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保健室は騒音禁止
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繰言とは結構話が合った。超絶美形ゆえに警戒されていたようだが、それも随分解けたように思える。
「ぶっちゃけボウズはトラウマ製造機なだけで、大量死するのは初見だけでわ? 無犠牲の壁はアカヘビにあると思いまするぞ」
「アカヘビに手こずるとかクソエイムの喧伝なんですけど。無犠牲の壁はラスダンの水場エリアですから、列整えるだけ解散するだけで水ポチャ溺死コース待ったナシ鬼畜ステージですから」
「陸地に百匹全部投げてしまえばいいだけの話でそ。カエルはもうチャチャッとやってもらって、2の頃はまだ青ピクが救助してくれますしおすし」
「いやいやあの鬼ステにはコキンも居ますから」
「コキンは相方で釣っとくのがセオリーでわ? ご自分の迂闊さ紹介してますぞ」
俺と繰言は買っているゲームの被りが多い上に、似たり寄ったりの腕でプレイしているようで、とても話が合う。ライトユーザーの歌見や、ヘビーユーザー過ぎるレイより、ずっと話しやすいかもしれない。お前みたいに上手く出来ないと僻まれることも、いやこうやればいいじゃないすかと無意識マウントを取られることもない。
(まぁキモオタの性なのか、煽り合っているような話し方にはなっていますが……これ別に互いにイラついてるとかじゃないんでそ)
練習が終わるのを待つ間、それなりに楽しく過ごすことが出来た。
「あ、チャイム……DLC予想は中断ですな」
「どうせ俺の最推しゲームには来ませんよっと。はぁ……他人とここまで話せたのは今日が初めて。ありがとう鳴雷くん……ごめんね、顔だけで怖がっちゃってまして……」
「あぁ、いえ、そんな……」
「…………でも、さ、あの……さ、早苗ちゃんにさ、乱暴なことは……やめて欲しい。無理に引っ張ったりとか……しないで、あげて」
「……はい」
「わ、分かってくれたっ? よかった……」
「水月!」
ガラガラと保健室の扉が開き、汗だくのシュカが入ってくる。
「保健室入る時は学年と名前!」
「一年、鳥待です。水月、水月大丈夫でしたか? 病院には行かなくていいんですね?」
「シュカ……大丈夫だよ、大袈裟だな……熱中症ってほどでもない、ちょっと立ちくらみしただけなのに」
「あなたは大丈夫でも大丈夫じゃなくても大丈夫って言うから……今回は、もう本当に大丈夫みたいですね…………はぁ……」
安堵のため息をついたシュカの視線は俺の握るペットボトルへ。彼は何の躊躇いもなくそれを奪い、飲んだ。
「んっ、ん……はぁっ! 美味しい……」
「あっこら、熱中症の特権だぞ」
「熱中症じゃなかったんでしょ。予防ですよ予防、私は今の今まで炎天下に居たんです」
保健医に視線を向けると、彼はふいと目を逸らした。この程度は見逃してくれるようだ。安心してスポーツドリンクを飲むシュカの喉仏を眺めていると、コンコンと保健室の扉が叩かれた。
「どうぞー」
「失礼します。二年生、年積です」
「同じく紅葉です」
ミフユとネザメだ。彼らもシュカと同じくまだ体操服姿のままだ。
「朝、預けておいた不凍ゲルを受け取りに来ました」
「はいはい、冷凍庫入れてあるから持っていきなさい」
「ありがとうございます、失礼します」
ミフユの手にはポケット付きのタオルがある。不凍ゲルが詰まったパックを冷凍庫から取り出すと、それをタオルのポケットに入れ、ネザメの首に巻いた。
「はぁ……涼しい。ありがとうねぇミフユ」
「いえ、当然の役目です。鳴雷一年生、具合はどうだ? む……鳥待一年生、貴様も熱中症の初期症状でも出たのか?」
「具合はもうすっかり、心配かけてすみません。シュカは俺のスポドリ取りました」
人が増えたからか繰言が俯いている。いや、それだけではない、両手で顔を覆っている。俺のキモオタ時代でもここまで人見知りはしなかったぞ、重症だな。
「なんてことを鳥待一年生! 貴様には生徒会役員の自覚が足りん! ネザメ様を共に支えるという崇高な使命が与えられているというに貴様の振る舞いは全く副会長に相応しくないものばかりだ!」
「……ケツにバイブ突っ込んでるヤツに言われたくねぇ」
シュカはとても小さな声でボソッと呟いた。シュカという美少年の声でなければ近くに居る俺にすら聞こえなかっただろう。
