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まさに高級ホテル (水月+リュウ・セイカ・ネザメ・ミフユ・ミタマ・サキヒコ)

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アキ、セイカ、リュウも着替えを終えた。セイカには俺が用意した固過ぎないけれどフォーマルでオシャレな服を着せたが、アキは服のアレンジの幅がないのでいつも通りの格好だ。

「タートルネックしか着れないんだもんなぁ……せめて靴は革靴にしとくか」

「鳴雷、クマも紳士にしてくれ」

「えっ……持ってくの?」

「ダメなのか? 繰言もペット連れてくるんだろ? 俺もクマ連れて行きたい……」

この巨大テディベア、ペットと同じ扱いなのか?

「じゃあ、えー……どうしようかな。ガチシルクハットは持ってないから、俺のジャケットだけでいいか?」

「うん」

急遽ジャケットを引っ張り出し、クマに着させてやるとセイカは満足そうにクマを抱き締めた。

「荷物OK……リュウも今日はちょっとフォーマルめか?」

「ぉん。えっらい家やし、今日はパーティーやしな。一応ええ服やで」

「馬子にも衣装だな。見れるようにはなったんじゃないか」

「……へへっ、なかなかええセリフやん。胸キュンやね。実際どう思とるん?」

「超似合ってる! いつもと印象違う! 可愛い! はだけさせたい! ヤりたい!」

「水月ほんまおもろいわぁ」

「そろそろ行こうか。駅前のロータリーにお迎え来てくれるって話だったよな」

車椅子を押し、四人で歩く。リュウは暑いだとか言ってアキの隣にピッタリ張り付き、日傘の恩恵のおこぼれをもらっている。

(……アキきゅんもセイカ様も手ぶらなんですけど。プレゼントは?)

リュウも手ぶらだが、彼が送るプレゼントは根付だそうだからポケットにでも入れているのだろう。しかしアキとセイカは……今からでも何か買って渡しておくか? いや、今の時間じゃコンビニくらいしか開いていない。過保護になるな俺、確かに彼らには支えが必要だが俺が全てやってやらなければならない訳じゃないだろ。



駅前に停まっていた車に乗り、紅葉邸へ。招かれたのは二度目だが、キョロキョロと首が回るのを止められない。リュウもセイカもアキもそんな様子だ。

「こちらです」

案内をしてくれていた背の低い男性が大きな扉を開く。何らかの施設ではなく、住居で、観音開きの扉があるなんて……圧倒されっぱなしだ。

「おぉー……アレやん、なんや、高いホテルみたいな」

広間の中心には円卓が幾つか並び、その円卓達を取り囲むように長机が置いてある。長机の上には蓋がされたままの料理だろう物が置かれている。いや、それよりも目を引くのは、グリルだ。それとシェフっぽい人。

(まさに高級ホテルっ……! まさか目の前で焼いてくれる感じですか!?)

いや、それだけではない。向かって左手方向には板前っぽい人が居る、その前に設置された物から鑑みるに……寿司も出る! ヤバいな、紅葉家。

「いらっしゃい、水月くん、秋風くん、狭雲くん、天正くん……おっと、分野くん……いや、コンちゃんと、サキヒコも」

いつの間にか姿を現していた二人は俺の背後から顔を半分だけ覗かせていた。

「……! 挨拶が遅れました。ネザメ様、お誕生日おめでとうございます。本日はお招きいただき感謝致します」

「来てくれてありがとうね。おっと、秋風くん、食べるのはみんなが集まってからだよ」

アキはグリルの前に立っていた。まだ切られていない肉の塊を眺め、ぽーっとしているようだ。可愛いけれど、はしたない。兄として注意しなければ。

「稲荷寿司はあるかの?」

「コンちゃん!」

こっちが先だ。何となく板前に魚以外の寿司を求めるのは失礼な気がする。

「すいません……コンちゃん、みんな来るまで待って。あと、今日は耳と尻尾しまっとこっか、毛飛びそうだし……食材いっぱい剥き出しだからね」

リュウが泊まった日以外、家で金髪の抜け毛を拾った覚えがないから、ミタマの毛は抜けないか抜けてもいつの間にか消えていそうだけれど、そういう問題じゃない。内心嫌がる子が居るかもしれないのが問題なんだ。

「む……そうか。ところでねっちゃん、ヌシは犬を飼うとると聞いたが、今は居らんのか? 外か?」

「動物と同じ空間での食事は気になる子も居るかもしれないと思ってね、でもせっかくのパーティなのだから彼にもいいものを食べてもらおうと、別の部屋に会場を用意しているよ」

ミタマがネザメに着いていく。俺も見に行こう、久しぶりにネザメの飼い犬を見たい。

「……俺腰ダルいからもう座っとるわ」

「あぁ……なんかごめんな」

「俺も待ってる」

アキは肉に夢中だ。リュウとセイカを置いてミタマの後を追った。

「メープル! おいで」

キッズルームのような、ペット用の誕生日パーティ会場。クッションで床と壁の半分ほどが包まれ、クッションやぬいぐるみが転がっている。メープルと呼ばれた白と黒のボーダーコリーは寝転がってぬいぐるみを甘噛みしていた、ネザメが呼ぶと一瞬その口を止めたが、視線も寄越さず再開した。

「ほー、洋犬じゃのぅ」

ミタマが前に出た瞬間、犬はピンッと耳を立たせて起き上がり、身体を低くした。

「ほぅ……? なんじゃ、やる気か?」

ミタマが一歩、また一歩と前に出る。髪をかき分けて狐の耳が生え、尻尾がゆらりと現れる。

「コンちゃん? ちょ、ちょっと」

犬が唸り始めた。ミタマの姿が人間から三尾の狐へと変わる。

「……っ、喧嘩しちゃダメだからね!?」

背後からミタマの胴をすくい、前足を持ち上げるとミタマは人の姿へと戻った。

「コイツが先に喧嘩売ったんじゃ!」

「コンちゃん人間並の思考力あるんだから犬と喧嘩しないの! 見てた感じコンちゃんから売ってたし!」

「ワシ売っとらん! コイツじゃ! コイツが悪いんじゃ! ワシ悪くない!」

「売られたとしても買わないの!」

不思議な生き物を見せて犬を怯えさせてしまったようなので、ミタマを引きずってパーティ会場へ戻った。

「ネザメさん、すいません本当に……」

「気にすることはないよ」

扉を開けてくれたミフユの親類だろう男性に会釈をし、広間に入る。

「あっ、な、鳴雷……なんか来てる」

なんか? 他の彼氏達か? と視線をやった先には、老紳士を連れた姫カットの美少女。絶対に良家のお嬢様だと分かる雰囲気に思わず後ずさる。

「ごきげんよう」

スカートをそっと摘み、丁寧なお辞儀。ネザメに姉や妹が居るとは聞いていない、親戚か?

「ネザメの恋人というのは、どなた?」

「…………」

「水月くん」

「……ぁっ」

躊躇う俺の背をネザメが押した。ネザメは俺との関係を隠していないのか。

「ど、どうも……鳴雷 水月です。えぇと……あなたは」

「わたくし、ネザメの許嫁の──」

は?
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