと変わる以外の変化は秘書に報告せねば。俺は荒凪の左目の写真を数枚撮った。
「荒凪くん、見え方どう? 重なって見えたりしちゃってる?」
「……おとーと、ちがう。アキちがう」
「弟だよ? もしかして血の繋がりとか感じ取れるのかな……血的には、えー、種違い?」
「俺達の、弟……俺達、おとーとを……俺達……」
「……荒凪くん? 混乱させちゃったかなぁ。ほら、顔そっくりだろ? アキは俺の大事な弟だ」
弟に手を出すヤツがあるかよ、なんてセイカのヤジが聞こえる。
「ミタマ殿……」
「……うむ、何やら霊力の揺らぎを感じるな。みっちゃん、話題を変えた方がいい」
「えっ? そ、そんなに動揺してるの? えー……荒凪くん! お昼! お昼ご飯そろそろだよ、一緒に食べようね」
荒凪が珍しく瞬きをする。閉じて開いた荒凪の左目の虹彩は一つに戻っていた。
「落ち着いたようじゃ」
「感情の色は変わりません、憎悪か何かと思われる鉄錆臭い色です。やはり危険では?」
「しかしのぅ、性格は至って温厚そうじゃぞ? ワシの加護でみっちゃんは死にはせん。もう少し様子を見てもいいじゃろ」
「…………はい」
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