「なっ……ぅ、きょ、今日はっ、行進の練習があるから……ち、小さめのローターだ……着替えるから、緊縛も下着に隠れる範囲だけで……って、ミフユのことは今はいいだろう! 話をすり替えるな、今は貴様の話をしているんだ!」
緊縛も大人の玩具も仕込んであるのか……流石だ。今日はリュウがバイブを仕込んでいたはずだが、行進中は大丈夫だっただろうか? 着替えの隙に抜いていたのだろうか。後で確認しておこう。
「保健室で騒がない! 外でやりなさい、保健室の前から移動した後で。早苗さんもそろそろ帰らないと、鳴雷くん同じクラスでしたね、車椅子を押していってあげてください」
素直に謝罪して生徒会の三人が去っていく。扉の前で振り返り、頭を下げ、上げ……ミフユは「あっ」と声を漏らした。
「繰言二年生! 貴様保健室に居たのか!」
ミフユに呼ばれた繰言はビクッと身体を跳ねさせ、しかし顔は上げずむしろ更に小さく身体を丸める。
「二時間目から姿が見えないと思えばこんなところに……! またサボっていたのか貴様は!」
「……クラスメイトなんだよ、繰言くん。僕は話したことは一度もないんだけどね、ミフユはよく追いかけ回しているよ」
ミフユに着いてきて保健室の真ん中へと戻ってきたネザメはそう俺に教えてくれた。
「顔を上げろ貴様! ネザメ様の前で無礼な!」
「……と、年積! やめて、繰言体調悪いんだよ」
「庇いだて無用だ狭雲一年生! 繰言二年生はいつもいつもそうやって仮病を使って……」
「いつもはそうだとしても! 今日は、本当。ね、熱もあった……だから、ほっといて。ほら、行こう……早く戻らないと、着替える時間なくなる」
「…………そうか。すまなかったな繰言二年生、だがベッドを使うほどではないのなら後輩に言わせるのではなく自分で説明するように。ネザメ様、行きましょう」
シュカは既に戻ったようだ。ネザメとミフユも今度こそ保健室を出ていった。俺もそろそろ行こう、と、保健室の片隅に置かせてもらっていた車椅子を取ってくる。
「セイカ」
「繰言、大丈夫か? キツいよなぁあの人……ごめん勝手に熱あるとか言って」
「……セイカ! 行こう」
「あっ……繰言、じゃあ、また明日」
繰言を慰めていて俺が車椅子を持ってきたのに気付かなかったらしいセイカは、振り向いて目を見開き、照れくさそうに「ありがとう」と言って車椅子に腰を下ろした。
「またな~」
繰言は手を振るセイカに手を振り返すどころか顔を上げもせず、ソファの上でずっと膝を抱えていた。
「ぶっちゃけボウズはトラウマ製造機なだけで、大量死するのは初見だけでわ? 無犠牲の壁はアカヘビにあると思いまするぞ」
「アカヘビに手こずるとかクソエイムの喧伝なんですけど。無犠牲の壁はラスダンの水場エリアですから、列整えるだけ解散するだけで水ポチャ溺死コース待ったナシ鬼畜ステージですから」
「陸地に百匹全部投げてしまえばいいだけの話でそ。カエルはもうチャチャッとやってもらって、2の頃はまだ青ピクが救助してくれますしおすし」
「いやいやあの鬼ステにはコキンも居ますから」
「コキンは相方で釣っとくのがセオリーでわ? ご自分の迂闊さ紹介してますぞ」
俺と繰言は買っているゲームの被りが多い上に、似たり寄ったりの腕でプレイしているようで、とても話が合う。ライトユーザーの歌見や、ヘビーユーザー過ぎるレイより、ずっと話しやすいかもしれない。お前みたいに上手く出来ないと僻まれることも、いやこうやればいいじゃないすかと無意識マウントを取られることもない。
(まぁキモオタの性なのか、煽り合っているような話し方にはなっていますが……これ別に互いにイラついてるとかじゃないんでそ)
練習が終わるのを待つ間、それなりに楽しく過ごすことが出来た。
「あ、チャイム……DLC予想は中断ですな」
「どうせ俺の最推しゲームには来ませんよっと。はぁ……他人とここまで話せたのは今日が初めて。ありがとう鳴雷くん……ごめんね、顔だけで怖がっちゃってまして……」
「あぁ、いえ、そんな……」
「…………でも、さ、あの……さ、早苗ちゃんにさ、乱暴なことは……やめて欲しい。無理に引っ張ったりとか……しないで、あげて」
「……はい」
「わ、分かってくれたっ? よかった……」
「水月!」
ガラガラと保健室の扉が開き、汗だくのシュカが入ってくる。
「保健室入る時は学年と名前!」
「一年、鳥待です。水月、水月大丈夫でしたか? 病院には行かなくていいんですね?」
「シュカ……大丈夫だよ、大袈裟だな……熱中症ってほどでもない、ちょっと立ちくらみしただけなのに」
