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人と居るのは苦手 (水月+カサネ・ハル・レイ・セイカ)
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カサネの飼い犬、パグのフランクはずっと眠っていたのだろうか。初めての場所で、初対面の犬の前で。なかなか図太い性格をしているらしい。今も美少年二人の前で寝ている、俺が犬なら全力で媚びて撫でてもらうのに。
「いびき? 寝言? なんか言ってる~」
「可愛いっすねぇ」
いびきをかくなんて幻滅仕草の代表のようなものなのに、犬だというだけで可愛がられるなんて妬ましい。
「……寝てるだけで褒めてもらえるとか許せな過ぎるんだが!?」
「寝てるから知らないだけで俺毎晩鳴雷カッコイイって言ってるぞ」
「えっ……いや嘘つけ、レイのカメラで分かってるんだよ、お前が朝までぐっすり寝てることは。一瞬間違えてときめいたわ」
まさかセイカがこんな冗談を言うとはな。明るくなってきたと喜んでいいだろう。
「…………なんで、寝てる間の録画見てんの?」
「ドン引き顔やめろ。セイカもアキも不眠症気味だろ? だから寝れてるか確認してんの。俺はポケスリ入れてるからいいけど、お前ら入れてないから俺が見守ってやってんだ。入れろ、ガチ睡眠管理が出来ながら可愛過ぎるあのアプリを」
「え……ありがとう。でもまだ気持ち悪いが勝つかな」
「なんでだよ!」
「そこまでする? って感じ……恋人一人でもその熱量はやばいと思うし……お前、何人居るんだよ。もうパッと数えられる人数じゃないぞ」
辺りを見回し、セイカはため息をつく。
「まぁまぁ。閉じたコミュニティなのに色んな人が居るのはいいことだろ? セイカは頭がいいし、是非見識を広げてくれよ」
「……俺が、頭いいとか言われるのは……テストで点取らないと痛いことされるからで、ご飯もらえないからで…………必要に迫られなけりゃ、そんな」
「どんな過程だろうが今まで得た知識も、効率良く知識を溜め込むノウハウも失ったりしない。セイカは頭がいいんだよ、俺よりずっと」
「…………頭、打って……変になった。悪くなった……もう、よくない」
「感情の抑えが前より効かなくなっただけじゃないのか? それだって頭打ったからなのか、正直に振る舞っても殴られない環境になったからなのかは微妙だろ?」
「俺にしか分かんないんだよこれはっ! 絶対頭悪くなってる……!」
「……頭悪くなったヤツが数日でロシア語覚えてたまるか!」
「す、数日じゃないっ……まだ分かんないことあるし、翻訳出来てるのだって秋風が簡単な表現にしてくれてるからでっ」
「謙遜するなよもぉ~。いやそれもまた可愛いけどさぁ、あんまり謙遜するとちゅーするぞ? キツめの」
「…………ありがとう。頭いいって言ってくれて」
「おいキス嫌がるなよ彼氏だろ」
「キツめのは……やだ……」
そろそろと俺から離れていったセイカは、ネザメに声を掛けられ話し始めた。どうやらクマのぬいぐるみについての話のようだ、可愛い。
「あっ……の…………ご、ごめん。ちょっと……とぉ、してっ……」
「あ、かさねん」
「カサネン!?」
「カサネくん。ちょうどよかったっす、ワンちゃん触ってもいいっすか?」
「カサネン……え、カサネン? あっ、フランク? いっ、いいけど……待って、いびき治す……」
カサネはパグ犬の頭の位置を直し、いびきを止めた。ハルとレイが「おぉ~」と感嘆を漏らす。
「すごいすごーい! 流石飼い主!」
「止めた方がいいやつだったんすね」
「ぁ……いやっ、ぇ……と、まぁ……?」
「触るね~? おっ、おぉ……割とムチムチ」
「ホントだ、犬って見た目より細いイメージあったんすけど、この子は見た目通りのムチムチっすね。ゴツかわっす」
美少年二人に背中を撫でられたり揉まれたりしても耳や尾を僅かに震わせる程度のパグ犬に対し、その飼い主のカサネはもう話しかけられていないのにまだビクビクしている。
「……かっさねせ~んぱいっ」
ここは俺がリラックスさせてやらなければと、カサネの傍に寄る。
