冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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美しい鱗 (水月+セイカ・アキ・荒凪)

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色々と話しかけてみたが、荒凪は無表情を貫き通している。あの有名な妖怪……妖怪か? まぁ妖怪か、妖怪の人魚だという荒凪、彼は俺と会話をしてくれない。

「……本当に言葉分かってるの? 首傾げるばっかなんだけど」

「名前聞いたら答えたじゃないのよ。私話しかけてないから知らない、さっき初めて声聞いたわ」

「足を手に入れる代わりに声を失うってのが人魚じゃん」

「姫はそうよね。プール入れてあげたら? 四時間入れろって言ってたし。あ、二回目読み終わったからコレ渡しとくわ」

書類を渡された。

「えーっと、プール分かる? 水、いっぱい。入っていいよ。おいで」

話しかけても見つめ返して首を傾げるばかりで返事をしないし表情も変わらないけれど、手を差し伸べると素直に手を繋いでくれる。俺に対する警戒や嫌悪はなさそうだ。笑顔で接することを心がけつつ、アキの部屋へ。

「鳴雷、無事だったか。あの人は……えっ、誰そいつ」

セイカとアキの視線は自然と荒凪の方へ向く。

「荒凪くん。えっとな、さっきの……形州の兄貴、秘書さんに預けられた子なんだ」

「預けられたぁ!? えぇ……そんな家族ぐるみ的な付き合いだったの、あの人とお前ん家」

「実は人間じゃなくてさ」

「ちょっと待てよ」

「妖怪らしくて」

「待てって」

「ごめんちゃんと説明するから今はプール使っていいかな?」

セイカは怪訝な顔のままアキに尋ねる。

《秋風、よく分かんねぇんだけど……なんか、ソイツ、荒凪? ってヤツ、プール使わせていいか?》

《別にいいぜ。水張ってねぇと思うけど》

「いいってさ」

礼を言い、荒凪をプールに連れて行く。アキは紅葉邸に俺と共に泊まっていたのに水が張ってあるということは、母が荒凪に使わせるために入れたと考えるべきだろうか。

「……!」

お? 反応したか?

「入っていいよ。服はこのカゴに入れてね」

カゴを渡すと荒凪は頷き、服を脱ぎ始めた。やっぱり言葉は通じている、声は聞かせてくれないけど。

「鳴雷……アイツ妖怪って言ったよな」

部屋とプールを繋ぐ扉からセイカが顔を覗かせる。

「あぁ、書類もらったから一緒に読もう。こういうちゃんとした文章多分俺分かんないとこあるし、セイカ頭いいから翻訳頼む」

「日本語を、日本語に翻訳……?」

「ちなみに何の妖怪だと思う? ヒント、超有名」

「えっ……ふ、ふすま」

有名……か?

「…………なんでそう思ったの?」

「鳴雷が勧めてくれた漫画の、妖怪とかが出るヤツの中で……一番顔が怖かったから」

なんで顔が怖かったヤツを選んだの? 荒凪くん顔は可愛いよ?

「どの漫画か分かったわ……読んだんだな」

「人間と化け物のタッグっていいなって思った」

「おっマジぃ? んじゃねぇ、次のオススメはねぇ」

「後でな。で、当たったの?」

当たってる訳ねぇだろ。

「一反木綿亜種がプールに入りたがる訳ないじゃん……」

「えぇ……じゃあ何だろ、両面宿儺? 今読んでるとこなんだけど、アレもタッグものなのか?」

「タッグもの……うん、まぁ。いやそれ妖怪じゃねぇのよ、日本書紀的には確か英雄だか鬼神だか……ってか荒凪くんよく見て? お顔ひとつよ」

「ぬらりひょん!」

「じいさんのイメージあるなぁ、見た目アキとタメくらいだよ荒凪くん」

「の、子孫!」

「うーんアバウト、何代目なんだよ。プール、プールのイメージ大事にして」

「花子さん!」

「プールだってばトイレじゃなくてプール! ってかどう見ても男の子じゃん! あっ男の子の漫画あったな……アレ読んだ? まだ勧めてなかったけど買ってたはず。いや荒凪くんの名前は荒凪くんなんだって。しかも花子さん妖怪っていうか幽霊って感じしない?」

バシャンッ、と水音が聞こえ、振り向けば水面に波紋が出来ていた。数秒待つと荒凪が水面に顔を出した。その耳は先程までとは違い、魚のヒレのような形をしている。

「ヒレ耳っ……!? 良っ……!」

「分かったセイレーンだ! 美味しいコーヒー入れてくれる妖怪!」

「見ての通り荒凪くんは人魚……待って、美味しいコーヒー入れるセイレーン俺知らないんだけど何の漫画? そんなの出てくるの俺買ったかな」

「人魚かぁ。人魚食べたらロボになるんだっけ?」

「不老不死になるんだよ。荒凪くん、どう? 水気持ちいい?」

プールサイドに屈んで話しかけてみると荒凪は傍に寄り、縁に手を置いた。水掻きのある手を。

「おぉ……変身してる」

変化は水掻きだけではない。先程まではちゃんと整えられていた爪が、獣のような鋭い爪へと変わっている。ペールオレンジだった肌が美しく細かな鱗に覆われている。

「顔には鱗生えてないんだな」

「ゃ、もみあげの辺り怪しい……うん、ちょっとあるね」

手を伸ばすと懐いた猫のように顔を擦り寄せ、頬や耳の周りに触れさせてくれた。本当に警戒心が薄いんだな……

「顔とか喉……胸、肌の色変わってるね、なんか……人肌じゃない青白さって言うの? 触り心地も人っぽくない、なんだろコレ、イルカとかその辺かな」

「イルカ触ったことあるのか?」

「遠足で水族館行った時に触った気がする」

「……でもイルカなら魚じゃないし、鱗もないだろ」

「ぽいってだけだよ。既存の種類の魚と人間を組み合わせたなんてのじゃないのかも。むしろ人部分が人と同じ哺乳類でありながら海に居るイルカの質感ってのは、なんか説得力ない?」

頭が良さそうなことを言えたのでは?

「分野みたいな狐の石像が人間に化けてるって感じで、長生きした魚が人間に化けてるって訳じゃないのか?」

「え、あぁ、そっか。それなら既存の魚と同じ鱗って考えになるか……コンちゃんに狐耳生えてるみたいな感じで。うーん、分かんないな、人魚がどうやって生まれるのか知らないし」

書類にはまだ目を通していないけれど、母や秘書の言動を思い返すに荒凪がどうやって造られたとか生まれたとかの詳細は不明なようだった。

「全身見せて欲しいなぁ。特にスリットなのかどうか。スリット姦って憧れあってさ」

「ふぅん……?」

俺が何言ってるか分からない顔だな。分かってたら絶対睨むもんな、セイカは。

「尾ヒレも見てみたいよ」

なんて話していると、ザバッと音がして大きな魚の尾が水面から現れた。揺れるそれを飾る水滴は部屋の灯りを反射してキラキラと輝く。

「わ……! なんかすっごい綺麗!」

鱗にも尾にも虹色の光沢がある。こんなにも美しい生物が存在するなんて……この世は神秘に満ちている。

「見せてくれてありがとう荒凪くん、すごく綺麗だよ」

美しいものを見られた喜びと興奮のまま笑顔で話しかけると、荒凪は俺の胸ぐらを掴んで水中へ引きずり込んだ。
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