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日本語レッスンの成果は
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ノヴェムとアキは二人でゲームなどをして楽しく遊んだ後、帰ってきたセイカに日本語をみっちり教わったそうだ。やる気を出さないアキを見かねたセイカは、ある交換条件を提示して勉強をさせたらしい。
「十分俺を好きにしていいって……三十! とか、三! とか、競りみたいにして時間決めたんだ……結構長くなっちゃった。鳴雷が帰ってきてノヴェムがどっか行ったから秋風が触ってきて……ノヴェムすぐに戻ってくるからって、ダメって……後で部屋でって言ったのに、コイツ、止まんなかった」
一応、ノヴェムには見せないようにしようという気配りはあったんだな。後一歩足りなかったけれど。
「ノヴェム……見たかな」
「すぐ目隠したし、多分何してたか分かんないよ」
「そうかなぁ、ならいいけど…………あっ、えっと、こんばんは、歌見。ごめん挨拶遅れて……」
歌見を見つけたセイカは軽く頭を下げる。
「いやいや、昨日からセイカも学校行ってるんだよな。どうだ? 上手くやれてるか?」
「うん……鳴雷がずっと傍に居てくれるし、公次居るし……天正達も支えてくれるし……」
「コウジ? なんだ、新しい彼氏か? 聞いてないぞ」
「ハムぬいでそ」
「これ」
セイカは持っていたハムスターのぬいぐるみを歌見に見せた。渡してしまわず目の前に突き出すだけなのが、ぬいぐるみの気に入りようを表しているように感じる。
「鳴雷が作ってくれたんだ、昔飼ってた公助そっくりのぬいぐるみ……だからこれは、公次」
「手作りなのか、すごいな……器用だなお前」
「公次が居れば、俺大丈夫なんだ」
「……そうか」
歌見は優しく微笑んで、セイカの頭を撫でようとした。しかし頭上に上げられた手にセイカが怯え、頭を庇い、バランスを崩して転びかけた。
「わ……すぇかーちか、大丈夫……するです?」
「……っ、あ、あぁ……大丈夫。ごめん……ごめんな歌見っ、俺ちよっとバランス崩しただけだから」
しっかりと床を踏み締め直したセイカは歌見の手を取り、持ち上げ、自らの頭を撫でさせた。
「…………よしよし」
目は口ほどに物を言う。セイカの目は「ねっ、怖がってないでしょ」と必死に取り繕っていた。歌見は切なげな笑みを浮かべてセイカの頭をしばらく撫で続けた。
義母は夕飯が完成してから呼ばれてやってきた。ノヴェムが家に居るのが気に入らなくて部屋にこもっているようだ。
「いただきます」
今日は勉強のためなのかノヴェムの前髪はアキが結んでくれていたらしく、食事の前に俺が結んでやる必要はなかった。可愛い額を丸出しにして、ハンバーグを頬張って美味しそうな顔をしている。
「おにぃ、ちゃん」
幼い声でそう呼ばれて驚いた。ノヴェムが日本語で俺を呼んだのだ。
「おいしー、ねぇ」
「……! あっ、あぁ! 美味しいな!」
「おい、しー」
「喋ってるぅ……! セイカっ、すごいなお前! ノヴェムくん喋ってるぞ!」
「ノヴェムはやる気あったから……子供だし、吸収力すごいんだよ」
「えらいぞノヴェムくん! 日本語上手いなぁ~……ふふふ」
吸収力の高い子供であり、周りには日本語を話す者ばかりの小学校に通っているとはいえ、すごい成長だ。
「おはようと、ありがとう、美味しいは完璧に言えるようにしておいたんだ。もう何単語か教えたけど、スムーズな会話はまだ難しいかな……」
「なるほどなるほど……アキは?」
「やる気ないから全然覚えない。ご褒美提示して釣ったりもしたんだけど微妙。とりあえず今は日本語しか話すなって縛り設けてる」
