冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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誘拐未遂を話すか否か (水月+サキヒコ・セイカ・アキ)

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サキヒコの紹介も済んだところで本題だ。

「セイカ、ちょっとアキに聞いて欲しいことがあるんだ。真面目な話」

「……分かった」

俺は先程駅前で警察官に声をかけられたことを話した。セイカは目を見開いたり顔を青ざめさせたり、コロコロと表情を変えた。随分と健康的になったものだ、達成感すら覚える。

「大変なことになってたんだな……誘拐未遂に、暴力沙汰か」

「セイカも聞いてなかったんだな」

「ああ、どの日のことか検討もつかない。秋風!」

セイカはアキを呼び、俺には分からない言葉で話し始めた。今話した内容を全て伝えるには時間がかかるだろう、暇潰しにサキヒコの頬でもつつくかな。

「ん、なんだミツキ」

俺に身体を半分隠していたサキヒコが丸い目で俺をみあげる。ミフユは少し吊った猫目だが、サキヒコは優しい目をしている。

「触れるな~って」

「……ふふ。喜んでくれたようでよかった。その、ミツキ……閨を共にする覚悟は出来ているから、気分になったら声をかけて欲しい」

いつでもセックスしていいよってことだよな!? そう叫ぶのは堪えた。今まで散々痴態と奇声を晒しておいて何だが、品性のあるフリをしたくなったのだ。

「サキヒコくんから誘ってくれてもいいんだよ?」

キメ顔を作ってみる。俺の予想ではサキヒコは顔を真っ赤にして俯くか、照れ隠しに怒るか……どちらかだと思っていたのだがどちらでもなく、俺を真面目な目で睨み上げた。

「……私はそんな恥知らずな真似は出来ない。いつでも……と、言っただけでも十分……なのに…………男を見せろ、ミツキ」

なるほど。数十年前の人間であるサキヒコにとって、セックスのお誘いを女性からするのは定石ではなく、自分は抱かれる側なので女性の振る舞いを真似ている……と言ったところかな?

「ごめんね、もちろんそうさせてもらうつもりだけど……俺えっちな子も大好きだから」

「えっち」

「あー……スケベ? 色好み? 色狂い……は言い過ぎかな。交尾大好きな子ってこと!」

「……! そんな大声でっ……ミツキの変態!」

こっちは怒るのか。

「えっと……鳴雷、話終わったんだけど……そっちは? イチャつき終わった?」

「あっ、ごめんごめんセイカ。アキなんて?」

「ノヴェムを迎えに行った時に、ノヴェムを変なおっさんが抱っこしてたから奪い返したって。要するにまぁ、事実を認めたってわけ。何日かはよく覚えてないってさ。秋風は大した出来事じゃないと思ってたみたいだ、思い出すのにも結構かかってたしな」

アキは特に曜日感覚とかなさそうだな。

「そうか……だから俺にもセイカにも何も言わなかったんだな。後はノヴェムくんにも話を聞きたいな、本当に知らない人だったのかどうか」

「……知ってるおっさんだったらなんか言うだろ。ほっとけよ」

「いや、言わないよ。あの年頃の子は大事になりそうなことは怖くて黙っちゃうんだ。善悪、損得、抜きにしてな」

「さっきの嘘。知らないおっさんだったらトラウマもんだろうから、蒸し返してやるなよ……もう終わったことなんだから」

終わってなんかいない。誘拐犯だったかもしれない男は捕まっていない、アキに蹴り倒されただけだ。アキを恨んでいるかもしれない、まだノヴェムを諦めていない可能性だってある。情報を増やさなければ。

「…………いや、聞きに行こう。日曜だし多分家に居るだろ」

「まっ、待てよ! 今日はダメだ! ネ、ネイが……居る」

「あぁそうだネイさんにも言っとかないと」

「……それは、言わなきゃだけど、でも、ダメだ。やめとこう……ほ、ほら、親子水入らず邪魔しちゃ悪いし」

必死な様子のセイカの額に触れる。湿っている……汗か。冷や汗だな。

「…………そうだな。うん。明日にしようか」

「う、うん……親子バラバラに、な」

様子がおかしいな。親子水入らずがどうとかは本心じゃないだろう、親子どちらもに話すこともバラバラなら許容した、つまり……

「……セイカ、ネイに会いたくないのか?」

「え……い、いや、そんな」

「変なあだ名つけられてるもんなぁ。セイカ元ネタ知らないだろうから意味分かんないもんな? 欠損のある漫画の主人公のことなんだけどさ。それとなくネイさんにあだ名呼びやめるか普通の愛称にするよう言っとくよ」

「…………うん」

安心したようだ。やっぱりあだ名の件だったんだな。ネイにはよく言っておかないと。

「そっか。よし、わかった。ところでさ、セイカ。誘拐未遂に暴力沙汰を大したことがないと判断して何にも言わなかったアキ……どう思う?」

「どうかと思う」

「あぁ……このままじゃアキと人を傷付けないって縛りを結んでも、アキが人をぶん殴ってもペナルティが発生しない可能性がある」

「鳴雷」

「はい」

「急に漫画の話するのやめろ。対応出来ない。あと俺多分その漫画読んでない、心当たりがない、読んでない漫画のネタ振るな」

「ガコンッするまで待てってことね」

「鳴雷」

「はい」

「同文」

「……はい」

説教を「同文」なんて略され方することある?

「秋風に報告の基準下げるよう言っとくから、お前はもう家戻ったらどうだ? 霞染来てもインターホン鳴らして誰も出ないんじゃ帰っちまうぞ」

「あぁそっか、庭回ってこっち来るよう言っとかないと」

「……おい」

「冗談だよ、道具はほとんど部屋にあるし、部屋戻っとく。またな二人とも、挿入は禁止だぞ」

「少しは下ネタ控えろよお前」

立ち上がり、部屋を去る。ドアノブに手をかけたところでアキに腕を掴まれる。

「にーにっ! にーにぃ、どこ行くするです?」

「俺のお部屋だよ。ハルと約束があるんだ」

「はる……? はる、えっちするです?」

「それはどうかなぁ、しないかも」

「…………にーに、学校行くする。家居ないするです。にーに、学校休むする、でも、家居ないするです。家居るする、でも……にーにぃ、ぼく、一緒する……しないです」

平日は学校とバイトでほとんど家に居ないくせに、昨日は泊まりで今日はお家デート、自分に全然構ってくれないと不満を口にしているらしい。

「アキ……ごめんな、また今度必ず……」

《…………もういい。さっさと行け、バカ兄貴》

ドン、と俺を突き飛ばし、アキはベッドに戻った。俺に背を向けて不貞腐れたように寝転がっている。

《シャワー浴びてから寝ろよ、筋トレしたんだから》

《しばらく何にもしたくない……》

アキの返事を聞いたセイカは「やれやれ」といった表情だ。そこまで深刻ではなさそうだが、俺には元気づけられないだろう。俺は何も言えないまま部屋に戻った。
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