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直前全部嫌症候群 (水月+ネイ・ミタマ・カサネ)
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ノヴェムをネイに渡し、風呂に入った後、俺はまたネイの家に行った。ソファに腰掛け、バスローブ姿のネイと向かい合っていた。
「……あんまり夜中に呼び出さないでください。俺だって寝たいんです。今日は何ですか?」
「すぐ済ませます。今日は昼頃に帰宅し、家での作業を行っていたのですが……」
じゃあもっと早くノヴェムを迎えに来れただろ、とは言わずにネイの目を見つめた。さっさと話して欲しかった、さっさと部屋に帰って眠りたかった。
「穂張事務所の人間が出入りしていました」
「あぁ……今祠建ててるんで。ご存知じゃありませんでした? 盗聴器仕掛けられてから話したっけどうだっけ……ま、とにかく、コンちゃんの祠立ててるんです。あの人達、今はヤクザっていうか普通になんか、建築系だし」
「……穂張興業としての仕事なら、例の秘書は居ない……穂張の者に接触出来るチャンスだと考えます。明日、あなたの家に行きます」
「明日? ゃ、明日は困る……俺遊ぶ約束してるんです」
繰言は多分、引きこもりだ。俺の家に呼ぶのは難しいだろう、繰言が乗り気だったとしても、普段より人の多い我が家ではくつろげないのは確実だ。俺が出向くべきなのだ。家には居られない。
「接触してどうするんです? ネイさんあんまり……その、正体隠して情報聞き出す的なの、上手くないですよ」
「えっ」
「…………だからネイさんの目的から考えても、その……やめといた方が」
「水月くんがただの一般人のご近所さんと紹介してくださればそれでいいのですが……」
「いやだから俺明日出かけるんですって」
「どうしても予定をズラせませんか? 日本神秘の会は多くの人の命……それも子供の命に関わる行為をしている可能性があるんです」
嫌な言い方をしてくるじゃないか。
「バイトばかりの男子高校生の放課後も結構大事ですよぉ? 平気でキスしてきたり……ネイさんって全のために一を殺すタイプ……俺の犠牲を犠牲と思ってないでしょ」
「犠牲って……そんな大層な要求はしていないでしょう? ちょっと紹介してくれればそれでいいんです、ほんの十分遅らせるだけでも」
頷かない限り帰してもらえなさそうだな。
「分かりましたよ……」
「ありがとうございます! では明日、よろしくお願いしますね」
「もう帰っていいですか?」
「はい、長々とすみませんでした。お気を付けて」
我が家の玄関まで見送りに来てくれたネイに複雑な喜びを抱えつつ、部屋へと戻った。
「はぁ……コンちゃん、コンちゃん」
透き通った鈴の音が部屋に響く。どこからともなく姿を現した和装の金髪美少年はその頭から生えた狐の耳をピクピクと揺らし、首を傾げて細い目を更に細めて微笑んだ。
「油揚げ二枚」
「ほう、ワシに願うか。愛い愛い。何を願う?」
「……明日の放課後、俺に化けて家に居て」
「なるほどのぅ、英寧に頼まれたのは簡単な紹介……化けたワシでも問題ない、みっちゃん本人は遊びに行くんじゃな」
「うん、身代わりお願い……いい?」
「構わん構わん。よし、軽く練習を……」
ポンッ、とコルクを抜くような音と共にミタマの姿が変わる。マフラーを巻いた寝巻き姿の超絶美形の男がそこに居た。
「うっわ美人!」
「みっちゃんじゃぞ。どうじゃ、似とるか? 問題ないな?」
「うーん……普段自分を見てるのが鏡だからか、何か違和感があるけど……多分、そっくり。口調も変えてよ?」
「心得ていますぞみっちゃん殿、フタさんともネイさんとも仲良く致してみっちゃん殿の代わりにウハウハでそ~」
