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のんびり過ごそ (水月+カサネ)

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カサネは料理ゲームの協力プレイがしたいそうなので、そうすることにした。警戒した彼は俺をゲーミングチェアに座らせ、彼はベッドに腰かけた。

「次トマト切ってトマト」

「はーい」

「いやー、鳴雷……み、水月くん。水月くん居てくれて助かるよ。このゲーム協力プレイ前提なのか、一人じゃ星三取れなくて……2の方は緩和されたのか一人でもイケたんだけど、無印はどうも」

「なんでこの店皿二つしかないんですか!? カサネたん皿洗ってくだされ私トマト切ってるんで!」

「肉焦げそうだから無理!」

「なんでそんないっぺんに焼いちゃうんですか皿二つしかないのに! あー時間切れちゃう客帰っちゃう!」

料理ゲームと言うから穏やかなものかと思っていたが、とても忙しく怒声が飛び交うものとなった。現実の繁盛している店の昼時だとかもこんな感じなのだろうか、飲食バイトは絶対にやらないと昔から決めていたが、その決意がまた強くなった。

「……何とか、星三コンプリート出来た」

「何なんですかあのネズミが玉ねぎ盗んでいくステージ……保健所来るでしょ」

「ネズミって玉ねぎ食べたら死なないかな? 犬とか猫とかダメだよな」

「オニオンスープしか出さない店に住み着いてるネズミなんだから抗体のあるオニオンラットなんでしょう。で、星三コンプしたら特殊エンディングとかあったりするんですか?」

「ないよ。コンプしたかっただけ」

その気持ちは分かるので全く文句はない。しかし面白いゲームだったな、2も出てるらしいし買ってみようかな。

「次これやろ~」

「はーい。んじゃ俺バンワドで行きます」

「えー、メタ様やれよ。球体で冒険しようぜ」

「ワドも球体みたいなもんでしょ」

「ちょっと段差あるじゃん」

カサネのプレイしたいゲームを優先し、何本も遊んでいく途中、俺は彼に休日の予定を聞くことにした。

「カサネ先輩、メッセでも何度か言いましたけど、明日ネザメさんの誕生日パーティなんですよ。来てくれますか? 来てくれたら俺嬉しいし、ネザメさんもきっと喜ぶと思うんですけど」

「俺が行って嬉しいヤツなんて居る訳ないだろ……昼に生徒会室に集まる連中プラス、学外のお前の彼氏だろ? はぁ~……一人隅っこにいたら空気悪くするだろうしさぁ~……だからって打ち解けるのとか無理だし、出来てもやりたくないし」

「そんなぁ……あ、ご馳走出ますよ? ミフユさんにも説教とかはしないよう俺が強めに言っときますから」

「俺が飯に釣られるタイプだと思うかよ、あの箱見てもさ」

カサネが指したのはカロリーバーが入ったダンボールだ。食事はアレで済ませていると以前聞いた。

「食事には美少年を侍らせるのに匹敵する幸せが潜んでいるのに……!?」

俺、こういう思考だから太りやすいんだろうな。

「…………昔、癌の症状なのか、抗癌剤の副作用なのかは知らないけどさ……飯、食えなくなったんだよ。何食っても変な匂いすんの。冷たいの触ったら指先痺れるし、冷たいの飲み食いしたら上顎に氷が張るような感覚があったワケ」

「はぁ……大変な闘病生活だったんですな」

「元から食の細いガキだったんだけど、それでもう完璧に食の楽しみってヤツが脳みそからすっぽり落ちちゃって。胃も縮んだし最低限のカロリーと栄養素さえ摂取出来ればいいやって思っててさ」

俺なら根治時に食べたい物をリストアップしておくけどなぁ。

「ちなみにその時の名残で冷たいの飲むのなんとなく避けちゃうから水は常温派なんだ。まぁそんなこんなで、飯とか興味ないワケ俺」

「じゃあ来てくれないんですか?」

「あぁ、誕生日プレゼントは一応用意した。今お前に渡しとくから明日一緒に渡しといてくれ」

「ネザメさんワンちゃん飼ってますよ」

「行く」

フランクちゃん連れて行って広いお庭で一緒に遊ばせたりなんでどうですか、というせっかく考えた続きの文章を使う意味はなくなった。

「フランクちゃん連れて行きます? ならネザメさんに言っとかないとですね」

「あー……どうしようかな」

犬同士遊ばせたいだとかではなく、他人の家の犬を見たいだけなのか。

「ほぼドッグランみたいな広いお庭がありますよ」

「ドッグランではしゃぐと思うか? コレが」

ぷー……ぶー……といびきが聞こえる。犬っていびきかくんだ。

「……よいしょ」

カサネが顔の向きを整えるといびきは止まった。

「先輩、誕生日プレゼントって何用意したんですか? 俺はもう通販で買っちゃったんですけど」

「セレブなティッシュ。あんま絡みないし、趣味とか分かんないから高級消耗品にしてみた」

「なるほどぉ……ま、無難ですね」

セイカとアキは何か準備出来ているのだろうか? 誕生日パーティの件は前々から伝えてあるから、相談があるならしてくるはずだ。もう準備を終えたと考えていいだろう、何も相談してくれなかったのは寂しいけれど。

「のじゃ狐、上手くやれてるかな? 前代理頼んだ時は刺されたんだよな」

「はい。でもまぁ学校なら危険はないですし、バレちゃダメって訳でも……ぁ、彼氏以外にはあんまり変な言動見せて欲しくないな……大丈夫かな」

「では鳴雷さん問三の答えは? はい、墾田永年私財法なのじゃ! とか言って」

「うわうわうわうわやめてくださいよゾワッとしたぁ……いや墾田永年私財法の辺りやってませんよ今」

口調も変えてくれていたから大丈夫だとは思うが、無意識に普段の口調で話してしまったりしている可能性はある。

「…………今の音お前か?」

グゥ、と腹が鳴った。時計を見れば正午過ぎ、そろそろ昼食が欲しい頃だ。冷めた朝食だけでは夕食までもたない、何かもらうか出前を取るかしなければ。

「はい……」

「しょうがないな、カロリーバーでいいか?」

「えー、ちゃんとご飯食べたいです。出前でも取らせてもらっ!?」

ぱぁんっ! と平手打ちするように口を塞がれた。痛みよりも驚きが勝っている。目を白黒させていると足に何か触れた、目を覚ましたパグ犬だ。

「クソっ……! ご飯とおやつは禁句だって言っただろ!」

特徴的な目をキラキラと輝かせ、前足を左右順番に素早く上げ、伏せ、起き上がって一回転、座る……

「見ろよこの高速芸連打、食い意地の表れだ」

「ははっ……ごめんなさい」

ハッハッと息を荒らげ舌を出し興奮した様子の犬を見下ろし、俺を睨みつけるカサネに視線を移し、手のひらを合わせて軽く謝罪をした。
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