1,616 / 2,046
口説く許可 (水月+セイカ・サキヒコ・荒凪)
しおりを挟む
血だけでなく肉や内臓も持ち帰って調べたいなんて言い出した秘書から荒凪を庇うと、秘書は「冗談ですよ」と嘘臭くケラケラ笑った。
「これが鱗ですね、全て持ち帰らせていただきます。今後もし鱗が落ちているのを見つけたら、決して素手では触らず、ゴミにも出さないでください。個別に保管し、俺に渡してください」
「私が会社で渡すわ、見つけたら集めておきなさいね」
「プールサイドを歩く時は必ずサンダルなどを履いてください」
「生えてる鱗は触っても何ともなかったんですけど、やっぱり剥がれたのが刺さったりしたらまずいんですか?」
「まだ鱗の害は確認出来ていません、分からないから気を付けるべきなんですよ」
秘書は鱗の入ったビニール袋の口をしっかりと縛ると、それを鞄に押し込んだ。
「はぁ……いくら考えても、人魚の血が腐食性を持つ理由が分からない。永遠の命がどういう解釈で与えられるにしても、溶けるなんて……人魚なら殺して食わなければ無害ですし一般家庭に預けても問題ないと思ったのに…………やっぱり会社に水槽作るべきかな」
「のぅ、上役殿。ワシもさっちゃんも、この子の気配は酷く禍々しいと……憎悪のような、負の感情の塊のようだと感じるのじゃが、妖怪というのはみんなそうなのか?」
「さぁ……俺、眼鏡かけても感情とかまでは分かりませんから。霊能者でもそうそういませんよ、そういうの感じ取れる人は」
「……そうか」
「荒凪がもう少し自分の生い立ちだとかを分かってたらこの謎の突破口も見つかりそうなものなんですけどねぇ、水槽の中で目が覚めた以前の記憶がなーんにもないって言うんですから」
荒凪は先程から申し訳なさそうに俯いている。
「……なぁ、秘書さん。魚の妖怪って他には居ないのか? 人魚だって言うけど、違う特徴があるんなら違う妖怪かもしれない……と、思うんだけど」
セイカが恐る恐る秘書に尋ねる。
「それは俺も思ってますけど、下半身が魚の半人型妖怪なんて人魚くらいしか思い付きませんよ。帰ったらもう一度文献洗い直す予定ですけど」
「あ、そういえば……さっきプールから上がる時、腕が増えたんですけど」
「は? どういうことです?」
「脇腹のところから二セット目の腕が生えて、ヤモリみたいにプールサイドに這い上がったんです」
秘書は荒凪の脇腹を観察し、触れてもいたが、何も分からないようで首を傾げた。
「腕が四本ある人魚なんて聞いたこともない……胸ヒレとか尻ヒレって解釈で何とかなるか? いやヒレはちゃんと生えてたよな……やっぱり人魚じゃないのか? 腕が複数、蛸やヒトデが混じってる……いや、出現も収納も自在というのは……」
「腕が増えるってそんなに不思議なんですか? コンちゃんとかしょっちゅう変身してますし、お化けって変幻自在なものなんじゃ?」
「そりゃ狐は狸と並ぶ化けるモノですからね。でも人魚にはそんな話ありませんから……やっぱり正体は人魚じゃないと考えた方が良さそうですね、分野さんが狐の像の付喪神のくせして人間の姿に留まっているのと同じで、人魚っぽい振る舞いをしているだけの何かもっと得体の知れないモノ……」
人魚と聞いた時はとても驚いたけれど、プールに入った後の姿を見てもそれほど怖くはなかった。しかし「得体の知れないモノ」と聞くと途端に怖くなる。無知は恐怖の源だ。
「……とりあえず、今日のところは帰ります。早く血を調べないと。今後も何かあれば連絡をください」
「あっ、ま、待ってください!」
「何か思い出したことでも?」
「……ちょっと、言いにくいので」
母と彼氏達、そして荒凪をプールに残し、俺と秘書はアキの部屋に移って扉を閉めた。これで会話が聞かれることはない。
「まだ全然口説けてないんすけど、あの子も彼氏にしたいです! 許可をいただけますか?」
