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始業式の日のお昼ご飯

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夏休み明け初日の今日に授業らしい授業はなく、昼食の時間を待たずして下校時間を迎えた。

「ね~、お昼どっか行こ~? 今日も習い事あるんだけどさ~、昼過ぎからなんだよね~。ご飯一緒に食べよ~よぉ~」

「俺すぐバイトだからなぁ」

「ええ~! じゃあお昼は~? どうすんのさ」

「本屋駅前だから何かしらあるだろ、一人で食べるよ」

「寂しいじゃ~ん、カフェかファミレス行こうよ~! 昼休み十分かそこらじゃないでしょ~?」

「まぁ十分ってこたないけど、そんなに長くもないから本屋の近くまで来てもらうことになるんだよな。昼過ぎの習い事、大丈夫か?」

バイトの昼休みが始まる時刻と、ハルの習い事開始の時刻を確認すると、とても一緒にランチを楽しむ時間はなさそうだと分かった。

「あーぁー、みっつんとお昼食べたかったなぁ~」

「明日からほぼ毎日一緒に食べるだろ」

「学校で食べるのは別って感じだもん。はぁ……あっ、ねぇみんなっ、みんなは一緒にご飯行ける~?」

「私は無理です、忙しいので」

「俺は行けんで」

「ぼ、くも……」

俺の腕に絡みつくのをやめたハルは三人に予定を尋ねた後、また俺の前に回り込んできた。

「せーかは?」

「えっ?」

「お昼、一緒に食べよっ。用事あるの~?」

「……ない、けど……いいのか? 俺行っても」

「いいから聞いてんじゃ~ん」

セイカは不安そうな、それでいてどこか期待を滲ませた瞳で俺を見上げる。

「俺の顔色伺わなくていいよ、行っておいで」

「う、うん……」

「俺ん家の近所にいい店あるからさ~、そこ行こっ。もうこのまま行こ~よ、制服カフェ~」

ミフユが居たら叱られそうな発言だな。

「制服のままウロウロするのは感心しませんね」

そういえばシュカも生徒会役員だったな。夏休み中は素の彼ばかり見ていたからすっかり忘れていたが、口うるさい優等生を演じているんだった。何だか懐かしいな、これからはそっちの一面の方をよく見るようになるだろうに。

「来ないくせにうるさ~い」

「あ、セイカ飯代持ってないよな。誰か立て替えといてくれ。で、後で値段教えてくれ。送金するから」

「りょ~」

「遠慮してコーヒー一杯でいいとか言い出したら殴ってくれていいから」

「殴っ……!? ちゃ、ちゃんと食べるよ……」

「食べた後どうしよ~? 俺すぐ習い事なんだよね~。せーか一人で帰れる?」

セイカが乗っている車椅子は、両手でタイヤを動かすことで乗っている本人が操作出来る代物だ。だがセイカにはその両腕がない、セイカは自分で乗っている車椅子を操作出来ないのだ。

「一応立てるし歩けるから、車椅子自分で押して帰れるよ」

「俺駅一個隣やし、そこまでは押してったるわ」

「でも……」

「長ぅ歩いたら足痛なるんやろ? 遠慮しぃなや」

「…………うん」

頷いたセイカの口角は僅かに上がっていた。

「決まったな、んじゃ今から帰るの俺とシュカだけか。一緒に帰ろうぜ~シュカぁ~」

「抱きつかないでください暑苦しい」

「今日も暑いよなぁ、夏休みは暑いのやり過ごすためにあるんじゃないのか? 伸ばせばいいのに……」

リュウ、カンナ、セイカはハルに着いて裏門へ向かった。俺とシュカは二人で正門から出ていく。

「ネザメさんとミフユさん、行き帰り会わないよな。二年生って時間違うのか?」

「一緒だと思いますよ。車のお迎えが来るんじゃないですか? 裏門と正門とは別に、教員用の駐車場があるでしょう、あまりあちらに用事がないので馴染みがないでしょうが……ほら、飼育小屋から奥の方へ行ったところですよ」

