冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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おまけ

おまけ 勝手に悲喜交々

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※繰言視点 ミフユより水月とセイカのアカウントを紹介され、メッセージを送ってみた繰言先輩のお話。



鍵をかけた部屋の中、更に個室トイレよりも狭い防音室の中、ホラーゲームをプレイする。

「神様仏様ロッカー様! ふー間に合った……あ~足音めっちゃする、これ開けてくるタイプじゃないよね? ジャンプスケア俺苦手なんですけど、それ系だったら恨むぞしちょっ!?」

ピロン、と鳴ったメッセージアプリの通知音に驚いて床を蹴ってしまい、キャスター付きの椅子が動いて背後の防音室の扉に背もたれをぶつけた。

「はぁー……なまくそびっくりした…………んだよ、もう……ここカットかな。ゃ、ぶつけたとこまでは使うか……」

ゲームは一旦メニューを開いて放置、机に置いておいたスマホを持ち上げる。

「次から撮影中は音切らないと……んーでもハプニングはウケることも……いやでも意識低いとか思われるのは…………うわ、年積じゃん……個チャに何だよ」

クラスメイトの年積からの個人メッセージだ。一学期の始業式の日に無理矢理連絡先を交換させられ、クラスグループとかいうモノに加入させられた。何かと俺につきまとって授業に出ろとうるさいし……苦手だ、あのチビ。

「学校来いとかかな……」

既読マークを付けない裏技で送られてきた内容を確認してみよう。

『先日貴様が親しげにしていた早苗 星火と鳴雷 水月一年生達のアカウントを紹介しておく』
『後輩でも何でも友人が居れば学校に来る気も少しは起きるだろう。ネザメ様の顔に泥を塗る留年など許さん。自分で登校しやすい環境を整えてもらう』
『アカウント紹介にあたり彼らの許可は取っているが、登校を促せとは言っていない。連絡先を交換出来なかったことを悔やんでいたから紹介してやったということにしてある』
『妙な僻みを言わないように、以上。返信不要』

返信不要って書かれても、本当に返信しなくていいのか悩むんだよな。マジのガチって書いててくれ、それでも俺は悩むだろうけど。

「長いな~……早苗…………早苗!? さっ、早苗ちゃん!? わ……うわ、さ、さな、早苗ちゃんのアカウント……! なまくそグッジョブちびっこ!」

早苗ちゃん、昨日保健室で話した早苗ちゃん、一年生で四肢の欠損を理由に体育祭不参加が決まっている早苗ちゃん、俺のゲームを覗いてきて試しに説明してみたら楽しそうに聞いてくれて前作の話を振ってくれて今作の話を興味深そうに聞いてくれて俺がどんなに早口で気持ち悪く話しても優しく笑って聞いてくれていた早苗ちゃん! 生まれて初めての俺の友達候補!

「はっ、はぁーっ、マジか、マジか……我が世の春。もう一人何……なんて読むのこれ、なるらい……? 下は、みつきかな。誰……なる、めい……らい、かみなり……めいらい……なる、かみなり…………あっ、なるかみ」

あの顔面600族、いや、顔面常時イベント戦闘パケ伝のヤツか。

「……同じゲームしてるのは、アイツの方なんだよな……でもイケメンらしく横暴で、何しても許されると思ってて…………手も足も片っぽしかない、大人しい早苗ちゃんに……乱暴、で」

話と趣味は合うけど、あんなヤツ嫌いだ。

「な、鳴雷はいいや……早苗ちゃん、早苗ちゃん……星に、火って書くんだ……セイカって。へへ、わ、割とキラキラ寄り? セイカちゃん、セイカちゃん……セイカくん? セ、セイカ…………ぅへへへへへ」

友達になれたら名前で呼んでいいか聞いてみよう。

「名前で呼んでいいかな、早苗ちゃん……いや、セイカちゃん。うわうわうわなまくそキんっモい無理無理無理絶交絶交絶交死刑死刑死刑。はぁー……むり、かも。名前呼び……」

早苗がそもそも名前っぽい苗字なんだから、イケると思ったんだけどなぁ。いや、俺が先に名前で呼んでもらえばいいのか? 話の流れで俺も名前呼びをさせてもらえるか?

