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推しからの無邪気な提案 (水月+ネザメ・セイカ・アキ・ヒト・サン・カミア・ハル)

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セイカからネザメへのプレゼントはアキの様々な写真だった。アキが用意したプレゼントはどんなものなのか気になって、次がアキの番になるようにそれとなく誘導した。

「もみじー、ぁー……たんじょーび、おめでとー、ございますっす! ぷれーでんと、です!」

レイの語尾が移ってるな。以前のしばらくの同居が効いている。

「ありがとう。結構大きいね、重さもある。何だろう、ふふ、開けるね」

人の頭ほどの大きさの箱だ。リボンをほどき、包装紙を剥がし、無地の箱を開ける。すると中から縦長の丸っこい木製の人形が現れた。ちょうど半分のところに切れ目が見える。

「これは……!」

察した様子のネザメが人形の頭を掴む。すると人形は二つに割れ、中から同じデザインの少し小さな人形が現れる。その人形もまた二つに割れて中からまた少し小さな人形が現れる。

「……マトリョーシカだね?」

「だ」

「ロシアと言えば、だね。昔お父様のお知り合いの方にいただいたことはあるけれど……ふふ、やっぱり大切な人に贈られる方が嬉しいものだね。そうそう、どんどん小さくなっていって……小さい物は細工が難しいからかシンプルなデザインになっていったりする物もあるのだけれど、これはどうかな? おや、何か入ってるね」

手の中に握り込めるほどに小さくなった人形の中から現れたのは、最も小さい人形ではなく数枚の紙だ。

「保証書か領収書か……ううん? 何だいこれは。水月くん、なんだと思う?」

「……ボールペン売り場の、試し書きの紙?」

紙は全部で五枚、全てに何か書かれているが、全てペンを雑に走らせただけのように見える。

「なになに? よく分かんない物? そういうのボク好きなんだよね~、見せて見せて~」

「デカいんだから座ってなさいサン! 見えないでしょう! 紅葉さん、多分ゴミですよ。海外のお土産なんてそんなものです。適当なんですよ、色々と」

酷い偏見だな。

「そう言い切るのはどうかと思いますけど……試し書きの紙か何かにしか見えませんね」

「うーん……となると一番小さい人形はどこに行ったんだろうね、最後の人形は割れないはずなんだよ」

そう話していると見計らったかのようにアキがポケットの中から小さな人形を出し、机に置いた。

「おや、ここにあったね。ふふ……可愛いサプライズだ」

「……そういえばアキ、家出た時手ぶらじゃなかったか? こんなデカいのどこに持ってたんだ?」

「普通に俺の膝に乗せてたぞ。気付かなかったのか? クマで見えなかったのかな」

俺が選んだ物とはいえデカ過ぎるんだよなぁ、と今もセイカの上半身をほとんど隠しているテディベアを眺めて思う。

「見せて」

「ん? うん」

伸びてきた手に試し書きのような数枚の紙を渡す。テディベアの頭の影から顔を出したセイカは、その紙を見て眉を顰める。

「ロシア語だな。んーっと……ダメだ読めない、これ書いたヤツ相当字ぃ汚いぞ。秋風、読めるか?」

「ロシア語、へぇ……途切れ目すら分からなかったね」

「続け字ってヤツですかね? ロシアにもあるんですね。慣れてないと分かんないもんですねー」

「…………何でもしてあげる券カッコ挿入以外カッコトジル。って書いてあるんだってさ」

「えっ……?」

「マトリョーシカは親父さんに見繕わせたいい感じのプレゼントだけど、それだけじゃインパクトが弱いから自分で考えたヤツも入れたんだって。ちょうど入れやすい物送ってきたからって……」

マトリョーシカは完全にアキパパチョイスなのか。あのクズ男、未だにアキと連絡を取っているのか……酔っ払って道端で寝て凍って死ねばいいのに。

「つ、つまり、なんだい? この紙は秋風くんがっ……いち、にぃ…………五回、僕の言うことをなんでも聞いてくれるということなのかい!?」

「う、うん……そう言ってる、けど」

「……た、たと、えばっ?」

「ちょっと待ってくれ」

ネザメは震える手で紙を受け取り、五枚組らしいそれをペラペラと捲った。

「……あっ、これ、学校の保健だよりを切ったものだね」

「え、ぁ、ホントだ。裏見てませんでした」

俺のかな。セイカのかな。

「た、たとえば聞いた。えっとな……口でするとか、色んなとこ触るとか、そういうえっちな方面はもちろん……なんか買ってくるとか、雑用的なのでもいいし…………き、気に入らないヤツ居たら、死なない程度に痛めつける……とかも、いい。本当に何でもいいって、さ。でもっ、その……ちゃんとしたえっち……あの、入れるのは、ダメって」

「……っ、ふーっ……」

ネザメは頭を抱え、深いため息をついた。多分、彼は一年後もこの券を五枚とも持ったままだと思う。俺ならそうなる。

「…………そんなに入れたかったのか?」

「いや、違うぞセイカ。これは落ち込んでるんじゃない、キャパオーバーした時のオタク仕草だ。推しに何でもお願い聞いてあげるとか言われたら、こうなる」

「推しなんだ……秋風が……」

ネザメの恋人は俺なのだから、アキは推しあたりが順当なポジションだろう。

「へ~、推しに…………ねぇねぇハルくんっ、もし僕がハルくんのお願い何でも一つだけ聞いてあげるって言ったら、ハルくんなんて言う?」

「ひょえっ!?」

推しと聞いたカミアがハルにとんでもない話題を振った。

(うわー……やめてさしあげて……)

ハルは硬直してしまっているが、カミアは無邪気な視線をハルに向けたままだ。リュウにつつかれて意識を取り戻したハルがその視線に気付き、返事をしなければと焦った様子で口を開いた。

「……っ、つ……」

「つ?」

「ツー、ショット……チェキ、を」

地下アイドルか。

「……? 僕と二人で写真撮りたいの? なんだそんなこと。それくらいなら普通に叶えてあげられるよぉ。スマホのカメラでよければ今すぐでもね」

「ひひぃん……死にゅる……」

これ以上カミアの無邪気なファンサービスを受けたらハルが壊れてしまう。助け舟を出さななければ。
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