「ごめんやめてお願いホントにやめて」
「……分かってるよ、ちょっとした悪ふざけ。ごめんごめん。許して、ね? そんなに怒っちゃ綺麗な顔が台無しだよ」
俺の頬を撫ぜる骨張った手。
「俺ってこんな感じかぁ……キザったらしいなぁ、その前はキモかったし、よく彼氏出来たな。うーん……大丈夫だよね? よろしくね」
「OK、任せてよ。頼られて嬉しい」
「……もうコンちゃんに戻っていいよ。俺寝るから……おやすみ。明日の放課後、よろしくね」
ベッドに横たわり、ミタマが元の姿に戻って身体を透かしていく様子を見送る。目を閉じ、少しして、朝になったらまたいつものように学校へ向かった。
「今日は……」
学校へ行く途中、スマホを取り出し繰言からのメッセージを確認した。
『今日は学校休みます!!!!』
今日も、だろう。とは心に留めたまま、セイカの車椅子のハンドル片手に返信を打ち込んでいく。
『体調は大丈夫ですか?』
『大丈夫!!! 元気!!!』
『よかった、遊べそうですね』
返信が滞る。
「……? またか……」
返信があったのは二時間目の授業が終わった後だった。
『やめる』
たったの三文字。これを送るの何時間もずっと迷っていたのか?
『何をですか?』
『遊ぶの』
『ごめん』
ゾワッ……と産毛が立つような感覚があった。落ち着け、落ち着いて話を聞いて交渉するんだ、俺。
『どうしてです? 元気なんですよね。何か急用でも?』
電話ではなくメッセージのやり取りなのは幸いだ。考える猶予があり、声色など整える必要がない。
『直前全部嫌症候群』
『分かります。遠足の前とか旅行の前とか張り切って準備するのに直前になるとなんか行きたくなくなるんですよね。でもそういう時思い切って行くと普通に楽しめるものですよ』
『学校終わったら遊びに行くので住所送っといてください。嫌になったらいつでも帰れって言ってくれていいので』
若干強引だが、もう授業が始まる。俺は繰言の気が変わることを祈ってスマホをポケットに戻した。
「……あんまり夜中に呼び出さないでください。俺だって寝たいんです。今日は何ですか?」
「すぐ済ませます。今日は昼頃に帰宅し、家での作業を行っていたのですが……」
じゃあもっと早くノヴェムを迎えに来れただろ、とは言わずにネイの目を見つめた。さっさと話して欲しかった、さっさと部屋に帰って眠りたかった。
「穂張事務所の人間が出入りしていました」
「あぁ……今祠建ててるんで。ご存知じゃありませんでした? 盗聴器仕掛けられてから話したっけどうだっけ……ま、とにかく、コンちゃんの祠立ててるんです。あの人達、今はヤクザっていうか普通になんか、建築系だし」
「……穂張興業としての仕事なら、例の秘書は居ない……穂張の者に接触出来るチャンスだと考えます。明日、あなたの家に行きます」
「明日? ゃ、明日は困る……俺遊ぶ約束してるんです」
繰言は多分、引きこもりだ。俺の家に呼ぶのは難しいだろう、繰言が乗り気だったとしても、普段より人の多い我が家ではくつろげないのは確実だ。俺が出向くべきなのだ。家には居られない。
「接触してどうするんです? ネイさんあんまり……その、正体隠して情報聞き出す的なの、上手くないですよ」
「えっ」
「…………だからネイさんの目的から考えても、その……やめといた方が」
「水月くんがただの一般人のご近所さんと紹介してくださればそれでいいのですが……」
「いやだから俺明日出かけるんですって」
「どうしても予定をズラせませんか? 日本神秘の会は多くの人の命……それも子供の命に関わる行為をしている可能性があるんです」
嫌な言い方をしてくるじゃないか。
