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一番楽な姿で

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ミタマは俺の彼氏達と仲良くなりたいと口にした、その上彼の性格は人懐っこいと言える類のものだ。説明が難しいからと、今までずっと背後霊のような真似をさせて申し訳なかった。

「……コンちゃん」

二人がかりで撫で回されて、舌を垂らしだらしない顔になっていたミタマに話しかける。彼はポンっと音を立てて金髪の胡散臭い和装美少年の姿へと変わった。

「何じゃ?」

「ごめんね、今まで隠れさせてて……寂しかったよね、話し相手が俺とサキヒコくんだけじゃ」

「……まぁの。じゃが、受け入れてもらえるかも不安じゃったからのぅ……正体を無理矢理暴露させられてよかったのかもしれん。とてつもなく恐ろしかったがの……まだ今のように自由に動けんかった頃、自我が産まれたての……付喪神になる寸前の頃に味わった地震よりもずっと怖かったぞぃ、あの男」

物心ついた頃には動き回れるようになっている人間からすると、自由に動けない状態で意識がある付喪神の初期はかなり怖いな。

「出来ればもう会いたくないね……形州とも。ところでさ、話変わるんだけどさコンちゃん」

「何じゃ?」

細い目を更に細めて……いや、目を閉じているのかな? どちらか分からないほど目を細くして微笑むミタマはとても可愛らしい。どうして見た目がこんなに胡散臭いんだろう、懐っこくて可愛いだけの子なのに。

「変化の術って結構大変?」

「ふむ……ヌシら人間に分かりやすく言うとすれば、猫背気味の者が背筋を伸ばしているくらい……かのぅ」

「あー……疲れるねぇ」

俺は元キモオタデブス、本来は猫背なのだ。筋骨隆々の超絶美形に猫背は似合わないから背筋を伸ばしているだけで。

「……そういえばフタって人めっちゃ猫背だったな」

「あぁ、フタさんはあの身長で人の顔覗き込んでくるもんな……猫飼ってると猫背になるのかな?」

「猫背の猫はそういう意味じゃないだろ」

「ほら、猫って肩とか背中に乗るじゃん。落ちないか気になるし背中丸めちゃいそうじゃない?」

「猫は落ちないと思うし落ちても平気だと思うから……別に、そんなことないと思うけど」

俺は猫に対して過保護だったのか、飼ってもいないのに。

「そ、そっか……ぁ、コンちゃん、楽にしてていいんだよ。気を張って変化してなくても……流石に外じゃまずいから、家の中では、だけどね」

変化を解いた姿はやはり三尾の狐なのだろう、あの姿で外に出す訳にはいかない。

「ありがたいのぅ、では遠慮なく」

ミタマは俺の予想に反して狐の姿にはならず、頭から狐の耳を、尻から三本の尾を生やした。

「ケモ耳っ子……! ご、ごほん……それが一番楽な姿?」

「一番楽なのはさっきの狐の姿なんじゃが、あの姿は喉と口の構造のせいでヌシらと話せん。これは折衷案じゃな、耳と尾を出しておけるのは正座中に足を崩してよいと言われた時くらい嬉しいぞぃ」

「結構嬉しいな……」

俺としてもただの狐顔美少年より、ケモ耳が足されていた方が属性が多くてありがたい。ソシャゲでしか見ないような姿をずっと拝んでいられるんだ、感謝しかない。

「むっ……! みっちゃんから感謝の念が伝わってくる、力がじわじわ漲ってくるのぅ」

「鳴雷オタクだから、そういうコスプレみたいなの好きなんだろうな……」

「耳や尻尾付きの人間が好きなのか? 変わっとるのぅ、みっちゃんは……ほれほれみっちゃん、作り物とは違うからのぅ、動くぞぃ」

狐耳が動く。ピクピク揺れる程度じゃなく、撫でられ待ちの犬の耳ように寝たり、何か気になる音が鳴った時の犬の耳ようにピンと立ったり。
尻尾も動く。三本バラバラにぶんぶんと、ゆらゆらと、かと思えば驚いた猫のようにボワッと毛が膨らむ。

