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兄弟譲りの危うさ (〃)
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サキヒコは小柄だ、身長はミフユと同じくらいだろう。重さは幽霊だからなのかほとんど感じないが、抱き締めた感触からしてサキヒコの方が痩せ型だろう。昔と今の栄養状態の差かもな。
「……私の頬をつつくのは楽しいか? ミツキ」
「かなりね」
ぷにぷにのほっぺはほんのりと赤く色付いているのに、触れても熱くはない。ずっと冷たい。夏場だから快適だけれど、冬になってもこの調子だとちょっと困るな。
「ミツキが、その……異常性欲者だというのは、背後から見てきた結論だったのだが…………私の触るところは頬なんだな。もっと、その……そういうところを、触られるものだとばかり」
「流石にすぐにえっちなことはしないよ。しばらく一緒に居たけどこうして触れ合うのは初めてだし、サキヒコくんがその気になってくれるの待つよ」
「…………硬くしているくせに。ずっと尻に当たっているぞ、ミツキの……それに、ミツキ、私はもうとっくに……その気、というやつになっているつもりだ。ずっとずっと話すばかりで触れられず、他の男に触れる姿ばかり見てきて……焦らされ、て……だから、もう……待たなくていい、いや、待たないでくれ……ると、嬉しい」
頬をぷにぷにと弄ぶのをやめ、両手で両太腿を鷲掴みにする。
「サキヒコくん足細いね、掴めちゃうよ」
「……肉感のある者でなければ欲情出来んか?」
「まさか! 骨が浮き出てるような子も好きだよ、健康ならね!」
「ふふ、ミツキが何にでも興奮するのは知っている。見てきたからな。しかし……健康なら、という言葉には不安が残る。私はもう死んでいるからな」
「じゃあ病気も怪我もしないからずっと健康だね」
「……ふふふ」
サキヒコの着物の中に手を入れようとして違和感を覚える。バックミラーでミタマの姿を確認し、その違和感の正体が分かった。サキヒコは着物の重ね方が左右逆なのだ。だから普通の着物と同じように手を入れようとすると違和感があったんだ。
「サキヒコくん着物左前なんだね、死装束じゃん。それ別に白いのじゃないのに……生きてる時から着てるヤツでしょ?」
「ん……? 普通に着ているつもりだったが。後で直しておく」
「ねぇ~……みつきぃ~……」
ハンドルにもたれかかるようにしているフタは不満げな声を出す。
「……隣でさ~、あんまりさぁ、こう……さぁ、ん~……なんて言えばいいか分かんない。なんかぁ~…………なんか、やだ」
嫉妬しているのかな? 後部座席に座ろうとした俺を助手席に座らせようとした時の「俺だけだね」という発言からも、フタが嫉妬や独占欲を持っていることは分かってきた。
(そういえば、遊園地デートの後……フタさんの弟分達に私が挨拶した時も……フタさん私をすぐ隠したり、さっさと部屋出させたり……ふほほっ、わたくし愛されてるぅ)
純粋で素直なのがフタだが、聖人君子ではない。負の感情を抱くことは当然あるし、それが恋人の俺に起因するものであることも当然だ。どうして今まで分からなかった? これにもっと早く気付いていれば「俺ばっかり好きなんだ」なんてバカみたいな拗ね方せずに済んだのに。
「みつきはさぁ~……もっとさぁ~……俺が運転してるんだからさぁ~」
「ふふ…………っ!? ちょっ、フタさん! 蛇行運転やめて! 対向車居ないからって!」
「……お~れだけぇ~、見てくれる~?」
「み、見ます! 見ますから!」
「…………ほんとぉ?」
「本当でっ、すぅわっ!?」
嫌な音と僅かな衝撃、振動が伝わった。
「……やっべ擦った」
「何やってんですかフタさん!」
「みつきがぁ~……俺運転してるのに~……他とぉ、わちゃわちゃしてるからぁ~……」
「もぉお可愛い! 可愛いですよフタさん!」
「……っ、ちゃんと叱れミツキ! 運転手は同乗者の生命を守る義務がある! それを子供じみた嫉妬で放棄するなど……! ありえない!」
サキヒコは五十センチ弱はある身長差を縮めるようにふわりと浮かび、フタの額を人差し指で小突いた。
「分かっているのかフタ殿! あなたは今ミツキの生命を危険に晒した! 今もっと重大な事故を起こしミツキが死んだ可能性だってゼロじゃない! 反省しろ!」
「……死んだらさ~、ダメなの?」
「は……!? し、死んだら全てが終わるんだぞ、有り得たかもしれない未来全てが……ありとあらゆる経験をする機会を失い、子孫を抱く機会を失い、大切な人と話すことも出来なくなる……あるじ、さまに……会えなく、なった。ずっとずっと、暗くて冷たくて痛くて寂しかった……それが、駄目なの、だと?」
