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一番でなくても弟よりは上に居たい

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どうやら俺は顔だけの男ではないというのが彼氏達の見解らしい。多数決で考えれば俺の長所は顔だけではない、しかし恋は盲目という言葉に乗っ取ればそれは彼氏達の欲目ということになる。

「俺のことを全く好きじゃない第三者の意見が欲しい。もしもし形州?」

「彼氏の言うこと全然信用しないっすね……」

『…………なんだ』

「今いい?」

『……寿司食ってるんだが。まぁ……内容による』

俺は手短に要件を伝えた。

『…………確かに顔はいい、一番の長所だろう。だが、だけということはない。お前のことは気に食わないが、気概なんかは認めている』

「マジで? えー……やだー、調子乗っちゃう~。ありがと形州せんぱーい」

『……言動が気持ち悪いのは、大幅減点だな』

呆れた様子の声だ。第三者の客観的な意見が聞けた、しかも俺のことが気に食わないと言った彼の意見だ、俺は顔だけの男ではないのだろう。

『…………もういいか? 切るぞ』

「あっ、待って待って。自由研究何した?」

『………………理想の、図書館の……デザインと、それに対する建築業の人間の意見……穂張の連中への軽いインタビューだ、後で兄ちゃんにも聞いて、書き加えるつもりだ』

「へー、割としっかりしてる……読書感想文は? あった? 何読んだ?」

『……今年の芥川賞』

「あぁ……ホントしっかりしてるなぁ。ありがと、参考にはならなかったけど。じゃあ、また……じゃない、もうこれで終わりだ。電話番号も登録消してくれていいぞ」

『…………してない』

「え……そ、そうなんだ、そっか……じゃあ、うん、ばいばい」

なんで俺ちょっと傷付いてるんだ? と疑問に思いつつ、電話を切った。ため息をつく俺をレイがじっと見つめている。

「形州、割とちゃんと宿題やってた……あぁ、あと、俺の長所顔だけじゃないんだってさ」

「せんぱいは彼氏の言うことより元カレの言うことを信じるんすね」

「拗ねるなよ、その言い方じゃ俺の元カレみたいだし……ほら、恋は盲目って言うし、俺のこと大好きなお前らより俺のことちょっと嫌ってそうなアイツの方が、今回は信用出来るなって。それだけだよ」

表情は拗ねた顔のままながら、レイは頬をポっと赤らめた。

「そりゃ俺はせんぱい大好きっすけどぉ」

「だろ? レイは俺のことだいたい肯定してくれるから、嬉しいし癒されるんだけど……まぁ、たまには別の目線も欲しいんだよ」

「だいたい肯定って、そんなつもりはないっすよ。確かにせんぱいのことってなると、その……せんぱいを一番に考えちゃうっすけど」

次第に小さくなる声は照れの証だ。可愛い。

「なぁ、鳴雷」

「ん?」

レイばかり撫でたり話したりしていたから嫉妬したのかな?

「八月三十一日、土曜日だぞ」

「マジで!? あぁ、そういえば、今日は……うん! 猶予が伸びた! ありがとう、曜日感覚なくなってたよ」

「始業式の日くらい確認しとけよ、もし早まってたら連絡なしの欠席だろ?」

「反省してます……」

想定より猶予があるとなればもう焦る必要はない。今日はもう休もう。



ヒトの希望で彼と俺は俺の部屋で、他三人はアキの部屋で眠ることになった。レイは不満そうにすると自惚れていたが、久しぶりのアキを一晩愛でられると喜んでいた。ちょっとショック。

「俺床に布団敷きますから、ヒトさんベッドで寝てください」

「……恋人なのに、一緒に寝てくれないんですか?」

「寝まぁす!」

開けた押し入れをピシャリと閉め、改めてヒトを見る。ワックスを落としてある彼の髪はぴょこぴょこと酷い外ハネで、パッと見ではフタのようにも見えた。

「鳴雷さん?」

「あぁ、いえ、すみません。普段と違うから、改めてちょっと」

「……髪ですか?」

「はい。それに今日はフタさんがスーツ着て髪整えて、ヒトさんみたいにしてたから……何か、不思議だなって」

「あぁ、今日は少し仕事の都合で正装をしていて……そのままボスの勅命が下ったので、あの格好のままだったんでしょう」

ハネた髪の先端を弄りながら、興味なさげに教えてくれた。

「…………鳴雷さんも、フタの方が好きですか?」

「へっ? そんなことないです、平等に好きですよ」

「平等なんて存在しない、必ず誰かが抜きん出る。あなたは順位を付けているはずですよ、私はフタの下ですか? 上になれましたか?」

「だ、だからぁ、順位付けなんてしてません! みんな俺の大事な彼氏です! 上でも下でもありません!」

今の言葉は信用されていない。ヒトの目を見れば分かった。

「……別に、罪悪感なんて抱かなくていいんですよ。フタの方がいいならそう言えば……夜這いの時みたいに、演技しますから」

「ヒトさん、俺はその髪が……ヒトさんだから、普段カチッと固めてるヒトさんだから、ワックスを落とした無防備な姿見せられて、グッと来てるんです。フタさんに重ねてるとか……そういうのじゃない。分かってもらえませんか?」

ヒトは黙って俯いている。

「ヒトさん……ねぇ、ちゃんと好きですから……代わりになんてしませんし、ヒトさんだけ蔑ろになんて絶対にしません。それじゃダメですか?」

「………………いい、はず……なんですけど」

「けど……? なんです?」

「…………あなたは、フタとも付き合っているし……私達はそっくりで、だから……どっちか片方で、いいだろうから……」

「そっくりなのなんて髪くらいじゃないですか!」

ヒトは疑いの目を俺に向けている。

「……顔だって、体格だって……ほとんど同じじゃないですか」

「違いますよ! 顔のパーツは確かに似てますけど、顔つきが全然違います! 野良猫と家猫って言うか……顔だけだってちゃんと見分けつきます! この間は暗くてよく見えなかったし、あなたが来るなんて思ってもみなかったから疑いもしなくて分からなかっただけで……体格だってほら、フタさんはアンバランスな筋肉の付き方してるけど、ヒトさんはバランスよくて綺麗じゃないですか」

性格からしてヒトは鏡で定期的に確認しつつ鍛えていくタイプだ。フタは使うところを重点的に鍛えているだとか、好きな運動が決まっていそうな気がする。

「それに俺の彼氏には双子も居るんですよ。その子達だって全然違う……一卵性双生児の違いを見つけてそれぞれ愛せる俺なら、兄弟の違った味わいを楽しむなんて朝飯前です! 信じてくれませんか?」

「…………信じます、今は……一応」

「よかった……じゃ、じゃあ、ベッドへどうぞ……安心してください、何もしませんから」

「……しないんですか?」

「しまぁす!」

眉尻を下げて残念そうに尋ねられて、朝令暮改の即答をしてしまわない男など居るものか。
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