「なっ、鳴雷っ、くん……? な、何?」
「いえ、緊張しているようだったので……知らない人ばっかで緊張し切っちゃった時って、知り合いが傍に居た方がいいでしょう?」
「…………ありがたい」
「でしょ。気遣いの出来る彼氏を褒めてくれていいんですよ」
「……うん。マジで、気遣い出来ると思う、お前」
自分で言ったことだが、真面目な顔で言われると照れるな。返事が思い付かなくなってしまった。
「…………あの、さ、鳴雷くん……俺さ、やっぱダメだよ」
「えっ? 何がです?」
「……こういう、集まり。俺……飯食うの好きじゃないし、人と話すの嫌いだし……フランク連れだと色々制限多いし、フランク一人にするの嫌だし……あぁ、ごめん、お前はこれ楽しいんだよな、楽しいから俺誘ってくれて……他のヤツらも、俺のこと疎んでたりしない、歓迎してくれてる、そう感じる、でも……俺根っからの陰キャ引きこもりクソ野郎なんだよ、合わない…………ごめん」
「そうですか……先輩が謝ることないですよ、早めに分かってよかったです! 今度からは俺がお家に遊びに行きますね」
「ぇ……あ、あぁ……うん…………いい、の? 集まりとかに、俺……来なくても」
「今回の全員出席はネザメさんのお願いですから、そういうのなら来て欲しさはありますけど……俺自身はみんなの好きなようにして欲しい、ですかね。これはグループでもサークルでもなくて、俺の彼氏と俺の彼氏と俺の彼氏と……その集まりですから」
「…………そっ、か。なんか、すごいのに属しちゃったと思ってたけど……俺、お前と………………だ、だけっ、だもんな」
俺とどんな関係なのか、ちゃんと口にして欲しいな。
「……歌見先輩やレイと話してましたけど、それでも嫌が勝ちました?」
「ん……あっ、誰が悪いって訳じゃないんだ。ゲームの話出来たのはよかったし、フランクが可愛がられるのも嬉しい……でも、人と、話すのとか、同じ空間に居るのは…………キツい」
気持ちは分かる。
「…………それ、俺一人でもキツいですか?」
「ぇ……ゃ、それ、は……」
「正直に言っていただいて構いません」
「…………………………ごめん」
俯いたカサネから聞こえた微かな音。俺は音を立てないよう歯を食いしばり、カサネが何も気に病まないように微笑みを作ってからカサネの顔を覗き込んだ。
「いびき? 寝言? なんか言ってる~」
「可愛いっすねぇ」
いびきをかくなんて幻滅仕草の代表のようなものなのに、犬だというだけで可愛がられるなんて妬ましい。
「……寝てるだけで褒めてもらえるとか許せな過ぎるんだが!?」
「寝てるから知らないだけで俺毎晩鳴雷カッコイイって言ってるぞ」
「えっ……いや嘘つけ、レイのカメラで分かってるんだよ、お前が朝までぐっすり寝てることは。一瞬間違えてときめいたわ」
まさかセイカがこんな冗談を言うとはな。明るくなってきたと喜んでいいだろう。
「…………なんで、寝てる間の録画見てんの?」
「ドン引き顔やめろ。セイカもアキも不眠症気味だろ? だから寝れてるか確認してんの。俺はポケスリ入れてるからいいけど、お前ら入れてないから俺が見守ってやってんだ。入れろ、ガチ睡眠管理が出来ながら可愛過ぎるあのアプリを」
「え……ありがとう。でもまだ気持ち悪いが勝つかな」
「なんでだよ!」
「そこまでする? って感じ……恋人一人でもその熱量はやばいと思うし……お前、何人居るんだよ。もうパッと数えられる人数じゃないぞ」
辺りを見回し、セイカはため息をつく。
「まぁまぁ。閉じたコミュニティなのに色んな人が居るのはいいことだろ? セイカは頭がいいし、是非見識を広げてくれよ」
「……俺が、頭いいとか言われるのは……テストで点取らないと痛いことされるからで、ご飯もらえないからで…………必要に迫られなけりゃ、そんな」
「どんな過程だろうが今まで得た知識も、効率良く知識を溜め込むノウハウも失ったりしない。セイカは頭がいいんだよ、俺よりずっと」
「…………頭、打って……変になった。悪くなった……もう、よくない」
「感情の抑えが前より効かなくなっただけじゃないのか? それだって頭打ったからなのか、正直に振る舞っても殴られない環境になったからなのかは微妙だろ?」
