冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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君の幸せを願う (水月+歌見・ネザメ・ミフユ・サキヒコ)

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プラスチック容器に残った料理を詰めていくシュカを俺も目で追う。あんなにご機嫌なシュカは珍しい、バイクを買ってやった時以来じゃないか?

(かわよ……)

彼氏の笑顔はいいものだ。癒される。

「……歌見先輩」

「ん?」

ネザメとは反対側、右隣に座っている歌見の二の腕をつつく。

「カサネたん、何か食べました?」

「カサネ……? あぁ、繰言か。食べてたぞ」

「よかったー、何も食べないのかと……何食べてました?」

「えっとな、使用人さんにお湯もらってお粥作ってた。米と、お湯と、イクラと……塩? だったかな」

「……だけ?」

「あぁ。俺、生じゃないイクラ初めて見たよ。つっても熱湯かかっただけだけどな」

やっぱり色とか変わるのかなぁ。

「お粥だけですか……ちょっと心配ですな、もったいないお化けも顔を出しそうでそ」

「肝臓取ったとか言ってたけど、その関係かな?」

「あー、他にも色々取ってるとは聞きましたが……少食の原因はそれですかな? 主食はカロリーバーとゼリー飲料だそうですぞ」

「うーん……まぁ、それで大丈夫なら、あんまりお節介は、なぁ? 心配なのはその通りだけど」

食を愛したあまりに体重三桁を余裕で突破した身としては、食に関心がないという事態そのものがよく理解出来ない。どこかおかしいのではと疑ってしまう。

(……食事制限受けて、有り余った食への愛が彼氏に向いてるんでしょうか、わたくし。普通の人間は彼氏一人で十分みたいですしおすし)

ケーキは食べるんだろうか。



しばらくの談笑、シュカは十個の容器全てに残った食事をパンパンに詰め終え、席に着いていた。

「ミフユ、そろそろお願い出来るかい?」

「承知しました」

ミフユが左手を挙げる。グリルや寿司の調理台、料理が乗せられていた机などが使用人達によって片付けられ、板前とミフユの父ことコックも部屋から出ていった。

「……鳴雷一年生、先程は父がすまなかった。今日はもう会うことがないと思う」

「そうなんですか? ちゃんと挨拶したかったんですけど……」

「必要ない」

「え、でも……お父さんなんですよね? 挨拶はしないとですよ、恋人って知られちゃってるし……」

「父親を名乗ったことすら腹立たしい。年積家にそのようなものはない」

全く意味が分からずポカンとしていると、俺の表情に気付いたのかミフユが説明のため口を開いた。

「年積家は代々紅葉家に仕える一族だ。年積にとって子供は新しい同僚。父母が育てるものではなく育児役の一族の数人が育てる。託児所が建物内にある会社、といった表現が近いかもしれん。ので、ミフユは父母に養育された訳ではないし……ミフユはミフユが産まれる前とはいえ放逐していた父を軽蔑している、年積の者としてあるまじき行為だとな。なので、ミフユの恋人として鳴雷一年生が父に挨拶をする必要などない。理解したか?」

理解はしたが、感覚的な納得は出来ない。

「じゃあ、その育児役? の人に挨拶すればいいんですか?」

「必要ない。ミフユはネザメ様の物だ、ネザメ様に許可を取って貴様はミフユを恋人にしている。大手を振れ、誰に頭を下げる必要もない」

「……分かりました」

恋人の親に挨拶、なんてのはとても緊張するイベントで、避けられるものなら避けていたいものだ。けれど、必要ないと言われると、それはそれで寂しい。



ほどなくして部屋にケーキが運び込まれてきた。ウエディングケーキのような大きく小高い物だ。豪奢なケーキへの驚きもかなりのものだったが、同時に入ってきた上品な老人への驚きもあった。

「……こんにちはぁ」

ゆったりと微笑んだ老人は車椅子に乗っており、細めた瞳を開くとキョロキョロと俺達の顔を見渡した。

「主様っ……!」

ケーキと老人の車椅子を押して運んできた使用人達はすぐに部屋を出た。直後、ミタマの隣に座っていたサキヒコが立ち上がる。机をすり抜け、人をすり抜け、老人の元へ一直線に走り出す。

「主様ぁっ!」

「サキヒコ……! 元気だったかい? と聞くのは……少し、おかしいかな」

実体化したサキヒコは老人に抱きつき、老人もまたサキヒコの背に腕を回した。サキヒコの表情は分からないが、老人はこの上なく安らいでいるように見える。

「……ひいおじい様? どうしたんです、今日は僕の誕生日ですよ」

「ひ孫のお祝いに来ては、いけないのかい?」

「いえ、光栄ですが……寝ていなくて大丈夫ですか?」

「サキヒコに、会えるのだから……少しくらい、構わない。ふふ……すごいねぇ、サキヒコ……触れる、話せる……がんばったんだってね。よし、よし……あぁ、冷たいねぇ、どうしてだい? 海に……その、投げられてしまったから、なのかなぁ」

ネザメの曽祖父であり、サキヒコの主でもあった老人はサキヒコの頭や頬を撫でながら、とても優しい声で話した。あんな声で語りかけられたら、サキヒコでなくとも目を閉じて身を委ねてしまう。

「死者は冷たいものなのだそうです。どれだけ頑張っても、どうしようもないのだと……申し訳のないことです、主様」

「構わないよ。僕は……温かい君に、触れたかった訳じゃ……ない。君が、冷えていたから……心配になった、それだけだよ」

「主様……ありがとうございます」

サキヒコはかつて主を守って死んだ。それがやっと再会出来たのだ、そういう関係なのだ、妬むな俺。

「……彼には、可愛がってもらっているのかい?」

「へ……? ミ、ミツキですか? それはっ、その……あの」

「僕のせいで……若くして、死んでしまった君が……恋の楽しさを、幸せを……得てくれたら、嬉しい。その表情かおは…………ふふ、なるほど」

頬を赤らめたサキヒコから何かを察した老人は嬉しそうに微笑んだ。
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