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テレビばっかり (水月+フタ・サキヒコ)

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フタは部屋着に着替え終えていた。灰色のスウェットだ。白猫と黒猫を抱いていたが、俺が近付くと猫達はキャットタワーに逃げ込んだ。

「フタさん、パジャマって余りあります? 泊まりの予定なかったから服は持ってきてなくて……」

「服? 服はそこ」

この部屋にはクローゼットもタンスもない。隅にハンガーラックがあるだけだ。フタはそれを指した。

「ここですか……」

フタがよく着ているタンクトップ数枚、デニムとカーゴパンツ二枚ずつ、灰色のスウェット上下ワンセット。まさかこれがフタが持っている服の全てなのか? 刺青隠しの上着は? サンの家か?

「これ着ていいですか?」

「いいよ~」

「ありがとうございます。着替えてきますね」

他に服が保管されていそうな場所はない。部屋には飾り気がないし、服もあまり持っていないし……本当にそういうのに興味がないんだな。家電は最新の物ばかりだけど数自体が少ないから家電好きという訳ではないだろう。趣味とか好きなものとかないのかな。

「猫の毛まみれだな……」

柔軟剤の匂いは確かにする、しかし猫臭くもある。

「ヒトさんに着せたら死にそう」

灰色の服だから白い毛も黒い毛も目立つ。無意味と分かっていたが軽く払い、フタの元に戻った。

「フータさんっ、ほらほらお揃いですよ」

「おそろい?」

「服、同じです」

フタは裾を引っ張って自分の服を見下ろす。

「ほんとだ、同じ色だねぇ」

色以外も全部同じなんだけどな、と思いつつ微笑み返す。フタは俺の頭をぽんぽんと撫でるとソファに座り、テレビを点けた。

(しばらく構ってもらえなさそうですな)

芸人が身体を張るタイプの番組だ。水中に落とされたり握ったペンやドアノブに電流が流れていたり……俺はあんまり好きなタイプの番組じゃないな、漫才やコントならまだ観るんだけど。

(フタさん集中して観てますなぁ)

フタの肩に頭を預けたり、太腿をさすったり、手を繋いだり、色々としてみたけれどほとんど反応がない。

(……寂しい)

目の前に居るのにスキンシップも会話もろくに交わせない。寂しさに耐え切れなくなった俺は立ち上がり、寝室に移った。

「はぁ……サキヒコくん、居る?」

ベッドに腰掛けてそう呟くとサキヒコが目の前に現れた。

「なんだ?」

「……フタさん相手してくれなくて寂しい」

「確かに相手にされていなかったな、あんなにまとわりついていたのに」

「お膝座ってよサキヒコくん、俺の方向いたままね」

「……! うん」

サキヒコはほんのりと顔を赤らめて俺の膝に座った。対面で座って欲しかったのだが、着物を着たまま足を開くのは難しいのか彼は俺に対して横向きに座り、身体をひねって俺の方を向いた。

「ミツキ……」

「触っていい?」

「うん……」

肩を抱き、太腿を撫でる。口数が少なくなり俯いてしまうのは嫌がっているからではなく照れているから。そう感じ取った俺は彼を抱き寄せ、真っ赤なのに冷たい不思議な頬に唇を寄せた。

「……! ミ、ミツキ……その、私……」

「ん?」

「海で、ミツキと初めて会った時……引きずり込もうとした、殺そうとしたんだ」

「……うん、でもサキヒコくんの意思じゃなかったんだろ? 見つけられなくて供養されずにいて……海に囚われて、犠牲者を増やす疑似餌みたいにされてたって話だったよね」

「…………完全に私の意思ではなかった訳ではない、寂しかった……誰でもいいから傍に居て欲しかった。最初に引きずり込むのに失敗して、ミツキに逆に引き上げられたのはびっくりした。でも、私を必死に温めようとしてくれて……嬉しくて、こんなに優しい人ならきっとずっと一緒に居てくれるって、ますます…………ごめんなさい、ミツキ」

「いいんだよ、謝らないで。サキヒコくんとこうして過ごせて俺すっごく幸せだから、今はもうあの時のこと怖くないんだ。だから、アレは馴れ初め。そんな顔して話さないで、ね?」

サキヒコは小さく頷く。綺麗に切り揃えられたパッツン髪が揺れて、触れたくなった。太腿を撫でていた手で髪を梳くとサキヒコは心地良さそうに目を細めた。

「ミツキ……私、今とても温かい」

「本当? 触った感じ冷たいし、抱っこしてても全然温まらないんだけど」

ただクッションを抱いているだけでも次第に自分の体温が移り、温かくなるはずだ。けれどサキヒコには一切俺の体温が移らない。氷のように冷た過ぎて熱が移っていくように感じないのではない、断熱性が高いとかそういう話じゃない。この世の法則に反しているのだ。

「そうなのか? 私はとても温かく感じているのに……あっ、寒くないか? 私は冷たいのだろう、触れていて大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫、ひんやりしてて気持ちいいよ」

「そうか、よかった……そうなると、この先涼しくなっていくと触れ合いにくくなるのか」

「コタツでアイス、みたいな感じで逆にイイと思うよ。温まりながら冷たいサキヒコくん抱っこするの気持ちいいと思うな」

「あいす……氷菓だったか。炬燵であんなものを食べるのが当代の流行なのか? なら安心だな」

サキヒコは柔らかい笑みを浮かべて俺にもたれかかる。

「私はこうしてミツキと密着しているのが好きなようだ。夏が終わってもこうしていていいんだな」

「俺もサキヒコくんとベッタリしてるの好きだよ。もちろん、三百六十五日いつでもこうしてようね」

「……閏年は?」

「三百六十六日」

「ふふ……ミツキ、その……面と向かって言うのは、少し……その…………躊躇われるのだが、あの……な…………す、好きだっ! 愛してるぞ、ミツキ」

「……俺もサキヒコくんのこと、心の底から愛してるよ」

「はぅ……! 成仏しそうだ……」

「わーっ!? まだダメまだダメ!」

サキヒコの姿が少しずつ薄くなり、小さな身体がふわりと浮かび上がる。

「冗談だ」

ズシッと重さが帰ってくる。不透明度百パーセントのサキヒコがいたずらっぽく笑っていた。
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