冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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大人もたまには甘えたい

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頭を撫でながらヒトを褒める。一回りも歳上で、俺よりも背が高く、厳つい刺青の入った彼をした歳下の子供のように褒めるのにはまだ慣れない。

(大人の褒め方ってあるんでしょうか)

えらい、すごい、さすが、くらいしか言ってない気がする。ヒトも飽きてくるだろう。もっと語彙を増やさないとな。

「よく頑張りましたねヒトさん。俺のために色々我慢してくれて、とても嬉しいです」

「鳴雷さん……! はぁ……あぁ、幸せ……鳴雷さん、もっと撫でて」

可愛い。めちゃくちゃ可愛い。けど、あまり大人に可愛いと言うのも合っていないような気がする。ヒトが喜んでくれるならそれでいいのだが。

「……本当、ヒトさんって可愛いですね」

改めて反応を確かめてみるか。

「そうですか? ちょっと気恥ずかしいんですが……あなたが愛でてくれるなら、何だっていい……」

やっぱりヒトは扱いやすいな。可愛いと言い過ぎてはバカにしているように感じられるかもしれないなんてのは杞憂だったようだ。俺は遠慮なくヒトを愛で、可愛がり、甘やかした。

「そろそろ寝ましょうか、ヒトさん」

「……一つお願いをしても?」

「はい、何でも仰ってください。俺に出来ることなら何でもしますよ」

「…………ぅ」

「う……?」

「……腕……ま、くら……を」

「腕枕? して欲しいんですか?」

褒めてだの撫でてだのと素直に言ってきたくせに、今更どうして腕枕如きが恥ずかしいのか、ヒトは頬を紅潮させて言い辛そうにしている。

「…………はい」

「そんな恥ずかしがらなくていいんですよ? さ、どうぞ。ぁ、俺ちょっと上にズレないと……痛っ」

ゴン、と壁に頭をぶつける。不安そうに俺を見上げるヒトに大丈夫だと笑いかけ、腕を差し出す。

「……鳴雷さん、おやすみなさい」

ベッドからはみ出さないように身体を丸め、俺の腕に頭を乗せて幸せそうにしている彼を優しく抱き締める。

「はい。おやすみなさい、ヒトさん」

ヒトが目を閉じるのを見守る。寝顔が見たい、ヒトより先に眠ってしまうのはもったいない。

「…………可愛い」

目を閉じたヒトの額に唇を触れさせると、眠ったはずの彼の頬が赤くなっていった。



朝、目を覚ました俺はまず腕の中のヒトを愛でた。それからゆっくりと腕を抜き、俺が使っていた枕をヒトに使わせ、先に起きた。

「早起きだな、ミツキ」

部屋を出るとサキヒコに話しかけられた。

「おはよ、サキヒコくん。君も結構早起きな気がするけど……あ、待って、幽霊って寝るの?」

「休眠状態はある。だが、生者の眠りとは少し違う。そうだな、水月にとって分かりやすく、一番近いもので言うと……げぇむき、とやらの……すりぃぷもぉど、だな」

「力の消費量を抑えて動かずにじっとしてるって訳だ」

「うむ、頻度も長さも深さも生者のそれとは全く違う」

「……俺が寝てる間って何してるの?」

「散歩だ。まだこの時代に慣れていないからな、何を見ても新鮮でとても楽しい。あぁそうだ、是非ミツキに聞かせたいことがあるんだ。聞いてくれるか?」

「もちろん、教えて」

俺が眠っていても楽しく過ごせているならよかった、少し気がかりだったんだ。



サキヒコの話を聞きながら調理を進める。やがて窓が開く音がして、三人が揃ってキッチンにやってきた。

「あっせんぱい! 朝ご飯は俺が作るって言ったじゃないすか!」

「俺のだけだろ? 俺のは作ってないよ」

「ぁ……そっすか。へへ……じゃあ、空いたら呼んで欲しいっす」

分かりやすく照れてレイはダイニングへ下がっていった。入れ替わりにアキが俺の前に出て満面の笑みを浮かべる。

「にーにぃ、お早う御座います」

「おはようアキ、相変わらずそれだけ発音いいな……」

「……鳴雷、あの人は? えっと、ヒトさん?」

「まだ寝てると思う。そろそろご飯出来るから起こしてきてくれるか?」

セイカは「言わなきゃよかった」という顔をして頷き、アキを連れて俺の部屋へ向かった。四人分の朝食を作り終えた俺はレイとキッチン担当を交代し、寝起きで人相が更に悪くなっているヒトに挨拶をした。

「おはようございますヒトさん、お食事出来てますよ。お顔洗ってきてください」

「あぁ? あぁ……分かった」

低いドスの効いた声でそう答え、洗面所へとよろよろ歩いていった。怯えた顔のセイカを労い、軽く愛で、席に着いた。

「出来たっす! 俺特製ベーコンエッグトーストっす!」

「ありがとうレイ、手見せろ」

「手……? はいっす」

見せてもらった両手のひらにも、手の甲にも、手首にも、傷跡はない。

「…………よし」

「何すか?」

「ゃ、怪我してないかなって」

「せんぱいが怒るんで怪我しないように気ぃ付けたっすよ」

「……俺の物に勝手に傷が付くなんて、許せないからな」

細く長く美しい、けれどもペンを長く握るがために歪みもある指に唇を触れさせる。

「はぅ……せんぱぁい……きゅんきゅん来るっす。せんぱいっ、ねっせんぱぁい、食べて欲しいっす」

「みんな揃ったらな」

そう話す俺の耳に重い足音が届いた。振り返れば悪人面が先程よりマシになったヒトが居る。

「ヒトさん、おはようございます」

「おぅ………………? あっ、鳴雷さん。おはようございます」

「朝ご飯の準備出来てますよ。どうぞ」

部下達への挨拶は「おぅ」で済ませているのかな。粗暴な一面はフタに対するものしか見ていないからいい印象はないけれど、こんな時にふと見るだけならイイ。

「……! ありがとうございます。いただきます」

席に着き、手を合わせる。俺も慌てて手を合わせ、三人もそうする。

「そういえばヒトさん、セイカと同じに作っちゃいましたけど……目玉焼き、半熟がよかったりしました?」

「いえ、半熟は苦手で……この固焼きが好きです」

「よかった。アレルギーとかあったりします?」

「食べ物の、ですか。そうですね……蕎麦とナッツは死にます」

「わ……かり、ました。気を付けます。今日は、ありません……よね? 死ぬって言われると、怖いですね……」

ナッツも蕎麦も、今は家にもなかったはず……いや、母が酒のツマミに買ってきたナッツがあったっけ? だとしても俺が触れていいものではないため、紛れ込む心配すらない。

「…………ところでレイ、目玉焼きがなんか甘いんだけど」

「シロップかけたっす」

「どうして……?」

初めて味わう甘い目玉焼きを食べ、案外悪くはないなと感想を抱きつつ、塩コショウの味付けを恋しく思った。
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