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君の笑顔が見たいから
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バイクをゆっくりと押すシュカの隣を歩く。シュカはバイクを見つめてはホクホク笑顔を浮かべ、俺の視線に気付いては照れて俯く。
「……喜んでくれてるみたいでよかったよ、払った甲斐があった。っていうか、あの店電子マネー対応してたんだな……現金のみじゃないかと思って、銀行に走らなきゃかなって焦ってたんだよ実は」
「…………よく一括で払えましたね」
「宝くじのおかげだよ」
「……いいんですか? ほとんど使っちゃったんじゃ……私、返すのきっと遅いですよ」
まだ半分以上残っている。ミタマの祠建設にいくらかかるかは分からないけれど、俺の私利私欲のために使ってもかなり遊べそうだ。
「俺、宝くじのお金は自分のために……俺が楽しむためだけに使おうって決めてたんだ」
「でしたらどうして私のバイクに注ぎ込んだんです?」
「今言ったろ? 俺が楽しむためだって」
シュカは困惑した表情のままだ。案外察しが悪いんだな。仕方ない、答えを言ってやるか。
「店出た時からシュカ、すっごく可愛く笑ってるんだよ。シュカの笑顔って他の彼氏に比べたら貴重なんだ、作り笑顔は一番多いけど。シュカの嬉しそうな笑顔すごく楽しませてもらってる。分かったか?」
「…………はい。すみません……そこまで、言わせて」
真っ赤だ。顔はもちろん耳まで真っ赤だ。なんて可愛いんだろう。今すぐ押し倒したい。
「私……その、ごめんなさい。私……あなたがこんな大金を使ってまで、私の笑顔が見たかったなんて……全然気付かなくて」
「え、いやいやいや! そんな、謝ることじゃないよ。クールなシュカは素敵だよ? 表情変えるために金注ぎ込んだなんてそんな、ソシャゲのキャラのスキン買うみたいな言い方しないでよ。喜んで欲しかったんだ、シュカに喜んで欲しかった。笑顔が見たかった……純粋な愛情だよ。今までを謝ったりしないで、いつものシュカも大好きなんだ、だからこそ非日常も味わいたかった。それだけ。ニコニコしてるのを日常にして欲しいなんて思ってない、シュカの過ごしやすいようにしてくれてたらそれでいい」
「…………あなたは、よくそう言いますよね。私以外の彼氏にも。過ごしやすいように、好きなように生きてくれって、それを愛するからって……自分好みになって欲しくないんですか?」
「俺タイプとかないから。好きになった子が好きなんだ、どんなふうに変化していっても新しい一面見せてくれたってはしゃいでる。それだけ。そんな難しい話じゃないだろ?」
「……そうですか。そうですね、理解自体は簡単です。そんな人間性を獲得するのは、とても難しそうですけれど」
シュカの家に着いた。俺は門扉を開けてやり、バイクを敷地内に入れるのを手伝った。もう夕方も終わる。でも、泊まらせてはくれないんだろうな。
「………………水月」
「ん?」
シュカは俺に背を向けたまま俺の名前を呼んだ。彼の醸し出す雰囲気は俺が隣や前に回り込んで彼の顔を覗き込むことを封じてしまった。
「……私は」
「うん」
「時雨さんみたいに、可愛くありません。天正さんみたいにお喋りでもありません。霞染さんみたいにオシャレでもありません。木芽さんみたいに好き好き言えないし、歌見さんみたいに優しくも出来ない。秋風さんみたいに素直でもなければ、狭雲さんみたいにあなたに縋ることも出来ない。紅葉さんのような穏やかさも、年積さんのように美味しいご飯を作ったり出来ません。穂張さんのようにあなたに甘えたりも出来ないし、当然分野さんのような超常的な力もありません」
「…………」
「私は、魅力的なんですか。あなたにとって……そんなに。私を喜ばせるために、こんな高い買い物をするほどに」
「うん!」
「……! そう……そう、なんですね。大丈夫……私、そこまで疑り深くはありません。他人に失礼なほど自分を卑下したりもしません。信用します、あなたの気持ち。あなたにとって私は素晴らしい恋人なんですね」
