冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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漸くの実体化 (〃)

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フタのナイスなグッドスメルを肺いっぱいに取り込み、俺はミタマの方を向いた。

「ごめんね、二人にも心配かけたみたいで」

「いや、ワシが間違えたんじゃ。負担をかけてすまんかったのぅみっちゃん。お詫びとして、後でえっちな口付け一回しちゃるから許してくりゃれ」

「えっちな口付けぇ!? ふぉお……ディープキス的な? んもぉコンちゃん出会ったばっかの頃のフェラ以降なんにもしてくれないしさせてくれないから、俺との関係恋人なのは嫌なのかなって思っちゃってたんだよ~。よかったちゃんと恋人で!」

「む……そうか。すまんのぅ。人間とは時間の感覚が合わんようじゃ、そんなに不安にさせるほど待たせたつもりはなかったんじゃが」

これまでろくな触れ合いをさせてくれなかった期間は、ミタマにとっては大した理由のないものだったのか? 時間の感覚が合わないって、昼は貞淑に夜は淫らに……の昼の期間だっただけってことなのか?

「さて、それより……じゃ。さっちゃん!」

「は、はい!」

「出ておいで。ほら、みっちゃんに見せるんじゃろ」

「…………はい」

ミタマの二の腕を掴み、肩の向こうから恐る恐る顔を出す、パッツン髪の可愛らしい男の子。小学生にも見える幼げな彼は眉尻を下げ、不安そうに俺を見つめている。

「サキヒコ……くん?」

声をかけるとサキヒコはサッとミタマの背後に隠れた。

「サっ、サキヒコくん!」

ミタマに駆け寄り、彼の背後を覗き込む。ミタマの背に顔を埋めるおかっぱ頭が見えた。

「サキヒコくん! サキヒコくんじゃん! えっ……えっ! 見えてる! コンちゃんの尻尾さっき毟られたもんねっ、俺が見えてるんじゃなくて……サ、サキヒコくんがっ」

「……実体化、出来るように……なった」

ミタマの服を掴んでいた手が離れると、ミタマはすぐにサキヒコから離れた。

「あっ……」

「サキヒコくんすごい! ハッキリ見えてるよ、足まである。さ、触れる……かな、触ってもいい?」

「……う、うん」

妙に大人しい。肝試しを始める前は「実体化出来るようになってみせる!」と力強く言っていたのに。

「…………ミツキ?」

ぎゅっと目を閉じていたサキヒコに触れないでいると、彼は恐る恐る目を開いた。

「……触らないのか?」

「なんか大人しいから実体化まだ安定してないのかなとか……触られたくないのかなとか考えちゃって。どうしたの? さっきまで元気だったのに」

「…………元気。死んでいるのに、元気か。ふふ」

「あ、やっと笑った。何、疲れちゃった? いっぱい頑張ったんだもんね。しばらく休んでなよ、実体化出来るようになったって言ってもしてるの疲れるんでしょ。俺は我慢するから」

「……嫌だ。疲れてなんていない、ミツキに……見て欲しいし、触って欲しい」

「本当? さ、触るよ?」

手を構えるとサキヒコはぎゅっと目を閉じる。幼げな見た目でそんな仕草をされると、悪いことをしている気分になって触れにくい。

「……っ」

肩に優しく手を置くとサキヒコはビクッと身体を跳ねさせる。見た目の子供っぽさも相俟って犯罪をしている気分になり、反射的に手を引いた。

「何をお互いビクビクしとるんじゃ、ずっと互いに見たい見せたい触りたい触られたい言っとったくせに」

「だ、だってサキヒコくんなんか怯えてるし……」

「怯えてなどいない!」

「ちょっと緊張しとるだけじゃなぁ、さっちゃん」

「緊張? そうなの? 嫌なら言ってね」

「……嫌なら、透けて逃げる」

それもそうだ。俺は少し安心してサキヒコを抱き締めた。

「ぁ……」

小さな身体は海で抱き締めた記憶と全く同じだ、濡れていないだけで。体温を感じない。どこまでも冷たい身体には俺の熱が移らない。

(ふぉおおほっせぇ~! ちっちぇ~! 着物ってのがまたっ、ンンンンッ! たまりませぬ!)

抱き締める力を強め過ぎないように、叫ばないように、気を付けてサキヒコを抱き締める。抑えきれない昂りが呼吸の荒さとなって現れる。

「…………ミツキ」

「ん?」

「……温かい」

「そうなの? よかった」

「………………ミツキ」

「うん」

「…………離れたくない」

「可愛いなぁもう、じゃあ一緒に後部座席乗ろっか。ごめんねコンちゃん、前乗ってくれる?」

「あいわかった」

車に向かって歩き出し、サキヒコの背に腕を回す。腰を抱きたかったのだがサキヒコの身長が足りなかったのだ。後部座席の扉を開けようとしたが、フタが扉を押さえた。

「……フタさん?」

「みつき座るの前だろ~?」

「今回はサキヒコくんと後ろに座ろっかなって」

「え~? 前座ってよ前! ま~え!」

「えっ、そ、そんな駄々こねられても」

「みつき隣がいい~!」

強引に俺を抱き締めたフタは勢いよく身体を反転させ、俺とサキヒコを引き剥がした。俺だけを腕の中に閉じ込めたフタはじっと俺を見下ろしている。

「フタさん……」

猫達はきっとフタの肩や頭に乗っているのだろう。でもミタマに尻尾を返した今、フタの周りに猫の姿は見えない。フタしか見えない。

「…………俺だけだねぇ、みつきぃ?」

コツン、と額が触れ合う。

「え……? まぁ、はい、視界いっぱいフタさんです」

「ふふ。どーぞ、みつき」

フタは助手席の扉を開け、ニコニコと笑ったまま俺を強引に押し込んだ。力強く扉を閉め、運転席に回り込む。フタがエンジンをかけると、いつの間にか後部座席に座っていたミタマがシートベルトを締める音も聞こえた。

「サキヒコくん……」

が、まだ乗ってない。そう続けようとしたけれど、その必要はなくなった。サキヒコは俺の膝の上に座っていた。

「あれ……?」

フタに助手席に押し込まれた時も、扉を閉められた時も、車の外で戸惑うサキヒコの姿が確かに見えていた。サキヒコから完全に意識を逸らしたのはほんの一瞬、ミタマが扉を開けることすらなくいつの間にか後部座席に座っていたのをバックミラーで確認したあの瞬間だけ。

「……シートベルト、一緒に締めようね」

幽霊らしさを目の当たりにしたのに、俺は恐怖を感じることはなかった。小さな身体を抱き締めて、赤くなった頬をつついた。
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