冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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帰還者へ説明 (〃)

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俺は仕方なく立ち上がり、ソファの影に小さく丸まって隠れているサキヒコの脇に手を通して抱き上げた。持ち上げられた猫のように脱力しているサキヒコは運ばれるままだ、膝の上に乗せてやった。

「新しい彼氏のサキヒコくん。新しいって言っても、別荘に行った時に会ったからそんなに新しくもないんだけど」

「…………サ、サキヒコ? サキヒコ……と、言ったか、その名前は確か……しかも、別荘……鳴雷一年生、一から全て話してもらおうか」

「はい」

サキヒコとの馴れ初めを語るのも慣れたものだ。俺はミフユの作ったお弁当を食べながら、膝に乗せたサキヒコについて全てを説明した。

「……昔そんなことがあったなんて、僕……知らなかったよ。ミフユは知っていたのかい?」

「紅葉家の主人のために命を落とした者が居たという話は、年積家の者のあるべき姿として語り継がれています」

「そうなのか……むず痒い話だ」

「ダメだよ、そんなの。ダメ……嫌だよミフユっ、僕を庇うなんて君はしちゃいけないよ? ミフユ、もしもの時は自分の身を最優先するんだ。いいね? これは命令だよ」

「ネザメ様……そういう訳にはいきません」

「嫌だ! 僕のために君がなんて、そんなの耐えられないっ……ひいおじい様だってきっと、きっと……耐え難かったはずだ」

ネザメは今にも泣き出してしまいそうな顔でミフユの肩を掴み、揺さぶり、叫んでいる。ミフユは困った様子で彼を宥めている。サキヒコすら何も言えないでいるのに俺が口を挟むべきじゃない、黙って見ていよう。

「…………すまない。取り乱して。僕は……絶対にミフユと二人で人気のない道を歩いたり、いつもの車以外の移動方法を選択したりしないようにするよ。誰にも狙われなければ、ミフユを失うことなんてない。ひいおじい様と同じ轍は踏まない」

ネザメは愛おしそうにミフユを抱き締めている。

「……サキヒコ、君は、あの子だね。別荘で撮った集合写真に映っていた、座敷童子……ふふ、座敷童子なんて言ってしまってごめんよ。君は僕達の恩人だったんだね」

「そんな……恩人などではありません。最後まで務めを果たすことも出来なかった、愚かな子供に過ぎません」

「君が居なければひいおじい様は殺され、僕が生まれることもなかったんだよ。ありがとう、サキヒコ。君のおかげで僕はミフユと共に育ち、水月くんという素晴らしい恋人を得た。ありがとう……心から感謝するよ」

「…………ネザメ、様。そんな……感謝、など」

サキヒコの目が潤む。

「今度ひいおじい様に顔を見せてあげて。きっと喜ぶよ」

涙を堪えながら何度も何度も頷くサキヒコを見ていると、何故か俺まで目頭が熱くなってきた。

「それにしても幽霊と交際しているなんてね、流石は水月くんだ。常識に侵された僕の頭では思い付けない行為だよ。触れ合うことが可能になったのは最近だと言っていたね、何か生きた人間との違いはあるのかい? 不快な質問だったらすまない、無視してくれて構わないよ」

「いえ、問題ありません。ミツキ、生者と私の違いをネザメ様に説明するんだ」

「うーん……違いはあんまりありませんね。強いて言うなら体温がなくて抱っこするとひんやりして気持ちいいくらいでしょうか」

「へぇ……それはそれは。夏場は引っ張りだこだね」

ただ冷たいだけではなく俺の体温が移っていくこともないから、サキヒコはいつまでも冷たいままだ。彼が居れば冷感シートだとかは不要かもしれない。

「……サキヒコについては分かった。貴様がどうやって死体を見つけたか、納得がいった。だが……その者はなんだ? コン……とか言ったか。その者も幽霊か?」

「コンちゃんは、えーっと……」

続いての説明はミタマについてだ。こちらの説明も慣れたものだ。

「──と、いう訳で、コンちゃんも彼氏です」

「頭が痛くなってきた」

「付喪神……あまりそういった話には詳しくないんだ、ごめんよ水月くん。よく分からないのだけれど……」

「大事に長年持ち続けた物には魂が宿る、的なアレです」

「……狐の幽霊や妖怪、ではないんだよね?」

「はい……その辺本当ややこしいよコンちゃん」

「ワシのせいか?」

妖狐なら妖狐と言うだけで説明が終わる。なのにミタマは妖狐っぽいだけで狐には全く関係のない付喪神だ、いや、狐の石像の付喪神だから無関係というのも少し違うのか?

「まぁ、細かい分類なんてどうだっていいよ。幽霊とその……付喪神? で別に対応を変える必要はないんだろう? あぁそういえば、幽霊は塩を撒くと居なくなる……なんて聞いた覚えがあるけれど」

「ワシはそういう苦手なもんは特にないな。さっちゃんは札やら数珠やら触れんもんが多いじゃろうが……」

「札も数珠も持ってはいないね。気を付けなくてはならないことは他にないかい? 秋風くんは日に当ててはならないだとかあるんだけれど……君達は大丈夫なんだね?」

「…………思い付かんな」

「そう、分かったよ。何か思い付いたら話しておくれ」

ミフユはまだ警戒を解いていないように見えるが、ネザメはすっかり受け入れた様子だ。想定通りだなと安心しつつ、食べ終えたお弁当箱に蓋をし、手を合わせる。

「ごちそうさまでした、ミフユさん。美味しかったです」

「うむ」

ひょい、と膝に乗せていたサキヒコが持ち上げられた。サキヒコは無抵抗でシュカが座っていた場所へ運ばれ、俺の膝にはシュカが乗ってきた。

「食べ終わるの遅いですよ。ほら、さっさと脱いでください」

久しぶりにネザメとミフユと顔を合わせただとか、彼には関係ないのだろう。



予鈴を聞きながら、軽く腰を叩きながら教室へと向かっていた。そんな俺の顔をカンナが不安げに見上げる。

「みぃ、くん? 腰……だ、じょ……ぶ?」

「ん、あぁ……大丈夫だよ、カンナ」

「……よー、つ?」

「本屋バイトは腰ダルくなりがちなんだ。でも今日は休みだから大丈夫」

「鳴雷が腰痛める原因は他にあるだろ……昨日も今日も鳥待とヤりまくりやがって」

「まくる、と呼べるほどヤってませんよ。私はもう二、三発欲しかったところです」

「手厳しいなぁ、カンナの純粋さを見習って欲しいよ全く」

隣を歩いているカンナの腰を抱き、その頬に何度も唇を押し付ける。カンナはくすぐったそうにしつつも嬉しそうに顔を緩め、更に俺に身を任せた。

「可愛過ぎるッッッ……! ウチの子にする」

「残念だったなお前のウチの子は俺だ」

「んっはぁジト目最高ぶっかけたい」

「わっ……!? や、やめろっ……」

車椅子から俺を見上げてきたセイカの髪を刈り上げた部分に頬を寄せる。

「はぁあぁジョリジョリしゅるぅ~、ちょっと伸びてきたねセイカたんまたパイセンに刈ってもらおうねはふはふぺろぺろ」

「ひぃぃ……時雨ぇっ、全部持ってってくれ……」

「……みぃくん、そろ、そ……人通り、ある、から……ね?」

冷静に窘められると恥ずかしくなる。俺は顔の熱さを誤魔化すように背筋を伸ばし、超絶美形の顔に合う態度を取った。
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