冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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犬への嫉妬 (水月+カサネ)

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 ネザメが飼っているボーダーコリー、メープルは躾が行き届いていて頭が良く、様々な芸をし時には人の手伝いもしてくれる素晴らしい犬だった。だが、躾のなっていない犬もこれはこれで可愛い。

「はぁ……は、恥ずかしい……情けない飼い主っぷりを見せて。こっこれでも躾は頑張ってて! トイレはちゃんとしてるしっ、色々芸も出来るしっ……ただちょっと食い意地張ってるだけでぇっ」

「食欲の権化って感じで可愛いです」

「か、可愛いっ? よかったぁ……フランクよかったなぁイケメンに可愛いって言ってもらえたぞっ、俺の可愛いの万倍の価値あるからな~……ふへへ」

犬を撫でる繰言の笑顔はとても自然で、俺に向けてくれるものがいかに固いかがよく分かった。

「……ね、先輩」

犬に嫉妬なんて馬鹿らしいにも程がある。

「ひゃいっ!? な、何?」

「早く飲み物取って部屋行きましょ、フランクちゃんは可愛いけど……俺、先輩と遊びに来たんです」

「あっ、ごっ、ごごごめんねっ! ゲームしに来たんだもんねっ、待って、えっと……は、はい!」

手渡されたのはキンッキンに冷えたミネラルウォーター。

「ぁ……しゃっこいのや?」

「えっ?」

「ぬ、ぬるい方が……好き? 俺も水は常温派……」

「いえ、外暑かったので冷たいの助かります。いただきますね」

来客には紅茶かコーヒー。夏場で冷たいのが必要ならジュース、もしくは麦茶など。そう思っていたからミネラルウォーターをペットボトルで渡されて少し驚いた。その上、よく分からない言葉を使われて更に混乱した。

「……繰言先輩、出身はどちらです?」

「へっ!? い、田舎臭い……?」

「いえ、たまによく分かんない方言っぽいの混ざってるので……どこのかなーって」

「き、気ぃ遣われてるっ……そういうのいいっ、ホントは田舎臭い思ってるべ……」

「いやいやいやそんなことないですって本当に! まだ先輩のことよく知らないですし……ほ、ほら、その髪とか、奇抜で原宿感ありますよ?」

原宿、ろくに行ったことないからよく分かんないけど。なんかカラフルなイメージが……あれ? じゃあ白と黒の繰言は原宿系ではない……? クソっ、東京生まれ東京育ちのくせに東京のジャンルが分かってない!

「は、原宿? そう……へへへ、よかった……」

「はい、オシャレです」

いいやもう、押し切れ。俺と同じオタクなら繰言も原宿には行かないだろうし分からないはずだ。

「うへへへへへ……したっけ部屋行こ~。ゲーム全部部屋にあるから……ふへへっ、部屋に人呼ぶとかリア充過ぎ……! 非リアのみんなごめ~んにぇっ、ひひひ……」

「で、どこなんです?」

「ひゃいっ!? こ、こっちですぅ……」

「ゃ、部屋じゃなくて、出身」

「あっ……えっ、あ、あの、た、試されし大地……」

「あぁ北海道ですかぁ! なるほどー……あ、確かカンナ、秋田出身なんですよ。だいぶちっちゃい頃に出たみたいで方言とか聞かせてくれないんですけど……話合ったりしますかね?」

「い、いやいや東京もんから見りゃ同じ北の方だろうけど内地とはそうそう話とか合うもんじゃないから」

「そうなんですかぁ……ちょっと残念。先輩はいつ頃まで北海道に?」

「え、っと……えっと、ほ、北海道っ、全域じゃないと思うけどっ……お、俺の居たとこは、病院事情がかなり悪かったのねっ? 広いしっ、時期によっては雪がアレで……通うの大変だし、医者が足止め食らって手術遅れたり薬届くの遅れたりも平気であってさ。だからっ、えーっと、小学校高学年くらいで診断されたんだっけ……中学ん時にこっち来たのかな、確か。学校行ってないから時間感覚狂ってよく分かんね……へへ、と、とにかく、俺の治療のために都会に、とにかく都会にって、東京に…………迷惑、かけたよ。ほんと」

「そうなんですか……保護者の方は色々と大変だったかもしれませんけど、繰言先輩が助かってよかったです! 生きてるのはもちろん、越してきてくれなきゃ会えなかったし……俺からも感謝を伝えたいですね」

「へ、へへっ……俺に会えて感謝? はは……ほんと、趣味わりー……」

繰言は話しながら歩くということをしてくれない。一通り話し終えて初めて歩き出し、俺を部屋に通してくれた。

「こ、ここ、俺の部屋……」

俺の部屋と広さはほとんど変わらないが、積まれたダンボールや部屋の隅に鎮座する謎の物体により、少し狭い印象を受ける。

「かせっ……電話ボックスみたいなのは何です?」

仮設トイレと言ってしまいそうになったが、印象が悪いかと言い直した。

「あっ、ぼ、防音室っ、一人用の」

繰言は防音室の扉を開けて中を見せてくれた。

「おぉ……ゲーミングPCに椅子、いいの揃ってますね」

PCだけでも数十万はするはずだ。この椅子も結構高かったはず。マイクもあるな、ボイスチャットでもするのか? 俺はそういうのがあるゲームは避けてきたからよく知らないな。お、このヘッドホンも高いヤツだ。

「う、うん。頑張って買った……へへ」

「えっ自分で買ったんですか!? すごい……!」

「へっ!? あっ、いや、えっと……ちが、あの……ぉ、お小遣い! お小遣い、頑張って貯めたって意味……」

「あぁ、なるほど。いやぁいいなぁ最新PC……俺今使ってるの二世代くらい前のなんですよね」

「な、鳴雷くんバイトしてるんだっけ」

「はい、駅前の本屋で」

「じゃあ買えるんじゃ……?」

「いやいや学生バイトじゃそんなにお金貯まりませんよ」

「え、ぁ……そうなんだ。と、東京の子って学生でもブランド物の鞄とか持ってるって聞くから、バイト代って結構すごいのかなって、思ってた……」

「そういう人は家が金持ちかパパ活か闇バイトのどれかですって。もしくは偽ブランド」

「あ……そう、なんだ」

「まぁ、流石に偏見入ってますけど……」

「……へへ。あっ、ご、ごめんいつまでも立たせっぱなしでっ……こ、これ座って」

繰言は防音室からゲーミングチェアを引っ張り出して俺を座らせた。

「ありがとうございます。はぁ……最高の座り心地ですね、やっぱ欲しいなぁこれ……あ、先輩はどこ座るんです?」

「えっ、えっと、その辺に適当に……あっ、ここ座る」

繰言はベッドに腰を下ろした。ベッドの脇には犬用ベッドが置かれ、先程凄まじい食い意地を見せた犬が丸まっている。器用に自分で自分に毛布を被せていた。大変可愛らしい。

「ゲームしよっ、ゲーム。何する?」

「あ、はい。すぐ出します」

犬から視線を外し、通学鞄に入れていたゲーム機を取り出した。
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