冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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一時の安全

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ようやくレイのマンションに辿り着いた。長かった……もはや感慨深くすらある。

「にーにぃ!」

扉を開けた瞬間、まるで銃弾のようにアキが俺の腹に飛びついてきた。

「ゔぐっ……ア、アキ? けほっ……どうしてお兄ちゃんに突進を」

「にぃに! にぃにぃっ……にーにっ、にーに! どうしてっ、一緒来るする、しないですぅ! ぼく、ぼく……心臓、壊れるする、思うするしたです! にーに、にぃにぃ……にーにぃ…………うえぇええええんっ!」

「ぁ……あぁこら泣くな、お前今泣くと……」

《痛い痛い痛い傷開いた染みる染みるぅううっ!》

「あぁほら染みてるだろぉ!? もぉ……ごめんなぁ、アキ……でも、残ったからこそ安全に時間稼ぎ出来たんだぞ」

上手く撤退出来たのはミタマのおかげだ。元カレだけでは何の幸運も起こらず、行動不能になるまでアキの父親に嬲られていただろう。それでも俺達がこのマンションに着くまでの時間は稼げただろうが、後味が悪いにも程がある。俺の判断はたとえアキを泣かそうとも正しかったのだ。と、思いたい。

「水月くん大丈夫? 怪我してない?」

「はい、俺は何もしてませんし……形州はだいぶやられちゃいましたけど」

「えー……強そうだったのに。あ、治療費とか払うから、今度聞いておいてくれる?」

義母はレイにもアキの生活費に色を付けて払うだとか言っていたけれど、その金は全部俺の母のものなんだよな……いや、だから何だって訳じゃないけれど。ちょっとモヤモヤするなぁって。

「嘘つき」

ぬっ、とセイカが背後から俺を罵倒する。

「何がだよ……」

「ここにガーゼなかった」

セイカが指したのは穂張興業の事務所で貼られたガーゼだ。アキの父親に投げられた時の擦り傷だな。

「間違い探しとか得意?」

「普通分かる。あの人がお前のことよく見てないだけだ。木芽にも会ってこいよ、アイツもすぐ分かるはずだ」

「レイどこだ?」

「賞味期限は過ぎてても大丈夫っす、消費期限じゃなければ! あっこれ消費期限っすね終わったっす。って言ってるの聞いてから見てないな」

トイレの灯りが点いている。

「ちょっとモノマネ似ててウケる……お昼何食べたんだ? 大丈夫か? セイカ変なもん食ったらすぐ体調に出そうだから怖いんだけど」

「肉焼いて食べたんだ。木芽の晩飯の数日分使ってくれた。ちょっと古くなったヤツがあって、それは木芽が責任持って食べるって」

「消費期限の過ぎた生肉かぁ……っていうかレイの家に肉なんかよくあったな。エナジーバーくらいしかないもんだと思ってたよ」

「失礼っすね!」

バタンッ! と力強くトイレの扉を閉め、顔色の悪いレイが現れた。

「せんぱいがメッセで散々言ってくるから普通のご飯食べるようにしてるんすよ……ちゃんとした時間にちゃんとしたもん食べた証拠写真とか送らないと怒るじゃないすか」

「あらぁ~……水月くん、過保護なのね」

「誤解しないでください、レイが不健康な生活し過ぎなんです! 食べなかったり食べてもエナジーバーとか何かっ、吸うやつだったり。だから口うるさく言わざるを得なくて……!」

他の彼氏には食べた物の確認なんてしていない! と叫びたいところだが義母にはそれは言えない。

「ふふふ……恋人心配させちゃダメよ?」

「だからちゃんとしたもん食べてるんすよ」

「消費期限切れの肉がちゃんとした物か?」

「ぅ……た、たまたまっすよぉ。たまたま、食べ忘れが冷凍庫の奥にぃ……お腹ももう大丈夫っす、俺結構丈夫なんすよ。っていうかせんぱい! せんぱいこそ怪我増やしてるじゃないすかぁっ! どうしたんすかこの腕! くーちゃんがついていながらなんでぇ!」

怪我をした方の腕を掴まれた、レイの背後ではセイカが「俺の言った通りだろ?」とでも言いたげなドヤ顔をかましている。

「ちょっと擦りむいただけだよ……形州のが酷い怪我してたぞ」

「くーちゃんがそんな……怪我するなんて」

「信頼を感じてすっごいジェラる。何、そんな強いのアイツ」

「くーちゃんは十数人相手にしても勝ってたっすよ、鉄パイプで頭ぶん殴られたりもしてたっすけど……」

「じゃあアキパパのパンチが鉄パイプ以上だってのか?」

包帯を替え終えて再び俺に抱きついているアキの頭を撫でながら、怪訝な顔をレイに向ける。

「いや、流石にその後病院行ってたっすよ……自力でっすけど」

「そっか……まぁ、その喧嘩相手は攻撃が当たる相手だったってことだよな。俺の目が確かならアキパパに一発も入ってなかったもん……」

「くーちゃん当たれば確殺なんすけどね」

「紫ポンガシグサに入った人間がよぉ……」

「いやいや、スピードもなかなかのもんのはずなんすよ……ゃ、そういえば、アキくんと喧嘩した時も翻弄され気味っしたもんね。あの時は純粋にアキくんすごい、アキくん頑張れって見てたっすけど……でも、冷静に考えたらそのアキくんを鍛えたお父さんは、アキくんよりもその技術が上な訳で…………はぁ、巻き込んだの申し訳なくなってきたっす」

「いやいやあのサイズの大人の男がアキほど素早いとか回避力高いとか分かんないって。レイは気に病むことないよ」

「本来無関係のくーちゃんを巻き込んで怪我させたのは事実っすし」

「慰謝料だと思えばいいさ。レイが受けたストーカー被害への詫びなかったろ? 俺の怪我の分はお金でもらったけど、それもアイツの金じゃないしさ」

「…………それもそうっすね、罪悪感なくなってきたっす」

単純で助かる。

「あ、なぁ、弁当あっためてくれないか? コンビニで買ってきたんだ。頼むよ」

「いいっすけど……」

何故か不思議そうな顔をしているレイにコンビニ弁当を渡し、ゆっくりとダイニングのテーブルに向かう。

「ふーっ……」

やっと座れた。深く息を吐き、俺の傍から離れないアキを見上げて微笑む。

「……自力であっためるのも億劫なくらい疲れてるんすかね? せんぱいがこういうこと頼むって珍しい気がするっす」

「そうなんじゃないか? 早く持っていってやれよ」

「早くかどうかはレンジ次第っすよ、今温めてるっす。ぁ……ポテサラ、出しといた方がよかったっすかね。弁当のポテサラってレンチンするとなんか、なんか……分かるっすか?」

レンジの前に立っているレイとセイカの他愛ない話に耳を済ませ、とりあえずこの幸福が崩れなくてよかったと安堵のため息をついた。
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