声が震えている。鼻を啜る音も聞こえた。そろそろ抱き締めてもいいだろうか、腕を広げて一歩踏み出したその時、シュカが勢いよく振り返って俺の胸に飛び込んできた。
「……っ、とと。ふふ……可愛いけど、勢い強過ぎて危ないよ」
「………………水月」
「ん?」
「……大好き」
「俺もだよ、ありがとう」
「…………死なないで」
「死なないよぉ」
「……私のこと、忘れないで」
「忘れないよ」
「………………今日、帰らないでください」
「……いいの? 俺もまだ一緒に居たかったんだ」
胴体がちぎれそうなくらいに俺を抱き締めるシュカの力が強くなった。喜んでくれているのかな、なら多少の息苦しさは我慢するか。
「シュカ、母さっ……に、連絡、するな? その、後っ……ごはん買うか……食べにっ、ふぅ……行くかっ、しよぉ……」
「…………苦しそうですね?」
「シュカの、愛が……づよい」
「え……? あっ、つ、強く抱きつき過ぎました? ごめんなさい……このくらいなら、いいですか?」
「…………可愛過ぎて息止まるかと思った」
「……死なないって言ったじゃないですか、約束守ってくださいよ?」
「シュカが可愛過ぎるのが悪いんだよ~、約束させといて約束守る妨害してくるとか何それ海の魔女~? はぁんシュカたまかわゆい」
「…………」
おや、引き剥がしても殴ってもこないな。
「……あんまり、可愛い可愛い言わないでください……慣れてないんです、そういうの」
「可愛いよぉーっ! リオデジャネイロの皆さん聞こえますかぁーっ! 俺のシュカがギャンかわで心臓が危険で危ない件について!」
「ちょっと大声上げないでください近所迷惑です! やめてくださいってばもう! か、可愛い恋人の頼みが聞けないんですか!」
「……!? んっ……!」
「…………聞けるようですね。家族に連絡するならさっさとしてください、お腹すきました」
両手で口を塞ぐとシュカは少し面食らったようだったが、咳払いをして普段の落ち着きを取り戻した。けれどその頬はまだまだ赤いように見えるのは、顔色のよく分からない薄暗い空の下で俺がただ願望を膨らませているだけではないはずだ。
「……喜んでくれてるみたいでよかったよ、払った甲斐があった。っていうか、あの店電子マネー対応してたんだな……現金のみじゃないかと思って、銀行に走らなきゃかなって焦ってたんだよ実は」
「…………よく一括で払えましたね」
「宝くじのおかげだよ」
「……いいんですか? ほとんど使っちゃったんじゃ……私、返すのきっと遅いですよ」
まだ半分以上残っている。ミタマの祠建設にいくらかかるかは分からないけれど、俺の私利私欲のために使ってもかなり遊べそうだ。
「俺、宝くじのお金は自分のために……俺が楽しむためだけに使おうって決めてたんだ」
「でしたらどうして私のバイクに注ぎ込んだんです?」
「今言ったろ? 俺が楽しむためだって」
シュカは困惑した表情のままだ。案外察しが悪いんだな。仕方ない、答えを言ってやるか。
「店出た時からシュカ、すっごく可愛く笑ってるんだよ。シュカの笑顔って他の彼氏に比べたら貴重なんだ、作り笑顔は一番多いけど。シュカの嬉しそうな笑顔すごく楽しませてもらってる。分かったか?」
「…………はい。すみません……そこまで、言わせて」
真っ赤だ。顔はもちろん耳まで真っ赤だ。なんて可愛いんだろう。今すぐ押し倒したい。
「私……その、ごめんなさい。私……あなたがこんな大金を使ってまで、私の笑顔が見たかったなんて……全然気付かなくて」
「え、いやいやいや! そんな、謝ることじゃないよ。クールなシュカは素敵だよ? 表情変えるために金注ぎ込んだなんてそんな、ソシャゲのキャラのスキン買うみたいな言い方しないでよ。喜んで欲しかったんだ、シュカに喜んで欲しかった。笑顔が見たかった……純粋な愛情だよ。今までを謝ったりしないで、いつものシュカも大好きなんだ、だからこそ非日常も味わいたかった。それだけ。ニコニコしてるのを日常にして欲しいなんて思ってない、シュカの過ごしやすいようにしてくれてたらそれでいい」
