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大好きな体温 (水月+サキヒコ・ミタマ)
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盗聴器問題、ネイからの好意の真偽、俺を取り合うこととなった彼ら親子の関係、婚約者が父親に盗られかけたと感じただろうノヴェムの精神状態などなど色々と気になることは多い。
「ハル、俺しばらく考えてたんだけどさ、真鍮への色付けはウッドデッキでやるよ。部屋でやっちゃあいくら窓開けっぱなしにしててもなんか夜中までラッカー臭いんだよなぁ」
「えー、暑くない? 大丈夫?」
「アキに傘借りるし、ハンディ扇風機も持ってくよ。大丈夫、ありがとうなハル」
心がモヤモヤごちゃごちゃとした時は手芸に限る。細かい仕事を集中してやっていれば頭の中が無になる、まぁ作り終わったらまたモヤモヤするんだろうけど、その時はその時で別の手段を考えよう。
「よいしょっと……」
ウッドデッキに道具を運び、座り込んで作業を始める。
「簪か……女性に贈るのが定番だが、当代ではそうでもないのだな。手作りを男に贈るなど」
日傘と扇風機を持ってくれているサキヒコは俺の隣に屈んで手元を覗いている。
「ハルは結構特殊だよ、現代人みんながみんな性別の壁低くしてる訳じゃない」
「あぁ、いつもミツキと一緒に街を見ているから分かっている。だがミツキ、壁は恐らく皆低くなっている。彼がどのような格好をしていても誰も何も言わないではないか」
「……東京は、他人に興味ない土地だからね。みんな忙しくってさ。芸能人歩いてても群がったりとかそんなしないし……だから超絶美形の俺もたまに遠くから写真撮られるくらいで済んでる」
「そうか、この辺りは確かに昔から栄えていたな。皆仕事を忙しくしている、密な交流など余暇がなければ生まれないか」
「そういえばサキヒコくん年積だったね。紅葉家って昔から白金居るの?」
「そうだな……歴史には明るくないが、地主だ。動いていないと思う」
「じゃあさ、ヤクザとかとも顔見知りだったりしない?」
「極道の者のことだな。うむ、表立って繋がってはいなかったが、交流はあったはずだ」
「穂張組……サンちゃんとこヤクザなんだけど、御先祖様知り合いだったりするのかな?」
「……穂張、穂張か。聞き覚えはないな、うむ……極道の者との繋がりは大人達が持っていたものだ、私は引き継ぐ前に死んでしまったから名前もよく知らない」
「そっかぁ……今度ネザメさんの誕生日なんだけどさ、サンちゃん達行って大丈夫かなって思ってたんだけど……ほら、社会的地位のある家柄だから、ヤクザと関わりがあるのはちょっと……って思ってさ。でも繋がり元々あるなら大丈夫だよね?」
「いや、表向きは無関係を装っているだろうから……どうだろう」
「うーん……サンちゃんはヤクザもう辞めて画家だし、旅行も行ったから誕生会も大丈夫だと思いたいけど、ヒトさんとフタさんはまずいかも……でもネザメさん、全員連れて来いって行ってるんだよね~……予定が合わなきゃまたズラすとまで言われちゃ、ねぇ?」
ネザメに穂張兄弟不参加の交渉を続けるべきか、と悩む。
「ミツキ、手が止まっている」
「……ぁ」
考え事をしたくなくて手芸を始めたのに、また別の考え事をしてしまっていた。俺はため息をつき、頭を振って考えを切り替え、作業を続けた。
「私も実体化して参加すべきだろうか」
「そうだね。みんなには明日学校で説明するよ。先輩にはバイト先で話せればいいかな」
「……もう死んだ身だと言うのに、いいのだろうか。人間のように過ごして」
「いいんじゃない? サキヒコくんは死んじゃうの早過ぎたし、その分今楽しめば。もしあの世の法律みたいなのがあって、サキヒコくんが今してることが違法だったらコンちゃんが分かるだろうし……分かってなくて、本当にダメだったとしたら、俺が死んだ後に代わりに罰受けるよ。俺が無理言ったんですって」
「ミツキ……違う、私は、私の意思で……ミツキの、あなたの傍に」
「……ありがとう。でも、サキヒコくんの身が危なかったらすぐ俺を売ってね」
「ミツキ……そんなことしない、出来ない。残酷なことを言わないでくれ」
「…………いい子だね」
サキヒコの頬を撫でようと手を伸ばしたが、指や手のひらに赤い塗料が付着しているのが見えて手を引っ込めた。
「ミツキ……?」
「と、とにかくさ、俺は君のためなら何でも出来るってことだから、覚えておいて」
