上 下
1,388 / 1,942

段違いのデレの威力

しおりを挟む
バイクを買ってあげたことで俺の愛情が確かな物だと改めて実感してくれたらしいシュカは、まだまだ照れは残るもののデレデレになってくれた。

「み、水月……あーん」

「ひょええ!?」

「あなたがこういうの好きそうだからやってみてるのに! いちいち驚かないでください! ほらあーん!」

「ごめんごめん痛っ、痛いってスプーンが歯にガチャガチャ、痛っ」

一緒に作った山盛りの炒飯をアーンで食べさせてくれるほどだ。学校でのクールな態度や、俺が抱きつけば殴ってくることもあった人前での乱暴さからのギャップがすごい。死ぬ。シュカと死なないって約束したばっかりなのに死んじゃう。

(……死ぬな、忘れるなって、前にもシュカたまに言われましたけど……やっぱり、大親友なセフレくんが死んだのと、お母様がボケちゃったのが……トラウマ的なのになってるんですよな)

イチャつくのを嫌がったり、あまり甘えたり頼ったりしてくれなかったのは、俺がいつかその二人と似たようなことになってシュカとの関わりが途切れてしまった際に、傷付かないようにという自己防衛だったのだろうか。

「水月、あーん」

「あ~ん! ん~……シュカに食べさせてもらった方が美味しい~! もう俺今後一切食器持てない呪いかけられてもいい~!」

今極小の隕石が振ってきて俺の脳天を貫く可能性はゼロじゃない、病気や事故で記憶を失うことは絶対にないと確約することは出来ない。それなのにシュカがこんなにもデレてくれているのは……どういうことなのだろう。

「……そんな呪い、ダメですよ」

「あ、だよなっ。シュカ疲れちゃうよなぁ、自分の分冷めちゃうし」

「…………私だって、水月にアーンして欲しいです」

経った今までシュカが握っていたスプーンが、俺の手に移された。俺は汽笛のような奇声を上げ、震える手でシュカにアーンをしてあげた。

「ん…………ふふ、別に味変わりませんよ? でも幸福感はありますね、これが水月の言う増した美味しさですか? ねぇ水月……も、もう一回、してください」

「いくらでもォ!」

死なない、忘れない、そう口約束しただけでそれが絶対に起こらないなんてことはない。それなのにシュカは自己防衛を捨てて俺にデレてくれている。これはきっと、もう一度傷付いてもいいと思ってくれたからだ。

「しっかしシュカ、この胡椒とガーリックの効いた味付けイイわぁ……今まで食べた炒飯の中で一番好きかも」

「水月の焼き方だってすごくいいですよ、パラッパラで美味しいです」

あくまで俺の考えだけれど、シュカはいつか俺を失った時の傷を浅くするよりも、今俺と仲を深める幸せを選んでくれたんだ。将来負うかもしれない傷が深くなることよりも、俺に愛を注ぐことを優先してくれた。

「俺ら最強~。これからも炒飯を作っていこうぜ」

「ピラフも焼いてみて欲しいです」

照れ隠しにちょっと乱暴になることはあっても、シュカはそっぽを向かなくなった。照れた顔も緩んだ笑顔も見せてくれる。そうすれば俺が喜ぶことを知ってくれた、羞恥心よりも俺を喜ばせることを選んでくれている。

「餃子もいいなぁ。シュカのおててがコネコネした物とか食べた過ぎる」

「羽根は大きいのがいいです」

シュカからの愛情が深くなったのを感じる。いや、今まで隠していたけれど、とうとう溢れてしまったからもう隠さずに俺を溺れさせてくれるようになった、と言った方が正しいのかな。

「中華ばっかりになっちゃったな、シュカ中華好き?」

「経験上、中華料理屋が一番コスパがいいんですよね。だから外食となると中華ばかり食べていて……他はあまり深くは知らないんですよ」

「そっか、じゃあ俺家で出来るイタリアンとかフレンチの料理何個か見繕っておくよ。今度一緒に作ってみよう。シュカの大好物見つけよう!」

「はい。水月は自分の大好物を見つけられているんですか?」

「俺? 俺はね……ん~…………出前ならピザ、外食なら焼肉、家庭料理なら……カツカレー、かな。いや肉じゃが、シチューも……ハンバーグもっ、くぅう……いや極論一番美味いのはおにぎりとウィンナーと卵焼きの三連星。ぐぅうう……! 一番は決められない!」

