冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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二手に分かれて晩御飯

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もう、訳が分からない。俺は無意識のうちに廊下に座り込み、外界をシャットダウンしていた。アングラ系の資料っす! とかはしゃいでメモを取っているレイの図太さは無関係の人間だからだろうか、俺が繊細過ぎるのだろうか。

「ただいま戻りました……あ、鳴雷さん! 鳴雷さん、どうされたんですかこんなところで」

「…………ヒトさん。なんか……疲れちゃって」

レイの元カレを連れて戻ったヒトは俺を見つけるとその場に膝をつき、俺の顔を覗き込んできた。

「……兄ちゃんはまだ居るか?」

「物騒な話してるよ……殺すだの爆弾だのって」

「…………そこまで酷い怪我は負わされていない。止めてくる」

がんばれー、とやる気のないエールを送り、ヒトを見上げ直す。ヒトは心配そうに俺を見つめ、俺の額や首に触れて体温を測ろうとしている。

「熱くはないですね……」

「……むしろ体温下がりそうな話ばっかり聞いてますからね」

ヒトも殺人に関与したことがあるのだろうか、と嫌な妄想を膨らませたその時、パンっとボスが手を叩いた。

「よし! 殺さずに爆弾を仕込んで帰国させるに決定!」

「ちゃーんと離婚手続きして、親権放棄するのよ」

「……爆弾なんて、摘出とかされないの?」

「特別な手順を踏む前に外気に触れても爆発するので大丈夫です。それより晩ご飯どうします? 俺お腹すきました。専務、寿司か焼肉奢ってください。國行にも」

「回転寿司でいいならいいけど」

これまた物騒な結論が出たようだ。俺はもうボスが怖くて仕方ないから、たとて良いものを食べられるとしても食事会は遠慮したい。

「食べ放題一万円の本格寿司屋があるんですけど」

「うーん……」

「…………あ、あの! 母さん、俺……なんか疲れちゃって、家でゆっくり食べたいから……帰りにスーパーとかで何か買って帰るよ。食事は母さん達だけで行ってきて」

「あら、帰るの? お寿司よ?」

「いいよ……俺一応ダイエット中だし」

「あぁ、そういえばそうね。アンタが帰るならセイカとかも帰りそうだし……なら一万円のとこでもいいかな~……」

セイカとアキは俺に着いて帰ることを即決、レイは「スシィ」と唸った後、苦しそうな顔をしながら俺の傍に来た。俺と帰ることを決めたらしい。

「寿司……稲荷寿司あるかの?」

「どうだろ、あるんじゃない? コンちゃん行きたいの? コンビニのとはやっぱり違うと思うよ、すごく美味しいと思う」

「行きたいのぅ、ええかの?」

「俺はいいよ。母さんに聞いてごらん」

ミタマは嬉しそうに笑って母の元へ走り、許可を出されると両手を突き上げて喜んでいた。

「仔犬共ぉー! 今日は寿司だぞー!」

「ちょっ、あんな水月以上に食いそうなヤツ連れてくなら回転寿司よ回転寿司!」

「……ボス、私はまだ仕事が残っておりますので……夕飯は書類を片付けながら簡単に済ませようかと思っております。今日は遠慮させていただきます」

「あっそぉ、がんば」

遅くならないうちにさっさと帰って晩飯にしよう、と騒ぐ大人達を置いて出ていく俺達を追う大人が一人。

「鳴雷さーん! 私もそちらに混ぜていただきたいのですが構いませんよね? お家までお送りします、食事代も私が出しますので遠慮なく言ってくださいね」

ヒトだ。彼は有無を言わさず俺達を自分の車に乗せ、俺が頼んだ俺の自宅近くのスーパーで停まった。

「鳴雷さんはお料理をなさるんですね、素敵です」

「大したことは出来ませんよ……」

買い物カートを押す俺の隣にぴったり並んで、ヒトはニコニコと笑顔を浮かべたまま俺を褒める。

「ヒト……? さん、ベタ惚れっすねぇ。まぁ俺もっすけど。いつからっすか?」

「多分、大阪旅行の時」

「付き合いたてかぁ……じゃあちょっと譲ってあげるっすかね。久しぶりなんで俺もちゃんとせんぱいとイチャつきたかったんすけど、まぁ仕方ないっす」

ヒトが隣を陣取っていて俺の傍に来にくいのか、レイ達三人は俺の後方をてくてくと歩いている。

「私も一応料理は出来るんですよ。料理中に料理のことを忘れてその場を離れ、キッチンの天井を焦がしたフタとは違います。サンのようにほぼ毎日作っている訳ではありませんが……それでも、私は目は見えていますから」

兄弟と比較して自分を上げるのは癖なのか? 二人とも俺の彼氏だから少し不愉快だ、悪い癖は俺が矯正してやらないとな。

「ヒトさん、他と比べなくたってヒトさんの魅力は十分伝わりますよ。フタさんみたいなドジも俺は可愛く思えちゃいますし……俺にとってはみんな可愛い彼氏なので、劣ってるとか優れてるとかないんです。みんな可愛いんですよ」

「…………何か、不愉快にさせましたか?」

「……正直、はい。俺にとってはヒトさんと同じように、フタさんもサンさんも大切な可愛い恋人なので」

「そう……ですか。気を付けます」

しゅんと落ち込んだヒトの手を握る。彼は伏せた目を開き、暗い瞳で俺を見つめた。

「…………不快にさせてすいません」

「……可愛い」

「………………へ?」

「落ち込んだ顔も可愛いです……! ごめんなさい、慰めようと思ったんですけど、もう少し見たいし……可愛くって、何言おうとしたか忘れちゃいました」

「そ、そんな……そんなおだて方、通用しませんよ」

ふいっと顔を背けたヒトの耳は赤い。

「ヒトさんもお料理なさるんですね、じゃあ今日は一緒に作りましょうか。得意料理とかあります?」

「え、得意料理……? えっ、と……」

「最近何作りました? 好みの味付けは濃いめですか? 薄めですか? 辛いのが好きとかあります? もしそうなら俺苦手なので鍋分けないと……」

「えっと……私は、最近は肉より魚の方が」

「お魚好きなんですね、今日は魚にしましょうか。煮魚か焼き魚か……あっ、白身と赤身どっちがお好きですか?」

「え? えっと」

ヒトは酷く狼狽えた後、泣きそうな顔で小さな声で白状した。

「すいません……料理、炒め物くらいしか、したことがなくて……煮るとか、味付けとかよく分かりません。格好付けました……ごめんなさい」

その姿は建設興業の社長のようにも、ヤクザの組長のようにも見えなかった。
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