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ぷろぽーず
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シュカは帰宅、アキとセイカは買い物のために出かけて行った。
「行っちゃったー……」
ノヴェムは賢く大人しい扱いやすい可愛い子供だ、そう、子供なのだ。子供は話し相手にすらならない。
《やっと二人きりになったね、お兄ちゃん》
「ワシも居るぞぃ」
「私も一応居るぞ、水月。幼子にいかがわしいことをしないよう見張っておかなければな」
「何っ、みっちゃん、こんな小さな子にまで……!」
「怒るよ」
日本語があまりよく分かっていないとはいえ、ノヴェムに下世話な話を聞かせるなんてありえない。俺はミタマと、サキヒコの声が聞こえてきた方を順に睨んだ。
「……すまない。水月は……見境がないから、てっきり」
「ワシはふざけて言った。すまんかった」
何故俺はノヴェムにまで手を出すと思われているんだ? 子供に発情するような姿は見せたことがないはずだ、二次元ならショタも美味しく食べるのでその辺りの本が見つかっているならまだ分かるのだが、誰にも俺の薄い本コレクションは見られていないはずだし……何なんだ、本当。
「子供は幽霊や妖怪が見えると言いますが、どうなのでしょう」
「さっちゃんの方は見とらんように見えるのぅ」
セイカとアキはいつ頃帰ってくるのだろう。昼食の用意はいつすれば……義母は今日は家に居るようだが、彼女の分も必要だろうか。一人で勝手に外食してきてくれないかな。
《お兄ちゃん、お兄ちゃん》
「うん? 遊びたい? ゲームとかあるけど」
《おてて貸して》
「ハンド……? 手?」
ぼんやりと聞き取り、薄らと理解出来る程度の俺のお粗末な英語力。ネイティブな発音に苦戦しつつ右手を差し出すと、ノヴェムは左手の方を引っ張った。
「どうしたの、ノヴェムくん」
ソファに座っている俺の前にノヴェムは跪く。俺は背を丸めて左手を伸ばし、小さな身体を更に小さくしたノヴェムの遊びに付き合った。
「何がしたいのさ」
《お兄ちゃん》
ノヴェムはポケットを探り、水色のモールを取り出した。針金にふわふわした糸を絡ませたアレだ、手芸でたまに使う、ハロウィンやクリスマスによく見かけるアレ。
《ぼくが、大きくなったら》
俺の中指より少し長い程度のモールを、ノヴェムは俺の左手薬指の根元に巻いた。
《けっこん、してください》
「……なぁに? これ」
《お兄ちゃん……? あっ、お兄ちゃん、英語あんまり分かんないんだった。けっこん! けっこん……けっこん、分かんない? お兄ちゃん……》
「マリッジ……? あっ、これマリッジリング! 結婚指輪だ! へぇー、あははっ、可愛い。ドラマとか見たの?」
ネイが恋愛ドラマでも観ていたのかな? プロポーズごっこがしたくなったのか、可愛いじゃないか。
《けっこん分かった? お兄ちゃん ぼくのおよめさん、なってくれる?》
「ふふっ、おマセさん」
右手でノヴェムの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「えーっと、なんて言えばいいのかな? よろしくお願いします? なーんて……ふふっ、英語分かんないや」
《お兄ちゃん……? ぅう……日本語分かんない、なんでセイカお兄ちゃん居ないのぉ》
「ノヴェムくんと話してたら少しは上達するかな? セイカに翻訳してもらえなきゃただの意味分かんない音だから、今はダメかなぁ」
《ぼく、日本語べんきょーしてるんだ。ペラペラになるから待っててね!》
「ジャパニーズって言った? うん、お兄ちゃんは日本人だよ~」
《何言ってるのか分かんないけど……ニコニコしてて、ゆびわ、外さないってことは……ぼくのプロポーズ、お兄ちゃんうれしい? こんやく、せいりつ!? ありがとうお兄ちゃん! 待っててねお兄ちゃん、ぼくお父さんよりいい男になるからね》
