冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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二割伝わればいい方 (水月+フタ・ミタマ・サキヒコ)

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実体化出来るようになったら何がしたいか、なんて話をしているうちに窓の外はすっかりとっぷり暮れてしまった。点けていた灯りの明るさを中から強へ調整する。

「……明るくなったな。技術は進歩したものだ」

「サキヒコくん明るいと居心地悪かったりする?」

「自然光でないならさほど変わらない」

カチャ、と音がしてドアノブが下がる。扉が僅かに開き、フタがぬるりと入ってきた。独特の入室方法は猫の脱走を防ぐためのものだ。

「みつき~、とぉ……えー、えーっと……」

「サキヒコです」

「あぁそうサキくん! やぁ覚えてた覚えてた……どったの二人とも」

「サキヒコくんの師匠……猫ちゃん達に会ってたんですよ。それでちょっと頼みたいことがあるんですけど」

「いいよぉ、なに~?」

「サキヒコくんのパワーアップのために肝試しに行くので、着いてきて欲しいんです」

「着いてくの? いいよぉ~、どこ行くの?」

ここで勘違いしてはいけないのはフタは全てを承知した訳ではないということだ。「サキヒコのパワーアップのため」「肝試し」という言葉は聞いていないか既に忘れていて、「いいよ」という返事は「着いてきて」に対してだけのものだということだ。

「えっと、廃ビルと病院跡とお墓です」

「ハイビルトビョーインアトーハカ……? まぁいいや、何しに行くの~?」

「サキヒコくんのパワーアップです」

「なるほどぉ~……パンプアップかぁ、がんばってねサキくん。いつ行くの?」

「夜ですね」

「そっかぁ、じゃあご飯は外で食べよっかぁ。食べてから行こ~」

「今日ですか? よかった、早い方がいいと思ってたんです。助かります」

「ミツキ、ミツキ!」

一週間以内に行ければいい方だと考えていたのに、まさか即日とはとフタの行動力に驚いていると、耳元で名前を叫ばれた。

「うるさいよ……何、サキヒコくん」

「大丈夫なのか!? フタ殿にちゃんと伝わったとは思えないのだが」

「フタさんに伝えたいことが十割伝わると思ったら大間違いだよ」

「そ、それはそうかもしれないが! 霊以外にも危険なモノが居る場所だとミツキが言ったのだぞ!」

「うん……そうなんだけどね、今懇切丁寧に説明して分かってもらっても、外出る頃には忘れてるし、着いた時にも忘れてるんだよ……多分。説明、要る?」

「必要だ! 記憶が保てなかろうが危険な場所に行くかどうかの判断は出来るだろう!」

それもそうか。

「フタさん、今日一緒に行こうって言ってる場所結構危ないかもしれないんですけど……いいですか?」

「危ないの?」

「はい、フタさん嫌だったら俺達だけで行きますけど」

「え~だめだめだめ。危ないんだったら深皿俺も行くから~」

「……なおさら、ですかね? ありがとうございます、フタさん。もう外真っ暗ですし、お腹も空きましたし……晩ご飯、行きましょ」

「ご飯~? ご飯はねぇ、まだだよ。まだアラーム鳴ってないでしょ」

そういえばフタは食事の時間を決め、それをスマホのアラームに知らせさせているんだったな。忘れっぽいくせに几帳面なんて、不思議な話だ。

「アラーム鳴るまで後どれくらいなんですか?」

フタのスマホを見せてもらい、アラームが鳴る時刻を確かめる。

「……後三十分もないじゃないですか。これなら店見つけるまでに鳴りますよ。鳴ってから出たんじゃ食べる時間とズレちゃいますし、もうお店探しに行きましょ」

「ん~……? みつきもう外出たいの? しょーがないなぁ~」

「はい。あ、コンちゃん起こさないと……サキヒコくん頼める?」

「承知した」

「猫ちゃん達も起きちゃいそうだから俺達が部屋出た後に起こしてね」

猫達の脱走リスクを下げるため俺とフタは先に部屋を出るべきだ、ミタマとサキヒコは閉まった扉をすり抜けて俺達に着いてこれる。

「行きましょ」

俺はフタの腕に抱きつき、外出準備を終えた彼を引っ張って部屋を出た。

「フタさん、何食べたいですか?」

エレベーターの中、フタの顔を見上げる。しかしフタは何も言わないどころか俺を見下ろしすらせず、ボーッとしていた。

「……行きましょう」

一階に着いた。エレベーターから降りて、チリーンという透き通った鈴の音を聞く。

「ワシは稲荷寿司が食べたいのぅ」

エレベーターに乗ったのは確かに俺とフタの二人だった。しかし、ミタマは俺達の後に続いてエレベーターを降り、元から細い目を更に細めて微笑んでいる。

「萌える人外仕草……おはようコンちゃん。付喪神って寝るんだね」

「おはようみっちゃん、ふーちゃん。そりゃ寝るわぃ、寝ようと思うたら何十年でも寝られるぞぃ」

「へぇー……すごいね」

「…………ねぇ~、みつきぃ」

ボーッと虚空を眺めていたフタがようやく俺を見下ろした。俺はフタの視線を考え事から奪えた喜びをそのまま顔に出した、フタに笑顔を向けたのだ。

「二人でさぁ~、一緒にさぁ~……外出るってさぁ~…………もしかしてぇ、デートぉ?」

「はい! デートです」

「そっかぁ~、前から約束してたっけぇ~?」

「してません。たまたま都合があったのでデートします」

「そっかそっかぁ~……ちょっと部屋帰っていーい? デートならさぁ~、アレ着けないとだよねぇ」

フタは一旦部屋に戻り、メガネをかけて戻ってきた。縁の太い伊達眼鏡は遊園地デートの際にもかけていたものだ。

「OKぇ~、行こ。どこ行くの?」

「晩ご飯食べに行きます。フタさん何食べたいですか?」

「ごはん~……? えー……みつきが食べたいのにしよ~?」

「あ、じゃあ……」

ヒトと車でホテルから事務所へ戻る途中、有名なうどんのチェーン店を見かけた。あの看板を見て俺の口はうどん以外を受け付けなくなった。

「うどん食べたいです!」

「うどんね~」

そのチェーン店は事務所からでも看板が辛うじて見える位置にある。

「ね~、うどんどこ~?」

しかしフタはスマホに経路案内を頼んだ。
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