「……触れてくれないのか?」
「汚れちゃうから」
「大丈夫だ。気にするなそんなこと。ミツキ、ほら……触れてくれ」
サキヒコは俺の手を取り、手のひらに頬を寄せた。炎天下ではありがたい冷たい頬は心地いい。
「ずっとミツキに触れられなかった、その前はずっとずっと一人きりだった……私がどれだけあなたに触れられていたいか、想像出来ないあなたじゃないだろう?」
「…………うん」
「私はきっとあなたの恋人の誰よりもあなたに触れられたがっている。あなたの体温をこんなにも求めているのに……触れようとして、触れないなんて、そんなことはやめてくれ」
「……ごめんね。サキヒコくんどうにもお硬そうだから、スキンシップ控えちゃって」
「私から行くべきだろうかと何度か考えたのだが、やはりはしたない気がして……ミツキから来て欲しい。あぁ……これを言うのも嫌なんだ、ミツキはもっと察しを良くした方がいい。恋人がたくさん居るのだからな」
「頑張ります……」
頬を撫でられながら説教するとは、なかなかに不思議な光景だ。
「ここに居ったかみっちゃん」
「コンちゃん。おかえり、どうだった?」
サキヒコの頬をぷにぷにと弄んでいると、ネイとノヴェムの様子を見に行ってもらっていたミタマが帰ってきた。
「のっちゃんは床寝っ転がって絵ぇ描いとって、ねっちゃんはのっちゃんの機嫌取りたいんかぬいぐるみ越しに話しかけとった。無視され続けて心折れたんか、ソファで頭抱え始めて動かなくなったから一旦帰ってきたんじゃ。一応もう少し見ておこうと思うが、みっちゃんが心配するようなことはないじゃろう」
「そっか……よかった。考え過ぎだよな、俺……セイカの一件、本当に……トラウマものでさ。通院させないどころか、飯もくれない家なんて……知らなかったから。ちょっと、過敏になってた。でも、うん……そうだね、もう少し見てきて。コンちゃんの判断で終わって」
「了解なのじゃ。くふふっ、極秘みっしょんはワクワクするのぅ」
ミタマは楽しげに尾を揺らしながら姿を透かしていき、完全に見えなくなると鈴の音がどこかから聞こえた。
「……コンちゃんって何で出現消失変身の度に鈴の音鳴ったりポンって鳴ったりするの?」
「演出だろう」
「あっコンちゃんが鳴らしてる感じなんだ、鳴るんじゃなくて……」
サキヒコの推測とはいえ即答だったからおそらく事実だろう、ちょっとした衝撃の事実だな。
「ハル、俺しばらく考えてたんだけどさ、真鍮への色付けはウッドデッキでやるよ。部屋でやっちゃあいくら窓開けっぱなしにしててもなんか夜中までラッカー臭いんだよなぁ」
「えー、暑くない? 大丈夫?」
「アキに傘借りるし、ハンディ扇風機も持ってくよ。大丈夫、ありがとうなハル」
心がモヤモヤごちゃごちゃとした時は手芸に限る。細かい仕事を集中してやっていれば頭の中が無になる、まぁ作り終わったらまたモヤモヤするんだろうけど、その時はその時で別の手段を考えよう。
「よいしょっと……」
ウッドデッキに道具を運び、座り込んで作業を始める。
「簪か……女性に贈るのが定番だが、当代ではそうでもないのだな。手作りを男に贈るなど」
日傘と扇風機を持ってくれているサキヒコは俺の隣に屈んで手元を覗いている。
「ハルは結構特殊だよ、現代人みんながみんな性別の壁低くしてる訳じゃない」
「あぁ、いつもミツキと一緒に街を見ているから分かっている。だがミツキ、壁は恐らく皆低くなっている。彼がどのような格好をしていても誰も何も言わないではないか」
「……東京は、他人に興味ない土地だからね。みんな忙しくってさ。芸能人歩いてても群がったりとかそんなしないし……だから超絶美形の俺もたまに遠くから写真撮られるくらいで済んでる」
「そうか、この辺りは確かに昔から栄えていたな。皆仕事を忙しくしている、密な交流など余暇がなければ生まれないか」
「そういえばサキヒコくん年積だったね。紅葉家って昔から白金居るの?」
「そうだな……歴史には明るくないが、地主だ。動いていないと思う」
「じゃあさ、ヤクザとかとも顔見知りだったりしない?」
「極道の者のことだな。うむ、表立って繋がってはいなかったが、交流はあったはずだ」
「穂張組……サンちゃんとこヤクザなんだけど、御先祖様知り合いだったりするのかな?」
「……穂張、穂張か。聞き覚えはないな、うむ……極道の者との繋がりは大人達が持っていたものだ、私は引き継ぐ前に死んでしまったから名前もよく知らない」