ぽた、ぽた、と血が滴り落ちる。いつの間にかサキヒコの姿が変わっている、腹部に短剣が刺さり、頭が割れている。死んだ時の姿だ。
「イチもニィもミィも死んでからのが楽しそ~だしぃ……死んでダメなこと一つもないよねぇ?」
「……じゃあ貴様は、ミツキが今ここで死んでもいいと言うのか」
「いいよぉ~? だってぇ、なんかみんな幽霊見えないらしいじゃん? じゃあみつきは見えて話せる俺のとこに居るしか……ぁ? あはっ、あははははっ! そっかぁ……みつき、殺せばずっと俺のかぁ。順番待ちとかいらないしぃ~、仕事中だってずーっとずーっとずっとずっとずっとずっと隣に居てくれるよね~……忘れる暇ないくらい、ずぅっと、さぁ?」
「……さっちゃん、ヌシ……ヤバい気付きを与えてしまったんじゃないかのぅ」
「…………かもしれません。サキヒコ一生の不覚……もう死んでますけど」
「えっ? えっ?」
「今ドスないからさぁ~……ん~、楽に……あっ、首折るね! イチ~、ニィ~、ミィ~、金縛り!」
普段通りにニコニコとしているフタが近付いてくる。怖くて思わず後ずさ……出来ない、体が動かない。指先一本瞬きすら俺の意思では出来なくなった。
「フタ、さん……」
動くのは口だけだ。喋れる。なら、自分で身を守れる。
「フタさん! 知ってましたかキリンって牛と鳴き声一緒なんですよ! カモシカってシカっぽい名前だけど牛に近いんですよ! ツキノワグマよりヒグマの方が大きくてっ、えと、ウサギは寂しいと死ぬって言うけど実はウォンバットの方が寂しいと死ぬ感強い動物で! コアラはウンコ食って大きくなって、ナマケモノは襲われると全身の力を抜いて今生を諦めるんです!」
「…………え?」
「猫が顔を洗うと雨になるらしいですよ」
「へぇ~、みつき詳しいねぇ。賢いねぇ。すごいすごい」
フタは俺の頭を撫でている。サキヒコとミタマはぽかんと俺達の方を見つめている。
「フタさん、早くおうち帰りましょ」
「うん。なんで車降りたんだっけ、なんか用事あった?」
「ミラー擦っちゃったんで様子見てたんですよ。塗装剥げてますけど機能的には大丈夫そうですし、行きましょ」
「うん。行こ。イチニィミィ何してんの? みつき好きんなった? みつき前見えないからこっちおいで」
化け猫達は俺の顔の周りに居たのか? 俺には何も見えないが、フタに呼ばれて俺から離れたようで金縛りが解けた。
「……私の頬をつつくのは楽しいか? ミツキ」
「かなりね」
ぷにぷにのほっぺはほんのりと赤く色付いているのに、触れても熱くはない。ずっと冷たい。夏場だから快適だけれど、冬になってもこの調子だとちょっと困るな。
「ミツキが、その……異常性欲者だというのは、背後から見てきた結論だったのだが…………私の触るところは頬なんだな。もっと、その……そういうところを、触られるものだとばかり」
「流石にすぐにえっちなことはしないよ。しばらく一緒に居たけどこうして触れ合うのは初めてだし、サキヒコくんがその気になってくれるの待つよ」
「…………硬くしているくせに。ずっと尻に当たっているぞ、ミツキの……それに、ミツキ、私はもうとっくに……その気、というやつになっているつもりだ。ずっとずっと話すばかりで触れられず、他の男に触れる姿ばかり見てきて……焦らされ、て……だから、もう……待たなくていい、いや、待たないでくれ……ると、嬉しい」
頬をぷにぷにと弄ぶのをやめ、両手で両太腿を鷲掴みにする。
「サキヒコくん足細いね、掴めちゃうよ」
「……肉感のある者でなければ欲情出来んか?」
「まさか! 骨が浮き出てるような子も好きだよ、健康ならね!」
「ふふ、ミツキが何にでも興奮するのは知っている。見てきたからな。しかし……健康なら、という言葉には不安が残る。私はもう死んでいるからな」
「じゃあ病気も怪我もしないからずっと健康だね」
「……ふふふ」
サキヒコの着物の中に手を入れようとして違和感を覚える。バックミラーでミタマの姿を確認し、その違和感の正体が分かった。サキヒコは着物の重ね方が左右逆なのだ。だから普通の着物と同じように手を入れようとすると違和感があったんだ。
「サキヒコくん着物左前なんだね、死装束じゃん。それ別に白いのじゃないのに……生きてる時から着てるヤツでしょ?」
「ん……? 普通に着ているつもりだったが。後で直しておく」
「ねぇ~……みつきぃ~……」
ハンドルにもたれかかるようにしているフタは不満げな声を出す。