ノヴェムは感激した様子で俺に抱きつく。俺はそんな彼の脇に腕を通して抱き上げ、また膝に乗せてやった。丸めていた背中がやっと伸びた。
「プロポーズ成功したら抱きついてたの? それ海外ドラマ? 日本の? ドラマって俺あんまり好きじゃないんだよなぁ…」
《お兄ちゃん大好き……》
「ん?」
あいらびゅー、と聞こえた気がした。
「みーとぅー、だったかな?」
《……!?》
ボッと一気に顔を赤くしたノヴェムがくたっと脱力した。
「えっえっなんで!? 顔真っ赤……な、何、風邪? 熱とかあるの? えぇえどうしよう、どうしよう……」
「落ち着けみっちゃん、病気ではないぞ。ちょっと冷やしてやりゃすぐ起きるじゃろ」
「あ、そうなの? よかった」
「……しかしヌシは罪な男よの」
「そうなんだよ~、俺ったら初恋泥棒。なんちゃって。ふふ、可愛いよねぇ。マセちゃってさ」
ドラマに憧れたのだろうというのは何となく分かるけれど、プロポーズ相手に俺を選んだのはやはり、初恋未満のような好意が俺に向いているからだろう。
「俺も保父さんにせっせと花詰んだことがあったなぁ~、でも卒園の時にさぁ、その保父さん……俺のお迎えに来てくれてた母さんの彼女の一人と結婚発表したんだよね。ショックだったなぁ」
氷を包んだハンカチをそっとノヴェムの頬や額に押し当てる。
「……でも、初恋はやっぱりセイカなんだよね。幼稚園の頃のはなんか違うんだよ、恋って感じじゃなかった。憧れ……かなぁ? セイカは今当時のこと考えてもやっぱりときめくし、好きだし……でも保父さんのこと今考えると、そんなにイケメンでもなかったし……何より子供の迎えに来てた女とデキてたとか、なんか嫌だし」
「ほぅ……? せっちゃんが水月の初恋なのか」
「コンちゃんには話してなかったっけ。中学一緒だったんだよ俺達。それが俺の初恋。高校別れちゃったんだけど、病院で再会してさ……そこからはもう、一気だよ」
「ほぅほぅ」
ミタマは細い瞳をキラキラと輝かせ、ニマニマと笑っている。恋愛話が好きなのだろうか、俺の持っている話はあまりときめくような内容ではないと思うけれど、各彼氏との馴れ初めでも話してやるとするかな。
「行っちゃったー……」
ノヴェムは賢く大人しい扱いやすい可愛い子供だ、そう、子供なのだ。子供は話し相手にすらならない。
《やっと二人きりになったね、お兄ちゃん》
「ワシも居るぞぃ」
「私も一応居るぞ、水月。幼子にいかがわしいことをしないよう見張っておかなければな」
「何っ、みっちゃん、こんな小さな子にまで……!」
「怒るよ」
日本語があまりよく分かっていないとはいえ、ノヴェムに下世話な話を聞かせるなんてありえない。俺はミタマと、サキヒコの声が聞こえてきた方を順に睨んだ。
「……すまない。水月は……見境がないから、てっきり」
「ワシはふざけて言った。すまんかった」
何故俺はノヴェムにまで手を出すと思われているんだ? 子供に発情するような姿は見せたことがないはずだ、二次元ならショタも美味しく食べるのでその辺りの本が見つかっているならまだ分かるのだが、誰にも俺の薄い本コレクションは見られていないはずだし……何なんだ、本当。
「子供は幽霊や妖怪が見えると言いますが、どうなのでしょう」
「さっちゃんの方は見とらんように見えるのぅ」
セイカとアキはいつ頃帰ってくるのだろう。昼食の用意はいつすれば……義母は今日は家に居るようだが、彼女の分も必要だろうか。一人で勝手に外食してきてくれないかな。
《お兄ちゃん、お兄ちゃん》
「うん? 遊びたい? ゲームとかあるけど」
《おてて貸して》
「ハンド……? 手?」
ぼんやりと聞き取り、薄らと理解出来る程度の俺のお粗末な英語力。ネイティブな発音に苦戦しつつ右手を差し出すと、ノヴェムは左手の方を引っ張った。
「どうしたの、ノヴェムくん」
ソファに座っている俺の前にノヴェムは跪く。俺は背を丸めて左手を伸ばし、小さな身体を更に小さくしたノヴェムの遊びに付き合った。
「何がしたいのさ」
《お兄ちゃん》
