1,352 / 2,046
席順を決めよう
しおりを挟む
ジャムパンを齧る、彼氏達の戯れを眺めながら。
「みぃ、くん。これ」
「ん?」
机に小さな紙パックの牛乳が置かれた。自販機で売られている物だ。
「あげ、る」
「買ってきてくれたのか!? うわぁ……! ありがとうなカンナぁ、いくらだっけこれ」
「……あげる、の」
「奢ってくれるのか? あぁもう……キスしたいよ」
ここが教室でなければカンナに熱い抱擁と情熱的なキスを贈ったのに、と少し悔しく思いながらストローを挿す。
「んー……ジャムパンに合う。より美味しいよ、ありがとうなぁ、カンナ。下まで買いに行ったのか? 自販機下にしかないだろ」
「し……ぎょ、式……あと、買っ……の」
「始業式の後に? へぇー……気が利くなぁ本当」
「いい物食べてますね、水月」
カンナの頬をむにむにと弄んで愛でているとシュカが視界に割り込んできた。動機は明白だ。
「欲しいのか? これレイとカンナにもらった大事なパンと牛乳なんだけど」
「知ってますよ、パンは通学路で自慢してるの聞きましたし、牛乳は見てました」
「…………一口だけだからな」
頷いたシュカの口元にパンを差し出す。予想通り大口を開けて頬張ろうとしてきたので、素早く手を引き常識的な一口のサイズに留めさせた。
「……! やりますね」
「ふふん」
ジャムパンを食べ終え、牛乳を飲み干し、ゴミを捨てる。休み時間が終わり、戻ってきた担任が席替えについての説明を始める。席替えはクジ引きで行うものと思っていたが、どうやら違うらしい。
「じゃあまず、視力の問題で前例希望の者」
教え合いを推奨している教師の案は、話しやすい友人数人で班を作らせ、その班を元に席を決めていくというものだった。
「ぼっちだったら死ぬなこのシステム……」
クラスメイト達は浅く広い人付き合いを心得ている者が多いようで、親友同士という者もひとりぼっちの者も居なさそうに見える。中学の頃と随分違うのは、高校生とはこういうものなのか十二薔薇がこうなのか、それともただの偶然か。
「早苗は鳴雷の隣にするか、出入りしやすいように扉の近くがいいな」
最前列の右端がセイカの席となった、俺はその隣だ。担任の席順メモを覗いていると、くいっと裾を引っ張られた。
「ん?」
「…………」
「どうした、カンナ」
「……………………」
カンナは一学期中ずっと俺の隣だった、もしかして隣を取られるのが嫌なのだろうか?
「カンナとも傍の席がいいなぁ。左隣じゃ別の班になっちゃうから、後ろか……斜め後ろ? どっちがいい?」
「ほな俺しぐの隣がええ」
「俺しぐの隣が……はぁ?」
ほぼ同時にハルとリュウがカンナの隣を希望し、睨み合う。
「しぐしぐ、俺の隣がいいよね!」
「俺がええやろ、なぁしぐ」
「こんなガサツなの隣じゃ嫌だよね~」
「授業中に顔弄り回しとるようなヤツ嫌やんなぁ」
二人に迫られ、カンナは俺の背に隠れてしまう。そんなに迫っちゃ逆効果だと二人を宥める俺の背後でシュカが担任のメモを覗く。
「時雨さんを水月……鳴雷委員長の後ろに」
カンナが決めた席を担任に伝えてくれているようだ。
「狭雲……早苗さんの後ろは私です」
……ん?
