冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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席順を決めよう

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ジャムパンを齧る、彼氏達の戯れを眺めながら。

「みぃ、くん。これ」

「ん?」

机に小さな紙パックの牛乳が置かれた。自販機で売られている物だ。

「あげ、る」

「買ってきてくれたのか!? うわぁ……! ありがとうなカンナぁ、いくらだっけこれ」

「……あげる、の」

「奢ってくれるのか? あぁもう……キスしたいよ」

ここが教室でなければカンナに熱い抱擁と情熱的なキスを贈ったのに、と少し悔しく思いながらストローを挿す。

「んー……ジャムパンに合う。より美味しいよ、ありがとうなぁ、カンナ。下まで買いに行ったのか? 自販機下にしかないだろ」

「し……ぎょ、式……あと、買っ……の」

「始業式の後に? へぇー……気が利くなぁ本当」

「いい物食べてますね、水月」

カンナの頬をむにむにと弄んで愛でているとシュカが視界に割り込んできた。動機は明白だ。

「欲しいのか? これレイとカンナにもらった大事なパンと牛乳なんだけど」

「知ってますよ、パンは通学路で自慢してるの聞きましたし、牛乳は見てました」

「…………一口だけだからな」

頷いたシュカの口元にパンを差し出す。予想通り大口を開けて頬張ろうとしてきたので、素早く手を引き常識的な一口のサイズに留めさせた。

「……! やりますね」

「ふふん」

ジャムパンを食べ終え、牛乳を飲み干し、ゴミを捨てる。休み時間が終わり、戻ってきた担任が席替えについての説明を始める。席替えはクジ引きで行うものと思っていたが、どうやら違うらしい。

「じゃあまず、視力の問題で前例希望の者」

教え合いを推奨している教師の案は、話しやすい友人数人で班を作らせ、その班を元に席を決めていくというものだった。

「ぼっちだったら死ぬなこのシステム……」

クラスメイト達は浅く広い人付き合いを心得ている者が多いようで、親友同士という者もひとりぼっちの者も居なさそうに見える。中学の頃と随分違うのは、高校生とはこういうものなのか十二薔薇がこうなのか、それともただの偶然か。

「早苗は鳴雷の隣にするか、出入りしやすいように扉の近くがいいな」

最前列の右端がセイカの席となった、俺はその隣だ。担任の席順メモを覗いていると、くいっと裾を引っ張られた。

「ん?」

「…………」

「どうした、カンナ」

「……………………」

カンナは一学期中ずっと俺の隣だった、もしかして隣を取られるのが嫌なのだろうか?

「カンナとも傍の席がいいなぁ。左隣じゃ別の班になっちゃうから、後ろか……斜め後ろ? どっちがいい?」

「ほな俺しぐの隣がええ」
「俺しぐの隣が……はぁ?」

ほぼ同時にハルとリュウがカンナの隣を希望し、睨み合う。

「しぐしぐ、俺の隣がいいよね!」

「俺がええやろ、なぁしぐ」

「こんなガサツなの隣じゃ嫌だよね~」

「授業中に顔弄り回しとるようなヤツ嫌やんなぁ」

二人に迫られ、カンナは俺の背に隠れてしまう。そんなに迫っちゃ逆効果だと二人を宥める俺の背後でシュカが担任のメモを覗く。

「時雨さんを水月……鳴雷委員長の後ろに」

カンナが決めた席を担任に伝えてくれているようだ。

「狭雲……早苗さんの後ろは私です」

……ん?

「あっ、ちょっ! しゅーズルい!」

「抜け駆けや!」

「あなた達みたいなろくに授業を受けない方が隣に居たら、時雨さんの成績まで下がります。問題児は問題児同士で居てください。先生、この二人は私と時雨さんの後ろでお願いします」

「俺はメイクしながらでもちゃんと聞いてるもん! 思いっきり寝てるりゅーとは違う!」

「寝とる俺より点数低い自分が隣に居った方がしぐに悪影響じゃボケ!」

「はぁ!? あなたに負けてるのは数学だけです、全部負けてるみたいに言わないでください数式オタク!」

「やめろお前ら! 静かにしろ! あぁもう……喧嘩やめろってば!」

まさに三つ巴だ。一人を宥めればその背後で二人が争い、二人の間に入れば残る一人が背後から二人を煽る。三人の真ん中に入れば集中攻撃を受ける。

「みっつんは黙っててよ文も理も出来ないシンプルバカのくせに!」

「そうだ下がってろ頭スカスカのルックス全振り男!」

「言葉責め出来るだけの語彙力もあれへんカスが!」

「…………カンナぁ~」

集中攻撃に屈した俺は情けない声でカンナを呼び、彼に抱きついた。

「よし、よし……」

「カンナぁ、俺って顔だけかなぁ……」

「そんな、こと……な、ぃ…………みぃくん、やさし……」

「優しいって取り柄ないヤツに言うことじゃん? 味の薄い飯のこと「優しい味」って褒めるじゃん? 俺は味の薄い男……味がしなくなったガムのように捨てられる男……」

「そんなこと……ひゃっ」

カンナは壁際に、そしてセイカの隣に立っている。今なら尻を揉んでも他のクラスメイトにはバレないし、担任からもセイカの頭が邪魔になってよく見えないはずだ。

「もぉ……みぃくん…………んっ、ぼくの、おしり……さわ、たら……元気、でる?」

「でるかも」

「なら、触っ……いい、けど……ん、ぅっ……つよく、しちゃ……だめっ……こえ、でちゃ、ぁっ……」

そんなふうに言われて我慢出来る男が居るだろうか? 居たとしたら相当な紳士だ、大半は逆に興奮を煽られてしまって俺のようにより強く揉みしだくだろう。

「ひゃっ……ゃ、ん……んんっ……!」

「おい、鳴雷!」

ぺちんっ、と手を叩かれて正気に戻る。

「揉んでないでアイツら早く何とかしろよ、そろそろ手ぇ出そうだぞ」

「ぁ……あ、あぁ、分かりました、セイカ様……」

「……? うん……」

三人の真ん中へ戻り、たとえまた集中攻撃を受けても彼らが落ち着くまで絶対に折れないぞと覚悟を決める。しかし、三人は揃って俺の顔色が悪いと言い、喧嘩を中断した。
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