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ケーキの食べ方 (水月+歌見・カンナ・カミア・ネザメ・ミフユ・カサネ)

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電灯が点けられた。アキに合わせた薄暗さとはいえ暗闇からのギャップは大きく、しばらく目を細めた。

「では、切り分けますので少々お待ちください」

ミフユはもうロウソクを全て抜き切ったようだ。少し熔けたロウソクを回収し、蒸しタオルに包んでいた包丁を取り出した。

「……ナッツ、使ってませんよね?」

「はい、もちろん。事前にアレルギーの有無は調査済みですので」

「あぁ……そういえばメッセージで聞いてきましたね、あなた。ふふ、流石気配りの出来る方です。サン、あなたも見習いなさい。おやつだとか言って私にミックスナッツを渡さずに!」

嫌がらせにもほどがある。

《……眩しい》

《明るさはさっきと同じはずだぞ、暗めだ》

《んー……》

俺はもう目が慣れたが、アキはまだなのか目を細めている。

「ぁ、あの……俺、いらない」

「む……? 何か言ったか、繰言二年生」

「……っ、ぉ、俺……ケーキ、いいっ」

「嫌いなのか?」

「い、いや……そういうんじゃ、ない、けど」

「アレルギーでも嫌いでもないなら食べてもらいたい、ネザメ様への祝福の証だ。黄泉竈食、同じ釜の飯云々……同じ物を分けて食べるというのには深い意味がある。満腹なら後ででも構わん、食え」

「ひぃん同調圧力ぅ……食べるよ、食ゃいいんだろぉ……」

元デブの俺としては、嫌いでもないのに何故ケーキを食べたがらないのか分からない。気持ちを分かってやれないというのは、付き合う上で大変なハンデだ。

「先輩……満腹でも嫌いでもアレルギーでもないのにケーキ食べたくないってどういう心境でしょう? あ、ダイエットってのもナシで」

カサネはガリガリだからな。

「……全く分からん」

「そうですかぁ……」

他の彼氏から答えを教えてもらうことも出来ないのか。難しいな。

「回してくれ」

皿に乗った切り分けられたケーキが渡された。歌見に渡すと歌見は更に彼の隣のレイへ渡す。レイはサンへ、サンはハルへ、そうしてミフユから一番遠いところに座っていたシュカで止まる。そうやって彼氏全員にケーキが行き渡った。

「届いていない者は居ないな? では、シャンパンを開ける。これも回してくれ」

薄らと色付いた、透明度の高い炭酸飲料。シャンパングラスに注がれたシャンパンを、ケーキと同じように回していく。行き渡ったらグラスを持ち上げ、誰ともぶつけ合わずに「かんぱーい」と緩く声を上げる。

「いったっだきま~す」

上機嫌なハルの声に釣られて皆バラバラに「いただきます」と言い、各々フォークをケーキに刺した。切り分けられたケーキの尖ったところから食べていく者、上に乗ったイチゴを最初に食べる者、様々だ。

「んん……! 美味しい」

ちなみに俺はイチゴから食べる派。甘いホイップクリームを口にしてからではイチゴの甘さを楽しみにくいから。スポンジとスポンジの隙間にあるスライスフルーツの酸味はアクセントにイイけれど、上に乗っているイチゴは丸々あるので先に食べてしまう。

「あ、先輩はイチゴ後で食べる派ですか?」

歌見はケーキの上に乗っていたイチゴを皿に下ろし、ケーキ本体を食べ進めていた。

「ん……? あっ、いや、違う。そうか……八昼は居ないんだったな」

「妹さん……?」

「あぁ、あの愚妹……ショートケーキ食べるとなったら俺のイチゴを寄越せ寄越せと喚きやがったからな。あんまりうるさいから根負けしていつもあげてたから、食べない癖がついてたみたいだ。悲しい癖だよな、ハハ……」

「いえ全然! 優しいお兄ちゃんって感じで……なんて言うんでしょう、えー、微笑ましい? です! ほっこりしました」

「……キンキン声で喚くからワガママ聞いてただけだぞ?」

「優しいですよ。普通喧嘩になりますって」

「喧嘩したところで怒られるの俺だけだからなぁ。兄貴はどこもそんなもんだよ、下の子に美味いとこ取られる損な生き物だ。お前は兄弟歴浅いからそうでもないのかもな」

普段の食事でハムやウィンナーをアキにねだられた覚えならある。けれど、俺はアキが喜ぶのなら喜んで主菜を分けてやれる。それは多分……

「……アキは特別可愛いからです!」

「ん? あぁ、まぁ、お前の弟だからな」

兄弟が居る彼氏達はどうイチゴを食べているのだろう。歌見のような癖がついている者は居るだろうか?

(末っ子なハルどのは一番にイチゴ食べたみたいですな。カミアたんは……お、イチゴにフォーク刺してまそ、最初に食べる派ですかな?)

カミアは大きなイチゴをフォークに突き刺すと、カンナの口元にそれを差し出した。

「お兄ちゃんっ、あーん」

早速歌見の兄弟理論が破綻した、弟が兄にイチゴを与えている。いや、双子ってあんまりどっちが兄でどっちが弟でって感覚無さそうだけど。

「あーん……ん、ありがと」

「お兄ちゃん……! お兄ちゃん可愛いっ! お兄ちゃんが僕の手から何か食べてくれる時が人生で一番充実した時間だよぉ」

「カミア、あーん」

今度はカンナが自らのケーキに乗ったイチゴをカミアに差し出した。

「……!? お兄ちゃんっ、お兄ちゃん……ありがとう、このイチゴは家宝にするねっ」

「食べて」

イチゴを指で取ろうとしたカミアの手をひょいっと避け、蠱惑的な唇に押し付ける。カミアは仕方なく口を開け、カンナにイチゴを食べさせられ、幸せそうに頬を緩めた。

「可愛いよぉ……」

「ど、どうした水月、急に泣き出して」

「水月くん……? どうしたんだい?」

双子が可愛過ぎて泣いてしまった。歌見とネザメに心配され、しゃくり上げながら事情を説明すると、歌見には呆れられネザメには「僕は君達兄弟を見ているとたまにそうなるから分かるよ」と頷いてもらえた。
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