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暗い庭で散歩 (水月+ネザメ・ミフユ・ヒト・カサネ)

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リュウとシュカが食べていたマシュマロをいくつか分けてもらい、独特の食感と甘さを楽しむ。

「ネザメさん、噴水ってあります?」

「噴水……? ふふ、流石にないよ」

「ヒトさん、噴水ないみたいです」

「伝言してくれなくても聞こえてますよ……」

ヒトは目に見えて落ち込んでいる。そんなに噴水に期待していたのか。

「だって噴水って……別に要らないだろう? 人が集まるところならまだしも、個人宅にあるものじゃないよ」

「おっきいからあるかと思ってました」

「プールならあるよ。今日は水を張っていないけれど。秋風くんと知り合い、屋内プールだったらよかったのにと何度後悔したことか……船上パーティの時、屋根をつけてとおねだりしてみたのだけれど、お父様は解放感を気に入ってるみたいでね」

「そんな、アキのためだけに改装なんて……いいんですよ、ウチにプールありますから」

「ライトをつけてもらえることにはなったから、その時はナイトプールと洒落込もうじゃないか」

「プールあるんですか!? 広さはどのくらいなんでしょう、鳴雷さんの家のより広いんですよね?」

「そう……だねぇ、うん。少し広いかな。でも深さは水量で調整するしかなくて、その点は水月くんの家のプールの方が繊細な造りをしているよね」

アキの部屋に隣接したプールは底が斜めになっている。

「秋風さんの部屋やプール、サウナは穂張興業が作ったんですよ。狭くても工夫を凝らして快適な空間を作るのは、日本で建築業を営むにあたって必須のスキルです!」

ヒトの機嫌が良くなってきたな。

「プールとか色々、ヒトさんが設計とかしたんですか?」

「私は経営者であって設計士ではないので……」

「経営か……ミフユ、僕が学んでおくべきことだよね? ヒトさん、是非経営者の心構えを教えてください」

「……! ええ、もちろん」

ヒトとネザメが話し込み始めた。穂張興業のことも経営のことも何も知らないけれど、ヒトはあまりいい経営者ではないと思う。本当に何となくの勘でしかないのだが、そう思う。

「俺ちょっと見てきますね」

ヒトの興味が俺からネザメに移ったので、彼の腕の中から抜け出して庭を駆けた。光を追った。近付いていくと犬達の荒い呼吸音が聞こえてきた。

「カサネせんぱーい!」

懐中電灯の光が消える。自分の足が見える程度の暗闇に取り残され、立ち止まる。犬の荒い呼吸音が俺の周りを回る、足音もだ、少し怖い。

「カサネ先輩……? カサっ、うわぁああ!?」

カサネはどこに居るのか、懐中電灯を持っているのはカサネなのかアキなのか、何故灯りを消したのか、疑問を抱きながらカサネに再び呼びかけるとカサネの顔だけがぼんやりと照らされ闇に浮かんだ。

「……っ、ふふふ……はははっ、そんな驚くか?」

顎の下で懐中電灯を上に向けて顔を下から照らす、古代より伝わるホラー風味の一発芸。そんなものに叫ばされたなんて、大変な屈辱だ。

「カサネ先輩……!」

白黒と、薄橙と黒の犬達がカサネの両脇に並んで座る。舌を出して荒く息を吐き、キラキラした目で俺を見上げる。

「驚かさないでくださいよ、もぉ」

「へへへへ……ごめんごめん」

「大丈夫なんですか? 体育も休んでるくらいなのに、犬と走り回るなんて」

「あぁ、平気平気。散歩は毎日してるし……」

「歩くのと走るのじゃ違いますよ? 内臓何個か切ってるから体力落ちてるとか言ってたじゃないですか」

「まぁ体力落ちてるのはそうなんだけど……道産子とお前みたいな東京っ子を一緒にするなよ」

「……北海道って広いから車移動が基本で意外と体力ないとか聞きますけど」

「誰に聞いたんだよ。まぁ、一理あるかもしれないな、東京って車持ってない家も多いんだろ? でもな鳴雷くん……内地の田舎ならいざ知らず、北海道には雪下ろしというふざけたイベントがある! 知ってるか、雪って重たいんだぜ」

積もって指の第一関節まで程度の地域で育っているので、雪で困ることはスリップくらいのものだ。雪下ろしの経験なんてない、雪の重さは分からない。

「あと寒いとこで生きてると体力つくと思う。サイヤ人みたいな感じ、地球の重力軽いな~って」

「そ、そういうもんでしょうか? アキもすごいし……そういうもんなんですかね」

「試されし大地北海道と、絶対居住不能地域ロシアを一緒にすんな」

「そんなどこぞのソシャゲの章タイトルみたいな。いっぱい住んでますよ人間」

「リメイク後のロンダルキアと初版のロンダルキアぐらい違う」

「リメイク後しかやったことないんで分かんないです。とにかく大丈夫なんですね? よかったぁ……心配してたんです、倒れたりしてないかなって」

「……そ、そうか。悪かったな……体力も全然ないって思われてないと、サボれないから……超貧弱って嘘つくしかなくて」

きっと照れてくれているのだろう。でもこの暗さでは赤らんだ頬を見ることは出来ない。

「…………なる、ぁー……み、み……水月、くん。その……散歩一緒にって言ってただろ。だから、その」

「……ええ、一緒に走りましょう」

「うん! あっ、あのな、お前の弟も、えっと、その辺に居るはずだから……」

懐中電灯の光を頼りにカサネの手を掴む。小さく細く冷たい。なんて頼りない手だろう、強く握るだけで骨を砕いてしまえそうだ。

「えっ、ぇ、手……ぅうぅ……女っ、じゃなかった、男たらしめぇ……」

こんな手をしている彼を走り回らせるのはやはり不安だ。俺は彼の身体に負担がかからないよう、ゆっくりと走った。
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