「あー……」

「あの駐車場の方に車が来ているのでは、と睨んでます」

「なるほどなぁ、ありえそうだ。明日答え合わせしよっか」

一緒に帰るとは言ってもシュカと同じ電車に乗ることはない。駅前で別れ、一人寂しく本屋へ向かう。レイがバイトをしていた頃は一緒に居てくれたのだが、本業に集中し始めた彼は朝しか一緒に居てくれない。まぁ、毎朝来てくれるだけで十分なのだが。

「お久しぶりでーす」

まずは店長に挨拶。夏休みをもらったことへの謝罪と礼を改めて。仕事の流れを一人で再確認し、開始。

「……ふぅ、久々だと腰にキますぞ」

倉庫でトントンと腰を叩く。在庫を確認し、店頭に出す分のダンボールを運ぶ。本が詰まったダンボール箱は重い、夏休みに遊び呆けていたから筋肉が落ちたのかもしれない。

「見た目は変わってないのですが……」

俺より細く見えるアキに力で勝てないし、俺は筋肉の使い方が分かっていないのかもしれない。



一時間ほど働いて昼休憩に入る。バックヤードでは汗だくの歌見が扇風機の前でぐったりしていた。

「歌見先輩!」

「……おぉ、水月。よぉ……今日も暑いな。夏場の配達は……はぁ……キツい」

「お疲れ様ですぞ。パイセンは夏休み中もお休みナシですよな」

「普通夏休み中はバイトガッツリ入るもんだぞ」

「わたくし遊ぶ金のために働いておりますので」

「ったく」

呆れた様子の歌見は首にかけている白いタオルで汗を拭き始めた。

「パイセンパイセンわたくしに汗拭かせてくださいませ! お願いします! お願いします!」

「わ、分かった分かった……変なとこ触るなよ?」

タオルを受け取り、まずは歌見の額の汗をポンポンと拭う。こめかみ、頬、首へと降りていく。

「ポンポンポンポン……刀の手入れでもしてるのか? もっとガシガシ拭いてくれていいぞ、俺はそんな繊細じゃない」

「ぐへ、ぐへへ、いえいえ優しく扱わねば、ふひひひ」

「笑い方キモ……」

「お次はどこを?」

「ん、あぁ……ちょっと待て、脱ぐ」

歌見はぐっしょりと濡れたタンクトップを脱ぎ、持参したらしいビニール袋に入れると上半身裸のまま俺に向き直った。

「ここ頼む。汗が溜まって気持ち悪いんだ」

歌見が指したのは胸の谷間だ。俺は震える手をタオルに包み、曲げた人差し指で丁寧に歌見の肉厚な胸筋の谷間を拭った。

「胸の下の方もな、そこも結構蒸れるから」

「……舌で綺麗に致しましょうか?」

「タオル返せ」

「冗談です冗談ですイッツァジョーク! んもぅパイセンったら冗談が通じないんだからぁ」

ハァハァと息を荒らげながらも俺はただ歌見の胸筋の下の汗を拭った。腹筋の溝、臍なども丁寧に拭いていく。

「どぅふふふ、ぅへへへへへ」

幸せな生殺しに張り詰めた股間が痛む。眉間に皺を寄せた歌見の蔑むような視線もたまらない。

「背中拭いたら最後は腋だ、変な気起こすなよ」

「ぬふぁふぁふぁ」

「なぁそれ本当に笑い声なのか?」

広い背中を拭った後は、いやらし過ぎる腋を拭く。

「エッロ……こんなんもう性器じゃん」

「タオル返せ」

「ごめんなさいごめんなさい拭かせてください」

眉を顰める歌見からタオルを死守し、最後まで汗拭きをやらせてもらった。

「はぁ……満足でそ。一生オカズに出来ますな。てぃんてぃん痛いので一発トイレで抜いてきまっそ」

「そんな時間ないだろ、さっさと昼飯行くぞ。そこの冷やし中華は絶品なんだ、ほら来い」

「あぁあ待ってくだされちんポジが、勃ってるからちんポジがっ」

持参した換えのタンクトップに着替え、薄手で半袖の上着を羽織った歌見は俺の首根っこを掴み、ずるずると引っ張った。
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