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お顔ぺろぺろ (水月+ヒト・フタ・サン・歌見・ミフユ・ハル・リュウ・シュカ・セイカ・カサネ)

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トイレから帰ってきたら最愛の彼氏を弟達に盗られていた上に、弟に「兄貴は笑うことはない」なんて言われたヒトの気持ちや如何に。

「ん……? 誰か入ってきた?」

「ヒトさんと年積だ」

「あぁ、おかえり兄貴」

「ヒト兄ぃおかえり~」

俺を奪ってご満悦なのか、サンはにんまりと笑って勝ち誇るように言った。フタはただただ純粋にサンに続いてヒトに声をかけた。

「…………っ、げほっ……」

こちらを睨んでいたかと思えば、突然ヒトが咳き込んだ。ゲホゴホと咳を続け、膝をつき、背を丸める。

「ヒトさん!? フタさん、離しっ……」

ヒトに駆け寄るためフタに腕を解いてもらおうと考えた時にはもう、フタの腕は俺を解放していた。フタは立ち上がり、ヒトの元へ走り出した。俺も慌てて後を追う。

「ヒト兄ぃ! ヒト兄ぃどうしたの、なんか変なの飲んだ?」

「ヒトさん! フタさんちょっと手どかしてください。こういう時は背中叩くかさするかしないと……わっ!? え、ヒ、ヒトさん?」

ヒトが突然ガバッと起き上がった。目を丸くする俺に向かってニヤリと笑い、俺に抱きつく。

「……鳴雷さん、私にとっても優しいんですね。嬉しい……でも少し嘘を見抜く力が低いです。私、心配になってしまいますよ」

「ヒト兄ぃ? 咳治まった?」

「嘘……? 咳き込んでたの、演技だったんですか?」

「ええ、あなたが来てくれないかと思って。自惚れた作戦のようにも思えてしまって、実行には少し躊躇いましたが」

そんな逡巡の様子は見えなかった。

「……よかったぁ~。もう、急に咳き込むから……ヒトさんアレルギー多いから、その類かと思いましたよ」

「…………今度は怒らないんですか?」

「まずは安心です。でもその後怒りますよ。嘘は、めっ! 分かりました?」

「………………ふふっ、はぁーい」

幼稚園児のように素直に返事をしながら、俺の胸元に顔をうずめる。

「ヒト兄ぃ、お水持ってきたよ~」

部屋の隅に置かれていた水のペットボトルをフタが取ってきた。多分、犬用給水器の入れ替え用だろうけど、まぁミネラルウォーターに犬用も人用もあるまい。あったとして飲んではいけないのは犬が人用のを……であって、人が犬用の何を飲み食いしたって何ともない。ちょっと味が薄くて不愉快ってくらいだろう。

「……邪魔しないでください。あぁでも、演技とはいえ咳をしていたのは事実ですし……喉が気持ち悪い、水はください」

「大丈夫ぅ?」

「嘘ですってば。はぁ……全く、いつまで経っても鈍い子ですね。しっし、私と鳴雷さんの時間の邪魔をしないで。あぁ、これは持っていきなさい」

数口飲んだミネラルウォーターをフタに投げ返すと、ヒトはまた俺に甘え始めた。

「……水月を呼ぶために仮病まで使うなんて、我が兄ながらその浅ましさ逆に尊敬に値するかもね」

「…………そういった真似は控えていただきたい。咳が止まらないようなら医務室に連絡せねばならなくなり……咳が酷く動けないなら運ぶために人を呼ばねばなりませんし……多くの大人が動くことになりますので」

サンに呆れられ、ミフユに咎められ、しかしヒトにそれらを気にする様子はない。俺にべったり引っ付いて幸せそうにしている。

「もう……普通に呼んでくれればいいのに。心臓に悪いですよ」

「呼んだら来ました? サンとフタを置いて、私を優先してくれましたか?」

「俺も居ましたよー……」

歌見がやや小さな声で、けれどヒトにちゃんと届く声量で、訂正した。歌見の隣に居るサンは彼の頭に頭を預けたまま不機嫌そうな顔でこっちを向いている。

「兄貴なんかに敬語使わなくていいよ。ボクにはタメなんだから」

「それはサンがそう言うから……」

「……フタ兄貴には敬語使っていいよ」

「いや……うん、じゃあそうしとくよ」

フタが一番タメ口で接しやすいのに、という顔をしているな、歌見。気持ちは分かるぞ。

「……ヒトさん、俺と付き合ってるの秘密にして欲しいって言ってたくせに、人前でも随分甘えてくれますね。嬉しいです」

「サンには前に知られてしまいましたし……他の子達は私の日常にはあまり関係ありませんから。なら、あなたと過ごせる貴重な時間を堪能するべきです」

ヒトはそう語りながらずりずりと姿勢を下げ、俺の太腿の上に頭を乗せた。寝転がって俺を見上げた

「……下から見上げても、美しいまま。全くあなたは素晴らしい」

「あっヒトさん、寝転がっちゃうと多分……」

音のなるボールを噛んで遊んでいたボーダーコリーが一直線にこちらへ来る。笑顔にも見える可愛らしい顔でやってきた犬は、ベロベロとヒトの顔を舐め回した。

「……っ!? やめっ、やめてください! 汚っ、臭い!」

「ごめんねメープルちゃん、ちょっと引いて……」

「あぁもう! 顔ベタベタっ……賢いと言ったのは撤回します! 犬なんてみんなバカですよ!」

「申し訳ないヒト殿! こんなに大勢に囲まれることなんて滅多にないからきっと興奮してしまって……」

「知るかそんなの! 顔洗ってきます!」

ヒトは再び部屋を去ってしまった。その知能ゆえに事態を察したらしい犬はしょんぼりと落ち込んでいる、ように見える。

「メープルちゃん落ち込んじゃった……なぁ、誰か顔舐めさせてやってくれよ」

「みっつんやればいいじゃ~ん。俺メイクしてるから無理~」

「やだよ。犬そこまで好きじゃないもん」

「せーかは?」

「俺、化粧水とか日焼け止めとか鳴雷に塗ったくられてるけど……大丈夫なら」

「ダメじゃな~い? そういうことしてなさそうなぁ、りゅー……りゅーめっちゃチョコ食ってる!」

「ネザメはんにもぉた。めっさ美味いでこのチョコ」

「口周りベタベタじゃん! りゅーも顔洗ってきなよ~! しゅーは……」

「私には眼鏡があるので」

外せばいいだろ。

「繰言さんはどうですか? 犬飼ってるんだからいいでしょう」

「えっ、ぇえ……他人の犬…………まぁ、いいか……ぉ、おいでー……俺の顔でよければ……」

繰言はその場にそっと寝転がった。

「ねーねーかさねん、顔になんも塗ってないよね~?」

「カサネン……!? う、うん……フランクがたまに舐めるから」

指差して教えてやると、犬は少し複雑そうな表情ながらもカサネの元へ向かった。気を遣われていると察しているとか? いや、まさかな。いくら賢くても犬は犬だ。

「んぅう……」

ぎゅっと目と口を閉じて犬に顔を舐め回されるカサネ。何故か突然起き上がるカサネのペットのパグ犬。

「あ、フランクちゃんおはよ~」

ハルのフレンドリーな挨拶に視線もやらず、パグ犬は一直線にカサネの元へ向かい、ボーダーコリーの顔を押しのけるようにしてカサネの顔を舐め始めた。
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