冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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脅迫、協力

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レイに昨日あった出来事を話していると、また足音がした。やってきたのは義母だ。

「だ、誰来たの……?」

「葉子さん。すいません、俺の彼氏です。急に来ちゃって」

「あぁ……ピンクの子。あの人来たんじゃないかって私もう……はぁあ……」

義母はその場にへたり込む。

「まだ途中までしか聞いてないんすけど、アキくんのお父さんがヤバいんすよね。この家割れてんすか?」

「……住所バレてるのかってこと? どうだろ」

「アキにプレゼントとか送ってきてるんだから、分かってるんじゃないですか?」

歌見の誕生日プレゼントにオススメの酒を、そしてアキ自身の誕生日プレゼントも送ってきたと聞いた。そういえばアキの父親からのアキのプレゼント、何だったか聞いてないな……

「そういえば……え、でも私話した覚えないのよね。アキ……まさか、言った?」

セイカがロシア語で尋ねるとアキは深いため息をつきながら項垂れた。小さな声で何かを呟いたのでセイカに翻訳してもらうと「だってプレゼント送るのに要るって言われたから……」とのことだ。

「もぉ~! なんで言っちゃうのよぉ! 私達アイツから逃げてきてるのにぃ!」

「葉子さんアキを責めないでください! プレゼント贈りたいお父さんに住所言っちゃうのは普通ですよ! あの人から逃げてるってちゃんと説明したんですか?」

スマホを弄り始めたレイを膝から下ろして立ち上がり、義母の声をかき消すように声のボリュームを上げていく。

「言ってはないけど……分かってると思って……」

「じゃあ葉子さんにも落ち度あるじゃないですか。ただでさえアキは落ち込んでるんですから今そんなこと持ち出さないでください」

「はぁい……お兄ちゃんねぇ水月くん、私よりよっぽど保護者よ」

「住所バレてるってことは、いつ来るか分からないってことか……」

セイカの呟きで背筋にゾクッと寒気が走る。義母もそうらしく、鳥肌の立った二の腕を手のひらでさすっていた。

「こ、怖いこと言わないでよぉ!」

「いやだって……戸締りしてようと窓割られたら終わりだし、この家……割るか割らないかで言ったら割る人だろ?」

「……むしろ何で来てないのかな」

「あの人の滞在期間切れるまで逃げてないとヤバい……!?」

このまま家に居続けるのが得策でないことは確かだ。いつヤツが来てもおかしくない、警察が来るまで持ち堪えられる人間も居ない。殺されることはないとは思うけれど、これ以上アキの心身に傷を負わせたくない。

「ぁ……レイの家ってオートロックのマンションだったよな、しばらくアキだけでも預かってもらうことって出来たり……レイ?」

静かにスマホを弄っていると思われたレイは、いつの間にか耳にスマホを当てていた。

「電話中か……仕事かな。ちょっと静かにしとかないとですね」

「彼、マンション住みなの? ぜひ頼りたいなぁ……親御さんは?」

「レイは一人暮らしですよ、こう見えても歳上なので」

しかし、もし尾行されでもしたらと思うとレイを巻き込むことになってしまうので気は進まない。でもやっぱりアキの安全も保ちたくて……安牌はホテルか?

「……あっ、もしもしくーちゃん? ちょっと頼みがあるんすけど」

「番号消しとけや元カレのなんかよぉおおっ!」

「きゃっ……!? み、水月くん? キャラ保って……!」

「わっ、な、何すかせんぱい……電話帳からは消してるっす! 覚えてただけっすよぉ!」

「もっとやだぁ! 縁切ってよぉ!」

レイのスマホを取り上げてしまいたい、でもそこまで正気を失って暴れることは出来ず、ただレイの前で情けなく喚く。

「何……元カレって言った? 水月くんが大怪我してたアレ?」

「あ、はい……くーちゃん、元カレっす。めちゃくちゃ強いっすから、用心棒にいいかなって」

「強いの? そうよね、水月くんボコボコにされてたものね……頼れる仲なの? 殴り合って仲良くなるなんて流石男の子ね」

「違います! 関わりたくありません!」

「俺もあんまり会いたくはないんすけど……でも、アキくんのためなら」

レイの言葉にハッとする。確かに今最優先するべきはアキだし、元カレはもうレイを狙って暴れ出すことはないだろうけど、でも……アキを守ってなんて頼んだら、対価にレイを要求するかもしれない。

「…………っ、やっぱりダメだ! 代わりにヤらせろなんて言われたらどうするんだよ!」

『……散々な言われようだな。傷付く』

叫んだ直後、スピーカー機能がオンにされたレイのスマホから低い声が響いた。

『…………関わりたくないだの会いたくないだの、代わりにヤらせろと言いそうだの……それを言うのはお前の方だろ、兄ちゃんにヤらせろって言ったド変態が。頼みが何だか知らないが……そんな態度で聞くと思うか? 俺だって暇じゃないんだ』

「あっ、くーちゃん……待って、切らないで欲しいっす。話だけでも聞いて欲しいっす」

『……お前の話を聞く義理はない』

「貸せ、レイ。ぁー……形州? さっきはちょっと言い過ぎた、混乱して……まさかレイが連絡取れるとは思ってなかったし、取るとも思ってなかったから」

レイは元カレの家に置いていった荷物の受け取りすら拒否していた、結果その荷物は俺の元に届けられた。そんなレイが自分から連絡を取るなんて、それだけアキや俺を心配しているということで、そんなレイの気持ちを無下にするのは忍びない。

「ごめん。謝る。さっきのことは……それで、さ……頼みがあるんだ。聞いてくれたら、ほら……その…………と、友達に、なってやるから」

元カレは友人が居ないらしく、好きな漫画のジャンルが同じというだけで俺に新刊の感想を聞こうとしてきたりする。だが流石にこんなことじゃ聞いてくれないよな……他の対価、レイの身体以外……リュウを紹介するなんてありえないし、食事を奢るとかでどうにかならないかな。

「ゃ……自惚れ過ぎだよな、ごめん。今のは忘れ──」

『……肝心の頼みの内容をまだ聞いていない』

「──てっ、え、ぁ、聞く気にはなってくれたか! ありがとう! あのな……」

俺は昨日の出来事を話した。

『…………あのアルビノか。痛い目に遭わされたし……前にも言ったが、俺はアルビノが嫌いだ。概念というか存在というか……とにかく嫌いなんだ』

「そう、か……」

「あっ、そうだ。せんぱい電話返して欲しいっす、もしもしくーちゃん? 協力しなかったらそのことくーちゃんのお兄さんにチクるっす」

『……!? やめろ! そのアルビノは兄ちゃんのお気に入りなんだ、というかアルビノの生物は全てお気に入り……あぁそんなことどうでもいいアイツを見捨てたって知られたら嫌われる! 絶対にやめろ!』

低く落ち着いた声で静かにゆっくりと話すのが特徴だったのに、途端に騒がしい早口だ。

「協力、するっすね?」

『…………する』

「っしゃ! 戦力増強っすよせんぱい!」

脅迫により元カレの協力を取り付けたレイはガッツポーズを決めて満面の笑顔を浮かべた。
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