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作戦立案 (水月+セイカ・ミタマ)

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フタのことを秘密にしないと決めてしばらく、セイカがアキと共に彼の部屋から戻ってきた。

「…………鳴雷、ごめん……さっきは、その、言い過ぎた……すごく、酷いこと言った。俺……やっぱりあの頃と何にも変わってない、変われないんだ、俺……」

「セイカ……そんなことないよ、あの頃は後から謝ったりなんかしなかったろ?」

しっかりとした根拠を提示しなければ「そんなことない」は気休めにすらならない。セイカは気まずそうにしたままながら、頷いた。

「……鳴雷の言ってること、ゆっくり考えた……分かったよ、秘密にしよう。変に緊張感持たせたりギスギスすんの、よくないもんな。俺、何も言わないようにする」

「いや、フタさんのことみんなに話そうと思う。騙してるみたいになっちゃうのはよくないと思ったんだ……セイカの言う通りだなって」

「はぁ……? ははっ、何だそれ……」

「受け止め合い理解し合う。美しい光景じゃのぅ、ええもん見せてもろうたわ」

うんうんと頷くミタマの仕草は嘘臭い。

「…………全部鳴雷に任せるよ、話すも話さないも好きにすればいい。俺は邪魔しないよ、フォローもしないと思えよ。でも、三度目があったら……分野じゃなく、本物の鳴雷だったら……俺は、壁になる。俺を殺されたくなきゃ、あの人どうにかすることだな」

「あぁ、頑張るよ」

具体案はまだ浮かんでいない。フタに生者の方がいいと思わせればいいだけなのだが、死者の常に傍に寄り添えるというメリットを超えるものを提示出来る気がしないのだ。

「……フタさんって幽霊と普通に話せるし多分触れるよね、スキンシップとかじゃ生きてる人間特有のメリットにならない……うーん」

仮にメリットを提示出来たとしても、忘れっぽいフタのことだからそれを忘れて俺の殺害をまた思い付くかもしれない。殺しに来る度にメリットを説明する? 不意打ちならどうする?

「…………あ、そうか」

「説得の仕方思い付いたのか?」

「説得なんかいらないんだよ、フタさんだから。これしちゃダメって言ったら、なんで? くらいは返してくるけど、それに対する答えさえあればいい」

「それに悩んどるんじゃろ? 生死の価値観の違う相手にどんな理由を与えれば殺されずに済むか……」

「適当でいいんだよ。フタさんは難しい説明されても理解出来ないことを自分で分かってるし、説明を何度も頼むとか簡単にしてとか言うとバカだと思われると思って、理解も納得も出来なくても分かったフリして言われたことを守る」

「……いや、バカにし過ぎだろ。酷くないかお前」

「そうかなぁ……前に殺されかけた時はめっちゃ雑学言って、俺を殺すって目標を一旦頭の中から追い出したんだけど……また思い付いちゃったのは困るなぁ。なんで思い付いたんだろ。セイカ、コンちゃん切る前のフタさん、誰かと話してた?」

「……あの人、作業ちょっと進めて、休憩の時に俺んとこ来たんだ。みつき居る? って」

「家で……とか、作業中に……とか思い付いたんなら覚えてられないはず……なんで切ったんだろ」

「お前バカにし過ぎなんだって」

「いやいや、フタさんは何かしたらそれ以前に考えてたことなんか忘れるはずなんだよ。あ……スマホとか見てた?」

「え? あぁ……見てたかな、うん、持ってた気がする」

「……メモしてあるんだ。フタさん何でもメモするから。やることリストとかに入れてあるんだろうなぁ、俺を殺すこと……それなら一度忘れさせても何回でも来るし、不意打ちもしてくる……メモの書き換えが必要だね。普通ならコンちゃんかサキヒコくんに頼むとこだけど、視える上に霊刀? 持ってるんじゃ逆に危ないか」

「祠が立った後なら分霊増やし放題じゃからやってもええぞ」

「お祭りの時に背後からプスが一番怖いし、日曜までに解決したい……フタさん達は明日以降も来るんだよね? セイカ、俺がバイト終わるまでフタさん引き止めといてくれない? 真正面から会話が出来ればフタさんに俺を殺すって目的を一旦忘れさせられる、スマホを貸してもらってメモを弄れば俺の勝ち!」

「不安だなぁ。引き止めるのは頑張るけど……一旦忘れさせるって、んなこと本当に出来るのか? スマホ借りられるかも微妙だし……」

「イケるイケる、一回やったし、フタさんスマホ貸してくれるし」

「ナメ過ぎだと思うけど……分野、どう思う?」

「イケるんじゃないかのぅ、ふーちゃんは素直なええ子じゃよ。話しかけられたらきっと止まりよるし、貸せ言われたら貸しよるわ」

「……そんな大人居るかなぁ。まぁ、うん、じゃあ……明日、引き止めて…………ぁ、歌見に来てもらったらどうだ? あの人結構ガタイいいし」

「フタさんのがいいよ。歌見先輩ガタイいいだけで格闘技とかやってないし……そういう目的で呼び出すにはちょっと向かないと思う」

「…………そんなこと言って、最悪刺されるのは自分だけがいいとか思ってんだろ、この善人が」

セイカは「善人」を悪口だと思っているのだろうか。

「誰か呼べ。もしもの時に止められるヤツを。じゃなきゃ俺協力しない、引き止めない」

「えー……頑張るって言ってくれたじゃん」

「やらない。ワガママ野郎って呼んでくれていいぜ」

「……ワガママプリンセスじゃなかった?」

「条件付き協力やめて絶対に協力しないにしようかなぁー!」

「ごめん! ごめんってからかって! 分かったよ、助っ人呼ぶよ……んー、どうしようかな。やっぱりサンちゃんかなぁ」

「ガタイは同じくらいだけど、あの人盲目だろ? それじゃ急に対処出来ないじゃん」

「弟の前で手荒なことはしないと思うんだよ」

「……うーん、じゃあアリなのかな」

「連絡してみるね」

スマホを持ち上げ、ふと思い出してサンとのチャットを開く。数日前にサンから送られたメッセージを見る。

『土日のパーティとお祭りに参加出来るよう』
『作品の進捗状況を調整しておくので』
『しばらくこもる』
『電話とかメッセの返事も多分無理』
『ごめんね』

ため息をついた俺をセイカが不安そうに見つめる。

「鳴雷……?」

「……サンちゃん今ぶっ通しで絵描いてて連絡取れないんだった。はぁ……これだから芸術家は。レイは佳境でも連絡付くのになぁ、イラストレーターは商売っ気が強いってことかな?」

「画家よりスマホ手放せないってだけだろ、取引先が居るんじゃ連絡必須だろうし」

「あぁ、訂正とか納期変更とか? はは……なるほど」

「こんな話してる場合じゃない! 他……ぁ、三兄弟だったよな、もう一人は?」

「……ヒトさんに頼るのはなぁ」

「言ってる場合かよ。協力者が確保出来るまで、俺も協力しないからな!」

セイカはぷいっと顔を背けてしまった。背けた先にはアキが座っている、アキは自分の方を向いたセイカの口に稲荷寿司を押し付けた。

「……食わせろなんて言ってなっ、むぐ……んんーっ!」

満腹だと頭は回らないが、空腹でも回らない。俺も二つか三つほど分けてもらおう。
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