「ええ、もちろん。そうしていただければ彼はきっと人間の味方になる。それ狙いであなたに任せようと思ったんですよ」
「えっ……俺が口説き落とすの狙いだったんですか?」
「ええ、正直に言えばあなたのお母様に嫌がられかねないので、結界を理由に押し付けたように振る舞いましたが……本音は、あなたなら荒凪を惚れさせて人間の味方に出来ると確信しているからです」
俺をそんなに信頼してくれているのか。
「嬉しい……大人に期待してもらえたの初めてかもです、めちゃくちゃ嬉しいんですねこういうのって。頑張ります! となれば、重要なことがありますよね?」
「と申しますと」
「唾液、精液、腸液、この三つも劇薬なのかどうかですよ! キスしたら舌が溶けたり、ぶっかけられて大火傷したり、突っ込んだらちんちんがだんだんちっちゃくなっていくとか嫌ですよ!」
部屋を変えた理由はこれを聞きたかったからだ。まだ付き合っていない男にこんな話を目の前でされたらどう思う? 気持ち悪いし怖いだろう。永遠に脈ナシ確定になってしまう。
「ぁー……確かに。しかし、唾液以外の二点……俺が採取するの、絵面が犯罪じゃないですか?」
「犯罪者ヅラが何を」
「怒りますよ。何の準備もなしに劇薬疑いの液体そんなに色々持って帰れませんよ……また来るので、その時で構いませんか? そんなすぐ口説かないでしょう」
「……いざとなったら郵送でいいですか?」
「んなもん運ばされる配達員の気持ちにもなりなさいよ」
劇薬かもしれない体液ほど嫌な配達物は他にない。まだ送っていないのに申し訳なくなってきた。
「……じゃ、俺帰りますから。もう呼ばないでくださいよ、Uターンも大変なんです」
「すいませんでした……ありがとうございました」
深々と頭を下げ、母への挨拶を終え部屋を去る秘書を見送る。
「また来る……か、早くて来週だよな」
秘書に業務的に搾られる荒凪を見たくないと言えば嘘になるが、やはり彼氏に他の男が触れて欲しくない。俺が搾り、渡すのだ。さて、そうと決まれば荒凪を口説かねば。
「これが鱗ですね、全て持ち帰らせていただきます。今後もし鱗が落ちているのを見つけたら、決して素手では触らず、ゴミにも出さないでください。個別に保管し、俺に渡してください」
「私が会社で渡すわ、見つけたら集めておきなさいね」
「プールサイドを歩く時は必ずサンダルなどを履いてください」
「生えてる鱗は触っても何ともなかったんですけど、やっぱり剥がれたのが刺さったりしたらまずいんですか?」
「まだ鱗の害は確認出来ていません、分からないから気を付けるべきなんですよ」
秘書は鱗の入ったビニール袋の口をしっかりと縛ると、それを鞄に押し込んだ。
「はぁ……いくら考えても、人魚の血が腐食性を持つ理由が分からない。永遠の命がどういう解釈で与えられるにしても、溶けるなんて……人魚なら殺して食わなければ無害ですし一般家庭に預けても問題ないと思ったのに…………やっぱり会社に水槽作るべきかな」
「のぅ、上役殿。ワシもさっちゃんも、この子の気配は酷く禍々しいと……憎悪のような、負の感情の塊のようだと感じるのじゃが、妖怪というのはみんなそうなのか?」
「さぁ……俺、眼鏡かけても感情とかまでは分かりませんから。霊能者でもそうそういませんよ、そういうの感じ取れる人は」
「……そうか」
「荒凪がもう少し自分の生い立ちだとかを分かってたらこの謎の突破口も見つかりそうなものなんですけどねぇ、水槽の中で目が覚めた以前の記憶がなーんにもないって言うんですから」
荒凪は先程から申し訳なさそうに俯いている。
「……なぁ、秘書さん。魚の妖怪って他には居ないのか? 人魚だって言うけど、違う特徴があるんなら違う妖怪かもしれない……と、思うんだけど」
セイカが恐る恐る秘書に尋ねる。
「それは俺も思ってますけど、下半身が魚の半人型妖怪なんて人魚くらいしか思い付きませんよ。帰ったらもう一度文献洗い直す予定ですけど」
