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蝋燭に火を (水月+サキヒコ・ネザメ・ミフユ・ヒト・サン)

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座敷童子を思わせる着物姿におかっぱ頭、綺麗に切り揃えられた髪を皺の多い細い手で撫でられ、サキヒコは心地良さそうに目を閉じる。

「主様……主様こそ、最近は如何お過ごしでしょうか」

「そうだねぇ……けほっ、あまり、体調が良くないかな……もう、ずっとだよ。お迎えが近いね……君に会えるかと思っていたけれど、ふふ、少し早かったなぁ…………話を聞く限り、僕は死んでも君に会えなかったんだよね、君はずっと……ずっと、あの寂しいところに……ごめんね、見つけてあげられなくて……ごめんね」

「主様、そんな……私を忘れずにいてくださっただけで、私は十二分に報われました」

「…………サキヒコ」

「はい」

「……寂し、かった……僕も、ずっと。恋をしても……子供を抱いても、孫が産まれても、ひ孫に、懐かれても…………ずっと、寂しくて……君が居ないのが、嫌だった」

サキヒコに縋り付くように彼の小さな身体を抱き締める老人の様子は、何故だか幼子のように見えた。

(あの頃と変わらないショタと、再会した老人……エモエモのエモ。泣けますな)

隣を見れば歌見が鼻を啜っていた。

(泣けますよな……しかし自分の直接の先祖、ではないにしろ同じく紅葉家の跡取りに仕える者だというのに、ミフユたんは一切サキヒコたん達の方を見ないんですな。ケーキにロウソク刺してまそ。マジかよ)

ウエディングケーキのような大きく小高いケーキに、十七本のロウソクでは少な過ぎる。最上段に三本、上から二弾目は四本、一番下の段に十本……うーん、スカスカ。

「ほら、サキヒコ……見ておくれ。僕のひ孫……可愛いだろう」

「ひいおじい様……」

「私が仕えていた頃の主様に瓜二つです」

「いや、俺サキヒコくんの記憶を夢で見たんだけど、ネザメさんより上品で儚い系だった。ネザメさんもだいぶ上品で儚い系だけど滲み出る天然ボケとすぐ照れる可愛さが儚さを若干薄めてるというか」

「水月くん?」

「うるさいぞミツキ。主様も結構ボケてた」

「サキヒコ?」

そうなのか……いや、でもやっぱり、ネザメの方が顔に丸みがある気がする。昔とはいえ大富豪なのに変わりはないから栄養状態の問題じゃないだろうし、ネザメの方が可愛げが多いというのは客観的に見ても明らかだと思う。

「ミツキは私の死の寸前の主様しか知らんからそう感じるのだ、主様だって可愛いしボケてる」

「サキヒコ? ねぇ、サキヒコ?」

「ひいおじい様、若い頃はしっかりしていなかったんですね」

「そんなことは……ないと思うけれど」

「これまで見てきたネザメ様のボケっぷり、主様そっくりだ!」

「サキヒコくん?」

「サキヒコ?」

リアクションもそっくりだな。曽祖父と曾孫って血が薄れて似ているところも減っていそうなものなのに。

「あ、火……しまった、ライターが……」

ロウソクを並べ終えたミフユはライターがないことに気が付いた。スマートに渡して好感度を上げていきたいところだが、残念ながら俺はライターを持っていない。ライターを携帯している高校生が居たら問題だと思う。

「……すみません、ライターをお持ちではありませんか?」

「ライターですか? いえ、私は煙草は吸いませんし……持っていませんよ」

ミフユはヒトに話しかけたが、彼はむしろ嫌煙家だろう。

「そうですか……あっ、サン殿、確か葉巻をお吸いになられましたよね。ライターをお持ちではありませんか?」

「あるよ~。なんで?」

「誕生日ケーキに立てたロウソクに火を点けたくて……失礼します、ありがとうございます」

理由を話す前に渡されたライターを持ってミフユがケーキの前に立つ。ティンッ、という音と共にライターが開く。

「んっ……硬いな」

ライターを使い慣れていないのか、ミフユは点火するのに少し手間取った。点いた火はゆらりと大きく、百均のライターなどとは質が違うことが一目で分かった。

「っと……ではネザメ様、点火していきます」

「頼むよ」

「暗く……するかい? ネザメ」

「はい、ひいおじい様。火を点け終わったら」

「ふふ……おめでとう、ネザメ。前日にも言ったけれど……君の誕生を、心から祝福するよ」

老人に頭を撫でられて、ネザメは子供っぽい笑顔を見せた。彼は両親に滅多に会えず寂しい思いをしていると考えてきたが、隠居済みの祖父や曽祖父には可愛がられてきたのなら、俺が思っているほどネザメは愛に飢えてはいないのかもしれない。

「点火完了。電灯を消します」

「うん」

部屋の灯りが消され、ケーキの上のロウソクの火だけが暗闇に浮かびが上がる。その優しい光には心を落ち着かせる効果がありそうだ。

《うぉっ……な、なんだ? 急に、停電か? スェカーチカ、危ねぇから灯りが点くまで動くなよ》

《いや、年積と紅葉が灯り消すとか話してただろ。停電じゃないと思うぞ》

アキが騒いでいる。ミフユは気にせず手拍子を始め、歌い始める。誕生日を祝う、あの歌を。俺も彼氏達も声を揃える。

「…………ありがとう」

ふーっ、ふーっ、ふー……と三回に分けてロウソクの火が吹き消され、完全な暗闇が訪れた。ミフユが電灯を点け直す前、ネザメの感謝の言葉が聞こえた。
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