「あなたは大丈夫でも大丈夫じゃなくても大丈夫って言うから……今回は、もう本当に大丈夫みたいですね…………はぁ……」
安堵のため息をついたシュカの視線は俺の握るペットボトルへ。彼は何の躊躇いもなくそれを奪い、飲んだ。
「んっ、ん……はぁっ! 美味しい……」
「あっこら、熱中症の特権だぞ」
「熱中症じゃなかったんでしょ。予防ですよ予防、私は今の今まで炎天下に居たんです」
保健医に視線を向けると、彼はふいと目を逸らした。この程度は見逃してくれるようだ。安心してスポーツドリンクを飲むシュカの喉仏を眺めていると、コンコンと保健室の扉が叩かれた。
「どうぞー」
「失礼します。二年生、年積です」
「同じく紅葉です」
ミフユとネザメだ。彼らもシュカと同じくまだ体操服姿のままだ。
「朝、預けておいた不凍ゲルを受け取りに来ました」
「はいはい、冷凍庫入れてあるから持っていきなさい」
「ありがとうございます、失礼します」
ミフユの手にはポケット付きのタオルがある。不凍ゲルが詰まったパックを冷凍庫から取り出すと、それをタオルのポケットに入れ、ネザメの首に巻いた。
「はぁ……涼しい。ありがとうねぇミフユ」
「いえ、当然の役目です。鳴雷一年生、具合はどうだ? む……鳥待一年生、貴様も熱中症の初期症状でも出たのか?」
「具合はもうすっかり、心配かけてすみません。シュカは俺のスポドリ取りました」
人が増えたからか繰言が俯いている。いや、それだけではない、両手で顔を覆っている。俺のキモオタ時代でもここまで人見知りはしなかったぞ、重症だな。
「なんてことを鳥待一年生! 貴様には生徒会役員の自覚が足りん! ネザメ様を共に支えるという崇高な使命が与えられているというに貴様の振る舞いは全く副会長に相応しくないものばかりだ!」
「……ケツにバイブ突っ込んでるヤツに言われたくねぇ」
シュカはとても小さな声でボソッと呟いた。シュカという美少年の声でなければ近くに居る俺にすら聞こえなかっただろう。
「なっ……ぅ、きょ、今日はっ、行進の練習があるから……ち、小さめのローターだ……着替えるから、緊縛も下着に隠れる範囲だけで……って、ミフユのことは今はいいだろう! 話をすり替えるな、今は貴様の話をしているんだ!」
緊縛も大人の玩具も仕込んであるのか……流石だ。今日はリュウがバイブを仕込んでいたはずだが、行進中は大丈夫だっただろうか? 着替えの隙に抜いていたのだろうか。後で確認しておこう。
「保健室で騒がない! 外でやりなさい、保健室の前から移動した後で。早苗さんもそろそろ帰らないと、鳴雷くん同じクラスでしたね、車椅子を押していってあげてください」
素直に謝罪して生徒会の三人が去っていく。扉の前で振り返り、頭を下げ、上げ……ミフユは「あっ」と声を漏らした。
「繰言二年生! 貴様保健室に居たのか!」
ミフユに呼ばれた繰言はビクッと身体を跳ねさせ、しかし顔は上げずむしろ更に小さく身体を丸める。
「二時間目から姿が見えないと思えばこんなところに……! またサボっていたのか貴様は!」
「……クラスメイトなんだよ、繰言くん。僕は話したことは一度もないんだけどね、ミフユはよく追いかけ回しているよ」
ミフユに着いてきて保健室の真ん中へと戻ってきたネザメはそう俺に教えてくれた。
「顔を上げろ貴様! ネザメ様の前で無礼な!」
「……と、年積! やめて、繰言体調悪いんだよ」
「庇いだて無用だ狭雲一年生! 繰言二年生はいつもいつもそうやって仮病を使って……」
「いつもはそうだとしても! 今日は、本当。ね、熱もあった……だから、ほっといて。ほら、行こう……早く戻らないと、着替える時間なくなる」
「…………そうか。すまなかったな繰言二年生、だがベッドを使うほどではないのなら後輩に言わせるのではなく自分で説明するように。ネザメ様、行きましょう」
シュカは既に戻ったようだ。ネザメとミフユも今度こそ保健室を出ていった。俺もそろそろ行こう、と、保健室の片隅に置かせてもらっていた車椅子を取ってくる。
「セイカ」
「繰言、大丈夫か? キツいよなぁあの人……ごめん勝手に熱あるとか言って」
「……セイカ! 行こう」
「あっ……繰言、じゃあ、また明日」
繰言を慰めていて俺が車椅子を持ってきたのに気付かなかったらしいセイカは、振り向いて目を見開き、照れくさそうに「ありがとう」と言って車椅子に腰を下ろした。
「またな~」
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