上 下
1,453 / 1,942

絶対に嘘だ (水月×ネイ+サキヒコ)

しおりを挟む
正直言って、ネイのことは全く分からない。意図も過去も何もかも。俺も話があるだなんて格好付けてみせたが、盗聴器を握った手が震えてきた。

「……ネイさんから話してください。年功序列がこの国の基本ですから」

今、ネイのことは何一つ信用出来ない。

「そうさせてもらいます。では早速……今一緒に話していた方はどちらに?」

ネイは顔を傾けて耳を見せる。黒い何か、機械のような物が付いた耳を。通常のワイヤレスイヤホンの形をしていないのは、受信機能だとかの分だろう。機械の役割を察した俺は手の中の盗聴器同士が擦れ合うように握り、弄ってみた。

「……っ、意地悪ですね」

「サキヒコくん、出てきて」

俺の背後からサキヒコがひょこっと顔を出す。

「幽霊……だそうですね。本物は初めて見ました。ミタマというのは妖怪でしたっけ? ふふ……聞いた時は頭がおかしいのかと思いましたよ」

「…………詳しいですね」

「白状しますよ、後からボロが出ると余計不審がられるというのが今日よく分かりましたから。結構前からこの家には盗聴器を仕掛けていたんです、昨日全部見つけられちゃいましたけど……盗聴器発見機を持ってくるなんて、何か不審がられていたんですかね?」

昨日は丸々一日留守にしていた。母達が何をしていたのかはまた今日の夜聞くとしよう。

「……俺あんまり頭良くないし、直球で聞きますね。どうして俺の家や部屋……俺にまで盗聴器仕掛けたんですか? っていうか、こういうの普通の人手に入れられませんよね?」

「どこから話したものでしょうか」

「全部、お願いします」

「そうですねぇ……まず、日本に越してきたというのは嘘です。私は日本生まれ日本育ち、アメリカに住んだことありません。ノヴェムは離婚した後に向こうで産まれた子です、ちゃんと会ったことはありませんでした。妻……元妻が死んだので引き取って来たんです」

「…………そう、ですか。え? じゃあ……あの、銃創は?」

「日本にも銃はありますよ。前に言ったでしょう? 私はこの国の安寧と秩序を守るお仕事をしています、そういうこともあるんですよ」

ある……か? あるかなぁ……銃を扱う職種と言ったら警察か猟師、東京で猟師の仕事が出来るとは思えないから警察かな。でも、警察は銃を持てるってだけで、警察の方が撃たれることなんて……ドラマみたいな銃撃戦なんて、日本ではまず滅多にないと思うのだが。

「警察ですか?」

「……そんなところです」

明確な答えは教えてくれないのか。

(待てよ、ヤクザという可能性もあるのでは? ヤクザはヤクザで裏から国を守ってるんだぜ的な論法もありますからな。馬鹿正直にネイさんが秩序側と考えるのはリスキーでそ)

結局、よく分からないな。

「次は、えぇと……そうですね、何故嘘をついたのか、とか?」

「ええ、それも聞きたいですね」

「……離婚して放っておいた息子を引き取ってきた、より……一緒に住んでいたけれど妻が死んだ、の方が印象がいいでしょう?」

そう言いながらネイは薬指にはめていた指輪を眺める。

「その指輪もフェイクですか?」

「これは本物です。離婚した後も未練がましく着けている、ただそれだけですよ」

信用出来ない言葉だ。しかし指輪を見つめるネイの悲しげな瞳には惹き込まれる。やはりネイは美しい、騙されたくなる。ダメだ、しっかりしろ俺。

「まさかノヴェムが話してしまうとは……大人しくて口数の少ない子だからと油断していました。口裏を合わせておくべきでしたかね、そうした方が子供はボロを出すと思ったのですが……悩ましい」

「あの……俺が一番聞きたいのは、どうして俺の部屋や俺自身に盗聴器を仕掛けたのかってことなんですけど、教えてもらえますか?」

「分かりませんか?」

なんだ? これまで俺が手に入れた情報から推理出来るのか? 全く心当たりがないぞ。だが素直に分からないと言えばまだ誤魔化せると思われるかもしれない。

「まさか、もうだいたい想像はついてますよ。でもあなたの口から聞きたいんです」

痩せて超絶美形になってすぐはゲームでイケメンキャラクターを動かしている気分で生活していた。最近メッキが剥がれてキモオタに戻りつつあるけれど……それでも俺の演技力は大したもののはずだ。ハッタリだとバレない、よな?

「そうですか、なら正直に言うべきですね」

「そうしてください」

ネイは口を開く前にシャツのボタンを上から三つほど外し、鎖骨と胸筋の谷間を僅かに見せた。はだけた胸元に思わず目が行ってしまった隙に、ネイは距離を詰め、するりと俺の首に腕を絡めた。

「……あなたのことが好きなんです」

「はっ……?」

「……初めて見た時から、好きで、好きで……気付けば嘘をついて心象を良くしようとしたり、衝動的にハグやキスを……でもそんなのじゃダメだと、もっとあなたの情報を集めようと……盗聴器を仕掛けました」

何を言っているんだ、この人は。

「未成年にこんな想いを抱いて、盗聴器を仕掛けるなんて……警察どころか人として許されない行為です。ええ、分かっています。でも……それだけ、あなたが好きなんです」

本当、なのか?

