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ようやく集合

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カンナは本を借りる手続きを終えるとすぐに手提げ鞄に本を詰めた。歌を作っていることを俺にも隠そうとしていたし、恥ずかしいのだろう。

「みぃくん、他の……に、言わな……欲し……」

「あぁ、みんなには内緒にするよ。俺達だけの秘密な」

小指を立てるとカンナは嬉しそうに笑って小指を絡めてきた。緩く振りながら、貸出カウンターの前で指切りげんまんの歌をヒソヒソ声で歌う。

「ゆーびきった。ふふ……じゃ、帰ろうか」

「……ぅ、ん」

カンナは笑みを浮かべたまま頷き、その可愛らしい唇を小指に触れさせている。人目がなければ抱き締めていただろう。

「ただいまー」

「おかえり……ぁ、しぐおかえり~。なんかいい本あった?」

「なか、た」

「そっかぁ~、残念だったね~、結構粘ってたのに」

ハルとカンナは本当に仲良くなったようだ。ハーレム発足当初に喧嘩のようになってしまったのもあって、しばらくはマウントの取り合いをしていたり険悪だったりしたのだが……仲良くなってよかった。心の底からそう思う。

「にーにぃ」

「ん? なんだ、アキ。どうした?」

「読むする、嫌です。にーにぃ、遊ぶするです」

「え……面白くなかったか? 俺は好きなんだけどなぁこの人の話」

押し付けるように返された俺のオススメの本を、カンナがじっと見つめる。目元は見えないから、顔の向きからの憶測だけれど。

「……カンナ、読むか?」

「ぅん、みぃくんの、すき……知り、た……」

健気さに萌えながら小説を渡し、アキに向き直る。さて、読書に不向きな彼に図書館でどう退屈を回避させようか。

「ショートショートは小説苦手民最後の砦なのに、それが嫌じゃあもうどうしようもないな……絵本は流石に幼いかな、後から読むと内容深いのとかもあるけど……あ、漫画読むか? 何作品か置いてたよな、確か」

「……鳴雷、鳴雷」

「ん?」

「秋風は眼振のせいで並んでる文字読むの嫌いだから、絵のあるなしとか話の派手さはあんまり関係ないぞ」

「前聞いた時はスルーしちゃったんだけどさ……眼振って何?」

「そのままだよ、目が震えて視界がブレる。小説なんか読んでると、どの列まで読んだかすぐに見失う。特に縦書きはな。だからまぁ、文字数の少ない絵本や漫画ならってのは正解だと思うんだけど……そもそも秋風、じっとしてるの苦手そうだしな……動画とかならじっと見てることもあるんだけど」

「動画……それだ!」

思わず大声を上げてしまい、アキ以外の彼氏全員からシーッと注意を受けた。言葉なきお叱りは心に響く。

「図書館だってこと忘れんなよ……で、それだって、何が?」

「動画だよ。この図書館映画借りられるし見られるんだ。サブスク全盛とはいえ配信されてない昔の名作なんか山ほどあるしな。ブルーレイだけじゃなくビデオまであるのは中々」

「なぁ」

「ん? ナイスなアイディアだって俺を褒めたたえてくれるのか?」

「ロシア語吹き替えあるのか?」

「…………なさ、そう」

日本に置いてある作品なんだから、日本語吹き替えと原語の二パターンしかないだろう。

「ロシア映画なら……」

「台詞ナシのでいいんじゃないの~?」

「そんなのあるか?」

「アニメ結構あるよ~? ワーとかギャーはあっても~、セリフないヤツ。ハルさんが探したげる~、アキくんおいで~。せーかも来て~」

いいアイディアを出せなかった俺を置いて三人は行ってしまった。肩を落として腰を下ろし、ハルに勧められた本を開いた。



ほどなくしてハルだけが帰ってきた。セイカはアキと共にアニメを見ると決めたらしい。ハルは「ただいま」と軽く挨拶をすると席に着き、読書を始めた。

(……静かですな)

みんな静かに本を読んでいる。図書館に居るのだから当然そうしなければならないのだけれど、彼氏達と集まっているのに……ともったいない精神が顔を出す。

(家に誘いますかな? もう読書感想文用の本見つかりましたし……アキきゅん達アニメ見始めたばっかですし、シュカたままだ来てませんし、流石に気が早過ぎますかな)

スマホを確認するも、シュカからの連絡はない。しかしグループチャットの既読数は一つ増えている、シュカがようやく読んだのだろう。



それからまたしばらくして、スマホが震えた。シュカからのメッセージの通知だ。

「みんな、シュカ来たって。ちょっと行ってくる」

「しゅー来たの? グルチャに全然居ないよね~……文句言ってやろ」

席を立ち、入り口へ。この往復もこれで終わりだ。

「シュカ~」

入り口に佇んでいる見慣れた後ろ姿に手を振る。

「……来てあげましたよ」

先程会った時とは違う服を着たシュカの頬には青アザがあった。

「シュカっ……!? そ、その顔どうした? さっきもあったか? いや……え?」

今朝は気付かなかったけれど、この青アザは数時間で出来るものではない。俺と会った後に殴られたかぶつけたかしたとしても、まだ青くはならないと思う。

「……見えなかっただけじゃないですか?」

シュカの家の玄関の灯りは壊れているのか薄暗かったし、母親の部屋に入ってからは顔半分しか見せてくれなかった。

「そっかなぁ……気付けなかったなんて不覚だよ、もっとよく見ればよかった。どうしたんだ? これ」

「大したことありませんよ」

「何が、あったんだ?」

両肩に手を置いてみるとシュカはため息をつき、鬱陶しそうに口を開いた。

「たまに母が暴れるんですよ。避けたり浅く当てさせたりしてきたんですが……稀にちゃんと当たってしまうんです。不甲斐なくて恥ずかしいのであまり見ないでください」

「不甲斐ないってそんな……ちゃんと手当てしたか?」

「しましたしました。皆さんもうお着きですか? どちらに?」

手当てしてないなコイツ。

「あぁ……こっちだ。シュカは宿題もう終わったのか?」

「一学期総復習の問題集が少し残ってますね」

「俺とは真逆だなぁ」

シュカを連れて談話スペースへ。彼氏達にアザについて聞かれた彼は、転んだなんて適当な嘘をついていた。せいぜい喧嘩を疑われる程度で、親の介護云々を見抜く者など居なかった。当然だ、俺以外誰も彼の家族構成すら知らないのだから。

「狭雲さん居ないんですか?」

「アキとビデオ見てるよ」

「ビデオ、へぇ……また珍しい物を。答え教えてもらおうと思ったんですが……誰かパソコン持ってきてませんか? 答え見せてください」

「持ってきてないしきてても嫌!」

「右に同じや」

ハルとリュウに断られたシュカはじっとカンナを見つめる。カンナはぶんぶんと首を横に振り、シュカの視線は俺へと移る。

「俺も持ってきてないよ、ごめんな……舌打ちするなよ俺にだけぇ! もぉ~……」

「……む? おぉ! 新顔じゃな、いや新顔はワシか。ワシは分野 魅魂じゃ、よろしゅうのぅ」

本に集中していたミタマがようやくシュカに気付く。気付いた途端彼は立ち上がり、満面の笑みで自己紹介をした。

「うさんくさ……」

人懐っこい彼にシュカの不意な呟きが聞こえていないことを祈った。
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