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拒否されるスキンシップ

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シュカ以外の全員が揃った。入口と談話スペースの往復も後一回で終わりだ。

「えらいまたぎょおさん持ってきたのぉ」

俺が抱えたハルセレクションの本達を見て、リュウは呆れたようにそう言った。

「てんしょー!」

「おわっ……アキくん、シーやで、シー……話してええとこや言うても図書館やからな。分かった? アキくん……えっらい怪我したて聞いたけど大丈夫なん?」

アキが車椅子から手を離しリュウに抱きつく。代わりにミタマが車椅子を押し、セイカの足をしっかりと机の下に入れさせた。

「ん……? コンちゃん!? なんでっ、えっなんで!?」

ハルがようやくミタマに気付いた。

「シー……! 静かに、ハル……すっごい視線を感じるから……!

「あっ、ご……ごめん。で、でも……コンちゃん、だよね~? なんで? 東京旅行中?」

「その辺はまた今度説明するよ、ちょっとややこしいから」

「え~……? 旅行か引越しか、京都は実家があっただけかの三つじゃ~ん」

「それが違うからややこしいんだよ、人目のあるところで説明するのは難しいから……とりあえず、自己紹介だけ……ごめんな? 必ず説明するから」

ハルは不満げな顔をしてはいたが「分かった」と言ってくれた。

「……コンちゃん、自己紹介」

「うむ。初めましてはそこのお二人さんじゃな。ワシはミタマ、分野わけの 魅魂ミタマ、気軽にコンちゃんと呼んどくれ」

細い目を更に細めてにっこりと笑った。胡散臭さが極まっている。金を絞り尽くされそうだ。

「……よろ、しく…………」

カンナは読書感想文を差し出し、その原稿用紙の端に書いた名前を指す。初めて出会った時のことを思い出す、俺もあんなふうに文字で名前を教えられた。

「良い名じゃな。かっちゃんと呼ばせてもらうぞぃ」

「ぁ……ぼく、おとーと……居……なま、カ……ア……だ、ら」

「……頭文字じゃ被る、ということじゃな? 困ったのぅ……カンちゃん、ンナちゃん……? うーむ」

予想通りミタマは双子のあだ名の付け方に悩んでいる。何だかリュウが静かだ、カンナの自己紹介が終わるのを待っているのかと最初は思っていたが、それにしては大人し過ぎる。カンナのあだ名を考えるとなれば口を挟みそうなものなのに、彼はじっとミタマを見つめている。

「しーちゃんとかでよくな~い?」

「苗字の方か?」

「ぁ……い、かも。ぼくた、ち……苗字、ちが……の」

「そうなのか、みっちゃんらもそうじゃったな。昨今の兄弟事情は複雑じゃのぅ。しかし、しーちゃんよ……擦り切れた録音てぇぷような話し方をしよるのぅ」

「……こ、ちゃん……おじぃ、さ……みたい、だよ」

ミタマとカンナの可愛らしい会話にただただ萌えていたいのに、リュウが大人しいのが気になる。これじゃ平常時の八割くらいしか萌えられない。

「そうかのぅ……っとそうじゃ、そちらのヌシの名も教えて欲しいのじゃ」

「…………ぁ、あぁ……リュウや。よろしゅう」

「うむ、りっちゃんじゃな。よろしゅうのぅ。二人とも大人しい子じゃの、めんこいめんこい」

「りゅーちゃんじゃないんだ……」

友人が増えた気になっているのかミタマは上機嫌だ。しかし、カンナとリュウの頭を同時に撫でようと手を伸ばし、その手から逃げられると細められていた目が元に戻る。まぁ、どっちにしろ糸目だけれど。

「す、すまんの。図々し過ぎたか」

「ぁ……ご、めっ……ちが、の……ぼく、頭……だめ、で」

「ごめんな二人とも、説明しとくの忘れてたよ。コンちゃん、カンナは頭触られるの嫌がるんだ。撫でるなら肩かほっぺにしてやってくれ。スキンシップ取りたいなら抱きつくとかでもいいし……スキンシップ自体はいいんだよな? カンナ」

「ぅん、くっつく、の……すき。みぃく……が、いちば……いい」

「ふぐぅっ……!」

きゅっと腕に抱きついてきたカンナへの萌えで心臓が痛む。

「めんこいのぅ。挽回させておくれ、しーちゃん。ワシともはぐぅーするのじゃ、ぎゅ~なーのじゃ~」

ミタマはこの上なく胡散臭い笑顔を浮かべて両手を広げる。しかしカンナは俺の腕を離さない、それどころか俺の背に隠れてしまった。

「あー……コンちゃん、初対面でハグはキツいかなぁ。欧米かって感じ」

「そうなのか……」

しょげるミタマの頭に今狐耳は生えていないけれど、もし生やしたままだったなら垂れていただろう。

「……りゅーちゃんも抱擁は嫌かの?」

「あぁ……堪忍な、勘弁したってくれ」

リュウなら受け入れるだろうという俺の予想は外れ、彼は視線まで逸らしてよそよそしくミタマの誘いを断った。何だか突然言動が彼らしくなくなったな。

「そうか……」

「コンちゃんコンちゃん、俺は大歓迎だよ」

両手を広げるも、傷心だろうミタマは俺の腕の中に飛び込んではこない。

「……コンちゃん?」

「みっちゃん尻触るから嫌じゃ」

「触らない触らない、誓うよ」

「…………触っちゃ嫌じゃぞ」

念押しをし、ミタマは俺の背にそっと腕を回した。彼の抱擁はとても優しい、温もりと優しさに包まれていただけだった赤子の頃を思い出すようだ。

「ぉんぎゃ……はっ、危ない、あまりのバブみにオギャるところだった……」

「お前早く課題やれよ」

「あっそうだった。ハル、読書感想文教えてくれ」

「本読んだ感想なんだから教えるも何もないんだけどな~。まぁ小学校で習うような書き方くらいならおさらいしたげるけどさ~……」

読書感想文の書き方なんて習った覚えはない。

「それを教えて欲しいんだよ。あ、コンちゃん、セイカも……読みたい本あるんなら全然探しに行ってくれていいからね。俺が助けを求めた時に応えてくれたらいいだけだから」

「いい? ありがとう……色々見たかったんだ」

「ワシもじゃ、最近の流行り廃りが気になるのぅ、さっちゃんも一緒に来んか?」

「ご一緒させていただきます」

サキヒコの声が背後から聞こえた。ミタマに憑いて行ったのだろう。セイカはアキと共にミタマ達とはまた違った方へ歩いていく。

「じゃ、みっつんとりあえず俺オススメの本全部あらすじ読んじゃって。ビビッと来たので書こっ」

「この冊数じゃあらすじだけでも結構な量になりそうだな……ビビッとねぇ、来なかったらどうしよ」

「これだけあったら絶対あるって。ジャンル別に持ってきてるんだし……本やだなって思ってたら絶対興味持てないよ? 興味持とうと思って読まなきゃ」

難しいことを言ってくれる。BL要素のない小説を読むのは難しいのだ……ん? この主役とその相棒、BL風味を感じるな。他の本はどうだ?

「ペース上がってきたじゃんミッツん、やばいやばい」

小難しい人工衛星の打ち上げについての本だって、人工衛星×ロケットのBLとして考えれば、一定の高さまで飛べばパージされるのを待つだけとなる部分のことを考えれば、切ない系BLになりそうだ。地球も重力を使って束縛しているとか考えればBLかけ算に入れられるし……あぁ、どんどん頭に入っていく。
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