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弟の映像 (水月・フタ・ミタマ・サキヒコ)

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一日で兄弟三人の初めてをいただいた。きっと、人生におけるトロフィーを獲得した。

「お腹減ったぁ~」

「朝ご飯食べましょ」

「アラーム鳴ってねぇし……」

「フタさんが寝てる間に鳴ったんですよ。だから起こしたのにフタさん起きなくて……アラームはもう鳴ったんです、だから、早くご飯食べないと」

「そっかぁ、教えてくれてありがとうみつきぃ。朝ごは~ん……」

フタは冷蔵庫から取り出した惣菜パンをレンジに放り込んだ。俺の分ないのかな。

「あの、フタさん、俺も朝ご飯食べたいんですけど……」

「はいはーい、みつきの~……んー、何にもないなぁ~」

朝食になりそうな物が入っていない冷蔵庫を眺め、フタは眉を八の字に歪める。

「……これ食べるぅ?」

冷蔵庫を閉めたフタは猫缶を持った。腹は減っているが人のプライドを捨てられるほどではない、俺は首を横に振った。

「いいです。帰りに何か買いますから」

「そっか~」

「……俺、そろそろ帰りますね」

「帰んの? ふーん……送ってこうか?」

「いいですよ。フタさんこの後すぐ仕事でしょ、またヒトさんに怒られちゃう……フタさんは早くご飯食べてください。では、また今度!」

チンと鳴ったレンジを指し、目線を逸らしたフタの頬にキスをする。驚いて目を見開く彼に手を振り、部屋を後にした。

「腰は平気か?」

エレベーターに一人で乗ったはずなのに、両脇にそれぞれサキヒコとミタマが居る。

「平気だよ、大したことない。ありがとうサキヒコくん」

「……ミタマ殿、神通力で腰の治療などは出来ませんか?」

「ワシに叶えられる願いなど、運でどうにかなる事柄くらいのもんじゃ。そうじゃのう、重症化したり長引いたりはせんように……そのくらいかの」

サキヒコはパンパンと手の甲をぶつけ合い、手の甲を合わせたままミタマに向かって頭を下げた。

「逆拍手……!? な、何やってんのサキヒコくん! それ縁起悪いんだよ!」

「死んどるからしゃーない。死人は色々逆さになってしまうもんなんじゃ。さっちゃん、拍手はこうじゃぞ」

ミタマはサキヒコの手首を握って正しい拍手をやらせた。

「申し訳ありません……普通にしたつもりだったのですが、何故か……」

「そういうもんなんじゃよ死人って。気にするでない」

少し気味が悪いな、と先程自然に逆拍手をしていたサキヒコの姿を思い出し、身震いする。

「あ、フタさんのカノジョ」

エレベーターを降りて少し歩くと従業員とすれ違った。

「今からお帰りっすか?」

「はい、お邪魔しました」

「っす。お疲れ様っす」

何気ない会話、会釈を残して事務所を後にした。

「ねぇねぇ二人とも」

エレベーターを降りた瞬間姿を消した二人は事務所を出た時にはいつの間にかまた隣に並んでいた。

「お疲れ様ってさ、セックス……聞こえてたとかじゃないよね? 昨夜はお楽しみでしたね的なこと? ち、違うよね?」

「カカカッ! そら分からんのぅ、くふふ……」

「占ってよぉ」

「無駄遣いはよくないぞミツキ! 占ってどうするんだ、事実は変わらないぞ」

確かに、未来を占うのとは違って何の生産性もないけれど、モヤモヤはなくなる。安心か絶望、どちらで心を満たすべきか決まるのだ。

「無駄遣いって……あっそうだ、無駄遣いと言えば俺朝ご飯食べたかったんだ。どうしようかな~」

コンビニで適当に済ませるか、パン屋で焼きたてを狙うか、定食屋にでも入って和風な朝を過ごしてみるか、悩ましい。

「……サキヒコくんってご飯食べれるの?」

今まではサキヒコが食べた物は量は減らず味だけが減っていた。だが、実体化した今はどうだ? 食べられるのでは?