「中高の頃あったなぁ、英語の授業中は英語で話すことみたいな決まり……」
しみじみと話す歌見の隣、アキは黙々と食事を摂っている。そういえばさっきセイカとイチャついていた時、ロシア語を話していなかったな。あれからアキの声を聞いていない。
「アキ、美味しいか?」
「おいしー、です。にーに」
笑顔で返事をしてくれた。機嫌が悪い訳ではなさそうだ。日本語の語彙では話したいことが話せないのだろうか。
「そういえば水月、明日シフト入ってなかったよな」
「はい、毎週水曜は休むことにしましたので。土日だけでは彼氏との時間が取れませんからね」
「毎週かぁ。ま、別に俺の仕事が減る訳じゃないからいいけど」
明日、水曜日はシュカとの約束が入っている。彼から誘ってくれるなんて珍しい、デートをしたいのだろうか、半日丸々セックスしたいのだろうか。楽しみだ。
「おにぃちゃん、食べる」
「ん?」
振り向くとノヴェムはフォークに刺したプチトマトを差し出していた。
「くれるのか?」
「おにぃちゃん食べる、とめと」
「とめと? ふふ……いいのか? じゃ、あーん……ん、ありがと」
トマトをくれたのは単なる優しさだろうか、それともトマトが苦手なのだろうか? そういえば、歌見はトマトが苦手じゃなかったか?
「先輩トマト嫌いでしたよね」
「あぁ、アキくんにあげたぞ。欲しかったか?」
「いえ、私も別に好きというほどでもありませんし」
「栄養バランス考えてトマト入れてるんだから、ちゃーんと食べて欲しいわね~」
「ぅ……す、すいません、トマトはどうも……」
「水月は太りやすいんだから、あんまり餌付けされちゃダメよ。トマト一個くらいならいいけどね」
「太りやすいとか言わないでくださいよ……」
学校もバイトも再開した今、夏休み中より腹が減りやすくなっているのに、俺の食事はアキよりも少ない。おかわりは禁止。美貌を保つため、暗黒時代に戻らないためだと分かってはいるが、いつまでも続く食事制限は辛いものだ。
「十分俺を好きにしていいって……三十! とか、三! とか、競りみたいにして時間決めたんだ……結構長くなっちゃった。鳴雷が帰ってきてノヴェムがどっか行ったから秋風が触ってきて……ノヴェムすぐに戻ってくるからって、ダメって……後で部屋でって言ったのに、コイツ、止まんなかった」
一応、ノヴェムには見せないようにしようという気配りはあったんだな。後一歩足りなかったけれど。
「ノヴェム……見たかな」
「すぐ目隠したし、多分何してたか分かんないよ」
「そうかなぁ、ならいいけど…………あっ、えっと、こんばんは、歌見。ごめん挨拶遅れて……」
歌見を見つけたセイカは軽く頭を下げる。
「いやいや、昨日からセイカも学校行ってるんだよな。どうだ? 上手くやれてるか?」
「うん……鳴雷がずっと傍に居てくれるし、公次居るし……天正達も支えてくれるし……」
「コウジ? なんだ、新しい彼氏か? 聞いてないぞ」
「ハムぬいでそ」
「これ」
セイカは持っていたハムスターのぬいぐるみを歌見に見せた。渡してしまわず目の前に突き出すだけなのが、ぬいぐるみの気に入りようを表しているように感じる。
「鳴雷が作ってくれたんだ、昔飼ってた公助そっくりのぬいぐるみ……だからこれは、公次」
「手作りなのか、すごいな……器用だなお前」
「公次が居れば、俺大丈夫なんだ」
「……そうか」
歌見は優しく微笑んで、セイカの頭を撫でようとした。しかし頭上に上げられた手にセイカが怯え、頭を庇い、バランスを崩して転びかけた。
「わ……すぇかーちか、大丈夫……するです?」
「……っ、あ、あぁ……大丈夫。ごめん……ごめんな歌見っ、俺ちよっとバランス崩しただけだから」