「あっ、ちょっ! しゅーズルい!」
「抜け駆けや!」
「あなた達みたいなろくに授業を受けない方が隣に居たら、時雨さんの成績まで下がります。問題児は問題児同士で居てください。先生、この二人は私と時雨さんの後ろでお願いします」
「俺はメイクしながらでもちゃんと聞いてるもん! 思いっきり寝てるりゅーとは違う!」
「寝とる俺より点数低い自分が隣に居った方がしぐに悪影響じゃボケ!」
「はぁ!? あなたに負けてるのは数学だけです、全部負けてるみたいに言わないでください数式オタク!」
「やめろお前ら! 静かにしろ! あぁもう……喧嘩やめろってば!」
まさに三つ巴だ。一人を宥めればその背後で二人が争い、二人の間に入れば残る一人が背後から二人を煽る。三人の真ん中に入れば集中攻撃を受ける。
「みっつんは黙っててよ文も理も出来ないシンプルバカのくせに!」
「そうだ下がってろ頭スカスカのルックス全振り男!」
「言葉責め出来るだけの語彙力もあれへんカスが!」
「…………カンナぁ~」
集中攻撃に屈した俺は情けない声でカンナを呼び、彼に抱きついた。
「よし、よし……」
「カンナぁ、俺って顔だけかなぁ……」
「そんな、こと……な、ぃ…………みぃくん、やさし……」
「優しいって取り柄ないヤツに言うことじゃん? 味の薄い飯のこと「優しい味」って褒めるじゃん? 俺は味の薄い男……味がしなくなったガムのように捨てられる男……」
「そんなこと……ひゃっ」
カンナは壁際に、そしてセイカの隣に立っている。今なら尻を揉んでも他のクラスメイトにはバレないし、担任からもセイカの頭が邪魔になってよく見えないはずだ。
「もぉ……みぃくん…………んっ、ぼくの、おしり……さわ、たら……元気、でる?」
「でるかも」
「なら、触っ……いい、けど……ん、ぅっ……つよく、しちゃ……だめっ……こえ、でちゃ、ぁっ……」
そんなふうに言われて我慢出来る男が居るだろうか? 居たとしたら相当な紳士だ、大半は逆に興奮を煽られてしまって俺のようにより強く揉みしだくだろう。
「ひゃっ……ゃ、ん……んんっ……!」
「おい、鳴雷!」
ぺちんっ、と手を叩かれて正気に戻る。
「揉んでないでアイツら早く何とかしろよ、そろそろ手ぇ出そうだぞ」
「ぁ……あ、あぁ、分かりました、セイカ様……」
「……? うん……」
三人の真ん中へ戻り、たとえまた集中攻撃を受けても彼らが落ち着くまで絶対に折れないぞと覚悟を決める。しかし、三人は揃って俺の顔色が悪いと言い、喧嘩を中断した。
「みぃ、くん。これ」
「ん?」
机に小さな紙パックの牛乳が置かれた。自販機で売られている物だ。
「あげ、る」
「買ってきてくれたのか!? うわぁ……! ありがとうなカンナぁ、いくらだっけこれ」
「……あげる、の」
「奢ってくれるのか? あぁもう……キスしたいよ」
ここが教室でなければカンナに熱い抱擁と情熱的なキスを贈ったのに、と少し悔しく思いながらストローを挿す。
「んー……ジャムパンに合う。より美味しいよ、ありがとうなぁ、カンナ。下まで買いに行ったのか? 自販機下にしかないだろ」
「し……ぎょ、式……あと、買っ……の」
「始業式の後に? へぇー……気が利くなぁ本当」
「いい物食べてますね、水月」
カンナの頬をむにむにと弄んで愛でているとシュカが視界に割り込んできた。動機は明白だ。
「欲しいのか? これレイとカンナにもらった大事なパンと牛乳なんだけど」
「知ってますよ、パンは通学路で自慢してるの聞きましたし、牛乳は見てました」
「…………一口だけだからな」
頷いたシュカの口元にパンを差し出す。予想通り大口を開けて頬張ろうとしてきたので、素早く手を引き常識的な一口のサイズに留めさせた。
「……! やりますね」
「ふふん」
ジャムパンを食べ終え、牛乳を飲み干し、ゴミを捨てる。休み時間が終わり、戻ってきた担任が席替えについての説明を始める。席替えはクジ引きで行うものと思っていたが、どうやら違うらしい。
「じゃあまず、視力の問題で前例希望の者」
教え合いを推奨している教師の案は、話しやすい友人数人で班を作らせ、その班を元に席を決めていくというものだった。
「ぼっちだったら死ぬなこのシステム……」
クラスメイト達は浅く広い人付き合いを心得ている者が多いようで、親友同士という者もひとりぼっちの者も居なさそうに見える。中学の頃と随分違うのは、高校生とはこういうものなのか十二薔薇がこうなのか、それともただの偶然か。
「早苗は鳴雷の隣にするか、出入りしやすいように扉の近くがいいな」
最前列の右端がセイカの席となった、俺はその隣だ。担任の席順メモを覗いていると、くいっと裾を引っ張られた。
「ん?」
「…………」
「どうした、カンナ」
「……………………」
カンナは一学期中ずっと俺の隣だった、もしかして隣を取られるのが嫌なのだろうか?
