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正午の訪問者 (〃)
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話し合いの結果、簪は彼岸花をモチーフに作ることが決まった。
「彼岸花となるとつまみ細工じゃない方がいいな」
「そうなの?」
「花びらが細長いだろ? まず、ちりめんを細長く切ってだな……」
赤い布を細長く切って、半分に折り目を付ける。
「真ん中に針金を通す」
折り目に針金を置き、折った際に内側になる面に手芸用ボンドを塗り広げる。折り目に合わせて折り、針金入りの細長い布を作る。
「これをいっぱい作る。五本まとめて百合っぽい形にしたのをまた五個くらいまとめれば彼岸花っぽくなる」
「へぇー……」
「雄しべは針金じゃちょっと頼りないから、それよりはちょっと太い真鍮を使う。いい感じに曲げたのを何本か作ったら、全体を赤く塗装する。彼岸花を思い浮かべてもらうと分かるんだけど、雄しべの先は丸っこいの付いてるだろ? アレの再現は赤に着色したレジンでやる。真鍮の先端にまる~く纏わせてUVライトを当てて固めるんだ」
真鍮とレジン、UVライトなどを並べながら説明した。実践はまだだ。
「あ、俺もこれ持ってる! UVライト!」
「ハルもレジンやるのか?」
「ネイル!」
ハルは赤く塗られた爪を見せてくれた。
「へぇ……マニキュアってUVライト使うのか。塗って乾かすだけだと思ってたよ」
「マニキュアはそうだよ。デコるならライト使うの。みっつんネイルアートも美味そうだよね」
「えぇ? いやいや……出来ないよ。絵は苦手なんだ」
そんな話をしながら手を進める。ハルは俺の手元に影がかからない位置を選んで興味深そうな目を向けている。
「……見てて楽しいか?」
「うん!」
「ならいいけど……同じ作業何回もするから、暇だったらアキの部屋にでも行っていいからな」
「全然暇じゃないってばぁ。せっかくみっつんと二人きりなのに、どっか行く訳ないじゃん」
「……でも、相手出来ないし」
「話してくれてるからいーのっ。それに、集中してるみっつんの横顔……すごく素敵」
俺の手元を見ていたはずのハルの目は、いつの間にか俺の顔をじっと見つめていた。視線に気付き、言葉に照れ、顔が熱くなる。
「あははっ、みっつん照れてる~……ふふ、ねぇ……俺話しかけてるの邪魔だったりする?」
「ううん、話すくらいしか出来なくてハルが退屈してないか心配になっただけ」
「そっかそっか~、よかったぁ」
「あぁ、でもなハル、真鍮塗るのにはラッカー使うつもりだし、レジンもあんまり傍で吸い込むのはよくないから、花びら作り終わって雄しべの作業に入ったら出てってくれよ?」
「え~……みっつんはいいのに?」
「俺はマスク二重にするし、窓も開けるから。窓開けたら暑いぞ?」
「んー、考えとく」
出ていってくれるか不安になってきた。花びらを作り終えたらちゃんと説得しないとな。
それからしばらく、正午頃のこと。
「それでさ~、姉ちゃんがさぁ~……ん? みっつん、誰か来たよ?」
インターホンが鳴った。
「何か頼んだ感じ? 俺出ていい?」
「あぁ、多分荷物だ。頼むよ」
届け物には心当たりがあった。何って? 大人の玩具だよ言わせんな。本人確認はもちろんハンコもサインもいつもしていないから、ハルに受け取りを頼んでも大丈夫だろうと彼を見送った。
「みっつんみっつんみっつ~ん!」
たたた、と愛らしい足音の後、扉が開いた。
「その辺置いといてくれ」
俺は手元から目線を外さず、そう言った。
「違うのみっつん、荷物とかじゃなくてさ~……ピザ持った人なの~、でも配達の人とかじゃなくてさ~。ちょっと来てよぉ~」
どうやらハルは覗き窓から確認した人物が不審だったために扉を開けずに戻ってきたらしい。手を止め、玄関に向かい、覗き窓から外を確認し、俺はドアチェーンを外した。
「すいません、お待たせしまして……」
「誰~……?」
ハルは俺の左腕を掴み、不安げな声を出す。
「ご近所さんだよ。ネイさん」
「Hello! 水月くん。よければお昼ご一緒に……おや、そちらははじめましてデスね。ネイ・スネーキーズと申すデスよ。麗しきレディ」
「あ……は、はじめまして。霞染 初春です……」
ハルが俺の腕を離し、頭を下げる。微笑ましく見守っていると足にドンッと何かがぶつかってきた。見下げれば金髪に半分隠れた満面の笑みがある。
《お兄ちゃん!》
「お、ノヴェムくん。こんにちは」
「こんにちはー?」
「上手上手。ネイさん、とりあえず上がってください。ダイニングすぐエアコン入れますから」
ノヴェムを抱き上げ、ネイをダイニングに通す。ネイは抱えていた数箱のピザをテーブルの真ん中に置き、腕からぶら下げていたエコバッグの中身を俺に見せた。
「コーラ買ってきたんですよ、冷蔵庫借りても?」
「あ、はい。もちろん。それで、えーと……このピザはもしかして」
「はい、一緒にお昼食べようかと思って。ノヴェムがそうねだるもんですから」
「あぁ、すいません、ありがとうございます。すぐみんな呼びますね」
俺はセイカにメッセージを送り、アキの部屋に居た者達を呼びつけた。アキとミタマはピザにはしゃいでいるようだが、セイカは挙動不審だ。
「……ミツキ、私は出ない方がいいよな?」
「そう……だね。ごめん。ぁ、俺の分つまみ食いしてもいいからね」
「ありがとう、そうさせてもらう」
食事が出来るのなら幽霊ということを隠してネイに紹介してもよかったが、そうではないのだから存在ごと隠さなければならない。サキヒコの存在と正体は母と彼氏達にだけ伝えるつもりだ。
「彼岸花となるとつまみ細工じゃない方がいいな」
「そうなの?」
「花びらが細長いだろ? まず、ちりめんを細長く切ってだな……」
赤い布を細長く切って、半分に折り目を付ける。
「真ん中に針金を通す」
折り目に針金を置き、折った際に内側になる面に手芸用ボンドを塗り広げる。折り目に合わせて折り、針金入りの細長い布を作る。
「これをいっぱい作る。五本まとめて百合っぽい形にしたのをまた五個くらいまとめれば彼岸花っぽくなる」
「へぇー……」
「雄しべは針金じゃちょっと頼りないから、それよりはちょっと太い真鍮を使う。いい感じに曲げたのを何本か作ったら、全体を赤く塗装する。彼岸花を思い浮かべてもらうと分かるんだけど、雄しべの先は丸っこいの付いてるだろ? アレの再現は赤に着色したレジンでやる。真鍮の先端にまる~く纏わせてUVライトを当てて固めるんだ」
真鍮とレジン、UVライトなどを並べながら説明した。実践はまだだ。
「あ、俺もこれ持ってる! UVライト!」
「ハルもレジンやるのか?」
「ネイル!」
ハルは赤く塗られた爪を見せてくれた。
「へぇ……マニキュアってUVライト使うのか。塗って乾かすだけだと思ってたよ」
「マニキュアはそうだよ。デコるならライト使うの。みっつんネイルアートも美味そうだよね」
「えぇ? いやいや……出来ないよ。絵は苦手なんだ」
そんな話をしながら手を進める。ハルは俺の手元に影がかからない位置を選んで興味深そうな目を向けている。
「……見てて楽しいか?」
「うん!」
「ならいいけど……同じ作業何回もするから、暇だったらアキの部屋にでも行っていいからな」
「全然暇じゃないってばぁ。せっかくみっつんと二人きりなのに、どっか行く訳ないじゃん」
「……でも、相手出来ないし」
「話してくれてるからいーのっ。それに、集中してるみっつんの横顔……すごく素敵」
俺の手元を見ていたはずのハルの目は、いつの間にか俺の顔をじっと見つめていた。視線に気付き、言葉に照れ、顔が熱くなる。
「あははっ、みっつん照れてる~……ふふ、ねぇ……俺話しかけてるの邪魔だったりする?」
「ううん、話すくらいしか出来なくてハルが退屈してないか心配になっただけ」
「そっかそっか~、よかったぁ」
「あぁ、でもなハル、真鍮塗るのにはラッカー使うつもりだし、レジンもあんまり傍で吸い込むのはよくないから、花びら作り終わって雄しべの作業に入ったら出てってくれよ?」
「え~……みっつんはいいのに?」
「俺はマスク二重にするし、窓も開けるから。窓開けたら暑いぞ?」
「んー、考えとく」
出ていってくれるか不安になってきた。花びらを作り終えたらちゃんと説得しないとな。
それからしばらく、正午頃のこと。
「それでさ~、姉ちゃんがさぁ~……ん? みっつん、誰か来たよ?」
インターホンが鳴った。
「何か頼んだ感じ? 俺出ていい?」
「あぁ、多分荷物だ。頼むよ」
届け物には心当たりがあった。何って? 大人の玩具だよ言わせんな。本人確認はもちろんハンコもサインもいつもしていないから、ハルに受け取りを頼んでも大丈夫だろうと彼を見送った。
「みっつんみっつんみっつ~ん!」
たたた、と愛らしい足音の後、扉が開いた。
「その辺置いといてくれ」
俺は手元から目線を外さず、そう言った。
「違うのみっつん、荷物とかじゃなくてさ~……ピザ持った人なの~、でも配達の人とかじゃなくてさ~。ちょっと来てよぉ~」
どうやらハルは覗き窓から確認した人物が不審だったために扉を開けずに戻ってきたらしい。手を止め、玄関に向かい、覗き窓から外を確認し、俺はドアチェーンを外した。
「すいません、お待たせしまして……」
「誰~……?」
ハルは俺の左腕を掴み、不安げな声を出す。
「ご近所さんだよ。ネイさん」
「Hello! 水月くん。よければお昼ご一緒に……おや、そちらははじめましてデスね。ネイ・スネーキーズと申すデスよ。麗しきレディ」
「あ……は、はじめまして。霞染 初春です……」
ハルが俺の腕を離し、頭を下げる。微笑ましく見守っていると足にドンッと何かがぶつかってきた。見下げれば金髪に半分隠れた満面の笑みがある。
《お兄ちゃん!》
「お、ノヴェムくん。こんにちは」
「こんにちはー?」
「上手上手。ネイさん、とりあえず上がってください。ダイニングすぐエアコン入れますから」
ノヴェムを抱き上げ、ネイをダイニングに通す。ネイは抱えていた数箱のピザをテーブルの真ん中に置き、腕からぶら下げていたエコバッグの中身を俺に見せた。
「コーラ買ってきたんですよ、冷蔵庫借りても?」
「あ、はい。もちろん。それで、えーと……このピザはもしかして」
「はい、一緒にお昼食べようかと思って。ノヴェムがそうねだるもんですから」
「あぁ、すいません、ありがとうございます。すぐみんな呼びますね」
俺はセイカにメッセージを送り、アキの部屋に居た者達を呼びつけた。アキとミタマはピザにはしゃいでいるようだが、セイカは挙動不審だ。
「……ミツキ、私は出ない方がいいよな?」
「そう……だね。ごめん。ぁ、俺の分つまみ食いしてもいいからね」
「ありがとう、そうさせてもらう」
食事が出来るのなら幽霊ということを隠してネイに紹介してもよかったが、そうではないのだから存在ごと隠さなければならない。サキヒコの存在と正体は母と彼氏達にだけ伝えるつもりだ。
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