「た、たまげたのじゃ……とてつもない感謝の念がぶつけられたのじゃ」

あっホントに驚いてた。

「……オタクってよく推しが生まれたことに感謝してたり、推しの言動とかに何とかの供給ありがたいとか言ってるけど……マジでありがたがってたんだ、何億年ぶりとかもよく言ってるからそんな感じだと思ってた」

「なんでそんなにオタクの解像度高いんだよ」

「誰のせいだと思ってんだ」

「私ですねごめんなさい」

しかし素晴らしい、これは素晴らしい、ケモ耳っ子がずっと家に居るなんて全オタクの夢ではなかろうか。

「まさかこの姿で居るだけで感謝ガッポガッポじゃったとは……」

《コン可愛いな! たまに見るぜ、こういう女集めるゲームのCM。バニーガールのリアル版だと思ってたけど、生で見ると味わいが違うな。別のフェチなのかな?》

「あーちゃんにも好評じゃの。ふふ、もふるか?」

《モフるー! あっはは尻尾やべぇ~、幸せ~!》

「お、あーちゃんからも感謝の念が……残るはせっちゃんだけじゃのぅ。神通力を使わずこの姿だけで感謝させてみせるぞぃ!」

アキはオモチャにじゃれつく猫のようにミタマの尻尾にじゃれ始めた。アキはモフモフに感謝するタイプだったのか。俺もモフりたい、あのピクピクしている耳に齧りつきたい。

「俺は鳴雷みたいに見るだけで感謝したりしねぇし、いい毛並みも好きだけど感謝するってほどじゃねぇぞ」

「強敵じゃの。じゃがワシは知っておる、ふーちゃんとの一晩で知ったのじゃ。人間が弱いものを!」

ふーちゃんってフタのことだよな。ミタマ、カンナとカミアどう呼び分けるんだろう。

「ズバリこれじゃ!」

バッ、と突き出されたミタマの左手に真っ黒い毛が生える。指はずんぐりと太く短くなり、手のひらの側には肉球が生えた。ただの獣の前足ではない、人間の手と獣の前足のちょうど中間のような……ケモい! イイ! 萌える!

「好きなだけぷにってよいのじゃぞ」

「ぷに……?」

ぷに、とセイカの膝にミタマの手のひらが、いや、肉球が触れた。

「……デカい、肉球……わ、ぷにぷに」

セイカの膝の上でくりんと反転し、可愛らしい肉球を晒した。

「肉球柄とか人間好きじゃろ、たまに見るぞぃ。ワシからすれば怖いんじゃがな、アレ……」

セイカは無言でミタマの肉球をぷにぷにとつついている。

「え、コンちゃんアレ怖いの? なんで? 可愛いじゃん」

「……ヌシら、自分の手形にそっくりな模様の壁紙とか……どう思うんじゃ?」

「自分の手形……?」

視線を下ろし、自らの手のひらを見つめる。人間の手の形をした模様が大量にあしらわれた壁紙を思い浮かべる。

「ホラーじゃん! 怖っ!」

「分かってくれたかのぅ」

「肉球グッズ傍に置かないようにするよ……めっちゃ怖い。たまにある猫の前足のスクイーズとか、あんなんもう吉良じゃん。ぁ、セイカどう? 感謝してる?」

「……無心のようじゃの。疲れとるんか? せっちゃん」

「まぁ最近マシとはいえ不安定な子だし、アキのお父さんのこととかで心労かけたかな。癒してあげててくれる?」

「任されたのじゃ!」

「ふふっ、ありがとう……じゃ、俺日記書き上げちゃうから」

狐耳をはむはむしたい、狐尻尾をもふもふしたい、肉球をぷにぷにぺろぺろしたい、そんな欲望を断ち切るように書く日記はまるで、写経だ。
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