冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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やっぱり制服姿は

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シャワーを終えて制服に着替え、ダイニングに向かう。既にセイカとアキは席に着いて朝食の完成を待っていた。

「せんぱいっ」

「お、レイ。おはよう」

「おはようございますっす、せんぱい今日からバイトも始めるんすよね」

「あぁ、レイはもう辞めちゃったんだよなぁ。寂しいよ」

「そうなんすよ……カメラは夜になるまでオフでよさそうすね」

話しているうちに母が朝食を完成させた。レイと共に席に着き、手を合わせる。

「すいません、僕の分まで用意してもらっちゃって……」

「いいのよ。ただ、来るなら来るって言ってね。今日はパンと卵があったからいいけど……ギリギリ家族分だけってことも、朝から手の込んだもの作ることもあるんだから」

「厚かましい気がしちゃって」

「一人分くらいなんてことないわよ」

セイカも俺と同じ十二薔薇の制服を着ている。まぁ、特段他の高校の制服とは代わりがないが、それでもセイカの制服姿が見られるのは──

「……っ、う……」

「せんぱいっ? せんぱい、どうしたんすか?」

「ちょっと何よ、賞味期限切れなんて食わしてないわよ? 水月?」

──ダメだ、制服姿は、思い出す。

「ご、めんっ!」

俺は席を立ち、トイレに走った。



しばらく経ってからダイニングへ戻り、買い置きのスポーツ飲料を飲んだ。喉にあった熱さ苛立ちが少し冷えた。

「せんぱい……大丈夫っすか?」

「水月、吐いちゃった? どうしたの……ご飯、何かダメだった?」

「…………大丈夫です。ちょっと夜更かししたので……吐いてませんよ、吐きそうで駆け込んじゃったんですけど噎せただけで……へへ、早とちりでした」

「噎せただけっすか? よかったぁ……ご飯、半分くらい残ってるっすよ。早く食べちゃうっす」

吐いた直後だ。吐瀉物の味と匂いがまだ残っている。スポーツ飲料をもう一度飲んだが、その清涼感もすぐに薄れていく。食事の再開は、不可能だ。

「ぁー……アキ! 食べていいぞ」

「水月、アンタが食べ物残すなんて……どうしたの、水月……水月、アンタは本っ当に大事なこと隠す子よね、やめてよ……ねぇ、どうしたの?」

「……夜更かしが、祟っただけです」

見開かれた母の目がじんわりと潤んでいく。母に泣かれるのは一番苦手だ、俺は背を向けて部屋に逃げた。

「…………はぁ」

ため息をつき、通学鞄と自由研究の作品を入れた袋を持つ。玄関の前にそれらを置き、折り畳み式の車椅子を開く。

「セイカ~、そろそろ行こう」

「なんか普段より早くない?」

呑気にトーストを頬張っている義母が言う。

「あぁ……セイカ転入生なんで、早めに行っておいた方がいいかなーって……」

「それもそうだな」

セイカが立ち上がる。黒いスラックスに白いシャツ……女子の制服はスカートの柄や造りに違いが出るが、男子の制服なんてのはどこも同じだ。中学も高校も……ブレザーには多少特色が出るが、夏服にはそれもない。あの時のセイカと同じだ。

「……鳴雷?」

「…………アキ、に……俺の飯、食っていいって言っといてくれ」

「あぁ、うん。鳴雷、いいのか? 気持ち悪いのかもしれないけど、朝はちゃんと食えって鳴雷が教えてくれたんだぞ。今は仕方ないけど……後で食べられるようにさ、行く前にコンビニとか寄ってさ、何かパンとか買って……鳴雷、聞いてる?」

「……ゃく、行こ……」

「…………ちょっと待ってて。秋風」

セイカはアキに何かを言った。多分、俺が今翻訳を頼んだことだ。

「にーにぃ、行ってらっしゃいです!」

アキは笑顔を浮かべ、俺に抱きついた。頬に頬を擦り寄せ、離れ、また俺の眼前で天使のように笑う。

「……アキ」

「にーに、早く帰るするです。ぼく、待つする、一人、嫌です」

「あぁ、帰る、帰るよ……ってか行きたくない」

だらりと下がっていた腕に力が入る。アキの背に腕を回し、抱き締める。いや、俺としては抱きつくような感覚だ。

「お義母さんお義母さん、夏休み明けって一番自殺者とか多いらしいっすよ」

「うーん……? 学校に彼氏何人も居るのに?」

「落ち着くまで休ませた方がいいんじゃ……」

まずい、ちょっとイジメの記憶がフラッシュバックして吐いて落ち込んでただけなのに学校を休まされかねない。さっさと出てしまおう。

「っし、行ってきます!」

「あっせんぱい待ってくださいっす!」

「ま、待って鳴雷……」

玄関へと走り、靴を履く。慌てて俺を追ってきたレイも靴を履いた。セイカはまず車椅子に座った。

「行ってきまーす!」

空元気の大声を上げて外へと飛び出す。セイカは車椅子の足置きに乗せたスニーカーをまだ履いている途中だが、俺は車椅子を押して歩き始める。

「はぁー……ちょっと吐いただけだってのに大袈裟なんだから」

ここから見えるセイカはパーマがかかった小豆色の髪だけ。後ろ頭には制服も何もない、中学の頃のセイカも髪を赤く染めていたがそれは鮮やかなグラデーションで、パーマもかかっていなかった。随分違うから俺の意思に反した連想は起こらない。

「吐いたんすか!?」

「は、吐いてない吐いてない……」

「本当っすか? もぉ……お義母さんも言ってたっすけど、せんぱいって本当自分のヤバいことは言わないっすよね。せんぱい、どいてくださいっす。俺が押すっすよ」

「ぁ……」

押しのけられ、セイカの車椅子のハンドルを奪われた。



とぼとぼとレイの後を着いていき、駅に着いた。レイはようやく俺にセイカを返してくれた。この駅には何度か車椅子を押してやってきたことがある、勝手は分かっているつもりだが朝の通勤通学ラッシュに車椅子はやはり肩身が狭い。

「水月ぃ~」

改札を通り、エレベーターに乗り、ホームへ。俺の名を呼びながらぶんぶんと手を振る影が一つ。

「リュウ、久しぶりだな」

「そうでもないやろ。おはようさん、せーか。今日から同級生やなぁ、よろしゅうなぁ」

「うん、よろしく天正……あのさ、やっぱり……車椅子、邪魔かな。どう? 傍から見て、邪魔?」

不安げなセイカの膝の上には俺が作ったハムスターのぬいぐるみがある。左手でそれをきゅっと握っている。なんて可愛い……今のセイカはこんなに可愛いのに、俺は昔のことをいつまでも引きずって……

「せーんぱいっ」

いつの間にかはぐれていたレイが肩をつついた。

「レイ! お前どこ行ってたんだよ。階段上ってくるのかと思って先行ったのになかなか来ないから心配してたんだぞ」

「せんぱい、これ」

レイの手には「イチゴジャムパン」と包装に書かれたパンがある。

「適当な休み時間にでも食べてくださいっす」

「……ありがとう、レイ」

微笑んで礼を言うとレイの顔が真っ赤になっていく。そのあまりの可愛さに俺は思わず彼を強く抱き締めた。
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