「……繰言先輩なんて堅苦しい呼び方、そろそろやめてよ。かっ、か……かさ、ねって……呼ん、んんんん~! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理!」

バンバンと机を叩く。

「俺キモぉ~……無理だよぉこんなん、早苗ちゃん友達になってくんないよぉ…………んだよあのチビ、親しげにしてたって……あんなもん暇だったから俺に話しかけてくれてただけなんだ、退屈しのぎに話しかけたのがキモい俺で可哀想! 早苗ちゃん可哀想!」

隻腕の早苗ちゃんがゲームの話を出来たということは、早苗ちゃんは生まれつき手足がないという訳ではないのだろうか……後天的だから、前作の話は出来て今作の話は新鮮だった? 前作はプレイしたのかな。

「プレイしててもさぁ! ガチ勢なわけないじゃん! カジュアルだって対戦なんか手ぇ出さないんだってバトル何とか系も一回二回やって終わりなんだって金策周回とかしないんだって早苗ちゃんは! なのに俺はっ、俺はドロポンの確率の話とかだいもんじとか……ぁ、でも、早苗ちゃん割とその辺話せてて……」

友達に、なれるのかな。

「…………幻想、抱くな。バカサネ……キモいお前に友達なんか出来ない、早苗ちゃんは……暇潰しで話しかけて、暇潰しだから、キモいよって教えてくれなくて……そうだよ本当に優しくていい子なら俺にキモいってちゃんと教えてくれるはずなんだ」

俺なんかにアカウント知られて、可哀想な早苗ちゃん。

「ってか後輩男子にちゃん付けとかキッッッモォ! なまくそキモいべ俺ぇ! はぁ~あ短い夢だった俺は一人で死んでいくんだ予定通りだ、んだんだ死ね死ねこん死に損ない」

ゲームを再開しよう、俺に友達なんて不要だ。

「あー……すいません学校からの業務連絡でした。現役高校生なもんで、へへへっ、えーと……今何してたっけ」

メニューを閉じてゲームを再開する。ロッカーに入っていたようなので出るように操作してみる。

「確か、今はメモを集めててっ、ギャーッ!?」

ホラーゲームでロッカーに入ったということは、怪物に追われていたということ。俺は何故かそれを忘れて怪物に襲われ、ゲームオーバーとなった。

「…………チビのせいだぁあっ、はぁ……動揺してたんだ、クソ……ぁー、ここカット」

身勝手に年積のせいにして、ゲームを続けた。



もう、学校は終わって家に帰った頃だろうか、なんて、先程撮った動画を編集しながらふと考えた。

「…………早苗ちゃん」

今なら、既読が付くかも。いや何を送るんだ、キモい文しか作れないだろ。でも、アカウント紹介の許可をもらったとか年積言ってたし……早めに挨拶しておかないと、無礼なヤツと思われるかも。でもまだ友達追加もしてないし、いやそれこそ早くしないと変なヤツと思われるしまた年積になんか言われる。

「……明日も、いいや」

年積に怒鳴られるのは嫌だ。身長が低いから俯いても視線を逃がしきれないし、かと言って上を向いたらふんぞり返ってるみたいになる。結局、チビのアイツより小さく縮こまるしかない。

「…………はぁ」

年積に返事はしなくていいや、二人の友達追加もしなくていいや、挨拶なんてもちろんいらないし、そのことを年積に直接詰められたくないから学校にも行かなくていいや。

「……………………生ゴミ、野郎。なんであの時死ななかった……なんで治った、死んでろよぉ……何にも出来ないんだから」

何もする気が起きない、悪い方にしか考えられない自分への嫌悪感で編集作業すら出来なくなった。



編集に身が入らないのはよくない。そうだ、二人を友達追加して「よろしく」のメッセージだけ送ってしまえば、年積に何も言われないし無礼にもならないのでは? それなら気が向いた時くらいは教室に行けるかもしれない。

