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悪気のない生殺し (水月+ハル)

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ネイについて母に話した。全てではなく、俺の服や部屋に盗聴器が仕掛けられていたことだけを。俺への好意については……うん、相談は保留しよう。

「……やっぱりアイツだったのね。昨日アンタが居ない間、盗聴器発見機もらってきて使ってみたのよ。結構見つかったわ」

「取られたから今日仕掛け直しに来たってこと……かな。ゃ、そんな、流石に大胆過ぎるか……」

「いいえセイカ、多分当たりよ。取ったばっかりで次の日もう新しいのが仕掛けられているなんて思わない、実際発見機はもう使おうと思ってなかったもの。レイちゃんが水月の部屋にカメラ仕掛けてなかったら分からなかったところよ、お手柄って言っておいてくれる?」

「はい。ところでママ上、やっぱりって言いましたよな。ネイさん何か怪しかったんですか?」

「私は全く怪しんでなかったけど、真尋くんがね」

真尋、というとレイの元カレの従兄だな。母の会社の社長秘書だ。和服を着ていてセクシーな人。

「旧チヨダの人とか言ってたかしら」

「旧チヨダぁ!?」

「ハル、何か知ってるのか? カルト的な何かじゃないよな」

「え、みっつん知らないの?」

聞き覚えのない単語だと頷き、ハルが答えを言うのを待つ。

「昔の呼び名がチヨダ……最新はゼロかな? ドラマとかアニメとかで周知されたからもう名前変わっただろうけど」

「ゼロ……えっ、まさか」

「あ、ゼロは分かる? そうそう。公安。公安警察」

「公安……! あー……世間の安寧を守るお仕事ってそういう意味……割と答え言ってたな」

「……そうなの? やっぱり公安にしちゃお粗末なのよね。盗聴器の仕掛け方とか、その他諸々。アイツがポンコツなだけかしら? 真尋くんから色々情報もらったのよ、ネイ・スネーキーズ……本名蛇ノ目じゃのめ 英寧ひでやす、公安所属、趣味は射撃、特技はハニートラップ」

「ハ、ハニトラ……?」

今日の昼、ネイに迫られたことを思い出す。

「会社帰りに妙によく出会すのもそれだったのかもしれないわね。ちょっと口説いてきてたし……」

「えっ、お義母さんもですか~? みっつんも落とされかけてたよね~」

「ちょっ、ハル!」

「あ、言わない方がよかった? ごめんごめん」

「私は落ちてないわよ、葉子が惚れてたから嫌いだったし。っていうかアンタ……落ちたの?」

「落ちてないです落ちてないですギリギリセーフです!」

あの時ノヴェムが来なかったら、多分落ちていたと思うけれど、ハニートラップが得意だなんて聞いたら落ち……落ち……落ちるかも! だって特技なだけで俺には本気かもしれないじゃん!? ハニートラップだったとして法律的には未成年の俺の方が強いし、ネイが俺から聞き出したい情報を渡さなければ何度でもヤれるということでは? その過程でいつか愛が生まれたりするのでは?

「……えっ公安ってハニトラすんの?」

「調査とかで口説いたり煽てたりして情報引き出すのが得意ってだけじゃない? 顔いいし。真尋くんちょくちょく口悪いから」

「明確にはトラップじゃないような……やっぱりハニトラ呼びでいいような……微妙なとこ」

「にしてもみっつんやお義母さんが公安の調査対象になるって、なんで……」

「水月がヤクザとつるんでるからでしょ、だから関わるなって言ったのに」

「そ、そのヤクザの元締めはママ上の同僚でしょう」

「……ヤクザってそんな調べられるもんかな~? 昔からあるんならもう、別に……わざわざ改めてって、なんか~……おかしくない?」

ハルの言葉に俺達親子の責任のなすりつけ合いが止まる。

「…………確かに。カルトやテロの組織ならまだしも、昔から居るヤクザなんて……暴対法もあって今となっては牙抜かれた中型犬。それも穂張組はほぼ活動してないようなもん。今更調べ直すようなもんじゃないわ」

「サンちゃんとこのヤクザは~、実はなんかヤバいことしてるか~……穂張組は無関係で、別件……のどっちかってことです?」

「……母さんの会社じゃないの。公安所属の人の情報そんなに取ってこれるって時点でなんか怖いし」

「公権力と仲良いのよ。だから関係ないと思うわ」

「あんな何人も殺してるような人が警察と仲良いんですか? うわ……これが腐敗か」

「……あの人達に関してはよく知らないわ。そんなふうに言われても、私に返せる言葉は何もない」

話し合っても俺達一家が警察に、それも公安に調査されるような理由が思い付かない。三人寄れば文殊の知恵、なんてことわざは真実ではなかったらしい。

「もう……聞いちゃいます? ネイさんに直接、なんで俺達調べてるんですかって」

「バカねアンタ。答える訳ないでしょ」

「公安って協力者作るって聞きますけど~、そういうのじゃないんですもんね~」

「それっぽいことは何も言われてないわね。心当たりないんだし、無視でいいわよ。そのうち調べる必要ない家だって分かるでしょ」

「そう……ですよね」

「しばらく細かい違法行為にも気を付けなさいよ。ちゃんと信号とか守るのよ。どこ見られてるか分かったもんじゃない、付け入る隙を与えないようにね」

「……はい」

母に話せば解決すると思っていたけれど、何にも進展しなかった。結局何も分からないままだ、ネイがどこまで嘘をついていたのかも、嘘をつく理由も、何もかも不明なまま。

「…………私、もう寝ますね」

「もう寝るの? そう……おやすみ、水月」

風呂や歯磨きなどを終わらせ寝支度を整え、俺はハルを連れて自室へと戻った。

「ハル、一応簪完成したんだけど」

「えっ、うそうそ見せて~! うわすごーい! 彼岸花じゃん! えへへっ、可愛い、これ髪に挿せるんだ~。も~、出来た時に言ってよ~」

「ごめん、なんか色々あったから」

「確かに? ふふっ、浴衣に合いそう……ありがとうねみっつん、大好き!」

簪を握り締めたままハルは俺に抱きついた。華奢な身体を抱き締め返し、見つめ合い、自ずと唇が重なる。

「ん……」

ハルの手からするりと簪を奪い、机に置き、ハルをゆっくりとベッドへ──

「……っ、やだ。ご、ごめんねみっつん……今日はそういうの、ナシで。別荘でシたっきりだし、俺もそろそろまたとは思ってるんだけど……今日は、まだ、その」

「…………寝るだけでも、一緒にベッドには入るんだろ?」

「あっ、うん、それは……みっつんが腕枕してくれると嬉しいなぁって、えへへ……」

セックスを断っておいて腕枕をして欲しいだなんて、ハルは本当に俺と同じ男なのだろうか?

「もちろん、ほらおいで」

「わーい。ふふふ……ねぇみっつん髪撫でて~」

「あぁ、寝るまでの手慰みにさせてもらうよ」

髪の隙間にそっと指を入れて頭皮に触れ、ゆっくりと髪先へ向かって梳いていく。

「みっつん大好き……」

ハルは心地良さそうに目を閉じ、改めて俺への好意を口にすると、ほどなくして寝息を立て始めた。
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