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小休憩を挟んで (水月+フタ・セイカ・ミタマ)

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母にメッセージで呼び付けられてリビングへ向かった。フタは縛ったままアキの部屋に放置だ。玄関前に落としたままだった霊刀は俺が回収し、懐に隠したのでサキヒコとミタマに見張りを頼み──話し相手となってもらっている。夕飯にはアキの部屋のミニ冷蔵庫に入っていた冷凍食品を提供させた。
 
「葉子は今日も寝込んでるわ……重い子って大変よね、私は血が出る以外何も無いから分かんないけど」

「無敵過ぎますなぁ」

「國行くんアレルギーとか嫌いなものとかないわよね」

「…………はい」

「助かるわ~。お兄さんと一緒ね。ま、彼は好みもないんだけど……」

「………………兄ちゃんの好物は……確か、鳥天」

「え、あんの? 何回聞いても教えてくれなかったんだけど……ムカつくわね。なんなのよアイツ」

鳥の天ぷらか。九州のどこかのソウルフードだと聞いたことがあるな。



夕飯後、俺は部屋に向かいカメラとマイクが仕掛けてあるテディベアを取ってアキの部屋に置いた。

「形州っ」

「…………先輩」

ダイニングに戻って話しかけると、食後のコーヒーを優雅に嗜んでいやがる形州はジロリと俺を睨む。

「形州先輩! 今日はありがとう。俺の部屋好きに使っていいから。場所は分かるよな? 寝間着とかもまぁ……入るんなら、着ていいけど……あ、ちょっと前ノリで買ったバスローブなら入るかな?」

「…………寝間着は持ってきてる」

「あ、そうなの……じゃあまぁ、好きに風呂入って、寝て……朝飯食ったら適当に出てって…………ぁ、歯ブラシは彼氏用に新品いっぱい置いてるんだ。洗面台の下に入れてるから勝手に出してくれ」

「…………歯ブラシも歯磨き粉も持ってきてる」

「ぁ……うん。用意いいですねー……形州先輩」

「………………泊まりに来たんだ、当たり前だろ。お前の彼氏達はみんな手ぶらで来るのか?」

「いや……じゃあ、俺アキの部屋で寝るから……」

「…………もういいのか? 俺が居なくても。フタさん、平気か?」

「えっ、ぁ、あぁ、まぁもう暴れないと思うし……縛ってるから。ありがとう、色々」

意外と気遣ってくれるんだな……常識もあるし。危なかったなぁ本当、コイツがちゃんとレイと付き合えていたらレイを彼氏に出来なかった。レイには悪いが、歪なところがあってよかった。

(短所が目立ち過ぎてるだけで、長所の数だけで言えばわたくしより形州の方が多いんですよな……まぁわたくしの長所が顔オンリーなのも悪いんですけど。あってぃんてぃん! をてぃんてぃんも大きいでそ! 待てよ、形州の方がデカいんだっけ……い、いや、身体との比率で言えばわたくしの方がデカいっ……比率関係ねぇでそ)

いやいや男の象徴は大きさだけが全てではない。硬さも重要だ、何より重要なのは持続力かな? 耐久力も欲しいかな。

「なぁ、形州……せ、先輩。形州先輩ってぇ…………夜の方の持続力、どんなもんです?」

「……………………は?」

「いえ、その、参考までに」

「…………レイに聞け」

「思い出させたくないんですよ! でも今カレとして元カレに負けてる部分は少なくありたい! 比べたくなるこの気持ち! 同じ男なら分かってくださると……!」

「…………なら俺の気持ちも分かって欲しいものだな」

「今カレに負けたくない?」

「………………俺はお前と違って品性や恥じらいというものを持ち合わせているつもりだ」

「下品で悪かったなぁ! ごめんなさい! おやすみ!」

「…………おやすみ」

品性でも負けた……! みんな俺の変態さをある程度受け入れてくれているけれど、上品な彼氏の方がみんな好きだろうか。なんてことを考えながら彼氏五人が待つアキの部屋へ。

「お待たせ~……なぁセイカ、俺もっと上品に振る舞った方がいいかな?」

「外面だけじゃなくってことか? 上品な鳴雷とか気持ち悪いからこのままでいいよ。気持ち悪くない鳴雷なんかただのイケメンじゃん……」

「た、ただのイケメンの方がいいんじゃないのか? 変態や残念よりは」

「……ただのイケメンだと、劣等感がすごいから、いい。残念で変態ならギリ対等とかそんなんじゃない、対等なんて思ってない……ただ、変態のお前になら、好かれてるの納得出来るから……変態で残念なお前がいい」

「あー……? なるほど?」

「分かってんのか? 分かってなくてもいいけど」

「俺は基本対等じゃなくて彼氏の方が若干上だと思ってる!」

グッ、と親指を立てる。

「あぁそう……」

ふい、と身体ごと顔を逸らしたセイカの顔をこっそり覗き込む。穏やかな笑顔が見えた。

「……! な、何だよ、フタの相手してやれよ!」

覗いたことに気付かれて怒られた。

「フタさん……」

「やっほー、みつきぃ~。コンちゃんもサキちゃんもさぁ~、これ外してくれないんだよ~……みつき、外してくれる?」

「縄ですか? ダメです。フタさん、覚えてますか? フタさんはとっても悪いことしたんです、俺の嫌なことしたんです……だからお仕置きのために縛ったんです」

「え……? お、俺みつきにやなことしたのっ? ごめん……うん、分かった…………じゃあ、えーっと、左手折る?」

もうホントにやだ……フタがこういうことを言う度、俺の心の耐久値が減っていく。

「流石にヤクザは厳しいなぁ。熱湯以上のお仕置きはされたことないかも……一番死にかけたの飯抜きだけど。小学校の時ってさ、夏休みとかの長期休み地獄だったよな~。飯抜かれるし、単純に殴られる時間増えるしさ」

セイカは部活の苦労話でも話すみたいに、なんなら少し楽しそうに、同意を求めるように語った。

「ぁ…………ご、ごめん」

言葉に詰まった俺の顔を見たセイカは気まずそうに顔を背けた。

「人間の幼体はあんなにも可愛いというのに過酷な世界を生きとるんじゃなぁ」

「……っ、ち、違うよコンちゃんっ! 普通はもっと安全に生きてる、傷が残るようなお仕置きなんてないし、飯抜きなんてありえない!」

セイカの今までの人生を否定するようなことを言うのかと一瞬躊躇ったが、否定しなきゃならないだろとセイカの心を完全に母親から奪ってしまいたい独占欲が押し勝った。

「そうなのか? じゃあせっちゃんは……」

「セイカの親が頭おかしいんだよ」

「……言葉が強いのぅ」

セイカは俯いている。傷付けただろうな、でも、酷い日々を思い返してちゃんと酷かったと認識して、俺の腕の中の快適さを実感して欲しい。生涯俺の傍に居るべきだと分かって欲しい。
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