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絶対に嘘だ (水月×ネイ+サキヒコ)

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正直言って、ネイのことは全く分からない。意図も過去も何もかも。俺も話があるだなんて格好付けてみせたが、盗聴器を握った手が震えてきた。

「……ネイさんから話してください。年功序列がこの国の基本ですから」

今、ネイのことは何一つ信用出来ない。

「そうさせてもらいます。では早速……今一緒に話していた方はどちらに?」

ネイは顔を傾けて耳を見せる。黒い何か、機械のような物が付いた耳を。通常のワイヤレスイヤホンの形をしていないのは、受信機能だとかの分だろう。機械の役割を察した俺は手の中の盗聴器同士が擦れ合うように握り、弄ってみた。

「……っ、意地悪ですね」

「サキヒコくん、出てきて」

俺の背後からサキヒコがひょこっと顔を出す。

「幽霊……だそうですね。本物は初めて見ました。ミタマというのは妖怪でしたっけ? ふふ……聞いた時は頭がおかしいのかと思いましたよ」

「…………詳しいですね」

「白状しますよ、後からボロが出ると余計不審がられるというのが今日よく分かりましたから。結構前からこの家には盗聴器を仕掛けていたんです、昨日全部見つけられちゃいましたけど……盗聴器発見機を持ってくるなんて、何か不審がられていたんですかね?」

昨日は丸々一日留守にしていた。母達が何をしていたのかはまた今日の夜聞くとしよう。

「……俺あんまり頭良くないし、直球で聞きますね。どうして俺の家や部屋……俺にまで盗聴器仕掛けたんですか? っていうか、こういうの普通の人手に入れられませんよね?」

「どこから話したものでしょうか」

「全部、お願いします」

「そうですねぇ……まず、日本に越してきたというのは嘘です。私は日本生まれ日本育ち、アメリカに住んだことありません。ノヴェムは離婚した後に向こうで産まれた子です、ちゃんと会ったことはありませんでした。妻……元妻が死んだので引き取って来たんです」

「…………そう、ですか。え? じゃあ……あの、銃創は?」

「日本にも銃はありますよ。前に言ったでしょう? 私はこの国の安寧と秩序を守るお仕事をしています、そういうこともあるんですよ」

ある……か? あるかなぁ……銃を扱う職種と言ったら警察か猟師、東京で猟師の仕事が出来るとは思えないから警察かな。でも、警察は銃を持てるってだけで、警察の方が撃たれることなんて……ドラマみたいな銃撃戦なんて、日本ではまず滅多にないと思うのだが。

「警察ですか?」

「……そんなところです」

明確な答えは教えてくれないのか。

(待てよ、ヤクザという可能性もあるのでは? ヤクザはヤクザで裏から国を守ってるんだぜ的な論法もありますからな。馬鹿正直にネイさんが秩序側と考えるのはリスキーでそ)

結局、よく分からないな。

「次は、えぇと……そうですね、何故嘘をついたのか、とか?」

「ええ、それも聞きたいですね」

「……離婚して放っておいた息子を引き取ってきた、より……一緒に住んでいたけれど妻が死んだ、の方が印象がいいでしょう?」

そう言いながらネイは薬指にはめていた指輪を眺める。

「その指輪もフェイクですか?」

「これは本物です。離婚した後も未練がましく着けている、ただそれだけですよ」

信用出来ない言葉だ。しかし指輪を見つめるネイの悲しげな瞳には惹き込まれる。やはりネイは美しい、騙されたくなる。ダメだ、しっかりしろ俺。

「まさかノヴェムが話してしまうとは……大人しくて口数の少ない子だからと油断していました。口裏を合わせておくべきでしたかね、そうした方が子供はボロを出すと思ったのですが……悩ましい」

「あの……俺が一番聞きたいのは、どうして俺の部屋や俺自身に盗聴器を仕掛けたのかってことなんですけど、教えてもらえますか?」

「分かりませんか?」

なんだ? これまで俺が手に入れた情報から推理出来るのか? 全く心当たりがないぞ。だが素直に分からないと言えばまだ誤魔化せると思われるかもしれない。

「まさか、もうだいたい想像はついてますよ。でもあなたの口から聞きたいんです」

痩せて超絶美形になってすぐはゲームでイケメンキャラクターを動かしている気分で生活していた。最近メッキが剥がれてキモオタに戻りつつあるけれど……それでも俺の演技力は大したもののはずだ。ハッタリだとバレない、よな?

「そうですか、なら正直に言うべきですね」

「そうしてください」

ネイは口を開く前にシャツのボタンを上から三つほど外し、鎖骨と胸筋の谷間を僅かに見せた。はだけた胸元に思わず目が行ってしまった隙に、ネイは距離を詰め、するりと俺の首に腕を絡めた。

「……あなたのことが好きなんです」

「はっ……?」

「……初めて見た時から、好きで、好きで……気付けば嘘をついて心象を良くしようとしたり、衝動的にハグやキスを……でもそんなのじゃダメだと、もっとあなたの情報を集めようと……盗聴器を仕掛けました」

何を言っているんだ、この人は。

「未成年にこんな想いを抱いて、盗聴器を仕掛けるなんて……警察どころか人として許されない行為です。ええ、分かっています。でも……それだけ、あなたが好きなんです」

本当、なのか?

「お願いします鳴雷さん……何番目でもいい、都合のいい相手でいいんです。どうかあなたに私を捧げさせてください」

ネイのことは何一つ信用出来ない、先程そう感じたばかりなのに、今はもうその疑念が薄れつつある。震える腕がネイの背に回ってしまう。

「……! ミツキ! 騙されるな! また嘘に決まっている、真実を語っている色をしていない!」

「サ、サキヒコくん……」

「ミツキから離れろ! この詐欺師め!」

そうだ、サキヒコは確か人間の感情が何となく色で見えると前に話してくれた。そんな彼が嘘だと言うのなら間違いない、悲しいが嘘なのだろう。

「そんな……嘘じゃありません水月くん、今まで嘘をついたことは謝ります、私の気持ちに応えてもらえないのも仕方ありません。でも、でも……あなたへの想いだけは本物なんです、信じてください」

嘘、だとして、他に盗聴器を仕掛ける理由は何だ? ネイが警察だとしてもヤクザだとしても、俺に盗聴器を仕掛ける理由がない。思い付かない。

「嘘だ! 騙されるな、さっさと引き剥がしてしまえミツキ!」

いや、そうだ、サキヒコが嘘だと言っているんだ。俺の悪い頭で俺への好意以外で盗聴器を仕掛ける理由が思い付かないからって何だ。サキヒコが言っているのだから間違いない、ネイは嘘つきだ。

「信じて、水月くん……そしてどうか、一晩だけでも思い出を……」

するりと降りた手が俺の手に重なる。手の甲にネイの柔らかな手のひらが触れ、指の隙間にネイの細長く美しい指が差し込まれる。耳に吐息がかかり、首筋から立ち上るネイ自身の香りが鼻腔をくすぐる。

「……水月くん」

名前を呼ばれる度に思考が鈍る。理性が削り取られていく。鼓動が早まり、思考を置いてけぼりにする。

「ネ、ネイ……さん」

やめろと、嘘だと叫ぶ理性が、嘘でもいい騙されてもいいんだと泣き喚く劣情に突き飛ばされる。

「…………信じて」

碧眼が白い瞼の下に隠されて、唇に柔らかいものが触れた。
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