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船上パーティからの帰還者 (水月+ネザメ・ミフユ・カンナ・シュカ・サキヒコ・ミタマ)
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昼休みに繰言からメッセージが送られてきた。何の言葉もない、地名と数字を並べただけの無愛想なメッセージ。それが今の俺にとっては何より嬉しい。
(よっしゃあ! よかったぁー、思い直してくれて)
直前で出かけるのが嫌になってしまうことはよくある、不安や面倒臭さから現状維持を優先してしまうのだ。たとえ約束の相手との関係がそれで危ぶまれたとしても。
「水月くん!」
生徒会長室の前、満面の笑顔でネザメが手を振っているのが見えてスマホをポケットに入れる。
「ネザメさん、お久しぶりです」
「……美しい。贅を尽くした船から見る煌めく海面も、太陽が溶けゆく水平線も、自然の雄大さを知らせる鯨達の戯れすらも、君の美しさの前では霞んでしまう。究極の品も地球の奇跡も僕にとっては大した価値がなくなってしまった……君を知ってしまったから、君以外の全てが色褪せた……あぁ、お父様に申し訳ないよ。僕のために開かれた三日三晩の宴より、君と共に冷めたお弁当を食べるたったの半刻が愛おしい」
「絶好調ですね」
「時雨一年生、今日はネザメ様に鳴雷一年生の隣を譲ってやってくれないか?」
「ぇ……」
「ネザメ様は二日も学校を休み鳴雷一年生に会えなかったのだ、いいだろう?」
「…………ゃ」
カンナは首を横に振ったが、微か過ぎたそれは震えと同等で、ミフユには返事と取られなかった。ミフユはまだ返答を待っている。
「えっと……ネザメさん的には俺の顔が見える俺の正面の席の方がいいんじゃないかな、と」
「君の顔を真正面から眺めながら食事を取る……ふふ、水月くん……水月くん、そんなの、水月くん…………ぅうぅ……むりぃ……」
「鳴雷一年生貴様よくもネザメ様を! ネザメ様にネザメ様の許容量を超える鳴雷一年生を与えるな!」
「ミフユさん自分が何言ってるか落ち着いて考えてください! いや言いたいことはめっちゃ分かるんですけども!」
「ネザメ様、気をしっかり……鳴雷一年生の提案通り鳴雷一年生の向かいの席が一番いいかもしれません。見蕩れて熱くなってしまうのなら、冷めるまで目を逸らすだとかで対応してですね……」
「嫌だよ、一秒足りとも水月くんを見逃したくないよ。あぁ、でも、水月くんは美し過ぎる……船上でもずっと写真は見ていたのに、生の水月くんを見るのは……ぅう……つらい……」
夏休み中の方が会えない期間が長いことがあったはずなのに、その時はここまではなっていなかったのにな。会えるはずだった日に会えなくなったから恋しさがより……とか、そういう感じか?