「……? 食べられるぞ? ミツキは今までたくさん食べさせてくれたではないか」

「あ、いやいや、食べた物減るのかってこと」

「減らんよ。実体化しようと肉体がある訳ではない。霊体が消費出来るのは霊力のみ、これまで通りじゃ」

「……そうなんだ」

三人で和食、なんてのもいいなと思っていたのに残念だ。なんだか寂しい。

「コンビニ寄ろ。コンちゃん稲荷寿司要る?」

「買ってくれるのかっ?」

気分が萎えた。コンビニで一番コスパのいい惣菜パンを探そう。



自宅最寄り駅まで帰ってきた。道中のコンビニで買ったパンを開封し、食べながら家へと向かう。

「すいません、ちょっとよろしいですか」

駅から出たところで警察らしき制服に身を包んだ男に声をかけられた。そういえば駅前には交番があったな。

「何もしてませんし持ってませんし犯罪願望とかもないです」

「い、いえいえ……少しお聞きしたいことがありまして」

なんだ、聞き込みか? そういうのって刑事がするんじゃないのか? お巡りさんもするの? なんて雑な知識で困惑していると、彼はタブレットの画面を俺に見せた。

「こちらの方に見覚えは?」

駅前の防犯カメラの映像のようだ、映像と言っても今は停止しているけれど。警察官が指しているのは雨でもないのに黒い傘を差した黒づくめの──アキじゃねぇか!

「…………すいません、警察手帳とか見せてもらっても?」

「あぁ、はいはい。いいですよその警戒心。はい、これで信用していただけますかね」

「わー……実物初めて見た」

ちょっとテンション上がっちゃうなぁ。

「えっと、多分弟です。顔とか見えないけど……この格好いつもしてますから」

「弟さんでしたか。以前、ご一緒に駅を利用している姿をお見かけしたのでお声掛けさせていただいたんです」

よく覚えてるなぁ、警察ってすごい。いや、俺とアキが超絶美形だからかな? なーんて。

「……それで、ですね。こちらの映像なんですが」

映像が動き出す。傘を差しているのでよく分からないが、アキはキョロキョロと何かを探しているようだ。一人で何をしているんだろうと観察していると、アキは真っ直ぐに小太りの中年男性の元へ向かった。

「あっ……!?」

金髪の子供を抱いた中年男性を蹴り倒し、アキは子供を抱きかかえ脱兎のごとくその場を去った。

「…………弟がすいませんでしたァ!」

自分の足に頭突きをするような勢いで頭を下げた。

「顔を上げてくださいお兄さん。えっとですね、この件についてお話を聞こうと……以前弟さんにお声掛けをしたんですが、逃げられてしまって。いやぁ速い。その時も子供を抱っこしてらしたんですが、三兄弟ですか?」

「子供……あぁ、近所の子ですね。親御さんがシングルさんなので、仕事終わるまでウチで預かってるんです。アキちゃんと毎日迎えに行ってるんだなぁ……」

ん? あぁそうか、映像の中でアキが連れて逃げたのがノヴェムか。じゃああのおっさん誰だ?

「…………あの、アキが蹴ったおじさん……知らない人です。その近所の子、引っ越してきたばかりだし……親御さんも他に頼る親戚とか知り合いとか居るなら、ただの近所の俺の家に預かり頼まないと思いますし…………そのおじさんが不審者かも、です。ゃ、弟可愛さに言ってるんじゃなくて……本当に」

「ええ、私共もそちらの疑いを持っています。なので弟さんにお話を聞きたかったのと、あと……仮に不審人物だったとしても、一人で立ち向かうのは危険ですので……私共を頼るようご指導いただければと」

「はい……すぐ手が、というか足が出るタイプなのは、本当……はい。すいません、ありがとうございました。弟には言っておきます。それでは……」

ぺこぺこ頭を下げながら足早にその場を離れた。ただでさえ超絶美形なのに余計に目立ってしまった。

「はぁ……聞いてないよ、あんなことしてたなんて」

「なんだミツキその顔は。誘拐を未然に防いだのなら褒めるべきではないか」

「それはね。でも誘拐未遂っぽいなら情報共有してもらわないとさ。帰ったら聞いてみないとなぁ」

実際聞くのはセイカだけど、とアキが日本語を勉強する気を失いつつあることに再び深いため息をついた。
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