「カンナとも傍の席がいいなぁ。左隣じゃ別の班になっちゃうから、後ろか……斜め後ろ? どっちがいい?」
「ほな俺しぐの隣がええ」
「俺しぐの隣が……はぁ?」
ほぼ同時にハルとリュウがカンナの隣を希望し、睨み合う。
「しぐしぐ、俺の隣がいいよね!」
「俺がええやろ、なぁしぐ」
「こんなガサツなの隣じゃ嫌だよね~」
「授業中に顔弄り回しとるようなヤツ嫌やんなぁ」
二人に迫られ、カンナは俺の背に隠れてしまう。そんなに迫っちゃ逆効果だと二人を宥める俺の背後でシュカが担任のメモを覗く。
「時雨さんを水月……鳴雷委員長の後ろに」
カンナが決めた席を担任に伝えてくれているようだ。
「狭雲……早苗さんの後ろは私です」
……ん?
「あっ、ちょっ! しゅーズルい!」
「抜け駆けや!」
「あなた達みたいなろくに授業を受けない方が隣に居たら、時雨さんの成績まで下がります。問題児は問題児同士で居てください。先生、この二人は私と時雨さんの後ろでお願いします」
「俺はメイクしながらでもちゃんと聞いてるもん! 思いっきり寝てるりゅーとは違う!」
「寝とる俺より点数低い自分が隣に居った方がしぐに悪影響じゃボケ!」
「はぁ!? あなたに負けてるのは数学だけです、全部負けてるみたいに言わないでください数式オタク!」
「やめろお前ら! 静かにしろ! あぁもう……喧嘩やめろってば!」
まさに三つ巴だ。一人を宥めればその背後で二人が争い、二人の間に入れば残る一人が背後から二人を煽る。三人の真ん中に入れば集中攻撃を受ける。
「みっつんは黙っててよ文も理も出来ないシンプルバカのくせに!」
「そうだ下がってろ頭スカスカのルックス全振り男!」
「言葉責め出来るだけの語彙力もあれへんカスが!」
「…………カンナぁ~」
集中攻撃に屈した俺は情けない声でカンナを呼び、彼に抱きついた。
「よし、よし……」
「カンナぁ、俺って顔だけかなぁ……」
「そんな、こと……な、ぃ…………みぃくん、やさし……」
「優しいって取り柄ないヤツに言うことじゃん? 味の薄い飯のこと「優しい味」って褒めるじゃん? 俺は味の薄い男……味がしなくなったガムのように捨てられる男……」
「そんなこと……ひゃっ」
カンナは壁際に、そしてセイカの隣に立っている。今なら尻を揉んでも他のクラスメイトにはバレないし、担任からもセイカの頭が邪魔になってよく見えないはずだ。
「もぉ……みぃくん…………んっ、ぼくの、おしり……さわ、たら……元気、でる?」
「でるかも」
「なら、触っ……いい、けど……ん、ぅっ……つよく、しちゃ……だめっ……こえ、でちゃ、ぁっ……」
そんなふうに言われて我慢出来る男が居るだろうか? 居たとしたら相当な紳士だ、大半は逆に興奮を煽られてしまって俺のようにより強く揉みしだくだろう。
「ひゃっ……ゃ、ん……んんっ……!」
「おい、鳴雷!」
ぺちんっ、と手を叩かれて正気に戻る。
「揉んでないでアイツら早く何とかしろよ、そろそろ手ぇ出そうだぞ」
「ぁ……あ、あぁ、分かりました、セイカ様……」
「……? うん……」
三人の真ん中へ戻り、たとえまた集中攻撃を受けても彼らが落ち着くまで絶対に折れないぞと覚悟を決める。しかし、三人は揃って俺の顔色が悪いと言い、喧嘩を中断した。
0
お気に入りに追加
1,240
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる