冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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ポケットの中の異物

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ネイが妙に俺に深めのスキンシップを取ること、仕事は何か聞いただけなのに愛国心を語られたこと、ただ仕事と子育てに追われ疲れ果てているだけのマトモな人だと思っていたが、案外そうでもなさそうだ。

(俺にベタベタしてくるのは俺をからかっている、でQEDでいいんでしょうか? ネイさんのお仕事何かなクイズ……うーむ、やっぱり公務員っぽさがありまそ。でも何かしらの保守点検とかも世間の安寧を守っていると言えるのでは? お医者様とかもありそう……うーむ、うむむむ)

ネイの色々なことで悩むのは後回しにして、今はとにかく穂張興業へ行こうと決めたのだが、電車で席に座ってしまうと急ぐも何もないので考えてしまう。

「知っとるかみっちゃん、電車の天井や窓から顔を出すと楽しいぞぃ」

そりゃ平坦さと遅さを足したジェットコースターみたいなもんだからな。生きた人間には出来ないことを自慢してこないで欲しい。

「わ……こ、怖いですね」

サキヒコは絶叫マシンに乗れないタイプなのかな? おかっぱ頭の彼の幼げな顔を思い出し、電車のスピードに怯える表情を夢想し、一人ニヤニヤと笑う。



とそんな具合でネイのことを考えたり、ミタマとサキヒコの話でネイ関連の悩みが薄まったりしながら、電車に揺られて治安の悪い隣町へやってきた。

(穂張興業の事務所は、えーっと……こちらですな)

レイの家もこの街にある。この街は昼間眠るらしく、太陽が照り付ける中人影は少ない。今日は不良などに絡まれることなく穂張興業まで辿り着けた。

「ふー……カラオケの時とか絡まれたからなぁ、何にも会わなくてよかった」

事務所の前で冷感シートを使って汗を拭き、清潔さを得ておく。ヒトにはそういう手間が通じる。フタは多分気にしないけど。

「失礼しまーす……」

事務所に入る時はいつも緊張する。そろそろと中に入っていくと、顔見知りの従業員に見つかった。

「あっ! フタさんの……おーいフタさーん! カノジョ来てる~!」

従業員達には俺はフタだけの恋人となっている。彼らとしては女役は俺なんだな。まぁ尊敬する兄貴分が女役をしているなんて想像出来ないのだろう。

「…………みつき~!」

のそのそと不機嫌そうに仕事場から顔を出したフタは俺を見つけるとパァっと笑顔になり、俺に飛びついてきた。190越えの巨体、それも裏の顔はヤクザ表の顔は肉体労働者という筋肉の付いた身体。勢いよく飛びついてきた彼を支えることなど俺には出来ず、そのまま背後に倒れ──

「危ないっ!」

──たが、寸前で実態化したミタマを下敷きにしたことで後頭部の強打だけは避けられた。

「い、たた……」

でも背中は打った。痛い。

「ふーちゃん! 急に飛びついてはいかん!」

「ごめんごめん水月ぃ……ん? えっとぉ……ぁー…………誰だっけぇ~」

「ミタマじゃ! コンちゃんと呼んどくれ。前にも言ったはずじゃぞ」

「……あなたは私が見えているのだったな。改めて自己紹介をする、サキヒコだ」

フタの手を借りて立ち上がり、ズボンの埃を軽く払う。フタはボーッと俺の背後を眺めている、彼は意外なことに霊感が強く俺には全く見えないサキヒコが生者と変わりないほどハッキリ見えるのだそうだ。

「ミツキ今日はどったの~? 約束してたっけぇ、あ、サンちゃんに用事ぃ?」

「今日はヒトさんにお仕事の依頼に来たんです、庭にちょっと建てて欲しいのがあって」

ネイに絡まれたのと、今現在フタと話していることで約束の時間は今二分過ぎている。五分前には着きたかったのにと悔やみつつ説明を行っていると、奥のエレベーターがポーンと鳴り、開いた扉の向こうからヒトが現れた。

「……っそいと思ったら…………フタぁ! てめぇ何仕事サボってんだ!」

いつも通りスーツ姿のヒトは首を乱雑に引っ掻いて、白い肌に赤い跡を残しながら、大股でこちらにやってくる。フタの危機を察知した俺は素早く彼の前に回った。

「ヒトさん! ごめんなさい遅れてしまって」

「…………いえ、フタに足止めを受けてしまったようなので……あなたが謝るようなことはありませんよ」

「いえいえいえ、ギリギリに来た俺が悪いので……は、早く部屋行きましょっ? 二人きりになりたいです……」

「……はい。行きましょうか」

ヒトはくるりと踵を返した。俺はフタが殴られなかったことに安堵のため息をつき、ヒトは案外扱いやすいなと調子に乗った。

「ん……なに、どしたのイチニィミィ……え? うーん……そんなに気になる? んー…………みつき~! 待って待って~!」

エレベーターに乗り込む寸前、追いかけてきたフタに腕を掴まれた。ヒトは閉ボタンを連打しているが、意味はなさそうだ。ドアと身体が触れて始めて扉が開くのではなく、人感センサーか何かで扉の位置に何かあると閉まらない仕掛けになっているのだろう。

「何ですかフタさん」

「イチとニィとミィが何かみつきの~……みつきのなんか、気にしてんだよね~……どこだっけ? うん、うん……ここ? みつきごめんね~」

フタは自分の周囲に何かが居るように視線と首を動かし、その何かに──フタの口ぶりからして死んだ飼い猫に──導かれて俺のデニムの尻ポケットをまさぐった。

「フタ……フタ、フタ! てめぇなぁっ!」

「なんかあった~」

深く息を吐き、吸ったヒトの怒声は、ポケットから引っ張り出された小さな何かによって止まった。

「…………SDカード、ですか? 鳴雷さん、SDカードの保管はケースに入れるなどした方がいいですよ」

「えっ、ち、違います違います、そんなの入れてません」

「フタ、見せなさい。SDカード……では、ないですね。金色の……アレ、あの、読み込むとこ、アレがありません」

SDカードサイズではあるが、SDカードではなさそうだ。こんな小さな物をポケットに入れた覚えどころか、見覚えすらない。

「……みんなに聞いてみる~?」

「あんなバカ共に何かが分かるとは思いませんがね」

そんなヒトの言葉は間違いだった。従業員達のうち一人があっさりと正体を言い当てたのだ。

「盗聴器っすね。同じの持ってますよ俺」

そのまさかの正体に、俺は絶句してしまった。
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