悩み抜いた末に一番を決められなかった俺を、シュカはくすくすと笑って眺めている。

「私達と同じですね。綺麗どころを集めておいて、一番は決めずその日の気分で食べまくって……ふふっ、贅沢者」

「か、彼氏のことか? そこだけ聞くとその通りだけどさ~……飯とはまた別だよ」

「私は大好物を一つに絞りますよ。何になるか楽しみです、一緒に探してくださいね」

「…………それシュカは俺に一途でいるってことか? もぉ……殺し文句だなぁ。一緒に探しても結構な殺し文句なのに……婚約か? もう婚約かこれ。十八になったら婚姻届出そうな」

「法律変わるといいですねぇ」

「同性婚はともかく重婚は希望すらないよな~……」

「水月、ほら、もう最後の一口ですよ。食べさせてください」

最後の一口をスプーンにすくったシュカは、そのスプーンを俺に握らせて大きく口を開いた。俺は当然、だらしない笑顔を浮かべながら彼に最後の一口を食べさせてやった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる

海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?

犬用オ●ホ工場~兄アナル凌辱雌穴化計画~

雷音
BL
全12話 本編完結済み  雄っパイ●リ/モブ姦/獣姦/フィスト●ァック/スパンキング/ギ●チン/玩具責め/イ●マ/飲●ー/スカ/搾乳/雄母乳/複数/乳合わせ/リバ/NTR/♡喘ぎ/汚喘ぎ 一文無しとなったオジ兄(陸郎)が金銭目的で実家の工場に忍び込むと、レーン上で後転開脚状態の男が泣き喚きながら●姦されている姿を目撃する。工場の残酷な裏業務を知った陸郎に忍び寄る魔の手。義父や弟から容赦なく責められるR18。甚振られ続ける陸郎は、やがて快楽に溺れていき――。 ※闇堕ち、♂♂寄りとなります※ 単話ごとのプレイ内容を12本全てに記載致しました。 (登場人物は全員成人済みです)

ポチは今日から社長秘書です

ムーン
BL
御曹司に性的なペットとして飼われポチと名付けられた男は、その御曹司が会社を継ぐと同時に社長秘書の役目を任された。 十代でペットになった彼には学歴も知識も経験も何一つとしてない。彼は何年も犬として過ごしており、人間の社会生活から切り離されていた。 これはそんなポチという名の男が凄腕社長秘書になるまでの物語──などではなく、性的にもてあそばれる場所が豪邸からオフィスへと変わったペットの日常を綴ったものである。 サディスト若社長の椅子となりマットとなり昼夜を問わず性的なご奉仕! 仕事の合間を縫って一途な先代社長との甘い恋人生活を堪能! 先々代様からの無茶振り、知り合いからの恋愛相談、従弟の問題もサラッと解決! 社長のスケジュール・体調・機嫌・性欲などの管理、全てポチのお仕事です! ※「俺の名前は今日からポチです」の続編ですが、前作を知らなくても楽しめる作りになっています。 ※前作にはほぼ皆無のオカルト要素が加わっています、ホラー演出はありませんのでご安心ください。 ※主人公は社長に対しては受け、先代社長に対しては攻めになります。 ※一話目だけ三人称、それ以降は主人公の一人称となります。 ※ぷろろーぐの後は過去回想が始まり、ゆっくりとぷろろーぐの時間に戻っていきます。 ※タイトルがひらがな以外の話は主人公以外のキャラの視点です。 ※拙作「俺の名前は今日からポチです」「ストーカー気質な青年の恋は実るのか」「とある大学生の遅過ぎた初恋」「いわくつきの首塚を壊したら霊姦体質になりまして、周囲の男共の性奴隷に堕ちました」の世界の未来となっており、その作品のキャラも一部出ますが、もちろんこれ単体でお楽しみいただけます。 含まれる要素 ※主人公以外のカプ描写 ※攻めの女装、コスプレ。 ※義弟、義父との円満二股。3Pも稀に。 ※鞭、蝋燭、尿道ブジー、その他諸々の玩具を使ったSMプレイ。 ※野外、人前、見せつけ諸々の恥辱プレイ。 ※暴力的なプレイを口でしか嫌がらない真性ドM。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...