「俺にしか分かんないんだよこれはっ! 絶対頭悪くなってる……!」
「……頭悪くなったヤツが数日でロシア語覚えてたまるか!」
「す、数日じゃないっ……まだ分かんないことあるし、翻訳出来てるのだって秋風が簡単な表現にしてくれてるからでっ」
「謙遜するなよもぉ~。いやそれもまた可愛いけどさぁ、あんまり謙遜するとちゅーするぞ? キツめの」
「…………ありがとう。頭いいって言ってくれて」
「おいキス嫌がるなよ彼氏だろ」
「キツめのは……やだ……」
そろそろと俺から離れていったセイカは、ネザメに声を掛けられ話し始めた。どうやらクマのぬいぐるみについての話のようだ、可愛い。
「あっ……の…………ご、ごめん。ちょっと……とぉ、してっ……」
「あ、かさねん」
「カサネン!?」
「カサネくん。ちょうどよかったっす、ワンちゃん触ってもいいっすか?」
「カサネン……え、カサネン? あっ、フランク? いっ、いいけど……待って、いびき治す……」
カサネはパグ犬の頭の位置を直し、いびきを止めた。ハルとレイが「おぉ~」と感嘆を漏らす。
「すごいすごーい! 流石飼い主!」
「止めた方がいいやつだったんすね」
「ぁ……いやっ、ぇ……と、まぁ……?」
「触るね~? おっ、おぉ……割とムチムチ」
「ホントだ、犬って見た目より細いイメージあったんすけど、この子は見た目通りのムチムチっすね。ゴツかわっす」
美少年二人に背中を撫でられたり揉まれたりしても耳や尾を僅かに震わせる程度のパグ犬に対し、その飼い主のカサネはもう話しかけられていないのにまだビクビクしている。
「……かっさねせ~んぱいっ」
ここは俺がリラックスさせてやらなければと、カサネの傍に寄る。
「なっ、鳴雷っ、くん……? な、何?」
「いえ、緊張しているようだったので……知らない人ばっかで緊張し切っちゃった時って、知り合いが傍に居た方がいいでしょう?」
「…………ありがたい」
「でしょ。気遣いの出来る彼氏を褒めてくれていいんですよ」
「……うん。マジで、気遣い出来ると思う、お前」
自分で言ったことだが、真面目な顔で言われると照れるな。返事が思い付かなくなってしまった。
「…………あの、さ、鳴雷くん……俺さ、やっぱダメだよ」
「えっ? 何がです?」
「……こういう、集まり。俺……飯食うの好きじゃないし、人と話すの嫌いだし……フランク連れだと色々制限多いし、フランク一人にするの嫌だし……あぁ、ごめん、お前はこれ楽しいんだよな、楽しいから俺誘ってくれて……他のヤツらも、俺のこと疎んでたりしない、歓迎してくれてる、そう感じる、でも……俺根っからの陰キャ引きこもりクソ野郎なんだよ、合わない…………ごめん」
「そうですか……先輩が謝ることないですよ、早めに分かってよかったです! 今度からは俺がお家に遊びに行きますね」
「ぇ……あ、あぁ……うん…………いい、の? 集まりとかに、俺……来なくても」
「今回の全員出席はネザメさんのお願いですから、そういうのなら来て欲しさはありますけど……俺自身はみんなの好きなようにして欲しい、ですかね。これはグループでもサークルでもなくて、俺の彼氏と俺の彼氏と俺の彼氏と……その集まりですから」
「…………そっ、か。なんか、すごいのに属しちゃったと思ってたけど……俺、お前と………………だ、だけっ、だもんな」
俺とどんな関係なのか、ちゃんと口にして欲しいな。
「……歌見先輩やレイと話してましたけど、それでも嫌が勝ちました?」
「ん……あっ、誰が悪いって訳じゃないんだ。ゲームの話出来たのはよかったし、フランクが可愛がられるのも嬉しい……でも、人と、話すのとか、同じ空間に居るのは…………キツい」
気持ちは分かる。
「…………それ、俺一人でもキツいですか?」
「ぇ……ゃ、それ、は……」
「正直に言っていただいて構いません」
「…………………………ごめん」
俯いたカサネから聞こえた微かな音。俺は音を立てないよう歯を食いしばり、カサネが何も気に病まないように微笑みを作ってからカサネの顔を覗き込んだ。
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