「あ、そういえば……さっきプールから上がる時、腕が増えたんですけど」
「は? どういうことです?」
「脇腹のところから二セット目の腕が生えて、ヤモリみたいにプールサイドに這い上がったんです」
秘書は荒凪の脇腹を観察し、触れてもいたが、何も分からないようで首を傾げた。
「腕が四本ある人魚なんて聞いたこともない……胸ヒレとか尻ヒレって解釈で何とかなるか? いやヒレはちゃんと生えてたよな……やっぱり人魚じゃないのか? 腕が複数、蛸やヒトデが混じってる……いや、出現も収納も自在というのは……」
「腕が増えるってそんなに不思議なんですか? コンちゃんとかしょっちゅう変身してますし、お化けって変幻自在なものなんじゃ?」
「そりゃ狐は狸と並ぶ化けるモノですからね。でも人魚にはそんな話ありませんから……やっぱり正体は人魚じゃないと考えた方が良さそうですね、分野さんが狐の像の付喪神のくせして人間の姿に留まっているのと同じで、人魚っぽい振る舞いをしているだけの何かもっと得体の知れないモノ……」
人魚と聞いた時はとても驚いたけれど、プールに入った後の姿を見てもそれほど怖くはなかった。しかし「得体の知れないモノ」と聞くと途端に怖くなる。無知は恐怖の源だ。
「……とりあえず、今日のところは帰ります。早く血を調べないと。今後も何かあれば連絡をください」
「あっ、ま、待ってください!」
「何か思い出したことでも?」
「……ちょっと、言いにくいので」
母と彼氏達、そして荒凪をプールに残し、俺と秘書はアキの部屋に移って扉を閉めた。これで会話が聞かれることはない。
「まだ全然口説けてないんすけど、あの子も彼氏にしたいです! 許可をいただけますか?」
「ええ、もちろん。そうしていただければ彼はきっと人間の味方になる。それ狙いであなたに任せようと思ったんですよ」
「えっ……俺が口説き落とすの狙いだったんですか?」
「ええ、正直に言えばあなたのお母様に嫌がられかねないので、結界を理由に押し付けたように振る舞いましたが……本音は、あなたなら荒凪を惚れさせて人間の味方に出来ると確信しているからです」
俺をそんなに信頼してくれているのか。
「嬉しい……大人に期待してもらえたの初めてかもです、めちゃくちゃ嬉しいんですねこういうのって。頑張ります! となれば、重要なことがありますよね?」
「と申しますと」
「唾液、精液、腸液、この三つも劇薬なのかどうかですよ! キスしたら舌が溶けたり、ぶっかけられて大火傷したり、突っ込んだらちんちんがだんだんちっちゃくなっていくとか嫌ですよ!」
部屋を変えた理由はこれを聞きたかったからだ。まだ付き合っていない男にこんな話を目の前でされたらどう思う? 気持ち悪いし怖いだろう。永遠に脈ナシ確定になってしまう。
「ぁー……確かに。しかし、唾液以外の二点……俺が採取するの、絵面が犯罪じゃないですか?」
「犯罪者ヅラが何を」
「怒りますよ。何の準備もなしに劇薬疑いの液体そんなに色々持って帰れませんよ……また来るので、その時で構いませんか? そんなすぐ口説かないでしょう」
「……いざとなったら郵送でいいですか?」
「んなもん運ばされる配達員の気持ちにもなりなさいよ」
劇薬かもしれない体液ほど嫌な配達物は他にない。まだ送っていないのに申し訳なくなってきた。
「……じゃ、俺帰りますから。もう呼ばないでくださいよ、Uターンも大変なんです」
「すいませんでした……ありがとうございました」
深々と頭を下げ、母への挨拶を終え部屋を去る秘書を見送る。
「また来る……か、早くて来週だよな」
秘書に業務的に搾られる荒凪を見たくないと言えば嘘になるが、やはり彼氏に他の男が触れて欲しくない。俺が搾り、渡すのだ。さて、そうと決まれば荒凪を口説かねば。
0
お気に入りに追加
1,240
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる