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保健室待機の理由 (水月+カサネ・リュウ・セイカ・ハル・カンナ)

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昼休みが終わった。五、六時間目は体育祭の練習だ。急いで着替えなければ。

「じゃあ、また今度。繰言先輩。楽しかったです」

「う、うんっ、楽しかった……また、うん、また、今度、へへ……」

緩んだ笑顔もどこか卑屈だ。ゲーム中以外、繰言と話すと常に媚びられているように感じる。居心地の悪さと下劣な優越感、雄の欲望を煽る態度だ。

「セイカは今日も保健室待機だよな」

生徒会長室を後にした俺達は一度教室に帰り、空の弁当箱を置き体操服を持った。更衣室に向かうみんなを見送り、俺は一人車椅子を押して保健室へ向かった。

「うん……鳴雷が暑いとこで頑張ってるのに、涼しいとこでゴロゴロしてるの……すごく、嫌だけど」

「気にしなくていいんだよそんなこと」

「……でも」

「あっ、あれ、早苗ちゃん鳴雷くんっ、なんで、ぁ、二人も保健室待機っ?」

保健室へと向かう途中、同じく保健室に向かっていた繰言に会った。早過ぎる再会に思わず笑みが零れる。

「俺はセイカを送り届けに来ただけです。すぐ行きますよ」

「あ、そ、そうなんだ……鳴雷くんともう少し話したりゲームしたりしたかったんだけどっ、まぁ鳴雷くん見るからに健康体だしそんな期待してた俺がおかしいんだけどさっ」

「……俺との時間楽しんでくれてたんですね、嬉しい。俺ももっと繰言先輩と話したかったです。ところで、先輩は体育祭出ない感じですか?」

「俺が楽しんでたら嬉しいの!? 嬉しいの沸点低いよお前……あっ、た、体育祭? たた、体育祭みたいな陽キャの祭典に俺みたいな陰キャが出られる訳ないんですけどっ」

「いや基本全員参加じゃないですか……俺もあんまり気乗りはしてませんよ」

「ふ、ふふんっ、そこで内臓減ってるのが活きてくるんだなっ。色々切除しちゃって激しい運動すると倒れる身体だからっ、こういうのは一切不参加許されてるんだ。いーだろっ! へへ……」

「……なるほど」

「ま、まぁ、軽くとか短くとかでもいいから参加しろって実際は言われてるんだけど、駄々こねれば案外何とかなるんだよ。内申とか俺どうでもいいし、俺は何よりやりたくないことやりたくないんだっ」

「…………どうして、内臓切っちゃったのかとか聞いても?」

「あっ、癌! ごめん肝心なとこ忘れてて。いっぱい転移しててさっ、何年か前まで俺死ぬ予定だったんだ! なんか上手く切れて、なんか薬も効いて、ここ一、二年くらいは影も形もないって。根治~……かな? し、死ぬと思ってたからやりたいことしかやってこなくて、勉強ヤバいし努力癖もついてないし、この先の人生真っ暗って感じなんですけど……へへっ。よ、余命宣告されるのってキツいけど、でも絶対死ぬと思ってたのに死なないのも、キツいよ。死にたい訳じゃなかったんだけど死ぬって言われたし信じてたのに死ななかったから、死なないじゃんって……い、生きちゃってるじゃんって……」

「……じゃあ今の人生はボーナスタイムって感じですね!」

「え……あっ、そ、そうかも? 俺の人生はちょっと前でゴール迎えたはずだし。ボーナスタイムか、へへ……そっか、いいなそれ……流石イケメン、ポジティブ。ふふ。あっ、そ、そろそろ行かないとお前遅刻するぞっ、イケメンのマイナス採点はブサイクより配点デカいんだから気を付けないと!」

「そうですね、急がないと……じゃ、また後で、先輩!」

「あ、あぁ……また、へへ……またか。ぁ、さ、早苗ちゃん、中までは俺が押す……うわ重っ、車椅子、重……無理、せ、せんせ呼んでくる……」

更衣室に小走りで向かいながら、案外と簡単に身の上話をしてくれたなと繰言のことを思い返した。長い入院生活だとかで同い歳との会話がなかったからああいう性格になったのだろうか、いや、それもあるかもしれないけれど大半は生来のものだろうな。

「ヤバい……もう半分も居ないじゃん」

ようやく着いた更衣室にはもうほとんど人が残っていなかった。慌てて着替えながら、もし遅れたらセイカを理由にすれば怒られずに済むだろうかなんて、教師にする言い訳を考えていた。


遅刻はしたが点呼などは行われず、競技ごとに固まっての練習だったため遅刻を誰かに咎められることはなかった。炎天下、ハルと足を縛って走る練習をしたり、今度こそ用意された縄を引っ張ったり……ずっとトラックを走らされている連中よりはマシだろうけど、それでも辛かった。

「はぁー……やっと終わった、暑かった……」

「ほんとそれ~……あれっ、やば、みっつん助けて制汗スプレー切れた~」

「えぇ? 俺持ってんの自家製のミントスプレーだぞ」

「何でもいいから分けて~、暑いし臭い~」

「ハルは汗もいい匂いするから大丈夫だよ」

「そう感じんのみっつんだけ~! いいから貸してよケチ~、あっしぐしぐ! しぐしぐそれ……! 俺と同じのじゃん! 貸して貸して~、今度お礼するから~!」

着替え中すら騒がしいハルにため息をつきながら、母が作ってくれたミントスプレーを首や脇に吹きかける。

「はぁ……涼しい」

スーッとする感覚がたまらない。汗が引いていく。

「これカミアがCMしてたんだよね~」

「ぅん……いっぱ、もらった……らし……から、くれた」

「えっこれカミア経由……!? ひょえぇ……手が震えるぅ……」

火傷跡が見えないように肌の露出を抑えて着替えるカンナと、長いポニーテールを揺らしてきゃいきゃいはしゃぐハルの組み合わせは、女子更衣室に迷い込んでしまったのかという錯覚と恐怖を男子高校生に与える。

「可愛いからいいんだけどさ……ちょっとドキッとするよな。なぁ、リュウ?」

「……んっ? ぁ……せ、せやなぁ」

「…………どうした? ボーっとして」

「ぅ……い、いけずぅ……バイブは抜いてええけど乳首のゴムは外したあかんて言うたん水月やんかぁっ。走っとる間ずっと擦れて……! おかしなるか思た。なぁ……水月ぃ、バイトあるんやったら今日の夜中でもええから抱いてくれへん?」

「ダメだ。睡眠時間ちゃんと確保したい」

「いけず……」

「そういうのが好きなんだろ? 変態」

にへ~っとした笑い方は扇情的だ、今すぐにでも抱いてしまいたくなる。リュウを焦らせば焦らすほど自分を焦らすことにも繋がる。焦らしプレイには自分の忍耐も必要なのだ。
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