冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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口説く許可 (水月+セイカ・サキヒコ・荒凪)

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血だけでなく肉や内臓も持ち帰って調べたいなんて言い出した秘書から荒凪を庇うと、秘書は「冗談ですよ」と嘘臭くケラケラ笑った。

「これが鱗ですね、全て持ち帰らせていただきます。今後もし鱗が落ちているのを見つけたら、決して素手では触らず、ゴミにも出さないでください。個別に保管し、俺に渡してください」

「私が会社で渡すわ、見つけたら集めておきなさいね」

「プールサイドを歩く時は必ずサンダルなどを履いてください」

「生えてる鱗は触っても何ともなかったんですけど、やっぱり剥がれたのが刺さったりしたらまずいんですか?」

「まだ鱗の害は確認出来ていません、分からないから気を付けるべきなんですよ」

秘書は鱗の入ったビニール袋の口をしっかりと縛ると、それを鞄に押し込んだ。

「はぁ……いくら考えても、人魚の血が腐食性を持つ理由が分からない。永遠の命がどういう解釈で与えられるにしても、溶けるなんて……人魚なら殺して食わなければ無害ですし一般家庭に預けても問題ないと思ったのに…………やっぱり会社に水槽作るべきかな」

「のぅ、上役殿。ワシもさっちゃんも、この子の気配は酷く禍々しいと……憎悪のような、負の感情の塊のようだと感じるのじゃが、妖怪というのはみんなそうなのか?」

「さぁ……俺、眼鏡かけても感情とかまでは分かりませんから。霊能者でもそうそういませんよ、そういうの感じ取れる人は」

「……そうか」

「荒凪がもう少し自分の生い立ちだとかを分かってたらこの謎の突破口も見つかりそうなものなんですけどねぇ、水槽の中で目が覚めた以前の記憶がなーんにもないって言うんですから」

荒凪は先程から申し訳なさそうに俯いている。

「……なぁ、秘書さん。魚の妖怪って他には居ないのか? 人魚だって言うけど、違う特徴があるんなら違う妖怪かもしれない……と、思うんだけど」

セイカが恐る恐る秘書に尋ねる。

「それは俺も思ってますけど、下半身が魚の半人型妖怪なんて人魚くらいしか思い付きませんよ。帰ったらもう一度文献洗い直す予定ですけど」

「あ、そういえば……さっきプールから上がる時、腕が増えたんですけど」

「は? どういうことです?」

「脇腹のところから二セット目の腕が生えて、ヤモリみたいにプールサイドに這い上がったんです」

秘書は荒凪の脇腹を観察し、触れてもいたが、何も分からないようで首を傾げた。

「腕が四本ある人魚なんて聞いたこともない……胸ヒレとか尻ヒレって解釈で何とかなるか? いやヒレはちゃんと生えてたよな……やっぱり人魚じゃないのか? 腕が複数、蛸やヒトデが混じってる……いや、出現も収納も自在というのは……」

「腕が増えるってそんなに不思議なんですか? コンちゃんとかしょっちゅう変身してますし、お化けって変幻自在なものなんじゃ?」

「そりゃ狐は狸と並ぶ化けるモノですからね。でも人魚にはそんな話ありませんから……やっぱり正体は人魚じゃないと考えた方が良さそうですね、分野さんが狐の像の付喪神のくせして人間の姿に留まっているのと同じで、人魚っぽい振る舞いをしているだけの何かもっと得体の知れないモノ……」

人魚と聞いた時はとても驚いたけれど、プールに入った後の姿を見てもそれほど怖くはなかった。しかし「得体の知れないモノ」と聞くと途端に怖くなる。無知は恐怖の源だ。

「……とりあえず、今日のところは帰ります。早く血を調べないと。今後も何かあれば連絡をください」

「あっ、ま、待ってください!」

「何か思い出したことでも?」

「……ちょっと、言いにくいので」

母と彼氏達、そして荒凪をプールに残し、俺と秘書はアキの部屋に移って扉を閉めた。これで会話が聞かれることはない。

「まだ全然口説けてないんすけど、あの子も彼氏にしたいです! 許可をいただけますか?」

「ええ、もちろん。そうしていただければ彼はきっと人間の味方になる。それ狙いであなたに任せようと思ったんですよ」

「えっ……俺が口説き落とすの狙いだったんですか?」

「ええ、正直に言えばあなたのお母様に嫌がられかねないので、結界を理由に押し付けたように振る舞いましたが……本音は、あなたなら荒凪を惚れさせて人間の味方に出来ると確信しているからです」

俺をそんなに信頼してくれているのか。

「嬉しい……大人に期待してもらえたの初めてかもです、めちゃくちゃ嬉しいんですねこういうのって。頑張ります! となれば、重要なことがありますよね?」

「と申しますと」

「唾液、精液、腸液、この三つも劇薬なのかどうかですよ! キスしたら舌が溶けたり、ぶっかけられて大火傷したり、突っ込んだらちんちんがだんだんちっちゃくなっていくとか嫌ですよ!」

部屋を変えた理由はこれを聞きたかったからだ。まだ付き合っていない男にこんな話を目の前でされたらどう思う? 気持ち悪いし怖いだろう。永遠に脈ナシ確定になってしまう。

「ぁー……確かに。しかし、唾液以外の二点……俺が採取するの、絵面が犯罪じゃないですか?」

「犯罪者ヅラが何を」

「怒りますよ。何の準備もなしに劇薬疑いの液体そんなに色々持って帰れませんよ……また来るので、その時で構いませんか? そんなすぐ口説かないでしょう」

「……いざとなったら郵送でいいですか?」

「んなもん運ばされる配達員の気持ちにもなりなさいよ」

劇薬かもしれない体液ほど嫌な配達物は他にない。まだ送っていないのに申し訳なくなってきた。

「……じゃ、俺帰りますから。もう呼ばないでくださいよ、Uターンも大変なんです」

「すいませんでした……ありがとうございました」

深々と頭を下げ、母への挨拶を終え部屋を去る秘書を見送る。

「また来る……か、早くて来週だよな」

秘書に業務的に搾られる荒凪を見たくないと言えば嘘になるが、やはり彼氏に他の男が触れて欲しくない。俺が搾り、渡すのだ。さて、そうと決まれば荒凪を口説かねば。
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