「……隣でさ~、あんまりさぁ、こう……さぁ、ん~……なんて言えばいいか分かんない。なんかぁ~…………なんか、やだ」
嫉妬しているのかな? 後部座席に座ろうとした俺を助手席に座らせようとした時の「俺だけだね」という発言からも、フタが嫉妬や独占欲を持っていることは分かってきた。
(そういえば、遊園地デートの後……フタさんの弟分達に私が挨拶した時も……フタさん私をすぐ隠したり、さっさと部屋出させたり……ふほほっ、わたくし愛されてるぅ)
純粋で素直なのがフタだが、聖人君子ではない。負の感情を抱くことは当然あるし、それが恋人の俺に起因するものであることも当然だ。どうして今まで分からなかった? これにもっと早く気付いていれば「俺ばっかり好きなんだ」なんてバカみたいな拗ね方せずに済んだのに。
「みつきはさぁ~……もっとさぁ~……俺が運転してるんだからさぁ~」
「ふふ…………っ!? ちょっ、フタさん! 蛇行運転やめて! 対向車居ないからって!」
「……お~れだけぇ~、見てくれる~?」
「み、見ます! 見ますから!」
「…………ほんとぉ?」
「本当でっ、すぅわっ!?」
嫌な音と僅かな衝撃、振動が伝わった。
「……やっべ擦った」
「何やってんですかフタさん!」
「みつきがぁ~……俺運転してるのに~……他とぉ、わちゃわちゃしてるからぁ~……」
「もぉお可愛い! 可愛いですよフタさん!」
「……っ、ちゃんと叱れミツキ! 運転手は同乗者の生命を守る義務がある! それを子供じみた嫉妬で放棄するなど……! ありえない!」
サキヒコは五十センチ弱はある身長差を縮めるようにふわりと浮かび、フタの額を人差し指で小突いた。
「分かっているのかフタ殿! あなたは今ミツキの生命を危険に晒した! 今もっと重大な事故を起こしミツキが死んだ可能性だってゼロじゃない! 反省しろ!」
「……死んだらさ~、ダメなの?」
「は……!? し、死んだら全てが終わるんだぞ、有り得たかもしれない未来全てが……ありとあらゆる経験をする機会を失い、子孫を抱く機会を失い、大切な人と話すことも出来なくなる……あるじ、さまに……会えなく、なった。ずっとずっと、暗くて冷たくて痛くて寂しかった……それが、駄目なの、だと?」
ぽた、ぽた、と血が滴り落ちる。いつの間にかサキヒコの姿が変わっている、腹部に短剣が刺さり、頭が割れている。死んだ時の姿だ。
「イチもニィもミィも死んでからのが楽しそ~だしぃ……死んでダメなこと一つもないよねぇ?」
「……じゃあ貴様は、ミツキが今ここで死んでもいいと言うのか」
「いいよぉ~? だってぇ、なんかみんな幽霊見えないらしいじゃん? じゃあみつきは見えて話せる俺のとこに居るしか……ぁ? あはっ、あははははっ! そっかぁ……みつき、殺せばずっと俺のかぁ。順番待ちとかいらないしぃ~、仕事中だってずーっとずーっとずっとずっとずっとずっと隣に居てくれるよね~……忘れる暇ないくらい、ずぅっと、さぁ?」
「……さっちゃん、ヌシ……ヤバい気付きを与えてしまったんじゃないかのぅ」
「…………かもしれません。サキヒコ一生の不覚……もう死んでますけど」
「えっ? えっ?」
「今ドスないからさぁ~……ん~、楽に……あっ、首折るね! イチ~、ニィ~、ミィ~、金縛り!」
普段通りにニコニコとしているフタが近付いてくる。怖くて思わず後ずさ……出来ない、体が動かない。指先一本瞬きすら俺の意思では出来なくなった。
「フタ、さん……」
動くのは口だけだ。喋れる。なら、自分で身を守れる。
「フタさん! 知ってましたかキリンって牛と鳴き声一緒なんですよ! カモシカってシカっぽい名前だけど牛に近いんですよ! ツキノワグマよりヒグマの方が大きくてっ、えと、ウサギは寂しいと死ぬって言うけど実はウォンバットの方が寂しいと死ぬ感強い動物で! コアラはウンコ食って大きくなって、ナマケモノは襲われると全身の力を抜いて今生を諦めるんです!」
「…………え?」
「猫が顔を洗うと雨になるらしいですよ」
「へぇ~、みつき詳しいねぇ。賢いねぇ。すごいすごい」
フタは俺の頭を撫でている。サキヒコとミタマはぽかんと俺達の方を見つめている。
「フタさん、早くおうち帰りましょ」
「うん。なんで車降りたんだっけ、なんか用事あった?」
「ミラー擦っちゃったんで様子見てたんですよ。塗装剥げてますけど機能的には大丈夫そうですし、行きましょ」
「うん。行こ。イチニィミィ何してんの? みつき好きんなった? みつき前見えないからこっちおいで」
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