ノヴェムはポケットを探り、水色のモールを取り出した。針金にふわふわした糸を絡ませたアレだ、手芸でたまに使う、ハロウィンやクリスマスによく見かけるアレ。
《ぼくが、大きくなったら》
俺の中指より少し長い程度のモールを、ノヴェムは俺の左手薬指の根元に巻いた。
《けっこん、してください》
「……なぁに? これ」
《お兄ちゃん……? あっ、お兄ちゃん、英語あんまり分かんないんだった。けっこん! けっこん……けっこん、分かんない? お兄ちゃん……》
「マリッジ……? あっ、これマリッジリング! 結婚指輪だ! へぇー、あははっ、可愛い。ドラマとか見たの?」
ネイが恋愛ドラマでも観ていたのかな? プロポーズごっこがしたくなったのか、可愛いじゃないか。
《けっこん分かった? お兄ちゃん ぼくのおよめさん、なってくれる?》
「ふふっ、おマセさん」
右手でノヴェムの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「えーっと、なんて言えばいいのかな? よろしくお願いします? なーんて……ふふっ、英語分かんないや」
《お兄ちゃん……? ぅう……日本語分かんない、なんでセイカお兄ちゃん居ないのぉ》
「ノヴェムくんと話してたら少しは上達するかな? セイカに翻訳してもらえなきゃただの意味分かんない音だから、今はダメかなぁ」
《ぼく、日本語べんきょーしてるんだ。ペラペラになるから待っててね!》
「ジャパニーズって言った? うん、お兄ちゃんは日本人だよ~」
《何言ってるのか分かんないけど……ニコニコしてて、ゆびわ、外さないってことは……ぼくのプロポーズ、お兄ちゃんうれしい? こんやく、せいりつ!? ありがとうお兄ちゃん! 待っててねお兄ちゃん、ぼくお父さんよりいい男になるからね》
ノヴェムは感激した様子で俺に抱きつく。俺はそんな彼の脇に腕を通して抱き上げ、また膝に乗せてやった。丸めていた背中がやっと伸びた。
「プロポーズ成功したら抱きついてたの? それ海外ドラマ? 日本の? ドラマって俺あんまり好きじゃないんだよなぁ…」
《お兄ちゃん大好き……》
「ん?」
あいらびゅー、と聞こえた気がした。
「みーとぅー、だったかな?」
《……!?》
ボッと一気に顔を赤くしたノヴェムがくたっと脱力した。
「えっえっなんで!? 顔真っ赤……な、何、風邪? 熱とかあるの? えぇえどうしよう、どうしよう……」
「落ち着けみっちゃん、病気ではないぞ。ちょっと冷やしてやりゃすぐ起きるじゃろ」
「あ、そうなの? よかった」
「……しかしヌシは罪な男よの」
「そうなんだよ~、俺ったら初恋泥棒。なんちゃって。ふふ、可愛いよねぇ。マセちゃってさ」
ドラマに憧れたのだろうというのは何となく分かるけれど、プロポーズ相手に俺を選んだのはやはり、初恋未満のような好意が俺に向いているからだろう。
「俺も保父さんにせっせと花詰んだことがあったなぁ~、でも卒園の時にさぁ、その保父さん……俺のお迎えに来てくれてた母さんの彼女の一人と結婚発表したんだよね。ショックだったなぁ」
氷を包んだハンカチをそっとノヴェムの頬や額に押し当てる。
「……でも、初恋はやっぱりセイカなんだよね。幼稚園の頃のはなんか違うんだよ、恋って感じじゃなかった。憧れ……かなぁ? セイカは今当時のこと考えてもやっぱりときめくし、好きだし……でも保父さんのこと今考えると、そんなにイケメンでもなかったし……何より子供の迎えに来てた女とデキてたとか、なんか嫌だし」
「ほぅ……? せっちゃんが水月の初恋なのか」
「コンちゃんには話してなかったっけ。中学一緒だったんだよ俺達。それが俺の初恋。高校別れちゃったんだけど、病院で再会してさ……そこからはもう、一気だよ」
「ほぅほぅ」
ミタマは細い瞳をキラキラと輝かせ、ニマニマと笑っている。恋愛話が好きなのだろうか、俺の持っている話はあまりときめくような内容ではないと思うけれど、各彼氏との馴れ初めでも話してやるとするかな。
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