(何にせよ悪い気はしない、どころかめちゃくちゃ嬉しいでそ。ネザメちゃまわたくしにこんなに照れて……かわゆいですなぁ)
抱き締めたりキスをしたりしたいけれど、今のネザメにそれをしたら彼は確実に失神する。そして俺はミフユに叱られる。ミフユも俺の彼氏なのだ、ミフユからの好感度も重要だ、ここは我慢して微笑むだけに留めよう。
「喜んでくださって嬉しいです、ネザメさん」
「…………ぁ……」
「ネザメ様? ネザメ様! き、貴様っ、鳴雷一年生! ネザメ様に微笑みかけ名前を呼ぶなどと……そんなこと今していい訳がないだろう馬鹿者! ネザメ様しっかりしてください!」
「……これくらいならいいかと思って」
「いつまで茶番やってるんですか、早く扉開けてくださいよ。お腹空きました」
今日はミフユもネザメも登校しているため、昨日までのように会長室の鍵をシュカが持っていたりはしない。ミフユがちゃんと管理している。だから俺達は今、廊下でネザメが俺に腰砕けになっている様を眺めているしか出来ないでいるのだ。
「口の利き方に気を付けろ鳥待一年生!」
そう言いながらもミフユはシュカに鍵を投げ渡した。ネザメが迷惑をかけてしまっていることに負い目があったのだろう。
「大丈夫ですか? ネザメさん。中入って座りましょう」
「構うな!」
しっしとミフユに追い払われ、俺はいつも座っている位置に腰を下ろした。カンナは普段より早く俺の隣を取り、不安げに俺を見上げる。
「……俺の隣はカンナのものだよ」
カツラに影響が出ないよう、優しく優しく彼の頭に手を乗せる。
「ぅ、ん」
「カンナ……あぁあ可愛いぃ……カンナのほっぺみゅーってしたい、ぢゅーってした後みゅーって」
「……? 痛く、な……こと、なら、して、ぃー……よ」
好き放題してしまいたい気持ちは抑え、もちもちほっぺをぷにぷにと指で弄ぶ程度に留めた。引っ張られると思っていたのかカンナは不思議そうにしている、その仕草すら可愛い。
「かわよ……あっ、そうだネザメさんミフユさん、突然なんですけど幽霊って信じますか?」
「……本当に突然だな、ミフユはその手の話に関しては懐疑的だ。大半は根拠も証拠も何もない妄想や勘違いに過ぎんと思っている」
「ミフユは頭が硬いねぇ。時に慰めに、時に抑止となる霊の存在を完全に否定してしまうなんてつまらないよ?」
二人とも基本的に信じてはいないが、ミフユは「くだらない」ネザメは「面白い」という意見なんだな。まぁ、だいたい予想の通りだ。
「サキヒコくん、おいで」
実物を見せてしまえば信じるしか──? サキヒコが出てこない。
「あれ……? コンちゃん、サキヒコくんは?」
ポンッ、と音を立ててミタマが現れる。ネザメが驚いて箸を落とし、ミフユは怯えながらもネザメの前に立った。
「みっちゃんの座っとる椅子の裏に隠れとるぞ」
カンナが身体を跳ねさせ、背もたれから背を離す。俺は箸を置き、身体をひねって椅子の裏を見た。
「…………言わないでくださいミタマ殿ぉ」
ソファの裏で小さく身体を丸めているサキヒコがゆっくりと姿を現した。
(よっしゃあ! よかったぁー、思い直してくれて)
直前で出かけるのが嫌になってしまうことはよくある、不安や面倒臭さから現状維持を優先してしまうのだ。たとえ約束の相手との関係がそれで危ぶまれたとしても。
「水月くん!」
生徒会長室の前、満面の笑顔でネザメが手を振っているのが見えてスマホをポケットに入れる。
「ネザメさん、お久しぶりです」
「……美しい。贅を尽くした船から見る煌めく海面も、太陽が溶けゆく水平線も、自然の雄大さを知らせる鯨達の戯れすらも、君の美しさの前では霞んでしまう。究極の品も地球の奇跡も僕にとっては大した価値がなくなってしまった……君を知ってしまったから、君以外の全てが色褪せた……あぁ、お父様に申し訳ないよ。僕のために開かれた三日三晩の宴より、君と共に冷めたお弁当を食べるたったの半刻が愛おしい」
「絶好調ですね」
「時雨一年生、今日はネザメ様に鳴雷一年生の隣を譲ってやってくれないか?」
「ぇ……」
「ネザメ様は二日も学校を休み鳴雷一年生に会えなかったのだ、いいだろう?」
「…………ゃ」
カンナは首を横に振ったが、微か過ぎたそれは震えと同等で、ミフユには返事と取られなかった。ミフユはまだ返答を待っている。
「えっと……ネザメさん的には俺の顔が見える俺の正面の席の方がいいんじゃないかな、と」
「君の顔を真正面から眺めながら食事を取る……ふふ、水月くん……水月くん、そんなの、水月くん…………ぅうぅ……むりぃ……」
「鳴雷一年生貴様よくもネザメ様を! ネザメ様にネザメ様の許容量を超える鳴雷一年生を与えるな!」
「ミフユさん自分が何言ってるか落ち着いて考えてください! いや言いたいことはめっちゃ分かるんですけども!」
「ネザメ様、気をしっかり……鳴雷一年生の提案通り鳴雷一年生の向かいの席が一番いいかもしれません。見蕩れて熱くなってしまうのなら、冷めるまで目を逸らすだとかで対応してですね……」
「嫌だよ、一秒足りとも水月くんを見逃したくないよ。あぁ、でも、水月くんは美し過ぎる……船上でもずっと写真は見ていたのに、生の水月くんを見るのは……ぅう……つらい……」
夏休み中の方が会えない期間が長いことがあったはずなのに、その時はここまではなっていなかったのにな。会えるはずだった日に会えなくなったから恋しさがより……とか、そういう感じか?