「お願いします鳴雷さん……何番目でもいい、都合のいい相手でいいんです。どうかあなたに私を捧げさせてください」

ネイのことは何一つ信用出来ない、先程そう感じたばかりなのに、今はもうその疑念が薄れつつある。震える腕がネイの背に回ってしまう。

「……! ミツキ! 騙されるな! また嘘に決まっている、真実を語っている色をしていない!」

「サ、サキヒコくん……」

「ミツキから離れろ! この詐欺師め!」

そうだ、サキヒコは確か人間の感情が何となく色で見えると前に話してくれた。そんな彼が嘘だと言うのなら間違いない、悲しいが嘘なのだろう。

「そんな……嘘じゃありません水月くん、今まで嘘をついたことは謝ります、私の気持ちに応えてもらえないのも仕方ありません。でも、でも……あなたへの想いだけは本物なんです、信じてください」

嘘、だとして、他に盗聴器を仕掛ける理由は何だ? ネイが警察だとしてもヤクザだとしても、俺に盗聴器を仕掛ける理由がない。思い付かない。

「嘘だ! 騙されるな、さっさと引き剥がしてしまえミツキ!」

いや、そうだ、サキヒコが嘘だと言っているんだ。俺の悪い頭で俺への好意以外で盗聴器を仕掛ける理由が思い付かないからって何だ。サキヒコが言っているのだから間違いない、ネイは嘘つきだ。

「信じて、水月くん……そしてどうか、一晩だけでも思い出を……」

するりと降りた手が俺の手に重なる。手の甲にネイの柔らかな手のひらが触れ、指の隙間にネイの細長く美しい指が差し込まれる。耳に吐息がかかり、首筋から立ち上るネイ自身の香りが鼻腔をくすぐる。

「……水月くん」

名前を呼ばれる度に思考が鈍る。理性が削り取られていく。鼓動が早まり、思考を置いてけぼりにする。

「ネ、ネイ……さん」

やめろと、嘘だと叫ぶ理性が、嘘でもいい騙されてもいいんだと泣き喚く劣情に突き飛ばされる。

「…………信じて」

碧眼が白い瞼の下に隠されて、唇に柔らかいものが触れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる

海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?

犬用オ●ホ工場~兄アナル凌辱雌穴化計画~

雷音
BL
全12話 本編完結済み  雄っパイ●リ/モブ姦/獣姦/フィスト●ァック/スパンキング/ギ●チン/玩具責め/イ●マ/飲●ー/スカ/搾乳/雄母乳/複数/乳合わせ/リバ/NTR/♡喘ぎ/汚喘ぎ 一文無しとなったオジ兄(陸郎)が金銭目的で実家の工場に忍び込むと、レーン上で後転開脚状態の男が泣き喚きながら●姦されている姿を目撃する。工場の残酷な裏業務を知った陸郎に忍び寄る魔の手。義父や弟から容赦なく責められるR18。甚振られ続ける陸郎は、やがて快楽に溺れていき――。 ※闇堕ち、♂♂寄りとなります※ 単話ごとのプレイ内容を12本全てに記載致しました。 (登場人物は全員成人済みです)

ポチは今日から社長秘書です

ムーン
BL
御曹司に性的なペットとして飼われポチと名付けられた男は、その御曹司が会社を継ぐと同時に社長秘書の役目を任された。 十代でペットになった彼には学歴も知識も経験も何一つとしてない。彼は何年も犬として過ごしており、人間の社会生活から切り離されていた。 これはそんなポチという名の男が凄腕社長秘書になるまでの物語──などではなく、性的にもてあそばれる場所が豪邸からオフィスへと変わったペットの日常を綴ったものである。 サディスト若社長の椅子となりマットとなり昼夜を問わず性的なご奉仕! 仕事の合間を縫って一途な先代社長との甘い恋人生活を堪能! 先々代様からの無茶振り、知り合いからの恋愛相談、従弟の問題もサラッと解決! 社長のスケジュール・体調・機嫌・性欲などの管理、全てポチのお仕事です! ※「俺の名前は今日からポチです」の続編ですが、前作を知らなくても楽しめる作りになっています。 ※前作にはほぼ皆無のオカルト要素が加わっています、ホラー演出はありませんのでご安心ください。 ※主人公は社長に対しては受け、先代社長に対しては攻めになります。 ※一話目だけ三人称、それ以降は主人公の一人称となります。 ※ぷろろーぐの後は過去回想が始まり、ゆっくりとぷろろーぐの時間に戻っていきます。 ※タイトルがひらがな以外の話は主人公以外のキャラの視点です。 ※拙作「俺の名前は今日からポチです」「ストーカー気質な青年の恋は実るのか」「とある大学生の遅過ぎた初恋」「いわくつきの首塚を壊したら霊姦体質になりまして、周囲の男共の性奴隷に堕ちました」の世界の未来となっており、その作品のキャラも一部出ますが、もちろんこれ単体でお楽しみいただけます。 含まれる要素 ※主人公以外のカプ描写 ※攻めの女装、コスプレ。 ※義弟、義父との円満二股。3Pも稀に。 ※鞭、蝋燭、尿道ブジー、その他諸々の玩具を使ったSMプレイ。 ※野外、人前、見せつけ諸々の恥辱プレイ。 ※暴力的なプレイを口でしか嫌がらない真性ドM。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...