「…………」

ぐだぐだやらない理由を考える前にやってしまおう。自分に嫌気が差した俺は後の自分に嫌がらせをするような気持ちでスマホを握った。

「えー、年積さんに紹介されました繰言です、よろしくお願いします……でいいかな。うん、誤字なし…………一括送信っと」

送った。もう見ない。通知も切る。編集するぞ。

「…………鳴雷、既読まだか……早苗ちゃんは……あっあっ付いてる! 既読付いてるぅっ!」

スマホを置いた次の瞬間には持ち上げてメッセージアプリを開き、何度も読み込み直した。その結果、早苗ちゃんだけはすぐに既読を付けてくれたことに気付けた。

「返事の返事考えとかないと……」

向こうもまずは「よろしく」だろうから、その返事……って、何? もう会話終了していいんじゃないの? いいよな、うん。だからスマホを置いて編集を再開しろ。

「ここはテロップ入れとこうかな……」

キーボードの隣にスマホを置いて、チラチラと見ながら編集していく。

「…………返信遅くない?」

既読が付いたのに、返信がまだ来ない。よろしく以上に何か文を付け加えているのか? それとも既読スルー?

「……あ、ここ効果音欲し……えっと…………はぁー……既読付けたんなら返信寄越せよっ、無視なら無視でいいから既読付けんなよぉ~……んだよ、クソ……ちくしょう」

そうやって文句を呟いていると通知音が聞こえた。

「……っ!? あ……さ、早苗ちゃんっ」

早苗ちゃんからの返信だ。

『よろしくお願いします。早苗 星火です。昨日、保健室でお会いしたのですが、覚えていますでしょうか。今日は鳴雷にゲーム機を持ってきてもらったので会いたかったのですがお休みだったそうで。お体の具合はいかがでしょう。次学校に来た際には、教えてくださると嬉しいです』

めっちゃ丁寧!

「そりゃ時間かかるわ……いやそれにしても遅かったような。はぁ~っ、でも、わぁ……! 早苗ちゃんからのっ、返事…………ぁ、鳴雷、ゲーム機持ってきてくれてたんだ……」

そこまで嫌なヤツじゃないのか? でも、乱暴だし、イケメンだし、絶対自分勝手だ。

「…………ゲーム出来ない早苗ちゃんじゃなくて、鳴雷と友達になれたら……二人以上のプレイしか出来ないゲームも遊べるし、これからの作品も簡単確実に図鑑コンプ出来る……いや、でも……ぅぅ、あんなイケメンと友達とか無理」

悩んでいる場合じゃない、返信しなければ。つい通知をタップして既読を付けてしまったんだった。

「え、と……えとっ、何、何送ろう……返事、返事」

震える指でフリック入力をしていく。

『もちろん覚えています!! 鳴雷くんゲーム機持ってきてくれてたんですね! 休んでてすいません! 体調は全然大丈夫です!! 分かりました!! 次は登校報告します!!!』

これでいいかな。エクスクラメーションマーク多いかな。消してみようか……無愛想だな、やっぱり付けとこ。

「送信っと……はぁあ、緊張するぅ。この文はキモくないよね……もう何がキモいかキモくないか分かんないよぉ……俺がやることなすこと全部キモいんだきっと……」

早苗ちゃんからの返信が来るまでの数分間、俺は椅子の上で蹲って落ち込み続けた。編集は一分も進んでいない。

「ひゃっ!? あっ、へ、返信……」

震える指先で通知をタップし、早苗ちゃんからの返事を見てみる。

『覚えてくれていてよかったです。鳴雷、ゲーム友達居ないので仲良くしてあげて欲しいんです。体調は悪くないようで安心しました、また会える日を待ってます』

相変わらず文章量の割に返信が遅いな……

「会える日を楽しみにぃ!? ふ、ふへ、ふへへへっ、もう友達超えて親友だべこんなの。鳴雷と仲良く、かぁ……ゔー、まぁ……身勝手なとこ我慢すれば話は合うし……ゲーム、するだけなら。ぁー、返信どうしよ」

気持ち悪くない自然な文章を考える時間なんて、早苗ちゃんや鳴雷のことで悩む時間なんて、無駄だ。早く編集を進めなければならない。でも、それでも、頭が痛くなるくらいに脳みそを絞るこの時間には、生まれて初めて味わう種類の楽しさがあった。
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