「…………あなたは、よくそう言いますよね。私以外の彼氏にも。過ごしやすいように、好きなように生きてくれって、それを愛するからって……自分好みになって欲しくないんですか?」
「俺タイプとかないから。好きになった子が好きなんだ、どんなふうに変化していっても新しい一面見せてくれたってはしゃいでる。それだけ。そんな難しい話じゃないだろ?」
「……そうですか。そうですね、理解自体は簡単です。そんな人間性を獲得するのは、とても難しそうですけれど」
シュカの家に着いた。俺は門扉を開けてやり、バイクを敷地内に入れるのを手伝った。もう夕方も終わる。でも、泊まらせてはくれないんだろうな。
「………………水月」
「ん?」
シュカは俺に背を向けたまま俺の名前を呼んだ。彼の醸し出す雰囲気は俺が隣や前に回り込んで彼の顔を覗き込むことを封じてしまった。
「……私は」
「うん」
「時雨さんみたいに、可愛くありません。天正さんみたいにお喋りでもありません。霞染さんみたいにオシャレでもありません。木芽さんみたいに好き好き言えないし、歌見さんみたいに優しくも出来ない。秋風さんみたいに素直でもなければ、狭雲さんみたいにあなたに縋ることも出来ない。紅葉さんのような穏やかさも、年積さんのように美味しいご飯を作ったり出来ません。穂張さんのようにあなたに甘えたりも出来ないし、当然分野さんのような超常的な力もありません」
「…………」
「私は、魅力的なんですか。あなたにとって……そんなに。私を喜ばせるために、こんな高い買い物をするほどに」
「うん!」
「……! そう……そう、なんですね。大丈夫……私、そこまで疑り深くはありません。他人に失礼なほど自分を卑下したりもしません。信用します、あなたの気持ち。あなたにとって私は素晴らしい恋人なんですね」
声が震えている。鼻を啜る音も聞こえた。そろそろ抱き締めてもいいだろうか、腕を広げて一歩踏み出したその時、シュカが勢いよく振り返って俺の胸に飛び込んできた。
「……っ、とと。ふふ……可愛いけど、勢い強過ぎて危ないよ」
「………………水月」
「ん?」
「……大好き」
「俺もだよ、ありがとう」
「…………死なないで」
「死なないよぉ」
「……私のこと、忘れないで」
「忘れないよ」
「………………今日、帰らないでください」
「……いいの? 俺もまだ一緒に居たかったんだ」
胴体がちぎれそうなくらいに俺を抱き締めるシュカの力が強くなった。喜んでくれているのかな、なら多少の息苦しさは我慢するか。
「シュカ、母さっ……に、連絡、するな? その、後っ……ごはん買うか……食べにっ、ふぅ……行くかっ、しよぉ……」
「…………苦しそうですね?」
「シュカの、愛が……づよい」
「え……? あっ、つ、強く抱きつき過ぎました? ごめんなさい……このくらいなら、いいですか?」
「…………可愛過ぎて息止まるかと思った」
「……死なないって言ったじゃないですか、約束守ってくださいよ?」
「シュカが可愛過ぎるのが悪いんだよ~、約束させといて約束守る妨害してくるとか何それ海の魔女~? はぁんシュカたまかわゆい」
「…………」
おや、引き剥がしても殴ってもこないな。
「……あんまり、可愛い可愛い言わないでください……慣れてないんです、そういうの」
「可愛いよぉーっ! リオデジャネイロの皆さん聞こえますかぁーっ! 俺のシュカがギャンかわで心臓が危険で危ない件について!」
「ちょっと大声上げないでください近所迷惑です! やめてくださいってばもう! か、可愛い恋人の頼みが聞けないんですか!」
「……!? んっ……!」
「…………聞けるようですね。家族に連絡するならさっさとしてください、お腹すきました」
両手で口を塞ぐとシュカは少し面食らったようだったが、咳払いをして普段の落ち着きを取り戻した。けれどその頬はまだまだ赤いように見えるのは、顔色のよく分からない薄暗い空の下で俺がただ願望を膨らませているだけではないはずだ。
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