(何にせよ悪い気はしない、どころかめちゃくちゃ嬉しいでそ。ネザメちゃまわたくしにこんなに照れて……かわゆいですなぁ)
抱き締めたりキスをしたりしたいけれど、今のネザメにそれをしたら彼は確実に失神する。そして俺はミフユに叱られる。ミフユも俺の彼氏なのだ、ミフユからの好感度も重要だ、ここは我慢して微笑むだけに留めよう。
「喜んでくださって嬉しいです、ネザメさん」
「…………ぁ……」
「ネザメ様? ネザメ様! き、貴様っ、鳴雷一年生! ネザメ様に微笑みかけ名前を呼ぶなどと……そんなこと今していい訳がないだろう馬鹿者! ネザメ様しっかりしてください!」
「……これくらいならいいかと思って」
「いつまで茶番やってるんですか、早く扉開けてくださいよ。お腹空きました」
今日はミフユもネザメも登校しているため、昨日までのように会長室の鍵をシュカが持っていたりはしない。ミフユがちゃんと管理している。だから俺達は今、廊下でネザメが俺に腰砕けになっている様を眺めているしか出来ないでいるのだ。
「口の利き方に気を付けろ鳥待一年生!」
そう言いながらもミフユはシュカに鍵を投げ渡した。ネザメが迷惑をかけてしまっていることに負い目があったのだろう。
「大丈夫ですか? ネザメさん。中入って座りましょう」
「構うな!」
しっしとミフユに追い払われ、俺はいつも座っている位置に腰を下ろした。カンナは普段より早く俺の隣を取り、不安げに俺を見上げる。
「……俺の隣はカンナのものだよ」
カツラに影響が出ないよう、優しく優しく彼の頭に手を乗せる。
「ぅ、ん」
「カンナ……あぁあ可愛いぃ……カンナのほっぺみゅーってしたい、ぢゅーってした後みゅーって」
「……? 痛く、な……こと、なら、して、ぃー……よ」
好き放題してしまいたい気持ちは抑え、もちもちほっぺをぷにぷにと指で弄ぶ程度に留めた。引っ張られると思っていたのかカンナは不思議そうにしている、その仕草すら可愛い。
「かわよ……あっ、そうだネザメさんミフユさん、突然なんですけど幽霊って信じますか?」
「……本当に突然だな、ミフユはその手の話に関しては懐疑的だ。大半は根拠も証拠も何もない妄想や勘違いに過ぎんと思っている」
「ミフユは頭が硬いねぇ。時に慰めに、時に抑止となる霊の存在を完全に否定してしまうなんてつまらないよ?」
二人とも基本的に信じてはいないが、ミフユは「くだらない」ネザメは「面白い」という意見なんだな。まぁ、だいたい予想の通りだ。
「サキヒコくん、おいで」
実物を見せてしまえば信じるしか──? サキヒコが出てこない。
「あれ……? コンちゃん、サキヒコくんは?」
ポンッ、と音を立ててミタマが現れる。ネザメが驚いて箸を落とし、ミフユは怯えながらもネザメの前に立った。
「みっちゃんの座っとる椅子の裏に隠れとるぞ」
カンナが身体を跳ねさせ、背もたれから背を離す。俺は箸を置き、身体をひねって椅子の裏を見た。
「…………言わないでくださいミタマ殿ぉ」
ソファの裏で小さく身体を丸めているサキヒコがゆっくりと姿を現した。
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