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話すべきなのか (水月+セイカ・ミタマ・アキ)

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セイカの厳しい視線を受けながら、俺は席に着いて大量にある稲荷寿司を一つつまんだ。そこそこいい値段がするのだろう、コンビニやスーパーのパック寿司とは油揚げのコクも酢飯の具材も違う。

「美味っ……」

「……あ、鳴雷、そろそろ稲荷寿司また着くって」

「え、まだ頼んでんの?」

「うん……ちょっとずつ色んな店で頼んだ、一軒でいっぱい頼むより早く来るかなって……後、三軒くらい」

「へぇえ……ちなみにこの稲荷寿司の代金はどうしたの?」

「お前やお前のママ上が勝手に送金したヤツで払った」

「値段教えて、送るよ。コンちゃんは俺の身代わりになっちゃったんだし、治療費は俺が出さないと」

「…………」

「セイカが言わなくても皿で店名分かるし、調べたら一発で出るぞ」

観念した様子でセイカは値段を教えてくれた。今日稲荷寿司に吹っ飛ばされるバイト代は何日分になるだろう。

「結構するな……ま、命の値段と思えば安いか」

「…………分野、切ったのって本当にフタって人だったんだよな?」

「うむ。ふーちゃんじゃ。彼奴、何の躊躇いもなくスッパリいきよってからに。どういう教育受けとんじゃ、親の顔が見たいわ」

当然ミタマはフタに憤慨している。殺されかけたことを思えば全く釣り合わないレベルの怒りだが。

「フタって鳴雷の彼氏なんだよな? なんで鳴雷殺すようなこと、それもそんな、躊躇いなくなんて……鳴雷何したんだ? フったのか?」

「フタだけに」

「ふざけるなよ分野! 殺されかけたくせにお前なぁ!」

「……フタさんは幽霊ガッツリ見えて、話せるんだよ」

「え? あ、あぁ……そうなんだ。だから何だよ、今その話関係あるのか?」

「だから、俺を殺して幽霊にすれば、他の幽霊見えない彼氏とは俺はデートしたり出来なくなって、そうすれば俺はフタさんの傍に居るしかなくなる。独り占め出来る……そんな話だった気がする、前殺されかけた時に聞いたのは」

「……は!? お前っ、殺されかけたのか!? いつだよ聞いてないぞそんな話! なんで言わなかったんだよこのバカ!」

俺を心配してくれている、俺への愛情がたっぷり詰まっている、そう理解しているのにセイカの怒声は俺の心の傷跡を踏み躙る。中学時代の痛い思い出がフラッシュバックする。

「…………っ、大声出さないでくれよっ! 怖い……頼む……ふ、普通に、話して、ください……話せ、なくなる」

「ぇ…………ぁ……ご、めん」

十数秒の沈黙。

「……話し、たら…………フタさんに、殺されかけたって、話したら……セイカ、フタさんのこと、嫌っちゃうだろ。あんまりちゃんと接したことないもんな……そんなのダメだ、俺彼氏には仲良くしてて欲しいんだよ」

「は……!? そんな理由でっ……」

「…………コンちゃん、ごめん。コンちゃんのお手柄も秘密にしてたい……せめてみんなが深くフタさんと接して、ちゃんとフタさんのこと分かってくれるまでは……何も聞かずに接したら、フタさんいい人だし、みんなフタさん好きになると思うんだ。それで、ちゃんとフタさんの霊感とかも話して、色々分かってもらった上で、今回の話して……コンちゃんにありがとうしてもらって、フタさん……許してもらって、そのまま仲良く……それが、俺の理想。だからコンちゃんごめん、四尾は……遠い、かも」

「みっちゃん……ええよええよ、ワシのパワーアップなんていつでもええ! そない暗い顔しぃな、めんこい顔が台紙なしじゃぞ」

「……コンちゃん、ありがとう……ありがとう」

「…………ふざけんなよ。何……お前、大好きな彼氏達とか普段言ってるヤツらに、全部秘密にして殺人鬼と仲良くさせるのかよ」

「セイカ……そんな言い方やめてくれ、フタさんは殺人鬼なんかじゃない」

「殺人鬼だろっ! お前のこと殺そうとして……! それも今日で二回目だって!? 分野見ただろ! 血が……血が吹き出してっ、た、倒れてっ……それ見下ろしてアイツ平気な顔してた!」

「あれー、みっちゃんと違うのぅ……っちゅう感じの顔じゃったのぅ」

「俺、ちゃんと見てたのに……本当にあの人が切ったのか、よく分かんなかった、それだけ素早かった、急だった、躊躇いがなかったんだっ! なのに正確に首を…………慣れてる、だろ。どう考えても」

慣れているのかもしれない。体格が良く、従順なフタは荒事に向いている。記憶力が悪いとなれば何をさせても心を病むこともない。秘書やヒトに何をさせられていても不思議じゃない。だが、だとしても、フタが人を殺したことがあっても、フタは悪くない。

「……かもな。でも、フタさんは悪くないよ」

「人を殺しててもって話だよな……? 悪いに決まってんだろ……!」

「長年の虐待による上下関係の徹底、強い霊感による独特な死生観……確認を取った訳じゃないけど、記憶力、知能への障害も多分ある……俺は同情するし許すよ。裁判になってもワンチャンあるだろ」

「ねぇよ! あってたまるか! はぁっ……あぁそうだよなお前はそういうヤツだったよな! 虐待されて! 自分より可哀想で! 手足もげてたら! 自分にえげつねぇイジメやらかした相手だろうと許して愛してるもんな……!」

「…………愛情が伝わってるみたいで嬉しいよ」

「意味分かんねぇよっ! 悪いヤツは悪いんだ、嫌えよ、罰せよっ……死ぬまで責め続けろよっ、お前はそれが許されてる立場なのに! なんで、許すの……恨み方知らないのか? この底抜けの善人が……悪いヤツ許したってつけあがらせるだけなのに、お前みたいのが居るから悪いヤツが蔓延ってんだ、この異常者……!」

「……おい、せっちゃん。みっちゃんを想うヌシの気持ちを慮って黙っていたが、今のはいかんぞ、言い過ぎじゃ」

「あーそうですかダメだったら何ですか謝ればいいんですかぁ? いいんだろうなぁお前らは! それで許すんだろうな! 許す必要なんかどこにもないのにっ……! 俺も、そのフタってヤツも、他人を躊躇いなく傷付けられるようなヤツは、生きてていい訳ないのに……」

「……セイカ」

「聞きたくない! 慈愛と許しに満ちた道徳のお手本みたいなお前の話なんか聞かない! 秋風ぇっ!」

黙々と稲荷寿司を食べていたアキが目を丸くしてセイカの方を見る。

《部屋帰る。連れてけ》

《兄貴と話してんじゃねぇのか? 兄貴なんか言いたそうだそ》

《話すことなんかない! 帰る!》

《……オーケィ、ワガママプリンセス》

指を舐め、呆れた様子でセイカを抱き上げたアキは俺に目配せと会釈をして自室へと帰って行った。
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