「そっかぁ……今度ネザメさんの誕生日なんだけどさ、サンちゃん達行って大丈夫かなって思ってたんだけど……ほら、社会的地位のある家柄だから、ヤクザと関わりがあるのはちょっと……って思ってさ。でも繋がり元々あるなら大丈夫だよね?」
「いや、表向きは無関係を装っているだろうから……どうだろう」
「うーん……サンちゃんはヤクザもう辞めて画家だし、旅行も行ったから誕生会も大丈夫だと思いたいけど、ヒトさんとフタさんはまずいかも……でもネザメさん、全員連れて来いって行ってるんだよね~……予定が合わなきゃまたズラすとまで言われちゃ、ねぇ?」
ネザメに穂張兄弟不参加の交渉を続けるべきか、と悩む。
「ミツキ、手が止まっている」
「……ぁ」
考え事をしたくなくて手芸を始めたのに、また別の考え事をしてしまっていた。俺はため息をつき、頭を振って考えを切り替え、作業を続けた。
「私も実体化して参加すべきだろうか」
「そうだね。みんなには明日学校で説明するよ。先輩にはバイト先で話せればいいかな」
「……もう死んだ身だと言うのに、いいのだろうか。人間のように過ごして」
「いいんじゃない? サキヒコくんは死んじゃうの早過ぎたし、その分今楽しめば。もしあの世の法律みたいなのがあって、サキヒコくんが今してることが違法だったらコンちゃんが分かるだろうし……分かってなくて、本当にダメだったとしたら、俺が死んだ後に代わりに罰受けるよ。俺が無理言ったんですって」
「ミツキ……違う、私は、私の意思で……ミツキの、あなたの傍に」
「……ありがとう。でも、サキヒコくんの身が危なかったらすぐ俺を売ってね」
「ミツキ……そんなことしない、出来ない。残酷なことを言わないでくれ」
「…………いい子だね」
サキヒコの頬を撫でようと手を伸ばしたが、指や手のひらに赤い塗料が付着しているのが見えて手を引っ込めた。
「ミツキ……?」
「と、とにかくさ、俺は君のためなら何でも出来るってことだから、覚えておいて」
「……触れてくれないのか?」
「汚れちゃうから」
「大丈夫だ。気にするなそんなこと。ミツキ、ほら……触れてくれ」
サキヒコは俺の手を取り、手のひらに頬を寄せた。炎天下ではありがたい冷たい頬は心地いい。
「ずっとミツキに触れられなかった、その前はずっとずっと一人きりだった……私がどれだけあなたに触れられていたいか、想像出来ないあなたじゃないだろう?」
「…………うん」
「私はきっとあなたの恋人の誰よりもあなたに触れられたがっている。あなたの体温をこんなにも求めているのに……触れようとして、触れないなんて、そんなことはやめてくれ」
「……ごめんね。サキヒコくんどうにもお硬そうだから、スキンシップ控えちゃって」
「私から行くべきだろうかと何度か考えたのだが、やはりはしたない気がして……ミツキから来て欲しい。あぁ……これを言うのも嫌なんだ、ミツキはもっと察しを良くした方がいい。恋人がたくさん居るのだからな」
「頑張ります……」
頬を撫でられながら説教するとは、なかなかに不思議な光景だ。
「ここに居ったかみっちゃん」
「コンちゃん。おかえり、どうだった?」
サキヒコの頬をぷにぷにと弄んでいると、ネイとノヴェムの様子を見に行ってもらっていたミタマが帰ってきた。
「のっちゃんは床寝っ転がって絵ぇ描いとって、ねっちゃんはのっちゃんの機嫌取りたいんかぬいぐるみ越しに話しかけとった。無視され続けて心折れたんか、ソファで頭抱え始めて動かなくなったから一旦帰ってきたんじゃ。一応もう少し見ておこうと思うが、みっちゃんが心配するようなことはないじゃろう」
「そっか……よかった。考え過ぎだよな、俺……セイカの一件、本当に……トラウマものでさ。通院させないどころか、飯もくれない家なんて……知らなかったから。ちょっと、過敏になってた。でも、うん……そうだね、もう少し見てきて。コンちゃんの判断で終わって」
「了解なのじゃ。くふふっ、極秘みっしょんはワクワクするのぅ」
ミタマは楽しげに尾を揺らしながら姿を透かしていき、完全に見えなくなると鈴の音がどこかから聞こえた。
「……コンちゃんって何で出現消失変身の度に鈴の音鳴ったりポンって鳴ったりするの?」
「演出だろう」
「あっコンちゃんが鳴らしてる感じなんだ、鳴るんじゃなくて……」
サキヒコの推測とはいえ即答だったからおそらく事実だろう、ちょっとした衝撃の事実だな。
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