「バイトばかりの男子高校生の放課後も結構大事ですよぉ? 平気でキスしてきたり……ネイさんって全のために一を殺すタイプ……俺の犠牲を犠牲と思ってないでしょ」
「犠牲って……そんな大層な要求はしていないでしょう? ちょっと紹介してくれればそれでいいんです、ほんの十分遅らせるだけでも」
頷かない限り帰してもらえなさそうだな。
「分かりましたよ……」
「ありがとうございます! では明日、よろしくお願いしますね」
「もう帰っていいですか?」
「はい、長々とすみませんでした。お気を付けて」
我が家の玄関まで見送りに来てくれたネイに複雑な喜びを抱えつつ、部屋へと戻った。
「はぁ……コンちゃん、コンちゃん」
透き通った鈴の音が部屋に響く。どこからともなく姿を現した和装の金髪美少年はその頭から生えた狐の耳をピクピクと揺らし、首を傾げて細い目を更に細めて微笑んだ。
「油揚げ二枚」
「ほう、ワシに願うか。愛い愛い。何を願う?」
「……明日の放課後、俺に化けて家に居て」
「なるほどのぅ、英寧に頼まれたのは簡単な紹介……化けたワシでも問題ない、みっちゃん本人は遊びに行くんじゃな」
「うん、身代わりお願い……いい?」
「構わん構わん。よし、軽く練習を……」
ポンッ、とコルクを抜くような音と共にミタマの姿が変わる。マフラーを巻いた寝巻き姿の超絶美形の男がそこに居た。
「うっわ美人!」
「みっちゃんじゃぞ。どうじゃ、似とるか? 問題ないな?」
「うーん……普段自分を見てるのが鏡だからか、何か違和感があるけど……多分、そっくり。口調も変えてよ?」
「心得ていますぞみっちゃん殿、フタさんともネイさんとも仲良く致してみっちゃん殿の代わりにウハウハでそ~」
「ごめんやめてお願いホントにやめて」
「……分かってるよ、ちょっとした悪ふざけ。ごめんごめん。許して、ね? そんなに怒っちゃ綺麗な顔が台無しだよ」
俺の頬を撫ぜる骨張った手。
「俺ってこんな感じかぁ……キザったらしいなぁ、その前はキモかったし、よく彼氏出来たな。うーん……大丈夫だよね? よろしくね」
「OK、任せてよ。頼られて嬉しい」
「……もうコンちゃんに戻っていいよ。俺寝るから……おやすみ。明日の放課後、よろしくね」
ベッドに横たわり、ミタマが元の姿に戻って身体を透かしていく様子を見送る。目を閉じ、少しして、朝になったらまたいつものように学校へ向かった。
「今日は……」
学校へ行く途中、スマホを取り出し繰言からのメッセージを確認した。
『今日は学校休みます!!!!』
今日も、だろう。とは心に留めたまま、セイカの車椅子のハンドル片手に返信を打ち込んでいく。
『体調は大丈夫ですか?』
『大丈夫!!! 元気!!!』
『よかった、遊べそうですね』
返信が滞る。
「……? またか……」
返信があったのは二時間目の授業が終わった後だった。
『やめる』
たったの三文字。これを送るの何時間もずっと迷っていたのか?
『何をですか?』
『遊ぶの』
『ごめん』
ゾワッ……と産毛が立つような感覚があった。落ち着け、落ち着いて話を聞いて交渉するんだ、俺。
『どうしてです? 元気なんですよね。何か急用でも?』
電話ではなくメッセージのやり取りなのは幸いだ。考える猶予があり、声色など整える必要がない。
『直前全部嫌症候群』
『分かります。遠足の前とか旅行の前とか張り切って準備するのに直前になるとなんか行きたくなくなるんですよね。でもそういう時思い切って行くと普通に楽しめるものですよ』
『学校終わったら遊びに行くので住所送っといてください。嫌になったらいつでも帰れって言ってくれていいので』
若干強引だが、もう授業が始まる。俺は繰言の気が変わることを祈ってスマホをポケットに戻した。
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