しっかりと床を踏み締め直したセイカは歌見の手を取り、持ち上げ、自らの頭を撫でさせた。
「…………よしよし」
目は口ほどに物を言う。セイカの目は「ねっ、怖がってないでしょ」と必死に取り繕っていた。歌見は切なげな笑みを浮かべてセイカの頭をしばらく撫で続けた。
義母は夕飯が完成してから呼ばれてやってきた。ノヴェムが家に居るのが気に入らなくて部屋にこもっているようだ。
「いただきます」
今日は勉強のためなのかノヴェムの前髪はアキが結んでくれていたらしく、食事の前に俺が結んでやる必要はなかった。可愛い額を丸出しにして、ハンバーグを頬張って美味しそうな顔をしている。
「おにぃ、ちゃん」
幼い声でそう呼ばれて驚いた。ノヴェムが日本語で俺を呼んだのだ。
「おいしー、ねぇ」
「……! あっ、あぁ! 美味しいな!」
「おい、しー」
「喋ってるぅ……! セイカっ、すごいなお前! ノヴェムくん喋ってるぞ!」
「ノヴェムはやる気あったから……子供だし、吸収力すごいんだよ」
「えらいぞノヴェムくん! 日本語上手いなぁ~……ふふふ」
吸収力の高い子供であり、周りには日本語を話す者ばかりの小学校に通っているとはいえ、すごい成長だ。
「おはようと、ありがとう、美味しいは完璧に言えるようにしておいたんだ。もう何単語か教えたけど、スムーズな会話はまだ難しいかな……」
「なるほどなるほど……アキは?」
「やる気ないから全然覚えない。ご褒美提示して釣ったりもしたんだけど微妙。とりあえず今は日本語しか話すなって縛り設けてる」
「中高の頃あったなぁ、英語の授業中は英語で話すことみたいな決まり……」
しみじみと話す歌見の隣、アキは黙々と食事を摂っている。そういえばさっきセイカとイチャついていた時、ロシア語を話していなかったな。あれからアキの声を聞いていない。
「アキ、美味しいか?」
「おいしー、です。にーに」
笑顔で返事をしてくれた。機嫌が悪い訳ではなさそうだ。日本語の語彙では話したいことが話せないのだろうか。
「そういえば水月、明日シフト入ってなかったよな」
「はい、毎週水曜は休むことにしましたので。土日だけでは彼氏との時間が取れませんからね」
「毎週かぁ。ま、別に俺の仕事が減る訳じゃないからいいけど」
明日、水曜日はシュカとの約束が入っている。彼から誘ってくれるなんて珍しい、デートをしたいのだろうか、半日丸々セックスしたいのだろうか。楽しみだ。
「おにぃちゃん、食べる」
「ん?」
振り向くとノヴェムはフォークに刺したプチトマトを差し出していた。
「くれるのか?」
「おにぃちゃん食べる、とめと」
「とめと? ふふ……いいのか? じゃ、あーん……ん、ありがと」
トマトをくれたのは単なる優しさだろうか、それともトマトが苦手なのだろうか? そういえば、歌見はトマトが苦手じゃなかったか?
「先輩トマト嫌いでしたよね」
「あぁ、アキくんにあげたぞ。欲しかったか?」
「いえ、私も別に好きというほどでもありませんし」
「栄養バランス考えてトマト入れてるんだから、ちゃーんと食べて欲しいわね~」
「ぅ……す、すいません、トマトはどうも……」
「水月は太りやすいんだから、あんまり餌付けされちゃダメよ。トマト一個くらいならいいけどね」
「太りやすいとか言わないでくださいよ……」
学校もバイトも再開した今、夏休み中より腹が減りやすくなっているのに、俺の食事はアキよりも少ない。おかわりは禁止。美貌を保つため、暗黒時代に戻らないためだと分かってはいるが、いつまでも続く食事制限は辛いものだ。
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